上 下
48 / 49

四十八話 決意

しおりを挟む
『ジャガールの気配が消えた……だと? 何が起きた? あの巨大な竜巻は何なんだ?』

 神は明らかに動揺しているように見えた。手に持った杖はぎゅっと握られて小刻みに震えている。

「え? アレは神様の仕業じゃないの? 地上にはあんな魔法を使える人もいるんだ。宝具も使えなくなったこの状況で。そりゃ、クロウリーも僕の力の無さを嘆く訳だ」

 そんな神の様子を見たゲイルはそう嘆いた。その魔法の主がクロウリーだと知らないからこそ出た言葉である。そもそもクロウリーがまさか地上に戻ってきているなど考えもしないゲイルには、仕方がないことであった。

『ええい! 穢れしモノ共が我の想定を超えただと? いや、ジャガールが死んだからといって我の計画は微塵も揺るがん。静寂の時をもたらすのは我一人で充分。ジャガールはその程度だった、というだけのこと。あいつも所詮、我の駒の一つに過ぎん』

 そこまで語ると、神は杖でゲイルとまだ穴の中で気を失っているレイラを、次々と指し示した。

『まずはお前とそこにいる女を消すことにしよう』

「あ、レイラ! レイラが危ない!」

 ゲイルは一瞬だけレイラへと視線送ると、身構えると同時に何かを決意したかのような表情で神を睨んだ。

「マナもチャクラも見えないこんな状況だけど……僕に出来ることはやって見せる! もうあんな思いはしたくない! させたくない! 絶対にお前を止めてみせる!」

『無駄なことを……主と従の絶対的な差を思い知らせてやろう!』



 ────────── 一方そのころ ──────────


 ファーガソンは遥か彼方に出来た巨大な竜巻、それが消え去るのを確認すると、アリスにこう告げたのだった。

「あの巨大な竜巻は恐らくクロウリー様の仕業だよ。あ、クロウリー様ってのは僕を助けてくれたエルフの方ね。もう一人のドワーフはフェイレイ様って言うんだ」

「あの竜巻が? あんなの人間業じゃないじゃない!」

「そうだよ。人間じゃないよ。エルフだよ」

 あっさりと答えるファーガソンに、アリスは勢いを削がれてしまった。

「そういう事じゃなくて……」

「あはは、冗談だよ。でもアリスの言いたいことは分かるよ。あの二人は非常識すぎる」

 ファーガソンは笑いながらそう答えた。少し諦めたような雰囲気が滲み出ていた。

「でも、あれだけの方なら、きっとこの状況を変えられるはず……穢れしモノを粛清するといったこの状況を」

 そう呟くアリスに対して、ファーガソンは首を少しだけかしげた。

「うーん。どうだろ。久々の地上だし、旧友に会いに行くって言ってどっかに行っちゃったけど、天を暗雲が覆う状況を見ても何も言わなかったし、興味が無さそうだったよ」

「そんな……」

「でも、大丈夫。ゲイル兄が近くにいるんでしょ? 傭兵に志願してきたって」

「そうかもしれないけど、宝具も使えないこの状況でゲイル兄がどうにか出来るとは……」

 アリスの呟きを聞いていたファーガソンは、その言葉に対して首横に振った。

「というか、逆に宝具が使えない状況をゲイル兄には好都合だと言ってたよ。クロウリー様もフェイレイ様も」

「どういうこと?」

「んーと、僕だって宝具を使わないで魔法を使えはするけど、実際には宝具を使えた方が強い魔法を使える。それは良いよね?」

「え、ええ」

「でもゲイル兄はそうじゃないみたい。なまじ見えるから無意識で力をセーブしちゃうんだ、って二人とも言ってた」

 そこまで語ると、ファーガソンはアリスにウインクをしてこう続けたのであった。

「つまりね。こういう事。ゲイル兄は宝具を使わない方が強いってね。だから安心してよ」

 と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

2代目魔王と愉快な仲間たち

助兵衛
ファンタジー
魔物やら魔法やらが当たり前にある世界に、いつの間にか転がり込んでしまった主人公進藤和也。 成り行き、運命、八割悪ノリであれよあれよと担ぎ上げられ、和也は2代目魔王となってしまう…… しかし彼には、ちょっとした秘密があった。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...