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王都フラシュ
怒りました
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エミリアの言質を取ったホイムは返事の勢いそのままに、合わせた両掌から瘴気を宿す門を爆ぜ飛ばす高火力の呪文を唱える。
「デュアルキュア【局所爆炎】!」
駿ッ。
ホイムの手から放たれたのは一点の光が門に目がけて煌めいた。
指先にも満たない小さな流星が目標地点へ到達した瞬間、門全体を巻き込む爆発が巻き起こる。
本来ならば炎が爆裂し周囲一帯を塵と化す広範囲に及ぶ術を最大火力で唱えたのだが、そこに効果範囲を極めて狭める座標指定の術式を加えることにより、極限られた対象に向けてのみ威力を発揮する高火力の爆炎と化したのだった。
が、指定と威力の配分を間違えてしまえば今ホイムが目の当たりにしているように、門だけに収まらない想定以上の大穴……どころではなく、城壁諸共焼き飛ばし破断せしめることになるのであった。
「……風通しがよくなりましたね」
「流石ホイム様。想像以上にド派手です」
「ルカの耳はキンキンする……」
てへぺろとするホイムの横をエミリアが颯爽と駆け抜ける。
「先陣を切る」
その腕には盾。翻るマントから覗くのは、聖華騎士団の矜持とこの国を姫を取り戻さんとする決意を宿す、輝きを取り戻した騎士団の鎧。
「僕たちも行きましょう!」
筆頭騎士の背中を追ってホイムたちも破壊された城壁から城下町の中央を通る大路へと駆け出した。
アカネとルカと比べ足の遅いエミリアがいち早く先頭を走ったのは、押し寄せる敵の攻撃を受ける盾の役割をこなそうと考えたからであった。
しかし彼女の考えとは裏腹に、大通りを駆ける四人へ向けての敵性勢力からの攻撃は全くない。
「不気味ですね」
息を弾ませるホイムがそう漏らすのも当然である。魔人の配下一匹の気配すらな
い。
加えて不気味さを際立たせるのは、水を打ったような城下町の静けさである。通りに響くのは鎧を鳴らすエミリアとホイムの足音、そして弱々しく吹く風の音のみ。
「ホイム様」
アカネが並走して声をかけてくる。ホイムが頷くと彼女は反対側にいたルカに目配せしてエミリアの隣へと出る。
「先に行き様子を覗います」
「しかしアカネには」
「承知しています。この先も何もなければルカを置いて一人別行動へ移ります」
「行かせてあげてください」
後方からホイムが後押しすると迷う時間も勿体無いと悟ったか、エミリアは声に出さずに了承した。
「ルカ」
「分かった!」
左右に散った二人がどこへ行ったかといえば、通りの脇に並び立つ建物の上である。
高い場所を駆ける二人はエミリアとホイムを置き去りにする疾さで先行し、あっという間に姿を消した。
「どうして誰も外にいないんでしょうか?」
「何かしらの危険を避けて閉じこもっている……のだろうか。それにしては見回る兵の姿も、警戒していた魔物もいない」
「何かを仕込んでいる……」
「可能性がある以上、警戒を解くわけにはいかんな」
話をしながら町並みを横目に通りを駆けていると、ようやく王城への道程の中ほど……城下町の大広場が見えてくるところであった。
本来ならばそこへ着く前にアカネだけは城下町の東側から十名の聖華騎士団の捕らえられているであろう地下牢へと向かっているはずであった。
しかしホイム達の視線の先には、広場の中で立ち尽くすアカネとルカの背中が見えていた。
予定通りの行動を取れない想定外の事態に出くわしたのかという疑問は確信に変わる。ホイム達の目にもそれは見えてきたのだから。
「エミリアさん……広場には何があるんですか?」
「何もない。何もなかった……私は、あんなモノは知らない」
そこには広場に大勢の人が集まってもよく見渡せるように高い位置に建てられた、見せしめのための処刑台が組まれていた。
断頭台の代わりに据え付けてあるのは、人を家畜のように繋ぎ止めるために首と両手を不自由にする拘束台。
それが五台。
裸に剥かれ、乾いた血と体液に塗れた傷だらけの女性が五人、尻を突き出す格好で拘束されたまま放置されていた。
憤怒と悲壮に歪むエミリアの横顔を見れば確認をするまでもない、彼女たちは捕らえられていた聖華騎士団のメンバーである。
アカネ達の背中に追いつきそれを目の当たりにした時、エミリアの声には慟哭の色が滲んでいた。
「丁度半数、ですね」
アカネは感情を込めずただ事実を呟いた。処刑台の上へ跳び、一人ひとりの状態を確認していく。
「気を失っていますが意識はあります。衰弱が酷いようです」
淡々とした口調で無事を確認して告げる。ルカを手招きすると、彼女に拘束台を破壊するように指示を出す。
ホイムは二人のところへ行くために階段を見つけて上へと赴いた。
「みんな痛そう……」
丁度、解放した五人をルカとアカネが横たえているところであった。その体を一瞬だけ見てしまったホイムはすぐに視線を背けた。
「アカネさん……」
ホイムの言いたいことを察した彼女は無言で複数の布を取り出すと、ルカと共にそれで傷だらけの女性……少女と呼べる年頃の子もいる彼女たちの体を包んだ。
すかさずホイムは彼女たちの頭に触れ、一人ひとりに回復魔法をかけていった。布の下では彼女たちに刻まれた幾つもの傷は綺麗に癒えていることだろう。
しかしながら、無論心の傷まで癒やすことはできない。純潔を大切にするという聖華騎士団の団員にとって、恥辱と陵辱の限りを尽くされたに違いない体の傷や穢れが如何ほどに耐え難く辛い仕打ちであったか。
いや、騎士団であろうがなかろうが、男であろうが女であろうが、これほどの辱めを受けて正気でいられるであろうか。
「こんなことは……こんなことは許されないぞ……!」
美しい女性たちを一方的に嬲りものにするという非道な行いに、これを先導したであろう魔人の企みに、ホイムも怒りを覚えずにはいられなかった。
「デュアルキュア【局所爆炎】!」
駿ッ。
ホイムの手から放たれたのは一点の光が門に目がけて煌めいた。
指先にも満たない小さな流星が目標地点へ到達した瞬間、門全体を巻き込む爆発が巻き起こる。
本来ならば炎が爆裂し周囲一帯を塵と化す広範囲に及ぶ術を最大火力で唱えたのだが、そこに効果範囲を極めて狭める座標指定の術式を加えることにより、極限られた対象に向けてのみ威力を発揮する高火力の爆炎と化したのだった。
が、指定と威力の配分を間違えてしまえば今ホイムが目の当たりにしているように、門だけに収まらない想定以上の大穴……どころではなく、城壁諸共焼き飛ばし破断せしめることになるのであった。
「……風通しがよくなりましたね」
「流石ホイム様。想像以上にド派手です」
「ルカの耳はキンキンする……」
てへぺろとするホイムの横をエミリアが颯爽と駆け抜ける。
「先陣を切る」
その腕には盾。翻るマントから覗くのは、聖華騎士団の矜持とこの国を姫を取り戻さんとする決意を宿す、輝きを取り戻した騎士団の鎧。
「僕たちも行きましょう!」
筆頭騎士の背中を追ってホイムたちも破壊された城壁から城下町の中央を通る大路へと駆け出した。
アカネとルカと比べ足の遅いエミリアがいち早く先頭を走ったのは、押し寄せる敵の攻撃を受ける盾の役割をこなそうと考えたからであった。
しかし彼女の考えとは裏腹に、大通りを駆ける四人へ向けての敵性勢力からの攻撃は全くない。
「不気味ですね」
息を弾ませるホイムがそう漏らすのも当然である。魔人の配下一匹の気配すらな
い。
加えて不気味さを際立たせるのは、水を打ったような城下町の静けさである。通りに響くのは鎧を鳴らすエミリアとホイムの足音、そして弱々しく吹く風の音のみ。
「ホイム様」
アカネが並走して声をかけてくる。ホイムが頷くと彼女は反対側にいたルカに目配せしてエミリアの隣へと出る。
「先に行き様子を覗います」
「しかしアカネには」
「承知しています。この先も何もなければルカを置いて一人別行動へ移ります」
「行かせてあげてください」
後方からホイムが後押しすると迷う時間も勿体無いと悟ったか、エミリアは声に出さずに了承した。
「ルカ」
「分かった!」
左右に散った二人がどこへ行ったかといえば、通りの脇に並び立つ建物の上である。
高い場所を駆ける二人はエミリアとホイムを置き去りにする疾さで先行し、あっという間に姿を消した。
「どうして誰も外にいないんでしょうか?」
「何かしらの危険を避けて閉じこもっている……のだろうか。それにしては見回る兵の姿も、警戒していた魔物もいない」
「何かを仕込んでいる……」
「可能性がある以上、警戒を解くわけにはいかんな」
話をしながら町並みを横目に通りを駆けていると、ようやく王城への道程の中ほど……城下町の大広場が見えてくるところであった。
本来ならばそこへ着く前にアカネだけは城下町の東側から十名の聖華騎士団の捕らえられているであろう地下牢へと向かっているはずであった。
しかしホイム達の視線の先には、広場の中で立ち尽くすアカネとルカの背中が見えていた。
予定通りの行動を取れない想定外の事態に出くわしたのかという疑問は確信に変わる。ホイム達の目にもそれは見えてきたのだから。
「エミリアさん……広場には何があるんですか?」
「何もない。何もなかった……私は、あんなモノは知らない」
そこには広場に大勢の人が集まってもよく見渡せるように高い位置に建てられた、見せしめのための処刑台が組まれていた。
断頭台の代わりに据え付けてあるのは、人を家畜のように繋ぎ止めるために首と両手を不自由にする拘束台。
それが五台。
裸に剥かれ、乾いた血と体液に塗れた傷だらけの女性が五人、尻を突き出す格好で拘束されたまま放置されていた。
憤怒と悲壮に歪むエミリアの横顔を見れば確認をするまでもない、彼女たちは捕らえられていた聖華騎士団のメンバーである。
アカネ達の背中に追いつきそれを目の当たりにした時、エミリアの声には慟哭の色が滲んでいた。
「丁度半数、ですね」
アカネは感情を込めずただ事実を呟いた。処刑台の上へ跳び、一人ひとりの状態を確認していく。
「気を失っていますが意識はあります。衰弱が酷いようです」
淡々とした口調で無事を確認して告げる。ルカを手招きすると、彼女に拘束台を破壊するように指示を出す。
ホイムは二人のところへ行くために階段を見つけて上へと赴いた。
「みんな痛そう……」
丁度、解放した五人をルカとアカネが横たえているところであった。その体を一瞬だけ見てしまったホイムはすぐに視線を背けた。
「アカネさん……」
ホイムの言いたいことを察した彼女は無言で複数の布を取り出すと、ルカと共にそれで傷だらけの女性……少女と呼べる年頃の子もいる彼女たちの体を包んだ。
すかさずホイムは彼女たちの頭に触れ、一人ひとりに回復魔法をかけていった。布の下では彼女たちに刻まれた幾つもの傷は綺麗に癒えていることだろう。
しかしながら、無論心の傷まで癒やすことはできない。純潔を大切にするという聖華騎士団の団員にとって、恥辱と陵辱の限りを尽くされたに違いない体の傷や穢れが如何ほどに耐え難く辛い仕打ちであったか。
いや、騎士団であろうがなかろうが、男であろうが女であろうが、これほどの辱めを受けて正気でいられるであろうか。
「こんなことは……こんなことは許されないぞ……!」
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<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
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