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王都フラシュ
作戦会議しました
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「ゴホン……一応僕ら三人は同じギルドチームで、僕がリーダーで、みんなでエミリアさんを助けようと決めて力を貸しているところです」
その言葉に驚いたノーデックはエミリアをからかうのを打ち切り、ホイムに向き直る。
「ほう……少年が彼女たちを束ねているのか」
「ええ……二人に支えてもらって」
一時的にエミリアも同じチームに加入していることも告げ、それから簡単に全員の自己紹介を済ませて話の本筋へと話題を移した。
「――分かった。街の入口に預けてある竜蜥騎と車は責任を持って預かり、万一の時はこちらで返却もしておこう」
「助かる」
「他に頼み事があるなら聞くだけ聞くが」
ノーデックの申し出は後ろ盾や協力者が皆無の四人にはありがたい言葉であったのだが、彼との交渉を一手に引き受けているエミリアは丁重に断った。
「ない。そちらはこれまでと変わらずやるべきことを……この街と海のことを」
「そうか」
それでノーデックとの話は終わってしまいそうだったので、ホイムはついエミリアに口を出してしまった。
「一緒に城に攻め込みましょう! ……とかそんなお願いはしたりしないんですか?」
有事の際には海軍としての役割を担えるほどの力を有している商船団。武力を貸してくれるのなら大変心強いことだ。ホイムがそう頼みたくなる気持ちも当然と言えた。
「確かに彼らが手を貸してくれれば我らの勝利もより確実なものに近付くだろう」
「だったら」
「しかしホイムも目の当たりにしたろう、この街の状況を」
ホイムの脳裏に小競り合いと言うには行き過ぎた兵士たちの行動が蘇る。
「ノーデックたちはこの街の象徴のようなものであり、守護者といって差し支えない存在だ」
褒め過ぎだ。
と船長は肩を竦めてみせたがエミリアは構わず話を続ける。
「彼らがいるだけでエイーリオにおいてフラシュの兵の横暴に対する抑止力になってくれている。商船団が動くことは得策ではないと私は考えている」
ノーデックたちには街にいてほしいとの考えである。直接的な助力を願うつもりは一切なかったのだろう。
「今日のところは危なかったがな……うちらが抑止力になろうとしてる点は否定しないさ」
ノーデックがエミリアの話を引き継いでホイムたちに付け加える。
「それに俺たちがフラシュと事を構えようもんなら、それはもう戦争だ」
「戦争……ですか」
「今回フラシュで起きてる騒動は聖華騎士団による姫様暗殺未遂が発端だ。ならケリは自分たちで着けるのが筋だ。そうすりゃ角が立たない」
ノーデックは真剣な眼差しで「だが」と続ける。
「そこに俺たちが出しゃばったらどうなる? 俺たちゃあくまでフラシュと組むのが利になると判断して協力してるいわば部外者。そんなんがぶつかってみろ、下手すりゃフラシュ王国か俺たちの築き上げた海路のどちらかが潰れる羽目になる。そんなのは誰の得にもならん」
「……動こうにも動けなかったってことですか?」
「本心を言やぁ筆頭騎士殿のことは気に入ってるからな、手を貸してやりたいのは山々だが」
「承知している。だからこそ貴殿には我らの後顧の憂いを取り除くことだけを頼んだのだ」
「ハハハ! 馬の面倒くらいならいくらでも見といてやるよ」
ホイムの考えたお願い事などは二人の間には存在すらしていなかったのだ。それだけお互いの立場や考えを理解し合っているのかもしれない。
「ま、俺が動かなかったのは筆頭騎士殿が必ず戻ってくると信じていたからでもあるがな!」
「そちらも買い被ってくれたものだ」
「だが見立通りあんたは戻ってきた」
そんな二人のやり取りを目の当たりにしていると、ホイムは少し落ち着かない気分になる。
本来のホイムの年齢とそう変わらないであろうノーデックは船長として商船団を率いる立派な男で、自分よりもエミリアのことを知っている風な立ち居振る舞いに妬いているのだ。
自分の器の小ささを思い知ったようで軽く凹むホイムをよそに、エミリアはノーデックの机を借りてその上に王都の見取り図を広げ、アカネとルカに王城へ向かうルートを指し示していた。
「南門から入ると城下町の大通りに出る。真っ直ぐ進むと広場に着き、更に進むと城の正門だ」
城は岬の先端付近に立ち、裏手は切り立った崖となっている。後方から攻める手段は海しかなく、扇状に広がった城下町が前方を固めている。
「正面から挑む以外の道はないのですか?」
見取り図を見ていたアカネの問いにエミリアが指さしたのは崖である。
「まずは裏を突き崖を攻めるルート。私には無理だがアカネやルカのように身軽な者、ホイムのように魔法で飛べる者は上れるだろう……が、古いものだが侵入者用の罠が常設してあり相応に時間がかかるだろう。推奨はしない」
「他には?」
「城下町の両端に城の地下へと続く地下道がある。無論誰も近付けないよう厳重に封じられているが、東側の地下道は罪人を閉じ込めておく牢獄に通じている」
「捕らえられた聖華騎士団の面々がいるのはそこだ」
壁際で見守っていたノーデックが貴重な情報を与えてくる。
「情報源は?」
アカネは抜かりなく信憑性を疑っていた。
「街のあちこち歩いてるだろ? 今日みたいにちょっくらお小遣いを握らせて……な」
彼は親指と人差指で円を作るとそれを懐に仕舞う仕草をしてみせた。
「複数人に確認してる。間違いない」
その言葉を受けてエミリアはアカネと卓上の地図でルートを確認する。ルカは目が回っているようでクラクラしていた。
その言葉に驚いたノーデックはエミリアをからかうのを打ち切り、ホイムに向き直る。
「ほう……少年が彼女たちを束ねているのか」
「ええ……二人に支えてもらって」
一時的にエミリアも同じチームに加入していることも告げ、それから簡単に全員の自己紹介を済ませて話の本筋へと話題を移した。
「――分かった。街の入口に預けてある竜蜥騎と車は責任を持って預かり、万一の時はこちらで返却もしておこう」
「助かる」
「他に頼み事があるなら聞くだけ聞くが」
ノーデックの申し出は後ろ盾や協力者が皆無の四人にはありがたい言葉であったのだが、彼との交渉を一手に引き受けているエミリアは丁重に断った。
「ない。そちらはこれまでと変わらずやるべきことを……この街と海のことを」
「そうか」
それでノーデックとの話は終わってしまいそうだったので、ホイムはついエミリアに口を出してしまった。
「一緒に城に攻め込みましょう! ……とかそんなお願いはしたりしないんですか?」
有事の際には海軍としての役割を担えるほどの力を有している商船団。武力を貸してくれるのなら大変心強いことだ。ホイムがそう頼みたくなる気持ちも当然と言えた。
「確かに彼らが手を貸してくれれば我らの勝利もより確実なものに近付くだろう」
「だったら」
「しかしホイムも目の当たりにしたろう、この街の状況を」
ホイムの脳裏に小競り合いと言うには行き過ぎた兵士たちの行動が蘇る。
「ノーデックたちはこの街の象徴のようなものであり、守護者といって差し支えない存在だ」
褒め過ぎだ。
と船長は肩を竦めてみせたがエミリアは構わず話を続ける。
「彼らがいるだけでエイーリオにおいてフラシュの兵の横暴に対する抑止力になってくれている。商船団が動くことは得策ではないと私は考えている」
ノーデックたちには街にいてほしいとの考えである。直接的な助力を願うつもりは一切なかったのだろう。
「今日のところは危なかったがな……うちらが抑止力になろうとしてる点は否定しないさ」
ノーデックがエミリアの話を引き継いでホイムたちに付け加える。
「それに俺たちがフラシュと事を構えようもんなら、それはもう戦争だ」
「戦争……ですか」
「今回フラシュで起きてる騒動は聖華騎士団による姫様暗殺未遂が発端だ。ならケリは自分たちで着けるのが筋だ。そうすりゃ角が立たない」
ノーデックは真剣な眼差しで「だが」と続ける。
「そこに俺たちが出しゃばったらどうなる? 俺たちゃあくまでフラシュと組むのが利になると判断して協力してるいわば部外者。そんなんがぶつかってみろ、下手すりゃフラシュ王国か俺たちの築き上げた海路のどちらかが潰れる羽目になる。そんなのは誰の得にもならん」
「……動こうにも動けなかったってことですか?」
「本心を言やぁ筆頭騎士殿のことは気に入ってるからな、手を貸してやりたいのは山々だが」
「承知している。だからこそ貴殿には我らの後顧の憂いを取り除くことだけを頼んだのだ」
「ハハハ! 馬の面倒くらいならいくらでも見といてやるよ」
ホイムの考えたお願い事などは二人の間には存在すらしていなかったのだ。それだけお互いの立場や考えを理解し合っているのかもしれない。
「ま、俺が動かなかったのは筆頭騎士殿が必ず戻ってくると信じていたからでもあるがな!」
「そちらも買い被ってくれたものだ」
「だが見立通りあんたは戻ってきた」
そんな二人のやり取りを目の当たりにしていると、ホイムは少し落ち着かない気分になる。
本来のホイムの年齢とそう変わらないであろうノーデックは船長として商船団を率いる立派な男で、自分よりもエミリアのことを知っている風な立ち居振る舞いに妬いているのだ。
自分の器の小ささを思い知ったようで軽く凹むホイムをよそに、エミリアはノーデックの机を借りてその上に王都の見取り図を広げ、アカネとルカに王城へ向かうルートを指し示していた。
「南門から入ると城下町の大通りに出る。真っ直ぐ進むと広場に着き、更に進むと城の正門だ」
城は岬の先端付近に立ち、裏手は切り立った崖となっている。後方から攻める手段は海しかなく、扇状に広がった城下町が前方を固めている。
「正面から挑む以外の道はないのですか?」
見取り図を見ていたアカネの問いにエミリアが指さしたのは崖である。
「まずは裏を突き崖を攻めるルート。私には無理だがアカネやルカのように身軽な者、ホイムのように魔法で飛べる者は上れるだろう……が、古いものだが侵入者用の罠が常設してあり相応に時間がかかるだろう。推奨はしない」
「他には?」
「城下町の両端に城の地下へと続く地下道がある。無論誰も近付けないよう厳重に封じられているが、東側の地下道は罪人を閉じ込めておく牢獄に通じている」
「捕らえられた聖華騎士団の面々がいるのはそこだ」
壁際で見守っていたノーデックが貴重な情報を与えてくる。
「情報源は?」
アカネは抜かりなく信憑性を疑っていた。
「街のあちこち歩いてるだろ? 今日みたいにちょっくらお小遣いを握らせて……な」
彼は親指と人差指で円を作るとそれを懐に仕舞う仕草をしてみせた。
「複数人に確認してる。間違いない」
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