異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし

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フラシュ王国への道中

一晩たちました

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「……なんです?」

 アカネが何を言うのかおおよその見当はついたものの、思い過ごしの可能性も僅かにあるので訊ねざるをえなかった。

「どうぞここをお使いください」
(あ。思ったのと違う言葉が返ってきた)
「それはできませんよ。アカネさんがそふぁで休んでください」
「ですからここで肌を重ねましょうと言っているのです」
(やっぱり思った通りだったよ……)
「か、勘弁……」

 咄嗟に断りの言葉が漏れてしまいおずおずと身を引いたのが間違いであった。
 その隙をアカネが見逃すはずもなく、ホイムはあっさりソファに押し倒されてしまった。腰の上に跨って両手を頭上で押さえつけてくる彼女が不服そうにホイムを見据えている。

「ルカとはしてきたのに私とはできないと?」
「何で知って……?」
「カマをかけただけです」

 簡単に手玉にとられるホイムの視界に、服を破られてはだけたアカネの胸がチラチラと映り込むせいで自然と視線を反らしてしまう。

「こちらを向いてください」
「ちょっと恥ずかしいです……」
「私を見てください」

 そう言い放ってくる彼女の声はいつもより力が籠もって聞こえる気がした。

「見てくれないと離しませんよ?」

 そう言われてしまうと向かざるを得ない。なるべく胸を見ないよう気を付けるつもりでアカネの方に顔を向けた途端、間髪入れずにホイムの口にぴったりと吸い付いてきた。
 ひどく情熱的で積極的な接吻に溢れる吐息と、エミリアの寝言とルカの寝息が宿の一室に響き渡る。
 口の中を満たすのがどちらの唾液か分からなくなる程に口づけを交わし続け、ようやく解放されると一条の糸が互いの唇をつないでいた。
 ルカと何戦も交えこれ以上はもう無理だと当初は断りを口にしかけけたホイムであったが、アカネの唇一つで既に頭の中が蕩けていた。

「エミリアに言われて散々我慢したのです。もう今日は構いませんよね……」
「二人がいるのに……起きたらヤバイですよ……」
「その時は見せつけてあげればいいのです」

 お預けの反動のせいでスイッチがバチッと入っているアカネは止まることなく、執拗にホイムの唇を奪い続けた。
 寝ているとはいえ直ぐ側に仲間がいるという背徳感と羞恥心に苛まれるが、やがてそれも興奮のスパイスと化してきたのか、ホイムのホイムがぴくっと反応してしまった。
 体の下の主の変化を感じたアカネは口を離し、今度は耳元に息を吹きかけるように問いかける。

「ルカとは何回したのです?」
「い、言えるわけないじゃないですか……」
「ホイム様もお疲れでしょう? あまり無茶な回数はさせたくないのです」
「一回もしない……っていうのは? あっ」

 ホイムのホイムが布の上からアカネの指に絡め取られる。

「こうなってしまったのにそれはないでしょう?」

 結局ホイムはアカネの誘惑に負けて素直に数を口にした。
 それを聞いた彼女は「では三回ですね」と数を繰り上げ計上し、ちょっと多めにホイムと一晩ソファの上で重なり合ったのだった。




 小鳥のさえずりが頭に響く。
 いつもは寝起きの悪くはないエミリアであったが、今朝は頭痛と全身の気怠さのせいで心地よい目覚めとはいかなかった。

「うう……ガンガンする……」

 頭を抑えてベッドから体を起こしたエミリアが、これはお酒のせいであると悟るのに時間はかからなかった。
 かつて成人を迎えた日の夜、アリアスに勧められて初めてアルコールを口にした翌日の朝が丁度こんな具合であった。
 あれ以来酒を嗜むことはなかったが、昨夜は何かの手違いで口にしてしまったのだろうと一人で得心しながら立ち上がる。

「……」

 此処が皆で泊まっている宿の一室に間違いないことを確認し、部屋の片隅には毛布を敷いて丸くなって寝ているルカの姿を見つける。
 なんとも気持ちよさそうな寝顔なのでまだ寝せていたくもあるが、あまりのんびりしすぎていい旅の途中ではない。
 きっちりとした場所で一晩過ごし十分な休養になったことであろう。ルカに歩み寄ったエミリアは身を屈めて肩を揺すった。

「起きろルカ。朝だぞ」
「むにゃにゃ……あとごふんん……」

 ルカの寝ぼけ懇願にエミリアの表情が渋くなる。
 叩き起こす……というわけにもいくまい。
 ここはルカの扱いに一日の長があるホイムかアカネに頼もうと思い至ったのだが、その二人の姿が見当たらない。

「ん……?」

 と、すぐに気付くソファを覆う毛布の不自然な膨らみ。
 丁度人二人がいそうな具合にこんもりと盛り上がった毛布。
 眉をひそめるエミリアが毛布を引っ剥がすと、そこにいたのは予感した通りの二人であった。
 半裸で抱き合ったまますやすやと眠る二人の姿にピキッと来たエミリアは、頭の痛みも吹き飛ぶ声を張り上げて二人を叩き起こしたのだった。
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