異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし

文字の大きさ
上 下
107 / 131
フラシュ王国への道中

やっぱりそうなりました

しおりを挟む
「ルカ」

 部屋を離れる直前、アカネがルカの背中に呼びかけた。

「くれぐれも粗相のないように……な!」
「……うん、わかった!」

 爛漫なルカの返答に頷くアカネ。しかし悲しいかなルカはアカネが何を言わんとしたかったのかさっぱりと理解していなかったのであった。
 ホイムとルカが部屋を去るのを見送ってからしばし立ち尽くしていたアカネだが、ようやく一息つくベッドで眠る巨女を見下ろした

「ふう。全く呑気なものですね」

 貴女がこんなザマじゃなければ一緒にお風呂に行けたものを。
 腹立たしさに眉を寄せていたアカネは懐からしゅぽっと筆を取り出した。

「落書きしてやりましょう」

 気晴らしにイタズラをと思ったのが間違いであった。
 そっと伸ばした右手の手首をエミリアにがっちりと取られ、

「え?」

 そのままぐいと引き寄せられ、

「ちょっ」

 エミリアの思うがままに抱きしめられ逃れられない状況と化していた。

「あ、貴女起きて!?」
「んふぅ……きしとしてぇ……きしぃ……」
「寝てる!」

 聖華騎士団筆頭騎士の圧倒的な力と悪酔いが相俟ったせいでアカネの実力を持ってしても容易にエミリアの両腕の拘束は解けない。

「ま、ずい……」

 無遠慮にアカネを抱きしめるエミリアの腕が変なふうに極まってしまい首を絞め上げてくる。
 落ちそうになる意識の中で、ここに残ったのがホイムサ様でなくてよかったと辛うじて想いを馳せることができたのであった。




 アカネを残して来たことに一抹の不安を覚えていたホイムであったが、他人を気遣える状況ではないということを悟ったのはルカと共に大衆浴場の個室に通された時だった。

「ここも個室浴場なんだ。フォトナームってこれが主流なのかな……」

 彼がちゃんとした浴場へ来たのはここが二度目である。最初はアカネと出会ったザーインの町。あそこも同じように小さな個室となった銭湯であった。
 あそこで経験したハプニングも一緒に思い出されてしまい、ホイムは自然と前屈みになりながらそそくさと小さな湯船に浸かろうとした。

「ホイム! 早く入る!」

 が、既にルカがざっぱーんと肩まで浸かっていたので先に体を洗うことにした。

「……入らない?」
「入らないよ」
「なんで?」
「二人だと狭いでしょ」

 一人でも足を折らなければならない浴槽。小さなホイムといえどもルカと一緒に入ってしまえば隙間なく密着しなくてはならないだろう。
 窮屈な思いをさせてしまってはリフレッシュにならないというホイムの計らいであったが、まったくもってルカには受け入れられなかった。

「むう、いや! 一緒!」

 体を洗う前だったホイムの腕を掴んだルカが獲物を捕らえた捕食者のように同じ湯船へと引きずり込む。

「ちょ、ちょっと待って!」

 突然の捕食に慌てふためくホイムは口答えする間もなく、お湯の中でしっかりとルカの手足に羽交い締めにされていた。

「んふふ!」

 後頭部におっぱい枕の柔らかさを感じるホイムは笑みを零すルカの顔を見上げた。

「……」

 こっちの方が楽しいというのなら、それでいいかもしれない。
 しかしやはりと言うべきか、二人で密着していて何も起きないはずはなくく。
 ルカが後ろから伸ばしてきた右手がホイムのホイムをきゅっと包んでにぎにぎし始めた。

「ルカさん……」
「どうした?」
「手を止めてもらっていいでしょうか」
「いや」

 端的な拒否。ルカの手は止まることを知らない。

「ホイムいや?」

 一応気遣ってくれているのかホイムの気持ちを確認してきてくれるのだが。

「今日はそういう気分じゃないかも……」
「そっか」

 こしこし。こしこし。

「止めないんだね!?」
「うん。ルカはそういう気分」
「僕の気分はどうなるの……」
「ホイムもそういう気分になる!」

 そりゃあ弄くり回されていたら勝手にそういう気分になってくるだろうけど。

「旅の最中はこういうのなく進みそうだったのに……」

 エミリアが道中での破廉恥行為を禁止にしてくれたおかげでホイムの色々な負担も減り最近は非常に規則正しく真っ当な生活が続き調子も良かったのである。
 身も心も快楽漬になる日々が案外早く帰ってきたなと思うと少し悲しくなるのだが、すぐに気持ちよくなってくるのでもうどうにでもなれという気分になるのも早かった。

「ホイム」
「なに?」
「溜め込むと腐る」
「たまには溜め込むのもいいと思うんだけど……」

 我慢もスパイスになるというのに、我慢させてもらえない。毎日性的な行為をできるが故の贅沢な悩みであった。
 転移する前は無縁だった日々に懊悩としつつ、後ろから覗き込んでくるルカのふっくらとした唇に吸い付きながら脱力していくホイムであった。
しおりを挟む
感想 180

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...