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フラシュ王国への道中
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「でも魔法剣使ってますよね?」
あの剣技はエミリアの魔力を用いたものではないのだろうかと疑問に感じたホイムは質問を続けた。
「あれは剣そのものの力だ」
鎧の手入れを一旦止めたエミリアは荷車内に置いてあった自身の盾から剣を抜き、ホイムとの間にそれを置いた。
「見てみろ」
と促されたので身を乗り出して覆い被さるように剣を観察する。彼女の得物をじっくりと拝見するのは初めてのことであった。
一見すると何の変哲もない……とは言い難い立派な騎士剣である。聖華騎士団筆頭騎士が扱う剣ともなればそんじゃそこらの店売り品とは格が違う。
遺跡での戦いを経ても刃毀れや歪みのない刀身は、特殊な加工が施されているに違いないと言える業物である。
だがホイムが目を凝らして分かったのはそういった剣の造りに関するものだけではない。
「これって……」
「気付いたか」
集中したことで初めて剣に埋め込まれた魔力の痕跡を察知することができた。
「その剣は造られる段階から魔力を籠められた魔導具といったところか。筆頭騎士になりそいつを使いはじめた頃は苦労したものさ」
「へえ……」
「無論ただ振るうだけでは何の変哲もない剣でしかないが、最低限の素養があったからな……今ではお前が目にした通りに扱えているよ。実は盾も鎧も同じように魔法の効果を与えられていて……これは私だけに限らず聖華騎士団全員がそうなのだが」
その後の詳しい話によると、聖華騎士団の防具やエミリアのように選ばれし者の武器は、魔導具の鍛造に長けたドワーフの鍛冶師の手によって拵えられたものだそうだ。
この地より北東の大海に位置する魔族領を更に越えた先にある遥か彼方の大陸。精霊族が多く住まうその地では、世界に流通する魔導具のほとんどが製造されている。
多種族に対して中立的な立場を取る精霊族は領土から出る者も全くと言っていいほどおらず、だが依頼があれば物品のやりとりは行い利益を得ている。例え依頼主が魔族であろうとそれは変わることなく、誰に対してもあくまで公平な立場である。
エミリアの剣の出自を知ったホイムであったが、話を聞きつつも剣を調べ……一つ気がかりな点が芽生えた。
「これを使えるのは筆頭騎士の人だけみたいですね」
「ああ。そういう風に造られているらしい。実際に他の者が剣を振るったところで魔法剣としての本領は全く発揮されないからな」
ホイムは剣に触れながら魔力を少し当ててみるが、反発して弾かれそうになるのを感じた。筆頭騎士という称号を備えた者以外の力は受け付けないのだろう。奪われたりした時に悪用されないためのプロテクトといったところか。
(なら、やっぱりこれは本領を発揮できていないと思う)
「エミリアさん」
「なんだ?」
「少し魔法を勉強しましょうか?」
ホイムの突然の提案にエミリアは首を捻り、肩を竦めた。
「さっきも言ったろ? 素養はあっても全く扱えないと」
「だから少しだけでも扱えるようになった方がいいんですって」
ううん?
エミリアが顎に手を当て唸るので、ホイムはきちんと説明するように続けた。
「魔法の理を理解できれば、魔法剣ももっと精細に扱えるようになると思うんですよ」
「む……ま、まあな。騎士団でもアリアスたちは剣技だけでなく魔術にも長けていたが……だから私は自分の長所を伸ばし剣術の腕で筆頭騎士となり」
「でも魔法が使えればエミリアさんのプラスになるのは間違いないですよね?」
ホイムの説得が次第に効いたか、頑ななエミリアの表情が微かに軟化してきた。
「しかしだ、言ったように私は魔法が苦手だし……」
「使おうとしたことは?」
「ある。一応学んだこともあるが、やはり駄目でな」
そこでの失敗。そしてそれを補って余りある剣の腕が彼女の苦手意識を加速させてしまったのは明白。
「僕が手伝いますからもう一度挑戦しましょう」
ホイムは胸の前で拳を握りエミリアに訴えた。
「と言っても人に教えてこともないから頼りないでしょうけど……フラシュに着くまで時間はありますし、少しでもエミリアさんのパワーアップに繋がるなら」
「……手取り、足取り」
「はい?」
「手取り足取り、教えてくれると、言うのだな」
説得が功を奏しエミリアは魔法に対し前向きになってくれたようだ。
目の前にあったホイムの手を両手で包むと、詰め寄るように顔を寄せた。
「ええまあ……手取り足取りかは分かりませんが……エミリアさんがやる気になってくれたのなら」
「分かった。君の期待に応えよう」
それはそれはとても嬉しいことである。
「あの……」
が、エミリアのやる気に比例して彼女の顔がどんどん近付いてくる。もう言葉は不要とばかりに口でも塞ぐ気であるかのように。
がっちり手を捕らわれてるせいで逃げられないホイムが目を固く閉じた途端、彼の手が解放された。
「……?」
ゆっくりと目を開けると、エミリアは左手で顔に向けて飛んできたクナイを握り止めているところであった。
幌の外からどす黒い気配がエミリアに向けられている。蛇の如く絡みつくような声をかけてくるのは、竜蜥騎の手綱を任されている彼女であった。
「少し……顔が近くありませんか?」
「すまない。嬉しさのあまり少々舞い上がってしまった」
「気を付けてくださいね。此処では破廉恥な真似はするなとどこぞの誰かに念を押されていますので」
「そんなことをする不埒な輩がいたら私が叩き出しておこう」
オホホと笑うアカネ。
フフフと笑うエミリア。
カタカタと震えるホイム。
ムシャムシャと眠るルカ。
今日も平和な馬車の旅が続いていた。
あの剣技はエミリアの魔力を用いたものではないのだろうかと疑問に感じたホイムは質問を続けた。
「あれは剣そのものの力だ」
鎧の手入れを一旦止めたエミリアは荷車内に置いてあった自身の盾から剣を抜き、ホイムとの間にそれを置いた。
「見てみろ」
と促されたので身を乗り出して覆い被さるように剣を観察する。彼女の得物をじっくりと拝見するのは初めてのことであった。
一見すると何の変哲もない……とは言い難い立派な騎士剣である。聖華騎士団筆頭騎士が扱う剣ともなればそんじゃそこらの店売り品とは格が違う。
遺跡での戦いを経ても刃毀れや歪みのない刀身は、特殊な加工が施されているに違いないと言える業物である。
だがホイムが目を凝らして分かったのはそういった剣の造りに関するものだけではない。
「これって……」
「気付いたか」
集中したことで初めて剣に埋め込まれた魔力の痕跡を察知することができた。
「その剣は造られる段階から魔力を籠められた魔導具といったところか。筆頭騎士になりそいつを使いはじめた頃は苦労したものさ」
「へえ……」
「無論ただ振るうだけでは何の変哲もない剣でしかないが、最低限の素養があったからな……今ではお前が目にした通りに扱えているよ。実は盾も鎧も同じように魔法の効果を与えられていて……これは私だけに限らず聖華騎士団全員がそうなのだが」
その後の詳しい話によると、聖華騎士団の防具やエミリアのように選ばれし者の武器は、魔導具の鍛造に長けたドワーフの鍛冶師の手によって拵えられたものだそうだ。
この地より北東の大海に位置する魔族領を更に越えた先にある遥か彼方の大陸。精霊族が多く住まうその地では、世界に流通する魔導具のほとんどが製造されている。
多種族に対して中立的な立場を取る精霊族は領土から出る者も全くと言っていいほどおらず、だが依頼があれば物品のやりとりは行い利益を得ている。例え依頼主が魔族であろうとそれは変わることなく、誰に対してもあくまで公平な立場である。
エミリアの剣の出自を知ったホイムであったが、話を聞きつつも剣を調べ……一つ気がかりな点が芽生えた。
「これを使えるのは筆頭騎士の人だけみたいですね」
「ああ。そういう風に造られているらしい。実際に他の者が剣を振るったところで魔法剣としての本領は全く発揮されないからな」
ホイムは剣に触れながら魔力を少し当ててみるが、反発して弾かれそうになるのを感じた。筆頭騎士という称号を備えた者以外の力は受け付けないのだろう。奪われたりした時に悪用されないためのプロテクトといったところか。
(なら、やっぱりこれは本領を発揮できていないと思う)
「エミリアさん」
「なんだ?」
「少し魔法を勉強しましょうか?」
ホイムの突然の提案にエミリアは首を捻り、肩を竦めた。
「さっきも言ったろ? 素養はあっても全く扱えないと」
「だから少しだけでも扱えるようになった方がいいんですって」
ううん?
エミリアが顎に手を当て唸るので、ホイムはきちんと説明するように続けた。
「魔法の理を理解できれば、魔法剣ももっと精細に扱えるようになると思うんですよ」
「む……ま、まあな。騎士団でもアリアスたちは剣技だけでなく魔術にも長けていたが……だから私は自分の長所を伸ばし剣術の腕で筆頭騎士となり」
「でも魔法が使えればエミリアさんのプラスになるのは間違いないですよね?」
ホイムの説得が次第に効いたか、頑ななエミリアの表情が微かに軟化してきた。
「しかしだ、言ったように私は魔法が苦手だし……」
「使おうとしたことは?」
「ある。一応学んだこともあるが、やはり駄目でな」
そこでの失敗。そしてそれを補って余りある剣の腕が彼女の苦手意識を加速させてしまったのは明白。
「僕が手伝いますからもう一度挑戦しましょう」
ホイムは胸の前で拳を握りエミリアに訴えた。
「と言っても人に教えてこともないから頼りないでしょうけど……フラシュに着くまで時間はありますし、少しでもエミリアさんのパワーアップに繋がるなら」
「……手取り、足取り」
「はい?」
「手取り足取り、教えてくれると、言うのだな」
説得が功を奏しエミリアは魔法に対し前向きになってくれたようだ。
目の前にあったホイムの手を両手で包むと、詰め寄るように顔を寄せた。
「ええまあ……手取り足取りかは分かりませんが……エミリアさんがやる気になってくれたのなら」
「分かった。君の期待に応えよう」
それはそれはとても嬉しいことである。
「あの……」
が、エミリアのやる気に比例して彼女の顔がどんどん近付いてくる。もう言葉は不要とばかりに口でも塞ぐ気であるかのように。
がっちり手を捕らわれてるせいで逃げられないホイムが目を固く閉じた途端、彼の手が解放された。
「……?」
ゆっくりと目を開けると、エミリアは左手で顔に向けて飛んできたクナイを握り止めているところであった。
幌の外からどす黒い気配がエミリアに向けられている。蛇の如く絡みつくような声をかけてくるのは、竜蜥騎の手綱を任されている彼女であった。
「少し……顔が近くありませんか?」
「すまない。嬉しさのあまり少々舞い上がってしまった」
「気を付けてくださいね。此処では破廉恥な真似はするなとどこぞの誰かに念を押されていますので」
「そんなことをする不埒な輩がいたら私が叩き出しておこう」
オホホと笑うアカネ。
フフフと笑うエミリア。
カタカタと震えるホイム。
ムシャムシャと眠るルカ。
今日も平和な馬車の旅が続いていた。
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<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
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