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フラシュ王国への道中
少し弄りました
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荷車に積まれた藁の山を背もたれにしてホイムが弄る魔法陣の輝きを頬杖ついて見ているのは起きたばかりのルカであった。
目が覚めて間もないはずだが、円陣から溢れる光を見ている様はぼんやりとしていてまた寝入ってしまいそうな雰囲気があった。
さっきまでホイムにべったりであった彼女はどこへ行ったのかというと、竜蜥騎の手綱を操っていたエミリアからその手ほどきを承っている最中であった。
「普通の馬よりも遥かに気難しいんだ。もっと丁寧にだな……」
「む。里では乗馬に関しても学んだのですが案外勝手が違うものですね……」
「それはそうだ。元々騎士と共に戦うためのものだからな。馬が相棒なら、竜蜥は戦友になる生き物だ」
手取り足取り教えてもらっている様子にホッとしたホイムは一人で魔法の編集にかかっていたが、今度はルカが興味を抱いてきたところであった。
「見てて楽しい?」
キュアの呪文の円陣を紐解けば、途端に無数の円陣が幌の中に展開する。これら全てがホイムのキュアに関連付けられた効果の異なる魔法である。
プラネタリウムのようになったのはほんの一瞬である。流石にワッと眩しくなりすぎるのでさっさと一つの円陣だけを手元に寄せて残りを閉じた。
「楽しくない」
魔術に造詣がないと何をしてるか分からずに興味を抱かないのだろう。ルカならば仕方ない。
「でも綺麗だった。夜空みたい」
そう思ってくれるのなら、わざと魔法陣を出して弄くり回している甲斐もあるというものである。
内容よりも光景に惹かれたのか、作業をしているホイムに向けてルカがじりじりとにじり寄っていた。
期待に応えるためというわけではないが、ホイムは手を止めることなく作業の様子をルカに見せ続けた。
ホイムがしようと思っているのは女神から授けられた新たな力、デュアルキュアにまつわる編纂である。
先頃の遺跡突入時には力を手にしてから日が浅く、実のところキュア【極大】の他には何も創造していなかった。
彼がデュアルキュアに求めていたのは補助効果である。
メインで使うキュアは回復系や攻撃系の呪文。【治癒】や【解毒】、【腐敗】や【貫矢】、【火弓】等がある。
攻撃に用いている中に矢と弓があることも用途が被っていると思い始めたホイムはこの辺りもまとめておきたいと考えているのだが、それは追々しておくことにしてまずはサブとして位置づけるキュアの整理に着手する。
今現在創造した魔法の中で弓と矢の字を当てたものは用途が丸かぶりである。
「あれはどっちかに統一するか……」
ファイヤアローとして【火矢】か【火弓】を残せばいい。とりあえずその二つの魔法陣を左右の手で描き出した後、片方を消去した。
他にも整理すべき魔法もあるだろうが、その前にまずは思い立った補助魔法の創造に取りかかる。
何も刻まれていない円陣を描き、中に文様を走らせる。
補助魔法として創造した【極大】は頭の中で組み立てたが今は流れで魔法陣による創造を続けていた。
そしてある効果を付与した魔法陣を、最終的にキュアの魔法陣に偽装する。これも女神から賜った回復術創造の加護によるものだ。そもそも魔術創造の加護がなければかようなことはできるはずもなく、いつの時代も数えられるほどしか存在しないものである。
そんな希少な加護を授かっておきながら更に回復術という皮を被せただけであらゆる魔法を造れるのだからインチキにもほどがある。
ともあれこうしてホイムは新しいキュアを創造し、更にまた幾つか補助効果を持たせた術を造ろうとする。
「……」
魔法の創造創作にはそれなりに集中力がいる。
「……」
なのでこのように股間の匂いを嗅がれたり鼻先で弄られたりすればすぐに気が散り上手くできるはずがない。
「あのルカさん?」
「気にしないで平気」
「いやすっごく気になるんだけどさ」
ズボンを脱がせようと試みるルカに抵抗すべく両手で彼女の手を抑えようとするが、力で圧倒的に勝る相手を力で止められるはずもない。
「いやいやなんで?」
「退屈」
「魔法の光を見てたじゃん!」
「もう飽きた」
「えぇ……」
「それに光見てると夜思い出す」
「うん」
「興奮してきた」
「いやぁやめて!」
嫌がるホイムに襲いかかり、いよいよ裸にひん剥こうとルカが魔の手を差し向けた時、
「そういうのはここでは禁止だと忠告したろう?」
彼女の首根っこを掴んで引き剥がしてくれたのはエミリアであった。
「んん! 耐えられない!」
駄々をこねる犬のように手足をばたつかせるルカに対し、エミリアがどこからか取り出した干し肉を彼女の口にねじ込んだ。
「ほうらほら、美味しいおやつだぞ」
「んぬううん……んぬうううう……」
不服そうに呻くルカであったが、やがて食欲に負けたのか、干し肉を口にしたままゴロンと横になってむしゃむしゃと頬張ってくれた。
「やれやれ。アカネの教えてくれた通りのやり方でなんとか気を紛らわせたか」
疲れた様子のエミリアが一息つきながらそう漏らした。
「アカネさんは?」
「しばらく操縦を代わってくれたよ。上達するのが少し楽しくなってくれたらしい」
先程までエミリアがいた場所に視線を向ければ、「よっほっ」と声を出して竜蜥騎を巧みに操ろうとするアカネの背中が目についた。
「交代できるのなら少しは負担が減りますね」
「ありがたい事だ」
「僕も手伝えればもっと分散できますよ」
「後でこっそり教え」
「ダメです! 私が学んだ意味がなくなるではありませんか!」
ホイムとエミリアの話に、今度はアカネが外から割って入ってくる。始めの方とは逆の構図になってしまっていた。
「それとも私がホイム様に教えて差し上げましょうか。ええ、それがよろしいですね!」
「そこは上手い奴が教えるのがスジであろう」
「つまり私がエミリアを越えればいいのでしょう?」
言うじゃないか。
小声で呟くエミリアは、少し腹が立っているような面白おかしくしているような表情をしているようにホイムには見えた。
目が覚めて間もないはずだが、円陣から溢れる光を見ている様はぼんやりとしていてまた寝入ってしまいそうな雰囲気があった。
さっきまでホイムにべったりであった彼女はどこへ行ったのかというと、竜蜥騎の手綱を操っていたエミリアからその手ほどきを承っている最中であった。
「普通の馬よりも遥かに気難しいんだ。もっと丁寧にだな……」
「む。里では乗馬に関しても学んだのですが案外勝手が違うものですね……」
「それはそうだ。元々騎士と共に戦うためのものだからな。馬が相棒なら、竜蜥は戦友になる生き物だ」
手取り足取り教えてもらっている様子にホッとしたホイムは一人で魔法の編集にかかっていたが、今度はルカが興味を抱いてきたところであった。
「見てて楽しい?」
キュアの呪文の円陣を紐解けば、途端に無数の円陣が幌の中に展開する。これら全てがホイムのキュアに関連付けられた効果の異なる魔法である。
プラネタリウムのようになったのはほんの一瞬である。流石にワッと眩しくなりすぎるのでさっさと一つの円陣だけを手元に寄せて残りを閉じた。
「楽しくない」
魔術に造詣がないと何をしてるか分からずに興味を抱かないのだろう。ルカならば仕方ない。
「でも綺麗だった。夜空みたい」
そう思ってくれるのなら、わざと魔法陣を出して弄くり回している甲斐もあるというものである。
内容よりも光景に惹かれたのか、作業をしているホイムに向けてルカがじりじりとにじり寄っていた。
期待に応えるためというわけではないが、ホイムは手を止めることなく作業の様子をルカに見せ続けた。
ホイムがしようと思っているのは女神から授けられた新たな力、デュアルキュアにまつわる編纂である。
先頃の遺跡突入時には力を手にしてから日が浅く、実のところキュア【極大】の他には何も創造していなかった。
彼がデュアルキュアに求めていたのは補助効果である。
メインで使うキュアは回復系や攻撃系の呪文。【治癒】や【解毒】、【腐敗】や【貫矢】、【火弓】等がある。
攻撃に用いている中に矢と弓があることも用途が被っていると思い始めたホイムはこの辺りもまとめておきたいと考えているのだが、それは追々しておくことにしてまずはサブとして位置づけるキュアの整理に着手する。
今現在創造した魔法の中で弓と矢の字を当てたものは用途が丸かぶりである。
「あれはどっちかに統一するか……」
ファイヤアローとして【火矢】か【火弓】を残せばいい。とりあえずその二つの魔法陣を左右の手で描き出した後、片方を消去した。
他にも整理すべき魔法もあるだろうが、その前にまずは思い立った補助魔法の創造に取りかかる。
何も刻まれていない円陣を描き、中に文様を走らせる。
補助魔法として創造した【極大】は頭の中で組み立てたが今は流れで魔法陣による創造を続けていた。
そしてある効果を付与した魔法陣を、最終的にキュアの魔法陣に偽装する。これも女神から賜った回復術創造の加護によるものだ。そもそも魔術創造の加護がなければかようなことはできるはずもなく、いつの時代も数えられるほどしか存在しないものである。
そんな希少な加護を授かっておきながら更に回復術という皮を被せただけであらゆる魔法を造れるのだからインチキにもほどがある。
ともあれこうしてホイムは新しいキュアを創造し、更にまた幾つか補助効果を持たせた術を造ろうとする。
「……」
魔法の創造創作にはそれなりに集中力がいる。
「……」
なのでこのように股間の匂いを嗅がれたり鼻先で弄られたりすればすぐに気が散り上手くできるはずがない。
「あのルカさん?」
「気にしないで平気」
「いやすっごく気になるんだけどさ」
ズボンを脱がせようと試みるルカに抵抗すべく両手で彼女の手を抑えようとするが、力で圧倒的に勝る相手を力で止められるはずもない。
「いやいやなんで?」
「退屈」
「魔法の光を見てたじゃん!」
「もう飽きた」
「えぇ……」
「それに光見てると夜思い出す」
「うん」
「興奮してきた」
「いやぁやめて!」
嫌がるホイムに襲いかかり、いよいよ裸にひん剥こうとルカが魔の手を差し向けた時、
「そういうのはここでは禁止だと忠告したろう?」
彼女の首根っこを掴んで引き剥がしてくれたのはエミリアであった。
「んん! 耐えられない!」
駄々をこねる犬のように手足をばたつかせるルカに対し、エミリアがどこからか取り出した干し肉を彼女の口にねじ込んだ。
「ほうらほら、美味しいおやつだぞ」
「んぬううん……んぬうううう……」
不服そうに呻くルカであったが、やがて食欲に負けたのか、干し肉を口にしたままゴロンと横になってむしゃむしゃと頬張ってくれた。
「やれやれ。アカネの教えてくれた通りのやり方でなんとか気を紛らわせたか」
疲れた様子のエミリアが一息つきながらそう漏らした。
「アカネさんは?」
「しばらく操縦を代わってくれたよ。上達するのが少し楽しくなってくれたらしい」
先程までエミリアがいた場所に視線を向ければ、「よっほっ」と声を出して竜蜥騎を巧みに操ろうとするアカネの背中が目についた。
「交代できるのなら少しは負担が減りますね」
「ありがたい事だ」
「僕も手伝えればもっと分散できますよ」
「後でこっそり教え」
「ダメです! 私が学んだ意味がなくなるではありませんか!」
ホイムとエミリアの話に、今度はアカネが外から割って入ってくる。始めの方とは逆の構図になってしまっていた。
「それとも私がホイム様に教えて差し上げましょうか。ええ、それがよろしいですね!」
「そこは上手い奴が教えるのがスジであろう」
「つまり私がエミリアを越えればいいのでしょう?」
言うじゃないか。
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