100 / 131
フラシュ王国への道中
学びました
しおりを挟む
「確かなことは」
ここでエミリアが口を挟んでくる。
「人族と魔族の争いに終止符が打たれた時、最後に残っていた方が世界の覇権を握るのだ」
「……壮大なお話ですね」
そこまで展開が膨らむとついていけないとホイムは両手を挙げて降参した。
その話はここで終わりだが、彼としては決着の果てに魔族との……魔人との関係がどうなるのか気になっていた。
悪い奴もいるが良い人もいるし複雑な事情があちらにもありそうなことを知ってしまっているのだから。
「話を戻しますけど、どうして後から詠唱法が確立してきたんですか?」
再びアカネ書房に質問を投げると、パラパラと知識のページが捲られた。
「人魔対立の件が関わってくるのですが」
打ち切った話の流れは無関係というわけではなかった。
「魔族と同じ手段で魔法という奇跡を起こすことを人間が避けたかったがために、呪文詠唱という新たな手段が模索されたそうです」
「うぅん……? 嫌いな人の真似をしたくなかったってこと?」
「乱暴な言い方になりますが概ねその通りかと」
分からなくもないが種族まるごとそうなるというのは大袈裟すぎるとも感じたが、元いた世界ですら宗教や民族の違いといった理由で人同士が争うこともあったというのだから、異世界のことをどうこう言えるものではないだろうとホイムは思っていた。
「それこそ大昔は魔法というものは神に頼み起こす奇跡と考えられていた時代もある」
またエミリアが話に交じってくる。
ほうほうと頷くホイムを横目にアカネは少し頬を膨らませていた。
「そこに種族間の対立意識も相まって、我らの方がより神に対し信心深く仕えているという表明のために口上を唱え、試行錯誤を重ねて詠唱法を生み出したとされているな」
「なんというか……お疲れ様です」
フォトナームという世界の根幹にある対立に口をだすことは憚られたためか、変な相槌を打つに留まっていた。
「詠唱法の成り立ちはそんなところだ。……今でも少数ながら魔法陣を用いる魔術士はいるが、古代魔術や黒魔術、召喚術の担い手くらいだ。あまり大きな声では言えんが、一般の術士の中にはそういった魔術士たちを外法の者として忌み嫌う者も少なくはないな」
「そんな理由で魔法陣を使う人はほとんどいなくなったんですね」
「伝承として全く受け継がれていないからな。いくら基礎の部分が共通のものとはいえ、魔法陣を用いる発想がどうしても根付いていないのだ。だからホイムのように二つの手段を用いる一般の術士はとても珍し……何をしている?」
エミリアがふいと視線を後方に向けた時、ホイムはアカネに後ろから抱きしめられテレテレとしていた。
「あら? お話は終わりました?」
「終わ……いや元々話をしてくれるのはアカネではなかったか?」
「エミリアが途中で話を取り上げるんですもの。退屈になったのでホイム様で遊んでいました」
「ぼ、僕はちゃんと聞いてましたよ」
頭を胸に挟まれながら言われても説得力を感じられないエミリアであった。
「……とにかく、お前はとても珍しいのだ。できれば人混みの中では魔法陣を使うようなことはしないでおくれよ」
「面倒事に発展するかもしれませんしね」
エミリアの忠告に理解を示しながら、再びホイムは魔法陣を両手の間に展開した。
「でも今は構わないですよね?」
「無論だ。……ところでホイムは魔法の整理をいつも魔法陣でやるのか?」
ほとんどの術士は術の構築を頭の中で行う。名うての術士ともなれば自身の内にある術式と向き合うために深い瞑想や精神統一の形をとる。
なので術の整理などは静かに横になっていてもできるものであるのだが、少年は魔法陣を用いていた。
「それは私が退屈しないようにというお心遣いです」
答えたのはアカネであった。
「誰かさんに釘を差されて何もすることがなく手持ち無沙汰にしていたら、そんな私のためにホイム様が綺麗に輝く魔法陣を見せながら整理してくださったのです」
「ほう……」
「ええそれはもう私のために」
「うぐっ」
きゅっと抱きしめられたせいでホイムの魔法陣が一瞬ブレた。
「それほど退屈なら荷車の操作を代わってくれてもいいが?」
「いいえ私は遠慮しておきます」
ホイムを抱く腕を緩めることなくアカネは断った。しばらく離しそうもない。
「でもずっと竜蜥騎を操るのも疲れるでしょうし、その時は僕が代わりましょうか?」
アカネとは打って変わってホイムは荷車の操作には積極的なようであった。
「いやしかし」
「とは言っても操ったことないですし、教えてもらわなくちゃいけないですけど」
「よし教えよう」
一瞬前には悪いと思い申し出を断ろうとしたエミリアであったが、ホイムが教えを請おうとしたので快諾した。
「はっ! ホイム様がそのようなことをなさらなくても結構! 私が、私がやりますので!」
「遠慮してくれていいぞ? 私がホイムに手取り足取り竜蜥騎の繰り方を教えて」
「いいえ私が!」
「いやいや」
二人が仲良く言い争うのを微笑ましい気持ちで見守ろうと努めるホイムであった。
ここでエミリアが口を挟んでくる。
「人族と魔族の争いに終止符が打たれた時、最後に残っていた方が世界の覇権を握るのだ」
「……壮大なお話ですね」
そこまで展開が膨らむとついていけないとホイムは両手を挙げて降参した。
その話はここで終わりだが、彼としては決着の果てに魔族との……魔人との関係がどうなるのか気になっていた。
悪い奴もいるが良い人もいるし複雑な事情があちらにもありそうなことを知ってしまっているのだから。
「話を戻しますけど、どうして後から詠唱法が確立してきたんですか?」
再びアカネ書房に質問を投げると、パラパラと知識のページが捲られた。
「人魔対立の件が関わってくるのですが」
打ち切った話の流れは無関係というわけではなかった。
「魔族と同じ手段で魔法という奇跡を起こすことを人間が避けたかったがために、呪文詠唱という新たな手段が模索されたそうです」
「うぅん……? 嫌いな人の真似をしたくなかったってこと?」
「乱暴な言い方になりますが概ねその通りかと」
分からなくもないが種族まるごとそうなるというのは大袈裟すぎるとも感じたが、元いた世界ですら宗教や民族の違いといった理由で人同士が争うこともあったというのだから、異世界のことをどうこう言えるものではないだろうとホイムは思っていた。
「それこそ大昔は魔法というものは神に頼み起こす奇跡と考えられていた時代もある」
またエミリアが話に交じってくる。
ほうほうと頷くホイムを横目にアカネは少し頬を膨らませていた。
「そこに種族間の対立意識も相まって、我らの方がより神に対し信心深く仕えているという表明のために口上を唱え、試行錯誤を重ねて詠唱法を生み出したとされているな」
「なんというか……お疲れ様です」
フォトナームという世界の根幹にある対立に口をだすことは憚られたためか、変な相槌を打つに留まっていた。
「詠唱法の成り立ちはそんなところだ。……今でも少数ながら魔法陣を用いる魔術士はいるが、古代魔術や黒魔術、召喚術の担い手くらいだ。あまり大きな声では言えんが、一般の術士の中にはそういった魔術士たちを外法の者として忌み嫌う者も少なくはないな」
「そんな理由で魔法陣を使う人はほとんどいなくなったんですね」
「伝承として全く受け継がれていないからな。いくら基礎の部分が共通のものとはいえ、魔法陣を用いる発想がどうしても根付いていないのだ。だからホイムのように二つの手段を用いる一般の術士はとても珍し……何をしている?」
エミリアがふいと視線を後方に向けた時、ホイムはアカネに後ろから抱きしめられテレテレとしていた。
「あら? お話は終わりました?」
「終わ……いや元々話をしてくれるのはアカネではなかったか?」
「エミリアが途中で話を取り上げるんですもの。退屈になったのでホイム様で遊んでいました」
「ぼ、僕はちゃんと聞いてましたよ」
頭を胸に挟まれながら言われても説得力を感じられないエミリアであった。
「……とにかく、お前はとても珍しいのだ。できれば人混みの中では魔法陣を使うようなことはしないでおくれよ」
「面倒事に発展するかもしれませんしね」
エミリアの忠告に理解を示しながら、再びホイムは魔法陣を両手の間に展開した。
「でも今は構わないですよね?」
「無論だ。……ところでホイムは魔法の整理をいつも魔法陣でやるのか?」
ほとんどの術士は術の構築を頭の中で行う。名うての術士ともなれば自身の内にある術式と向き合うために深い瞑想や精神統一の形をとる。
なので術の整理などは静かに横になっていてもできるものであるのだが、少年は魔法陣を用いていた。
「それは私が退屈しないようにというお心遣いです」
答えたのはアカネであった。
「誰かさんに釘を差されて何もすることがなく手持ち無沙汰にしていたら、そんな私のためにホイム様が綺麗に輝く魔法陣を見せながら整理してくださったのです」
「ほう……」
「ええそれはもう私のために」
「うぐっ」
きゅっと抱きしめられたせいでホイムの魔法陣が一瞬ブレた。
「それほど退屈なら荷車の操作を代わってくれてもいいが?」
「いいえ私は遠慮しておきます」
ホイムを抱く腕を緩めることなくアカネは断った。しばらく離しそうもない。
「でもずっと竜蜥騎を操るのも疲れるでしょうし、その時は僕が代わりましょうか?」
アカネとは打って変わってホイムは荷車の操作には積極的なようであった。
「いやしかし」
「とは言っても操ったことないですし、教えてもらわなくちゃいけないですけど」
「よし教えよう」
一瞬前には悪いと思い申し出を断ろうとしたエミリアであったが、ホイムが教えを請おうとしたので快諾した。
「はっ! ホイム様がそのようなことをなさらなくても結構! 私が、私がやりますので!」
「遠慮してくれていいぞ? 私がホイムに手取り足取り竜蜥騎の繰り方を教えて」
「いいえ私が!」
「いやいや」
二人が仲良く言い争うのを微笑ましい気持ちで見守ろうと努めるホイムであった。
0
お気に入りに追加
2,316
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
やさしい魔法と君のための物語。
雨色銀水
ファンタジー
これは森の魔法使いと子供の出会いから始まる、出会いと別れと再会の長い物語――。
※第一部「君と過ごしたなもなき季節に」編あらすじ※
かつて罪を犯し、森に幽閉されていた魔法使いはある日、ひとりの子供を拾う。
ぼろぼろで小さな子供は、名前さえも持たず、ずっと長い間孤独に生きてきた。
孤独な魔法使いと幼い子供。二人は不器用ながらも少しずつ心の距離を縮めながら、絆を深めていく。
失ったものを埋めあうように、二人はいつしか家族のようなものになっていき――。
「ただ、抱きしめる。それだけのことができなかったんだ」
雪が溶けて、春が来たら。
また、出会えると信じている。
※第二部「あなたに贈るシフソフィラ」編あらすじ※
王国に仕える『魔法使い』は、ある日、宰相から一つの依頼を受ける。
魔法石の盗難事件――その事件の解決に向け、調査を始める魔法使いと騎士と弟子たち。
調査を続けていた魔法使いは、一つの結末にたどり着くのだが――。
「あなたが大好きですよ、誰よりもね」
結末の先に訪れる破滅と失われた絆。魔法使いはすべてを失い、物語はゼロに戻る。
※第三部「魔法使いの掟とソフィラの願い」編あらすじ※
魔法使いであった少年は罪を犯し、大切な人たちから離れて一つの村へとたどり着いていた。
そこで根を下ろし、時を過ごした少年は青年となり、ひとりの子供と出会う。
獣の耳としっぽを持つ、人ならざる姿の少女――幼い彼女を救うため、青年はかつての師と罪に向き合い、立ち向かっていく。
青年は自分の罪を乗り越え、先の未来をつかみ取れるのか――?
「生きる限り、忘れることなんかできない」
最後に訪れた再会は、奇跡のように涙を降らせる。
第四部「さよならを告げる風の彼方に」編
ヴィルヘルムと魔法使い、そしてかつての英雄『ギルベルト』に捧ぐ物語。
※他サイトにも同時投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる