異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし

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フラシュ王国への道中

学びました

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「確かなことは」

 ここでエミリアが口を挟んでくる。

「人族と魔族の争いに終止符が打たれた時、最後に残っていた方が世界の覇権を握るのだ」
「……壮大なお話ですね」

 そこまで展開が膨らむとついていけないとホイムは両手を挙げて降参した。
 その話はここで終わりだが、彼としては決着の果てに魔族との……魔人との関係がどうなるのか気になっていた。
 悪い奴もいるが良い人もいるし複雑な事情があちらにもありそうなことを知ってしまっているのだから。

「話を戻しますけど、どうして後から詠唱法が確立してきたんですか?」

 再びアカネ書房に質問を投げると、パラパラと知識のページが捲られた。

「人魔対立の件が関わってくるのですが」

 打ち切った話の流れは無関係というわけではなかった。

「魔族と同じ手段で魔法という奇跡を起こすことを人間が避けたかったがために、呪文詠唱という新たな手段が模索されたそうです」
「うぅん……? 嫌いな人の真似をしたくなかったってこと?」
「乱暴な言い方になりますが概ねその通りかと」

 分からなくもないが種族まるごとそうなるというのは大袈裟すぎるとも感じたが、元いた世界ですら宗教や民族の違いといった理由で人同士が争うこともあったというのだから、異世界のことをどうこう言えるものではないだろうとホイムは思っていた。

「それこそ大昔は魔法というものは神に頼み起こす奇跡と考えられていた時代もある」

 またエミリアが話に交じってくる。
 ほうほうと頷くホイムを横目にアカネは少し頬を膨らませていた。

「そこに種族間の対立意識も相まって、我らの方がより神に対し信心深く仕えているという表明のために口上を唱え、試行錯誤を重ねて詠唱法を生み出したとされているな」
「なんというか……お疲れ様です」

 フォトナームという世界の根幹にある対立に口をだすことは憚られたためか、変な相槌を打つに留まっていた。

「詠唱法の成り立ちはそんなところだ。……今でも少数ながら魔法陣を用いる魔術士はいるが、古代魔術や黒魔術、召喚術の担い手くらいだ。あまり大きな声では言えんが、一般の術士の中にはそういった魔術士たちを外法の者として忌み嫌う者も少なくはないな」
「そんな理由で魔法陣を使う人はほとんどいなくなったんですね」
「伝承として全く受け継がれていないからな。いくら基礎の部分が共通のものとはいえ、魔法陣を用いる発想がどうしても根付いていないのだ。だからホイムのように二つの手段を用いる一般の術士はとても珍し……何をしている?」

 エミリアがふいと視線を後方に向けた時、ホイムはアカネに後ろから抱きしめられテレテレとしていた。

「あら? お話は終わりました?」
「終わ……いや元々話をしてくれるのはアカネではなかったか?」
「エミリアが途中で話を取り上げるんですもの。退屈になったのでホイム様で遊んでいました」
「ぼ、僕はちゃんと聞いてましたよ」

 頭を胸に挟まれながら言われても説得力を感じられないエミリアであった。

「……とにかく、お前はとても珍しいのだ。できれば人混みの中では魔法陣を使うようなことはしないでおくれよ」
「面倒事に発展するかもしれませんしね」

 エミリアの忠告に理解を示しながら、再びホイムは魔法陣を両手の間に展開した。

「でも今は構わないですよね?」
「無論だ。……ところでホイムは魔法の整理をいつも魔法陣でやるのか?」

 ほとんどの術士は術の構築を頭の中で行う。名うての術士ともなれば自身の内にある術式と向き合うために深い瞑想や精神統一の形をとる。
 なので術の整理などは静かに横になっていてもできるものであるのだが、少年は魔法陣を用いていた。

「それは私が退屈しないようにというお心遣いです」

 答えたのはアカネであった。

「誰かさんに釘を差されて何もすることがなく手持ち無沙汰にしていたら、そんな私のためにホイム様が綺麗に輝く魔法陣を見せながら整理してくださったのです」
「ほう……」
「ええそれはもう私のために」
「うぐっ」

 きゅっと抱きしめられたせいでホイムの魔法陣が一瞬ブレた。

「それほど退屈なら荷車の操作を代わってくれてもいいが?」
「いいえ私は遠慮しておきます」

 ホイムを抱く腕を緩めることなくアカネは断った。しばらく離しそうもない。

「でもずっと竜蜥騎を操るのも疲れるでしょうし、その時は僕が代わりましょうか?」

 アカネとは打って変わってホイムは荷車の操作には積極的なようであった。

「いやしかし」
「とは言っても操ったことないですし、教えてもらわなくちゃいけないですけど」
「よし教えよう」

 一瞬前には悪いと思い申し出を断ろうとしたエミリアであったが、ホイムが教えを請おうとしたので快諾した。

「はっ! ホイム様がそのようなことをなさらなくても結構! 私が、私がやりますので!」
「遠慮してくれていいぞ? 私がホイムに手取り足取り竜蜥騎の繰り方を教えて」
「いいえ私が!」
「いやいや」

 二人が仲良く言い争うのを微笑ましい気持ちで見守ろうと努めるホイムであった。
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