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パルメティの街
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「あいつは姫様を助けたかったら城に来いって言ってましたね」
「ああ……奴の言葉を信じるのなら、姫様は無事であられるようだ」
「国王がそれを条件に聖華騎士団が瓦解するように策を弄したと言ってました……本当だと思いますか?」
エミリアは少し考え込んだ後、自分の意見を述べ始めた。
「……後から思えば奇妙なことだった」「何がです?」
「アリアスが姫様を襲った後、近衛兵が来るまでの時間だ。あの時は気が動転していて思い至らなかったが……いくらなんでも速すぎる。まるで……」
「始めから仕組まれていた?」
「……国王なら、色々と理由をつけて近衛兵を動かすことも容易いはずだ。魔人の言っていたことはおそらく正しい……」
エミリアが身を震わすのは怒りからか、悲しみからかはホイムには判断しかねた。
「我々は国王に裏切られ」
「奴らは人の心を操る術に長けています。アリアスさんを捕らえていたあの男も、正気じゃなかった……それに肉体の変貌も、魔人の仕業だと僕は思います」
エミリアの言葉を遮ったホイムは尚も続けた。
「ようするに、王様もあいつらに操られたか……従わざるを得ない状況だったのかもしれません。姫様を人質に取られていた、とか……」
聖華騎士団崩壊の理由も、国王が乱心した理由も未だに不透明な部分が多い。決めつけるのは早計だとホイムは言いたいのだった。
「だが我らが国を追われたことは紛れもない事実。それだけは確かで、そして捕らえられた騎士団員もいる」
「僕らが行かなければその人たちを殺す。あいつは多分……絶対それを実行します」
魔人が待ち受けるフラシュ王国に行かなければ騎士団員は処刑される。しかしいつまでに来いという指定はなかった。魔人の性格からしてたっぷりと時間を与えてくれるという希望的観測はできず、つまりなるべく早く向かわねばならないというのが現状である。
「しかしこれは明らかな罠。今日のように上手く切り抜けられる可能性も低いだろう」
「だからといって行かないわけにはいきません」
「……何故だ?」
その小さな一言をホイムは聞き逃すところであった。問いかけなのだろうかと判断したホイムは、何故に対する答えを告げた。
「だって行かなければエミリアさんの仲間が殺されるんですよ。助けに行かないと」
「だから、何故だ?」
同じ問いかけを繰り返され、ホイムは首を捻りそうになった。
「何故君はそこまで助けてくれる? アリアスの救出は終わり、黒幕の正体も分かった。……私が君にした依頼は済んだのだ」
言われてみればそうである。
「もう付き合うこともあるまい。見ず知らずの団員のために君らが来ることもない……この辺りで別れて君たちは君たちの旅を」
まだ続きそうだったエミリアの話を、ホイムは彼女の頭をぺちんと叩いて遮った。
「むっ……」
「言っておきますが魔人と僕らの間には浅からぬ因縁があります。なので居場所が分かっているのならそこへ向かうのは自然だと思いませんか?」
「……自分の目的のために私を利用する。それは当然か」
ホイムはぺちぺちと彼女の頭を叩いた。
「むむっ……」
「それに僕はまだエミリアさんとのパーティを解消したつもりはありません。僕は……仲間を見捨てるつもりはありません」
彼にとって、パーティメンバーを見捨てるという選択肢はないものであった。それは自分が捨てられたことへの……勇者一行への反逆心からくる意地のようなものであったかもしれない。
「とにかく僕は、貴女を見放して一人で魔人のところに向かわせる気は毛頭ありません。嫌だって言ってもついて行きます……目的地は同じなんですし」
少しの間黙っていたエミリアは、やがて口を開いた。
「ありがとう……というべきだな」
「気にしないでください。僕がそうしたいだけですから」
「君はいい男だな」
「……初めて言われました」
「ふふ。惚れてしまいそうだ」
ドキッとしたホイムの身動ぎが膝を通してエミリアに伝わった。ホイムの動揺した気配に、彼女はおかしそうに笑った。
「冗談だ」
「……冗談ですか」
ホイムは安心したような残念なような微妙な心境になっていた。
「これ以上好かれる相手が増えても迷惑だろう?」
僅かに逡巡し、エミリアの言葉の意味を察する。
「アカネさんとルカのこと言ってます?」
「知ってるぞ? 二人を相手に毎晩毎晩……」
隠れてやっていたつもりがばっちりと知られていたことに対し、ホイムは急に恥ずかしくなってきた。
しかしそれはエミリアもだったようで、その後に続く言葉に代わって咳払いをしてお茶を濁した。
「……全く。敵地に突入する前夜まで何をしているのかと、正直呆れた」
「いえあれは……」
茶化すエミリアに慌てて弁明しようとするホイムであったが、あの事を教えていいのかどうか少し躊躇ったが、同じパーティの仲間に隠すことでもないと思い直し告げることにした。
「実は僕……えっちをすると強くなる祝福を女神様から授かったのです」
「プフふぅ~ッ」
ホイムの真剣な告白を受け、エミリアは思いっきり吹き出して笑ってしまった。
「からかうのもいい加減にしたまえ。そんなものを女神フォトが授けるわけがなかろう」
「マジなんですけど」
「だが今のは笑えたぞ。……他の騎士団の者には言うなよ? 私より信心深い者が多いからきっと怒られる」
「信じてくれてない……」
「堂々と僕はスケベだと言えばいい。それを差し引いても君が頼りになる少年であることを私は知っている」
「褒められてるようで馬鹿にされているような気がする……」
ひとしきり笑うエミリアと釈然としない様子のホイム。
二人の言葉のやり取りはそこでしばし止まってしまった。
しばらくして、すうすうという小さな寝息がホイムの膝の上から聞こえてきた。
「エミリアさん?」
返事がない。ただの睡眠のようだ。
最後にもう一度彼女の頭を撫で、
「……おやすみなさい」
と囁いてからそっと彼女の傍から離れ、ホイムも静かに横になるのであった。
「ああ……奴の言葉を信じるのなら、姫様は無事であられるようだ」
「国王がそれを条件に聖華騎士団が瓦解するように策を弄したと言ってました……本当だと思いますか?」
エミリアは少し考え込んだ後、自分の意見を述べ始めた。
「……後から思えば奇妙なことだった」「何がです?」
「アリアスが姫様を襲った後、近衛兵が来るまでの時間だ。あの時は気が動転していて思い至らなかったが……いくらなんでも速すぎる。まるで……」
「始めから仕組まれていた?」
「……国王なら、色々と理由をつけて近衛兵を動かすことも容易いはずだ。魔人の言っていたことはおそらく正しい……」
エミリアが身を震わすのは怒りからか、悲しみからかはホイムには判断しかねた。
「我々は国王に裏切られ」
「奴らは人の心を操る術に長けています。アリアスさんを捕らえていたあの男も、正気じゃなかった……それに肉体の変貌も、魔人の仕業だと僕は思います」
エミリアの言葉を遮ったホイムは尚も続けた。
「ようするに、王様もあいつらに操られたか……従わざるを得ない状況だったのかもしれません。姫様を人質に取られていた、とか……」
聖華騎士団崩壊の理由も、国王が乱心した理由も未だに不透明な部分が多い。決めつけるのは早計だとホイムは言いたいのだった。
「だが我らが国を追われたことは紛れもない事実。それだけは確かで、そして捕らえられた騎士団員もいる」
「僕らが行かなければその人たちを殺す。あいつは多分……絶対それを実行します」
魔人が待ち受けるフラシュ王国に行かなければ騎士団員は処刑される。しかしいつまでに来いという指定はなかった。魔人の性格からしてたっぷりと時間を与えてくれるという希望的観測はできず、つまりなるべく早く向かわねばならないというのが現状である。
「しかしこれは明らかな罠。今日のように上手く切り抜けられる可能性も低いだろう」
「だからといって行かないわけにはいきません」
「……何故だ?」
その小さな一言をホイムは聞き逃すところであった。問いかけなのだろうかと判断したホイムは、何故に対する答えを告げた。
「だって行かなければエミリアさんの仲間が殺されるんですよ。助けに行かないと」
「だから、何故だ?」
同じ問いかけを繰り返され、ホイムは首を捻りそうになった。
「何故君はそこまで助けてくれる? アリアスの救出は終わり、黒幕の正体も分かった。……私が君にした依頼は済んだのだ」
言われてみればそうである。
「もう付き合うこともあるまい。見ず知らずの団員のために君らが来ることもない……この辺りで別れて君たちは君たちの旅を」
まだ続きそうだったエミリアの話を、ホイムは彼女の頭をぺちんと叩いて遮った。
「むっ……」
「言っておきますが魔人と僕らの間には浅からぬ因縁があります。なので居場所が分かっているのならそこへ向かうのは自然だと思いませんか?」
「……自分の目的のために私を利用する。それは当然か」
ホイムはぺちぺちと彼女の頭を叩いた。
「むむっ……」
「それに僕はまだエミリアさんとのパーティを解消したつもりはありません。僕は……仲間を見捨てるつもりはありません」
彼にとって、パーティメンバーを見捨てるという選択肢はないものであった。それは自分が捨てられたことへの……勇者一行への反逆心からくる意地のようなものであったかもしれない。
「とにかく僕は、貴女を見放して一人で魔人のところに向かわせる気は毛頭ありません。嫌だって言ってもついて行きます……目的地は同じなんですし」
少しの間黙っていたエミリアは、やがて口を開いた。
「ありがとう……というべきだな」
「気にしないでください。僕がそうしたいだけですから」
「君はいい男だな」
「……初めて言われました」
「ふふ。惚れてしまいそうだ」
ドキッとしたホイムの身動ぎが膝を通してエミリアに伝わった。ホイムの動揺した気配に、彼女はおかしそうに笑った。
「冗談だ」
「……冗談ですか」
ホイムは安心したような残念なような微妙な心境になっていた。
「これ以上好かれる相手が増えても迷惑だろう?」
僅かに逡巡し、エミリアの言葉の意味を察する。
「アカネさんとルカのこと言ってます?」
「知ってるぞ? 二人を相手に毎晩毎晩……」
隠れてやっていたつもりがばっちりと知られていたことに対し、ホイムは急に恥ずかしくなってきた。
しかしそれはエミリアもだったようで、その後に続く言葉に代わって咳払いをしてお茶を濁した。
「……全く。敵地に突入する前夜まで何をしているのかと、正直呆れた」
「いえあれは……」
茶化すエミリアに慌てて弁明しようとするホイムであったが、あの事を教えていいのかどうか少し躊躇ったが、同じパーティの仲間に隠すことでもないと思い直し告げることにした。
「実は僕……えっちをすると強くなる祝福を女神様から授かったのです」
「プフふぅ~ッ」
ホイムの真剣な告白を受け、エミリアは思いっきり吹き出して笑ってしまった。
「からかうのもいい加減にしたまえ。そんなものを女神フォトが授けるわけがなかろう」
「マジなんですけど」
「だが今のは笑えたぞ。……他の騎士団の者には言うなよ? 私より信心深い者が多いからきっと怒られる」
「信じてくれてない……」
「堂々と僕はスケベだと言えばいい。それを差し引いても君が頼りになる少年であることを私は知っている」
「褒められてるようで馬鹿にされているような気がする……」
ひとしきり笑うエミリアと釈然としない様子のホイム。
二人の言葉のやり取りはそこでしばし止まってしまった。
しばらくして、すうすうという小さな寝息がホイムの膝の上から聞こえてきた。
「エミリアさん?」
返事がない。ただの睡眠のようだ。
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