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パルメティの街
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「単純ですよ。貴方がたはフラシュの王城を目指してリアラ王女を助け出せばいいのです。筆頭騎士殿もそうしたいのは山々でしょう?」
「姫様は……姫様は無事なのか!?」
「当たり前でしょう。なにせ我らに手を貸してくれた国王の願いなのですから」
言葉の意味をホイムは考察していた。
(フラシュの王が魔人に助力したのか……?)
何があってそうなったのかを考えていたのだが、隣りにいる彼女はただただ衝撃を受け思考が停止していた。
「王……が……?」
「ええ。おかげで目障りな聖華騎士団をあっさりと壊滅できましたよ……感謝しかありません」
聖華騎士団壊滅に王が絡んでいた事実にエミリアは愕然とした様子であった。
「ですが貴女も心配でしょう? 我らの手の内に愛しのお姫様が囚われているのは。ですので是非救出にいらしてください。その時は国をあげて迎え撃ってさしあげます」
死にに来いと言っているようなものだ。
「お姫様が無事だというなら、わざわざエミリアさんが行く必要は」
「ほう? なら来なければ今囚えている聖華騎士団に所属していた者を一人ずつ処刑していくとしましょう」
「お前……!」
「そして誰もいなくなれば、最後はリアラ王女の首を刎ねるとしましょうか」
「王様と約束して保護してる王女を殺すのか!?」
「その方が面白くなりそうだ」
魔人は嗤った。
約束に何の意味もない、全ては彼の気まぐれ一つだと告げているのだ。
「貴方がたが楽しませてくれるのなら、その間は姫と元騎士団の命は保障してあげましょう」
その言葉すら信じていいものか判然としない。しかし従わなければ、魔人は問答無用で今言ったことを実行する。そう確信させるだけの邪悪さが彼らにはあるのだ。
「ではお待ちしていますよ。貴方がたの墓標となる居城にて」
そう言い残し、バルバドは二人の前から姿を消した。
しばらくは無言で辺りを警戒していたホイムであったが、本当にこの場からいなくなったのだと認識するとようやく緊張を解いて小さく息を吐いた。
「……ひとまず、無事に済みましたね」
エミリアに声をかけるのだが、彼女は口を閉ざしたまま拳を握りしめていた。言葉にならないといったところであろう。
敵を追い詰め、アリアスを救助し、そこから怒涛のように押し寄せてきた話の流れを未だ整理しきれていないのかもしれない。
「……ここから出ましょうか」
ホイムは後方でアリアスを看ていたアカネとルカにも声をかける。彼女たちも魔人との再びの遭遇に思うことがあるのか、表情は浮かないものであった。
三者三様の女性陣を目にしたホイムは、彼女たちを自身の空けた大穴の上へと導き、まずは目的の一つであったアリアスの救助を完了させることにした。
「アカネさんとルカは、アリアスさんを連れて先にパルメティに戻ってください」
遺跡が存在していた場所から少し離れた森の中で、ホイムはアカネとルカに指示を与えていた。
「分かった」
ルカはすぐに返事をしたが、アカネは少し間を置いて口を開いた。
「また別行動……ですか」
「はい」
ホイムは即座に肯定し、理由を告げた。
「救出して怪我は癒やしましたが、未だ意識の戻らないアリアスさんには充分な休息と手厚い看護が必要だと思います。なので二人には急いで彼女を街へ運んでもらいたいんです。ひとまず事情を説明して、僕らの泊まっている部屋に」
「……それなら一人でも」
「それに」
アカネの言葉を強めに遮ってホイムは続けた。
「休息が必要なのはアリアスさんだけじゃないです……バルバドと名乗った魔人と対峙した時、アカネさんとルカがどう感じたのかは何となく分かるつもりです」
ホイムに指摘され、二人は目を伏せた。萎縮してしまったことを見抜かれたと感じたからだ。
「……今度はあいつを相手にすることになるはずです。ですから二人は先に戻って、落ち着いて考えててください。もしも戦えないと思ったら、その時は」
「分かりました!」
今度はアカネが声を上げてホイムの言葉を遮った。神妙になっていた気持ちを払うような強い語気に、ホイムも思わずたじろいだ。
「皆まで仰られずとも結構。私もルカも今一度気を静め、魔人と相対することが果たしてできるのかどうか……改めて決心をつけて参ります」
「そうですか……でもそこまで気負わなくっても」
「いいえ、それぐらいの覚悟を持ってあたらせていただきます。でなければ……ホイム様も私たちを見捨てるという断腸の思いでの決断に答えることができませんので!」
「……見捨てる?」
「行くぞルカ! 早急にこの方を送り届け、我らも自分自身と向き合うのだ」
「よくわからないけどわかった! ホイムに捨てられたくない!」
なんだか納得したところでルカはアリアスを背負い直し、アカネに先導されてあっという間に姿を消してしまった。
「……」
腕組みしたホイムは俯いて先程のアカネの言葉を思い返していた。
「見捨てるとか見捨てないとか、なんで……?」
どこからそんな単語が出てきたのかさっぱり分からないのであった。
「姫様は……姫様は無事なのか!?」
「当たり前でしょう。なにせ我らに手を貸してくれた国王の願いなのですから」
言葉の意味をホイムは考察していた。
(フラシュの王が魔人に助力したのか……?)
何があってそうなったのかを考えていたのだが、隣りにいる彼女はただただ衝撃を受け思考が停止していた。
「王……が……?」
「ええ。おかげで目障りな聖華騎士団をあっさりと壊滅できましたよ……感謝しかありません」
聖華騎士団壊滅に王が絡んでいた事実にエミリアは愕然とした様子であった。
「ですが貴女も心配でしょう? 我らの手の内に愛しのお姫様が囚われているのは。ですので是非救出にいらしてください。その時は国をあげて迎え撃ってさしあげます」
死にに来いと言っているようなものだ。
「お姫様が無事だというなら、わざわざエミリアさんが行く必要は」
「ほう? なら来なければ今囚えている聖華騎士団に所属していた者を一人ずつ処刑していくとしましょう」
「お前……!」
「そして誰もいなくなれば、最後はリアラ王女の首を刎ねるとしましょうか」
「王様と約束して保護してる王女を殺すのか!?」
「その方が面白くなりそうだ」
魔人は嗤った。
約束に何の意味もない、全ては彼の気まぐれ一つだと告げているのだ。
「貴方がたが楽しませてくれるのなら、その間は姫と元騎士団の命は保障してあげましょう」
その言葉すら信じていいものか判然としない。しかし従わなければ、魔人は問答無用で今言ったことを実行する。そう確信させるだけの邪悪さが彼らにはあるのだ。
「ではお待ちしていますよ。貴方がたの墓標となる居城にて」
そう言い残し、バルバドは二人の前から姿を消した。
しばらくは無言で辺りを警戒していたホイムであったが、本当にこの場からいなくなったのだと認識するとようやく緊張を解いて小さく息を吐いた。
「……ひとまず、無事に済みましたね」
エミリアに声をかけるのだが、彼女は口を閉ざしたまま拳を握りしめていた。言葉にならないといったところであろう。
敵を追い詰め、アリアスを救助し、そこから怒涛のように押し寄せてきた話の流れを未だ整理しきれていないのかもしれない。
「……ここから出ましょうか」
ホイムは後方でアリアスを看ていたアカネとルカにも声をかける。彼女たちも魔人との再びの遭遇に思うことがあるのか、表情は浮かないものであった。
三者三様の女性陣を目にしたホイムは、彼女たちを自身の空けた大穴の上へと導き、まずは目的の一つであったアリアスの救助を完了させることにした。
「アカネさんとルカは、アリアスさんを連れて先にパルメティに戻ってください」
遺跡が存在していた場所から少し離れた森の中で、ホイムはアカネとルカに指示を与えていた。
「分かった」
ルカはすぐに返事をしたが、アカネは少し間を置いて口を開いた。
「また別行動……ですか」
「はい」
ホイムは即座に肯定し、理由を告げた。
「救出して怪我は癒やしましたが、未だ意識の戻らないアリアスさんには充分な休息と手厚い看護が必要だと思います。なので二人には急いで彼女を街へ運んでもらいたいんです。ひとまず事情を説明して、僕らの泊まっている部屋に」
「……それなら一人でも」
「それに」
アカネの言葉を強めに遮ってホイムは続けた。
「休息が必要なのはアリアスさんだけじゃないです……バルバドと名乗った魔人と対峙した時、アカネさんとルカがどう感じたのかは何となく分かるつもりです」
ホイムに指摘され、二人は目を伏せた。萎縮してしまったことを見抜かれたと感じたからだ。
「……今度はあいつを相手にすることになるはずです。ですから二人は先に戻って、落ち着いて考えててください。もしも戦えないと思ったら、その時は」
「分かりました!」
今度はアカネが声を上げてホイムの言葉を遮った。神妙になっていた気持ちを払うような強い語気に、ホイムも思わずたじろいだ。
「皆まで仰られずとも結構。私もルカも今一度気を静め、魔人と相対することが果たしてできるのかどうか……改めて決心をつけて参ります」
「そうですか……でもそこまで気負わなくっても」
「いいえ、それぐらいの覚悟を持ってあたらせていただきます。でなければ……ホイム様も私たちを見捨てるという断腸の思いでの決断に答えることができませんので!」
「……見捨てる?」
「行くぞルカ! 早急にこの方を送り届け、我らも自分自身と向き合うのだ」
「よくわからないけどわかった! ホイムに捨てられたくない!」
なんだか納得したところでルカはアリアスを背負い直し、アカネに先導されてあっという間に姿を消してしまった。
「……」
腕組みしたホイムは俯いて先程のアカネの言葉を思い返していた。
「見捨てるとか見捨てないとか、なんで……?」
どこからそんな単語が出てきたのかさっぱり分からないのであった。
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