異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし

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パルメティの街

侵入しました

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「あくまでルカに慎重に進んでもらうという前提で……ですけど」

 その前置きははしゃぎやすいルカをたしなめるためのものであった。

「何があるか分からない遺跡と洞窟内では、異常を察知しやすいルカが一番前なのがいいと思います」
「うん! ルカに任せる!」

 ルカは張り切っているが、残りの二人は若干懐疑的な眼差しを向けてくる。やはり落ち着きのなさが不安らしい。

「……そこでルカの後ろをエミリアさんについてもらおうと思います。ルカが先走りそうな時は引き止めてもらったり、危ない時は防御も担当してもらおうかと……」
「ルカはどうでもいい!」
「特に異論はない」
「そして殿はアカネさん。何か見落としがあった時や背後からの強襲を警戒してもらおうかと」
「承知しました……私が先導しても良かったのですが」

 アカネの警戒力ならば細かい罠や違和感も気付いてくれるはずである。そういう点では探索の先頭を任せても良さそうであるが、ホイムはそうしなかった。

「僕的には後ろの方が怖いと思って……だからそこは一番安心のできるアカネさんに任せようと」
「お任せください!」

 アカネのやる気が漲った。

(扱いが上手いものだ……)

 エミリアはそう思うと同時に、昨夜のことも合わせてそれだけ二人に深い絆があるのだと感じた。それを加味すればルカもそうなるわけで、絆が深くないのはゲストの自分だけである。
 別に疎外感を抱いたわけではなく、自分以外の者に肉体関係があるという事実を改めて認識してしまうとどうにも気まずい。
「それじゃあ行きましょう」
 ホイムの言葉にルカとアカネは頷いた。エミリアも、一度頭を振ってもう一度しっかりと自分の目的を思い返して進行していくのだった。



 遺跡の中はひんやりとした空気が満ちており、同時に埃っぽさが肌にまとわりつくようだった。
 壁には魔力で明かりを灯す魔導具が備え付けてあったが、侵入者であるホイム一行はそれを使うことを遠慮し、ホイムが唱えたキュア【光球】の照らす淡い光を頼りに歩を進めていた。
 床も壁も天井も石を重ねて造り込まれており、外見は朽ちていたが中はそう傷んではいないようであった。
 誰かが手入れをしたのかもしれない。

「この遺跡の奥に洞窟がある……ってことですよね?」

 ホイムは前を歩くエミリアに問いかけた。

「ああ。噂ではそのようになっているらしい。私も実際に入るのは初めてなので確実な事は言えないが……」
「まだしばらくは遺跡が続きそうな雰囲気ではありますね」

 後ろのアカネの言葉にホイムも賛同した。
 この遺跡がどれほどの規模で地下に広がっているのかはエミリアが聞いた噂でしか分からない。極めて大きなものではないが、まだまだ序盤も序盤であるのは間違いないだろう。

「……あ」

 一番前を歩くルカが何かに気付いたのか、声を上げた。

「どうかしたか?」

 後ろから話しかけるエミリアが慎重にルカの先の通路を見やる。
 歩いてきた道と変わらぬ光景だが、自分には気付けないモノを察したのかとルカの動向を窺った。

「妙な感じする」
「どこだ?」
「ココ」

 ルカが真横に腕を伸ばし、壁に手をつく。
 ガコン。
 石壁の一部が窪むと同時に低い音が鳴り、壁の隙間から無数の刃が通路を埋め尽くした。。
 一瞬でズバンと迫り出してきた刃物がゆっくりと元に戻っていくと、そこには細切れになった肉片などはなかった。

「……」
「……」

 寸前で異変を察したアカネはホイムを抱きかかえて後方に飛び退き難を逃れていた。

「ほら! 当たった!」

 ルカは先頭にいた位置から一歩も動かず、自分の間合いに飛び出してきた刃物を素手で全て叩き折り、叩き割り、全くの無傷。

「……あ、お……」

 絶句しているエミリアは、刃が飛び出す仕掛けの壁を自慢の盾で粉砕し、体をそこに納めることで辛うじて助かっていた。仕掛けを組み込まれた脆い壁でなければ、咄嗟に粉砕はできなかったろう。

「……お前は馬鹿か!?」

 エミリアとアカネは声を揃えてルカに詰め寄る。とうの彼女はキョトンとした顔で、

「罠見つけて突破する。ちゃんとできた」

 何を怒っているのかと言いたげであった。

「そうじゃないでしょう!」
「罠を起動してどうする!?」

 どうやらルカは罠を打ち破って進むつもりであったらしく、回避解除して進むつもりでいた他の三人とは決定的に認識が違っていたのであった。

「ホイム様! やはり私が先頭を行きます!」
「私もそれが懸命だと思うぞ!」

 アカネとエミリアはホイムに進言してくるが、彼の目には二人の背後で耳を垂らしてしょげるルカの姿が映っていた。

「ま……まあまあ。もう少しだけ様子を見ようじゃないですか」
「今死にかけたというのに何を呑気な!」

 その通りであるが、ホイムはルカを先頭から変える気はなかった。
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