64 / 131
パルメティの街
見回りに出ました
しおりを挟む
「分かりました」
「その報酬で、宿屋の宿泊の延長と……必要になりそうな回復薬や携行食、あといりそうって思ったモノの調達もお願いします」
遺跡の洞窟で不測の事態が起きた時、ホイムの回復術だけでは乗り切れない場面が出てくるかもしれない。
万一の備えは必要不可欠である。
全ての用事を承諾したアカネは、少し……いや大分名残惜しそうではあったがすぐにキャンプを出立した。
「合流は明日、東の遺跡ですからね!」
最後にアカネにそう呼びかけ、その背中はあっという間に小さくなって消えていった。
アカネの実力ならば一人で戻ることに疑いはないが、夜中に送り出すことは少し忍びなかった。
「……ふう。お待たせしました」
見送りを終えると、火が消えそうな竈の近くに戻り腰を下ろしたホイムにエミリアが声をかける。
「あの女性を信頼しているのだな」
「ええまあ。本当は一人で行かせたくはないんですけど」
「……済まない。私が頼み事をしたばかりに」
「今更ですよ。気にしないでください」
そしてホイムは火に砂をかけて灯りを消した。星空が辺りを照らすだけとなったキャンプ地で、お腹いっぱいになってグースカ寝ていたルカを揺すって起こす。
「ルカ。寝るならテント。そうじゃないなら……」
パチンと目を覚ましたルカは元気いっぱいに跳ね起き、大きく伸びをする。
「よく寝た!」
「そう……なら、後で少し付き合ってほしいんだけど」
「分かった!」
ホイムとルカの間で何かが了承された。
「片付けでもするのか? 手伝うぞ」
腰を上げようとしたエミリアをホイムは手を差し向けて制した。
「少し辺りの様子を伺ってくるだけです」
「ならば尚の事手伝おう」
「いえ! 一人はここに残っていてもらった方がいいかなぁ……」
「ふむ」
確かにこの場を空にするわけにもいかないとエミリアは納得した。
「テントでしっかりと休んでいてください」
「それはできない。ゲストの私が一番に休むなどとは」
「客人だから休んでいてもらいたいんです。明日はあなたに先導してもらって、遺跡まで行くんですから」
遠慮は無用だと説得するホイムの言葉を受け、固辞するのは失礼にあたるとしてエミリアは申し出を受け入れた。
「ではお言葉に甘えるとする」
「のんびりしててください。じゃあ、ルカ……」
「うん。付き合う」
ホイムとルカが連れ立ってキャンプを離れ、エミリアだけとなった。
ホイム達との交渉、依頼、そして過去の吐露。全てを終えて一人となったエミリアはようやく緊張の糸が解け、大きな体を弛緩させた。
後ろに手を着き空を見上げ、そのままこの場で寝転がりたいのを堪えていた。
「……待っていろアリアス。お前を助けたら、全てを話してもらうぞ」
それからのそりと立ち上がり、ホイムが張ったテントへと体を押し込んだ。
中はそこそこ広い。長身のエミリアでも足を伸ばして横になることはできるだろう。小柄なホイムと、中肉中背のルカが一緒となったら、それなりに身を寄せ合わなければならないが、寝るには申し分ない。
「ふう……」
上はマントと鎧を外して肌着となる。下はグリーブを剥がし、革のブーツとスカートを脱いでズボンのみとなる。
フラシュにいた頃のように小洒落た寝巻きはないので、今はこれが彼女の寝る時の格好であった。彼女にとってはこれくらいラフな格好の方が落ち着くのであるが。
テント内に用意されていた毛布を借り、腕を枕に体を横たえた。
エミリアはすぐに寝付いた。それから十分か二十分、三十分も経たぬ内に上体を起こす。
「遅い、な……」
周囲を探りに行った二人が戻らぬことを不審に思い始めた。
先に休むことを受け入れたとはいえ、客人である自分が主人であるホイム達を差し置いて深い眠りにつくのは憚られていた。
二人の帰還を確認してから眠りにつくつもりであったため、未だ戻らぬ二人のおかげで眠れずにいた。
エミリアはブーツを履き、万が一を想定して盾と剣を携えてテントを出た。
「あちらへ向かったはず……」
ホイムとルカの後ろ姿は虫の声が鳴く森の方へ消えていった。
歩を進め、魔物の気配はしないことはすぐに分かった。ホイム一行、そして元聖華騎士団という規格外の強さを感じた森の魔物たちは、森の奥へ去り息を潜めているのだろう。
彼女たちが自ら攻め入らない限り、手を出されることは皆無である。
あの二人がその程度のことも気付かずにまだ森の様子を探るだろうか?
懐疑的になったエミリアの耳に、虫の声に混じって二人の息遣いがかすかに聞こえてきた。
「そちらか……」
道なき道を茂みをかき分け進んでいると、次第に聞こえてくる息遣いが近付いてくる。
しかしその息は荒く、大層苦しげなものであった。
(襲われたか……?)
声は出さずに警戒心を強め、大きな体を目立たぬようになるべく屈めて森を行く。
だが魔物に襲われたにしては戦闘の気配などなく、至って平和で穏やかであった。
「その報酬で、宿屋の宿泊の延長と……必要になりそうな回復薬や携行食、あといりそうって思ったモノの調達もお願いします」
遺跡の洞窟で不測の事態が起きた時、ホイムの回復術だけでは乗り切れない場面が出てくるかもしれない。
万一の備えは必要不可欠である。
全ての用事を承諾したアカネは、少し……いや大分名残惜しそうではあったがすぐにキャンプを出立した。
「合流は明日、東の遺跡ですからね!」
最後にアカネにそう呼びかけ、その背中はあっという間に小さくなって消えていった。
アカネの実力ならば一人で戻ることに疑いはないが、夜中に送り出すことは少し忍びなかった。
「……ふう。お待たせしました」
見送りを終えると、火が消えそうな竈の近くに戻り腰を下ろしたホイムにエミリアが声をかける。
「あの女性を信頼しているのだな」
「ええまあ。本当は一人で行かせたくはないんですけど」
「……済まない。私が頼み事をしたばかりに」
「今更ですよ。気にしないでください」
そしてホイムは火に砂をかけて灯りを消した。星空が辺りを照らすだけとなったキャンプ地で、お腹いっぱいになってグースカ寝ていたルカを揺すって起こす。
「ルカ。寝るならテント。そうじゃないなら……」
パチンと目を覚ましたルカは元気いっぱいに跳ね起き、大きく伸びをする。
「よく寝た!」
「そう……なら、後で少し付き合ってほしいんだけど」
「分かった!」
ホイムとルカの間で何かが了承された。
「片付けでもするのか? 手伝うぞ」
腰を上げようとしたエミリアをホイムは手を差し向けて制した。
「少し辺りの様子を伺ってくるだけです」
「ならば尚の事手伝おう」
「いえ! 一人はここに残っていてもらった方がいいかなぁ……」
「ふむ」
確かにこの場を空にするわけにもいかないとエミリアは納得した。
「テントでしっかりと休んでいてください」
「それはできない。ゲストの私が一番に休むなどとは」
「客人だから休んでいてもらいたいんです。明日はあなたに先導してもらって、遺跡まで行くんですから」
遠慮は無用だと説得するホイムの言葉を受け、固辞するのは失礼にあたるとしてエミリアは申し出を受け入れた。
「ではお言葉に甘えるとする」
「のんびりしててください。じゃあ、ルカ……」
「うん。付き合う」
ホイムとルカが連れ立ってキャンプを離れ、エミリアだけとなった。
ホイム達との交渉、依頼、そして過去の吐露。全てを終えて一人となったエミリアはようやく緊張の糸が解け、大きな体を弛緩させた。
後ろに手を着き空を見上げ、そのままこの場で寝転がりたいのを堪えていた。
「……待っていろアリアス。お前を助けたら、全てを話してもらうぞ」
それからのそりと立ち上がり、ホイムが張ったテントへと体を押し込んだ。
中はそこそこ広い。長身のエミリアでも足を伸ばして横になることはできるだろう。小柄なホイムと、中肉中背のルカが一緒となったら、それなりに身を寄せ合わなければならないが、寝るには申し分ない。
「ふう……」
上はマントと鎧を外して肌着となる。下はグリーブを剥がし、革のブーツとスカートを脱いでズボンのみとなる。
フラシュにいた頃のように小洒落た寝巻きはないので、今はこれが彼女の寝る時の格好であった。彼女にとってはこれくらいラフな格好の方が落ち着くのであるが。
テント内に用意されていた毛布を借り、腕を枕に体を横たえた。
エミリアはすぐに寝付いた。それから十分か二十分、三十分も経たぬ内に上体を起こす。
「遅い、な……」
周囲を探りに行った二人が戻らぬことを不審に思い始めた。
先に休むことを受け入れたとはいえ、客人である自分が主人であるホイム達を差し置いて深い眠りにつくのは憚られていた。
二人の帰還を確認してから眠りにつくつもりであったため、未だ戻らぬ二人のおかげで眠れずにいた。
エミリアはブーツを履き、万が一を想定して盾と剣を携えてテントを出た。
「あちらへ向かったはず……」
ホイムとルカの後ろ姿は虫の声が鳴く森の方へ消えていった。
歩を進め、魔物の気配はしないことはすぐに分かった。ホイム一行、そして元聖華騎士団という規格外の強さを感じた森の魔物たちは、森の奥へ去り息を潜めているのだろう。
彼女たちが自ら攻め入らない限り、手を出されることは皆無である。
あの二人がその程度のことも気付かずにまだ森の様子を探るだろうか?
懐疑的になったエミリアの耳に、虫の声に混じって二人の息遣いがかすかに聞こえてきた。
「そちらか……」
道なき道を茂みをかき分け進んでいると、次第に聞こえてくる息遣いが近付いてくる。
しかしその息は荒く、大層苦しげなものであった。
(襲われたか……?)
声は出さずに警戒心を強め、大きな体を目立たぬようになるべく屈めて森を行く。
だが魔物に襲われたにしては戦闘の気配などなく、至って平和で穏やかであった。
1
お気に入りに追加
2,316
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる