異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし

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パルメティの街

見回りに出ました

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「分かりました」
「その報酬で、宿屋の宿泊の延長と……必要になりそうな回復薬や携行食、あといりそうって思ったモノの調達もお願いします」

 遺跡の洞窟で不測の事態が起きた時、ホイムの回復術だけでは乗り切れない場面が出てくるかもしれない。
 万一の備えは必要不可欠である。
 全ての用事を承諾したアカネは、少し……いや大分名残惜しそうではあったがすぐにキャンプを出立した。

「合流は明日、東の遺跡ですからね!」

 最後にアカネにそう呼びかけ、その背中はあっという間に小さくなって消えていった。
 アカネの実力ならば一人で戻ることに疑いはないが、夜中に送り出すことは少し忍びなかった。

「……ふう。お待たせしました」

 見送りを終えると、火が消えそうな竈の近くに戻り腰を下ろしたホイムにエミリアが声をかける。

「あの女性を信頼しているのだな」
「ええまあ。本当は一人で行かせたくはないんですけど」
「……済まない。私が頼み事をしたばかりに」
「今更ですよ。気にしないでください」

 そしてホイムは火に砂をかけて灯りを消した。星空が辺りを照らすだけとなったキャンプ地で、お腹いっぱいになってグースカ寝ていたルカを揺すって起こす。

「ルカ。寝るならテント。そうじゃないなら……」

 パチンと目を覚ましたルカは元気いっぱいに跳ね起き、大きく伸びをする。

「よく寝た!」
「そう……なら、後で少し付き合ってほしいんだけど」
「分かった!」

 ホイムとルカの間で何かが了承された。

「片付けでもするのか? 手伝うぞ」

 腰を上げようとしたエミリアをホイムは手を差し向けて制した。

「少し辺りの様子を伺ってくるだけです」
「ならば尚の事手伝おう」
「いえ! 一人はここに残っていてもらった方がいいかなぁ……」
「ふむ」

 確かにこの場を空にするわけにもいかないとエミリアは納得した。

「テントでしっかりと休んでいてください」
「それはできない。ゲストの私が一番に休むなどとは」
「客人だから休んでいてもらいたいんです。明日はあなたに先導してもらって、遺跡まで行くんですから」

 遠慮は無用だと説得するホイムの言葉を受け、固辞するのは失礼にあたるとしてエミリアは申し出を受け入れた。

「ではお言葉に甘えるとする」
「のんびりしててください。じゃあ、ルカ……」
「うん。付き合う」

 ホイムとルカが連れ立ってキャンプを離れ、エミリアだけとなった。
 ホイム達との交渉、依頼、そして過去の吐露。全てを終えて一人となったエミリアはようやく緊張の糸が解け、大きな体を弛緩させた。
 後ろに手を着き空を見上げ、そのままこの場で寝転がりたいのを堪えていた。

「……待っていろアリアス。お前を助けたら、全てを話してもらうぞ」

 それからのそりと立ち上がり、ホイムが張ったテントへと体を押し込んだ。
 中はそこそこ広い。長身のエミリアでも足を伸ばして横になることはできるだろう。小柄なホイムと、中肉中背のルカが一緒となったら、それなりに身を寄せ合わなければならないが、寝るには申し分ない。

「ふう……」

 上はマントと鎧を外して肌着となる。下はグリーブを剥がし、革のブーツとスカートを脱いでズボンのみとなる。
 フラシュにいた頃のように小洒落た寝巻きはないので、今はこれが彼女の寝る時の格好であった。彼女にとってはこれくらいラフな格好の方が落ち着くのであるが。
 テント内に用意されていた毛布を借り、腕を枕に体を横たえた。
 エミリアはすぐに寝付いた。それから十分か二十分、三十分も経たぬ内に上体を起こす。

「遅い、な……」

 周囲を探りに行った二人が戻らぬことを不審に思い始めた。
 先に休むことを受け入れたとはいえ、客人である自分が主人であるホイム達を差し置いて深い眠りにつくのは憚られていた。
 二人の帰還を確認してから眠りにつくつもりであったため、未だ戻らぬ二人のおかげで眠れずにいた。
 エミリアはブーツを履き、万が一を想定して盾と剣を携えてテントを出た。

「あちらへ向かったはず……」

 ホイムとルカの後ろ姿は虫の声が鳴く森の方へ消えていった。
 歩を進め、魔物の気配はしないことはすぐに分かった。ホイム一行、そして元聖華騎士団という規格外の強さを感じた森の魔物たちは、森の奥へ去り息を潜めているのだろう。
 彼女たちが自ら攻め入らない限り、手を出されることは皆無である。
 あの二人がその程度のことも気付かずにまだ森の様子を探るだろうか?
 懐疑的になったエミリアの耳に、虫の声に混じって二人の息遣いがかすかに聞こえてきた。

「そちらか……」

 道なき道を茂みをかき分け進んでいると、次第に聞こえてくる息遣いが近付いてくる。
 しかしその息は荒く、大層苦しげなものであった。

(襲われたか……?)

 声は出さずに警戒心を強め、大きな体を目立たぬようになるべく屈めて森を行く。
 だが魔物に襲われたにしては戦闘の気配などなく、至って平和で穏やかであった。
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