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パルメティの街

再会しました

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 そしてこの世界に来て半年、今の現状に陥っていたのだった。

「もう少し考えて要求出しておけば良かったな……」

 一番の問題であったのは要求した覚えのない回復術創造という異常に便利な特殊能力であった。
 無闇矢鱈と使えない圧倒的に優れた能力を隠してしまったせいで勇者パーティから追い出され、しかしおかげでアカネやルカと出会えたのだから悪いことばかりではなかった。
 とにかく自分の現状や今後のことについて色々話しておきたいと思い、ホイムはその足で神殿にやってきた。
 入り口で神官に対して礼拝に来たことを告げたホイムはすんなりと通された。ブロンズクラスのギルドカードを提示したためかもしれない。

(この街でもブロンズのカードはそれなりに効力を発揮してくれるかな……?)

 ギルドカードを手に入れていたことが、彼が勇者パーティにいた頃に得た数少ないメリットであったのは間違いない。
 清廉清潔な白を基調にした神殿内を進み、同じ色をした巨大な扉が開かれた先は広い礼拝の間に続いていた。
 奥には女神フォトをかたどった数メートルはあろうかという純白の彫像が、大きな十字を背景にして佇んでいる。掲げた右手は天を指し、下ろした左手は地を示している。
 そして天井付近には外の光を取り込むための大きな天窓が無数にあり、ただでさえ白い神殿内を一層明るく照らしている。
 ホイムは歩を進めながら一筋の汗をかいていた。
 室内が暑いからではなく、これから女神に会うのだと心に決めた緊張感からであった。

「……」

 彫像の前に辿り着くと、片膝をついて俯いて目を閉じる。

(女神様……女神様。僕の声が聞こえますか)

 心の中で呼びかけるが返事はない。

(聞こえるか……聞こえるだろう……)

 遥かな祈りが届いているはずだ。

「いい加減、聞こえてるだろ、クソ女神」

 ついつい五七五のリズムで罵倒を口にした瞬間、彼は体ごと天に引き上げられるような錯覚に陥りながら一瞬だけ意識を失った。



 意識が覚醒した瞬間に目を開けた彼の前に広がっていたのは、見た覚えのある白い空間であった。
 何もない白の世界。天と地の境目も曖昧な場所。

「…………」

 の、はずであったが、今この場所には初めてきた時には存在していなかった建物がある。
 木造のバンガローのような外見の、決して立派な建物ではない小さな建築物である。
 このだだっ広い世界と比べてあまりにも小さい。なんならこの無限に広がる空間なんていらないだろと言いたくなるくらいのちんまりとした小屋である。

「けどここに来たってことは、呼ばれたってこと……だよな」

 ホイムの不信感は募る一方であったが、こうして手をこまねいていても仕方がないということで、意を決して小屋に近付いていく。
 遠くから見たらみすぼらしい木造建築に思えたが、近くで見ると案外造りはしっかりとしていて、吹けば飛ぶような情けない建物ではなさそうであった。
 小屋には呼び鈴もなく、ホイムは緊張しながら木製の扉をノックした。
 しばし待つが反応は返ってこない。
 もう一度叩こうとしたところで、中から何か音声が漏れ聞こえてくるのに気が付いた。

「なんだ……?」

 扉に耳を近付けて澄ませていると、少しずつ音がはっきりとしてくる。
 どこか懐かしさを覚えるリズミカルな音楽……あれはそう、夜更かしをした深夜のテレビから聞こえてくるような胡散臭い外人のアテレコボイス。
 扉の鍵が開いていることに気付いたホイムは、中にいるであろう女神の返事を待たずして扉を押した。

『さあ! マッスルパワーが溜まってきたろう! ワン、ツー、スリー、フォー! そうだその調子だ!』

 室内には確かに女神がいた。リビングでホイムに背を向けテレビを見ている。

『ワン、ツー、スリー、フォー! さあ半分だ! まだまだいくぞ!』

 大きな液晶テレビにはムキムキの男性が軽快なトークで場を盛り上げながら女性たちと一緒にエクササイズをする番組が映し出されていた。
 肝心の女神フォトは結った金髪を揺らしながら、手足が連動して動くウォーキングマシンで汗水垂らし懸命に運動に励んでいた。



「マジ許可無しで入ってくるとかありえんしぃ。乙女の空間に無遠慮すぎるしぃ」

 女神フォトは対面でテーブルに座るホイムを正座させ、勝手に入り込んできたことをチクチク責めていた。

「すいませんでした」
「ホント反省してるし? 心から悪いと思ってるワケ?」

 しっかりと反省しているフリをしながら、どうして見た感じギャルな子に怒られてるんだろうと釈然としないホイムであった。
 金髪の女神は神殿にあった彫像のような透き通るような色白ではなく小麦色の肌をしたJKのようであった。
 ジャージ姿で運動後の汗をほんのり滲ませ、少し蒸せるような熱気を漂わせる女の子に対し、状況が状況ならホイムは少しくらい興奮を覚えたかもしれない。
 しかしそうならないのは、彼女はギャルではなく女神のはずであり、ジャージじゃなく美しい衣を着ているはずであり、こんな頭の悪そうな話し方ではなくしっかりとした口調をしていなくてはならないはずであり。
 ようするに彼女を女神として認識できず困っているわけであった。
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