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パルメティの街

宿へ来ました

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 大広場を出た二人は街にある宿を幾つか見て回り、それらを比較してお手頃なところを探すことにした。
 ついでにパルメティにあるギルドや教会、そして神殿などの施設の場所も把握していった。
 一通り街を見て回った後、二人は話し合ってから一軒の宿屋に目星を付けた。

「いらっしゃい!」

 活気の溢れる宿は食堂も兼ねている。その雰囲気は彼らがザーインの町で縁のあった宿屋とよく似ており、それが宿泊先をここにしようとした決め手でもあった。

「宿泊三人……今二人ですけど、後から一人増えるので」

 ホイムが話しかけた店主の男性は食堂に出す料理を作っている。大鍋を豪快に振るい火を操る様は彼の人柄を表しているようであった。

「おう! 悪いがうちは二人部屋までしかねえけどいいか?」
「一人部屋と二人部屋を一室ずつか……」
「代わりに代金は安くしとくぜ!」
「良いのではないですか? 店主もこう言ってくれていますし」
「そうだね。僕も異論はないよ。……じゃあ二部屋で」
「毎度ありぃ!」

 その後に一晩だけでなく七日ほどの滞在を予定していると告げ、代金は前払いでまとめて払うことにした。
 三人で七日、三食付でそれなりの金額にはなったが、ホイムが異世界スーパーにチャージしておいたお金はまだまだ潤沢にあったので問題なかった。
 それから宿泊部屋の場所を教えてもらった二人は階段を上がり、三階へ辿り着いた。
 アカネは二人部屋へいそいそと向かい、ホイムは一人部屋へ、

「お待ちを!」
「わあ! 何!?」

 ホイムの首根っこを掴んだアカネが彼をぐいっと引き寄せた。

「何故そちらへ?」
「何でって……アカネさんとルカが同室の方がいいよねと思って」
「しかし……」
「もしかして同じ部屋が良かったです?」

 ホイムの問いかけに対して少し答えを逡巡していたアカネだったが、口には出さずに首を縦に振るだけに留めた。
 無論ホイムも一緒の部屋で寝泊まりすることは大歓迎なのだが、今回の宿では遠慮する選択をしていた。

「きっとルカに訊いたら同じ風に答えたと思います。だから二人部屋に僕が行って、あと一人を誰か選ぶなんてすごく失礼な話じゃないですか。二人に対して気を遣いすぎって思われるかもしれませんけど、だったら僕が一人部屋に行く方が二人にとっても良いんじゃないかなって」

 ホイムの考えを黙って聞いていたアカネが息を吐き出すようにして答えてきた。

「……ホイム様のお考え、分かりました。本当に私とルカに気を遣っていただいたようで」
「いえ、分かってくれたのならいいんですけど」
「はい分かりました……」

 それではと言って二人部屋に一人で向かうアカネであったが、肩を落とす後ろ姿は分かりましたと答えたにも関わらず寂しそうなものだった。
 落ち込むアカネさんもかわいい……。
 などと思うホイムであったが、彼自身も一人で夜を過ごすことが寂しくないわけではない。
 ただ今回の部屋割りならこの振り分けが角が立たずにベストであると判断したのだった。



 その日の夜。
 食事も湯浴みも終えたホイムは部屋のベッドに一人で寝転がって明日の予定を考えていた。

(昼にルカを迎えに行くのはアカネさんに任せよう。僕は朝からあそこへ行こう。散策している時に見つけたあの場所へ……)

 そこへ行けば自分自身を見つめ直せると考えていたからだ。
 もう魔人に遅れを取りたくはない、大切な人たちを傷付けられたくないという彼の想いが、そこへ迎えと訴えてきていた。
 だからルカのことはお願いしますよ。

「アカネさん……」

 そう呟いて眠りに落ちそうになるホイム。

「はい」

 何故か返事が聞こえたので瞼を持ち上げると、ベッドの縁に座る長い黒髪の女性がいるように見えた。

「……」

 のそのそとベッドから起き上がったホイムは二、三度伸びを繰り返し、ベッドとテーブルくらいしかない質素な宿泊部屋の中をぐるりと歩き回ってベッドに腰を下ろした。
 隣を見ると、やはり髪を下ろしたアカネの姿があるのだった。

「なんでいるの!?」
「今お呼びになった気がしたので」

 確かに呟いたけれど!
 それだけで音もなく部屋に侵入してくるだなんて少し……いや大分常識を踏み越えている気がすると思うだけにしておいた。
 何故ならホイムは嫌な気はしていなかったからである。

「せ、銭湯帰りですか?」

 隣りにいるアカネの髪はしっとりとしており、顔も仄かに上気していた。何より覆面もしておらず、着用しているのも宿泊用の寝間着である。
 テントで寝泊まりしていた時は不測の事態に備えて四六時中忍装束であったので、彼女の至って普通の格好がとても珍しくもあり、そのせいもあってかホイムは多少落ち着かない気分であった。

「ええ。人目も気にせずお風呂に入れるだなんて本当に落ち着きますね」

 その言葉に引っかかるものを感じていると、彼女が付け加えてくる。

「ホイム様が治してくださる前の体は傷が酷かったでしょう? 以前は浴場に行けば衆人の好奇や嫌悪の目があったものです……慣れて気にならなくはなっていましたが、誰からも見られないというのは気が楽なものですね」
「それは……良かったです」

 ベテランの戦士や冒険者の中には体の傷を勲章のように語る者もいる。思い入れのある傷を治さずにおく者もいる。
 今の彼女の肌には傷がない。すべすべで柔らかく、それでいて芯のしっかりと通った柔軟さと強さを備えた体を隅々までホイムが確認しているから間違いない。
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