異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし

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パルメティの街

怒られました

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 街道に沿って歩くホイム達の前に見えてきたのは、非常に高く頑強そうな造りをした城壁であった。

「すっごいなあ……」

 ホイムは思わず感嘆の声を漏らしていた。
 地平線まで続く、と表現すると大げさであるが、近くで見るとそれほどの迫力を備えて旅人を出迎えるのがメルパティの街であった。
 相対的に、人の出入りを管理する番所がとても小さく見えてしまう。

「私は一人で旅していた時にこの規模の街を訪ねたことはありますが……街を守るこれほどの壁は初めてですね」
「……」

 ホイムと同じく感心するアカネと違い、ルカはあまりに大きな人工の建造物にあんぐりと口を開けていた。

「大丈夫? 僕たち今からこの中に入るんだよ?」
「う、うん! 未来の獣王、こんなことでビビらない!」

 良い心意気である。

「じゃあ街に入る身分証を……」

 街の出入りに必要なものはザーインの町となんら変わりはしない。
 ホイムはブロンズ級の冒険者ギルドカードを準備した。

「アカネさんは?」
「私も一応ギルドカードは所持しております」

 背負った風呂敷から取り出して見せたのはブルーの冒険者ギルドカードであった。

「身分証として作っただけでほとんど活動していませんから、色は初心者ですけれど」

 それでも身分証としての役割にはなんら問題はない。

「それじゃ、ルカは……」

 ホイムとアカネの視線が獣狼族の森から出た経験のほとんどないルカに集まる。

「ルカは持ってない……」

 となると入場許可証の作成が必要になる。
 ルカの素性ならば許可証作成は滞りなく終わるだろう。
 ただし作成にはかなりの時間を要する。これが町から町への引っ越しのために来たというのならば構わないのだが、常に町を渡り歩く冒険者にとっては時間の無駄にしかならない。

「一度中に入れれば、ギルドに登録してカードをもらえるんだけど……」

 登録にも手間はかかるのだが、今後その手間が省けるのは助かるのである。
 素直に手続きしようかと話し合うホイムとアカネを見ていたルカが、表情をパッと明るくさせた。

「ちょっと待ってて!」

 サッと走り去って姿を消したかと思うと、すぐに戻ってきたのは銀毛の狼であった。
 ホイムの足に擦り寄ってくるのは紛れもなくルカである。

「……もしかしてこの姿で街に入ろうと?」

 ウォン!
 と元気のいい声が返ってきた。

「ふむ。ペットならば入場者の持ち物として扱われたはず。問題はないかもしれません」

 本当に大丈夫だろうかとホイムは訝しんだ。
 けれど物は試しと三人はそのまま入場門の番所へと突撃していく。

「はい、そこで止まって」

 番兵の青年に言われ、ゲートの手前で足を止める二人と一匹。
 彼はまず冒険者らしき格好をした二人を見やった。
 ローブを着た少年と、忍装束の上に風よけの小さな外套を羽織った女性。

「この街へは観光で?」
「いいえ、旅の途中で寄ることにしました」

 番兵が手を伸ばしてきたので、ホイムとアカネはギルドカードを提示した。


「ほう。その歳でブロンズとは大したもんだ」
 番兵の彼が感心したのでホイムはどうもと会釈した。アカネも問題なくチェックは済み、残るは彼らの足元にいるルカだけである。

「その動物は?」
「ペットです」
「登録書は?」
「と……」

 そんなの必要だったの?
 ホイムは困ったようにアカネに視線を向けた。

「ここへ来る途中で懐いてきたのでつい連れてきてしまって。ですのでそのようなものはありません」

 アカネは顔色一つ変えずに言ってくれたが、ホイムは内心ドキドキであった。

「本当に?」

 ものすごい疑いの眼差しであった。

「もしかして獣族じゃないよね?」

 図星である。

「ペットだと偽って不正に入場しようとする獣族は後を絶たなくてね……。まさかブロンズクラスの冒険者がよもやそんな真似を」
「ごめんなさい」

 三人は揃って地面に頭をつけた。

「……裏で話しよっか」

 こうして三人揃って初めての街は連行されるところから始まったのであった。



「まったく駄目だよ! ブロンズにもなってこんな悪いことしちゃあ!」

 番所の裏に連れてこられた三人は椅子に座らされ、肩身を狭くしながら番兵の青年の正当なお叱りを受けていた。

「えっとルカさん……だっけ? 彼女だけはきちんと入場の手続きして、それからギルドに行けばちゃんとカード作れるから。素性に問題がなければ」
「はい……」

 彼の言う通りである。
 最初の一回は素直に手続きを踏んでルカを街に入れてから冒険者ギルドに連れていけば良かったのである。
 それを最初の一回から横着をしようとしたせいでの自業自得である。

「幸い未遂で終わったし、反省の色も十分だと判断して今回は注意だけで済ませるけど」
「ありがとうございます」

 ホイムとアカネは感謝の言葉を述べて頭を低くした。
 自分のせいで二人も怒られていると感じているルカは、さっきから申し訳無さでじっと黙りこくっていた。

「それじゃあホイムさんとアカネさんは入場を許可します。ルカさんだけはここに残って、入場許可証が発行されるのを待ってください」
「ルカ、二人と離ればなれ?」
「そうですね」
「うぅ……不安」

 今にも泣きそうな顔でホイムとアカネを見るルカの姿に、番兵の彼も複雑な表情である。

「早ければ明日の昼にはルカさんの入場は認められるから、それまで我慢してください」
「明日、昼……」

 ルカは頭を抱えている。

「ルカ。お昼前には迎えに来るから、それまでここで大人しくしてもらっていていいかい?」

 ホイムが告げると、ルカは不安げな顔はそのままに泣く泣く彼の言うことを受け入れた。

「ルカは妻。夫の言うこと聞く。寂しいけどここで待つ」

 ホイムもアカネも申し訳ない気持ちでいっぱいだが、今回ばかりは仕方がなかった。
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