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獣狼族の森
訊かれました
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何度も致して二人ともヘロヘロのヘトヘトになったところで、アカネが問いかける。
「ホイム様」
彼の肩に頭を預けて胸に手を乗せ寄り添う彼女の上目遣いにドキドキしながら、ホイムは返事をする。
「どうしました?」
「私たちの今後についてですが」
「はい……責任を取れと言うのでしたらしっかりと成人してから……」
「まあ嬉しい。ではなくてですね」
違った。
「これからの目的地についてですよ」
「ああそっち……そっちですね、はい」
勘違いに恥ずかしくなりながらも、今後の旅の目的を二人で確認することにした。
この森へ入る時は漠然と魔族領を目指そうとしていた。
しかし本の数日で二人の事情は一変していた。様々な情報を知ってしまったせいである。
当初の予定通り魔族領を目指すのなら、マールフレアの仕えている魔王に会わなくてはならない、のかもしれない。
そんな旅を続けるか否か、ホイム一人では決めかねた。
「私はホイム様の目指す場所へいつまでも寄り添っていきます」
すりすりとアカネに体を擦り寄せられるとまた妙な気分になってくるホイムであった。
「……まだ、勇者一行への復讐もお考えで?」
最初はそれも踏まえて魔族領を目指すつもりであった。しかし先に述べたように事情は変わり、ホイムの心境にも変化があった。
「僕はアカネさんとの旅の目的を考えてるんです。あいつらのことは今はいいでしょ?」
ホイムの中でアカネの存在が日増しに大きくなっており、目的を設ける際にも彼女のことを第一に考えるようになっていた。
「ホイム様……」
すりすりすりすり。
守れなかったことに落ち込んだり弱くなるかもと心配していた彼女はもういない。
いつものしっかり者そうで案外ポンコツな彼女が帰ってきていた。
「でも、そうですね。森を出たら一番近くの街へ行ってひとまず落ち着きませんか?」
「はい」
「なんていう街があるか知ってます?」
「メルパティという街があります。北にある街道にそって北東へ向かえば着くはずです。街全体を巨大な壁で囲んだ城郭都市で、この地方では西のセミアと比肩する大きな街ですね。治安の良い安全な場所であると聞き及んでおります」
そのような街ならば支度を整えたり情報を仕入れたりといったこともしっかりと行える。
それにそれだけ大きければ、彼が寄ろうと考えている施設も問題なくあるはずだ。
「よし。目的地決定です」
「それでは」
そこでホイムのお腹の虫がクゥと鳴った。
「……ご飯にしましょうか」
「……そですね」
もう少しくっついていたかったけれど仕方がない。
忍装束を着てテントから出ていくアカネを見送りながら、体に残る彼女の温もりや匂いを思い出しては毛布にしがみついて名残惜しそうにころころ転がるホイムであった。
そんな日々を数日繰り返し、いよいよ二人は獣狼族の守っていた森を抜けるところまでやってきた。
木々の切れ目から溢れる光が強くなり、少し先に人が街々を往来するために設けられた街道が見えてきた。
森を抜けるまでにしてきたことと言えば、アカネの家事と二人の夜の営みばかりであった。
強くなるために必要な戦闘行為は、実のところほとんどしてきていなかった。
強くなろうと誓ったものの積極的にモンスターを倒すことをこれまでしてこなかった二人は、襲われたり遭遇した時に頑張って経験を積みましょうと決めていた。
しかし二人の強さを本能的に察した森のモンスターは襲いかかってくることはなく、結果的には数回、食料確保のためにワイルドボアなどの弱いモンスターを倒した程度であった。
この地方で二人の相手になるモンスターはいない。強くなりたいというきっかけを与えたドラゴンや魔人が特殊すぎたのだ。
「強くなる方法も考えないといけませんね……」
「そうですね……」
この地方においてモンスターと戦う以外の手段で強くなる方法があれば、今の二人にはそれが相応しいだろう。
しかしながら生憎二人ともそんな手段は心得ていなかった。
とはいえようやく目的の街パルメティに赴く道を見つけることができた。
さあ行こうとホイムが踏み出そうとした時、アカネが話しかけてきた。
「ホイム様」
「なに?」
「敢えてここまで話題にすることは避けて参りましたが……」
何の話題のことなのか、ホイムにはおおよそ見当がついていた。
「……このままルカをおいていって、本当によろしかったのですか?」
やはりその事についてであった。
このタイミングで話を振ってきたのは、森を出てしまえばもうルカとの関わりが終わってしまうのだとアカネが思ったからだろう。
そしてホイムもそう感じていた。正真正銘これが最後のタイミングであり、今更踵を返してルカを迎えに行く……という選択は、もうありえなかった。
「これでいいんです」
「……」
「ルカには大勢家族がいます。彼女なら立派な族長になれるはずです。一族の長が家族を置いてきてしまうのは、まずいでしょうから」
まだ若く荒削りな印象は拭えないが、それでもルカの魅力は族長の器に相応しいとホイムは確信に近い思いを抱いていた。族長であった父の背を見てきた彼女なら、と。
だから彼女は集落に残るべきだと判断したのだ。
「ホイム様」
彼の肩に頭を預けて胸に手を乗せ寄り添う彼女の上目遣いにドキドキしながら、ホイムは返事をする。
「どうしました?」
「私たちの今後についてですが」
「はい……責任を取れと言うのでしたらしっかりと成人してから……」
「まあ嬉しい。ではなくてですね」
違った。
「これからの目的地についてですよ」
「ああそっち……そっちですね、はい」
勘違いに恥ずかしくなりながらも、今後の旅の目的を二人で確認することにした。
この森へ入る時は漠然と魔族領を目指そうとしていた。
しかし本の数日で二人の事情は一変していた。様々な情報を知ってしまったせいである。
当初の予定通り魔族領を目指すのなら、マールフレアの仕えている魔王に会わなくてはならない、のかもしれない。
そんな旅を続けるか否か、ホイム一人では決めかねた。
「私はホイム様の目指す場所へいつまでも寄り添っていきます」
すりすりとアカネに体を擦り寄せられるとまた妙な気分になってくるホイムであった。
「……まだ、勇者一行への復讐もお考えで?」
最初はそれも踏まえて魔族領を目指すつもりであった。しかし先に述べたように事情は変わり、ホイムの心境にも変化があった。
「僕はアカネさんとの旅の目的を考えてるんです。あいつらのことは今はいいでしょ?」
ホイムの中でアカネの存在が日増しに大きくなっており、目的を設ける際にも彼女のことを第一に考えるようになっていた。
「ホイム様……」
すりすりすりすり。
守れなかったことに落ち込んだり弱くなるかもと心配していた彼女はもういない。
いつものしっかり者そうで案外ポンコツな彼女が帰ってきていた。
「でも、そうですね。森を出たら一番近くの街へ行ってひとまず落ち着きませんか?」
「はい」
「なんていう街があるか知ってます?」
「メルパティという街があります。北にある街道にそって北東へ向かえば着くはずです。街全体を巨大な壁で囲んだ城郭都市で、この地方では西のセミアと比肩する大きな街ですね。治安の良い安全な場所であると聞き及んでおります」
そのような街ならば支度を整えたり情報を仕入れたりといったこともしっかりと行える。
それにそれだけ大きければ、彼が寄ろうと考えている施設も問題なくあるはずだ。
「よし。目的地決定です」
「それでは」
そこでホイムのお腹の虫がクゥと鳴った。
「……ご飯にしましょうか」
「……そですね」
もう少しくっついていたかったけれど仕方がない。
忍装束を着てテントから出ていくアカネを見送りながら、体に残る彼女の温もりや匂いを思い出しては毛布にしがみついて名残惜しそうにころころ転がるホイムであった。
そんな日々を数日繰り返し、いよいよ二人は獣狼族の守っていた森を抜けるところまでやってきた。
木々の切れ目から溢れる光が強くなり、少し先に人が街々を往来するために設けられた街道が見えてきた。
森を抜けるまでにしてきたことと言えば、アカネの家事と二人の夜の営みばかりであった。
強くなるために必要な戦闘行為は、実のところほとんどしてきていなかった。
強くなろうと誓ったものの積極的にモンスターを倒すことをこれまでしてこなかった二人は、襲われたり遭遇した時に頑張って経験を積みましょうと決めていた。
しかし二人の強さを本能的に察した森のモンスターは襲いかかってくることはなく、結果的には数回、食料確保のためにワイルドボアなどの弱いモンスターを倒した程度であった。
この地方で二人の相手になるモンスターはいない。強くなりたいというきっかけを与えたドラゴンや魔人が特殊すぎたのだ。
「強くなる方法も考えないといけませんね……」
「そうですね……」
この地方においてモンスターと戦う以外の手段で強くなる方法があれば、今の二人にはそれが相応しいだろう。
しかしながら生憎二人ともそんな手段は心得ていなかった。
とはいえようやく目的の街パルメティに赴く道を見つけることができた。
さあ行こうとホイムが踏み出そうとした時、アカネが話しかけてきた。
「ホイム様」
「なに?」
「敢えてここまで話題にすることは避けて参りましたが……」
何の話題のことなのか、ホイムにはおおよそ見当がついていた。
「……このままルカをおいていって、本当によろしかったのですか?」
やはりその事についてであった。
このタイミングで話を振ってきたのは、森を出てしまえばもうルカとの関わりが終わってしまうのだとアカネが思ったからだろう。
そしてホイムもそう感じていた。正真正銘これが最後のタイミングであり、今更踵を返してルカを迎えに行く……という選択は、もうありえなかった。
「これでいいんです」
「……」
「ルカには大勢家族がいます。彼女なら立派な族長になれるはずです。一族の長が家族を置いてきてしまうのは、まずいでしょうから」
まだ若く荒削りな印象は拭えないが、それでもルカの魅力は族長の器に相応しいとホイムは確信に近い思いを抱いていた。族長であった父の背を見てきた彼女なら、と。
だから彼女は集落に残るべきだと判断したのだ。
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