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獣狼族の森
詳しく聞きました
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獣狼族の集落に通されたホイムとアカネ。
彼らがいるのは一番大きな家屋の居間であった。
族長の一家が暮らす建物であったが、今の正式な住人は娘のルカだけである。
先程出会った四人の子ども達は親が早くに亡くなりここで一緒に住んでいる仲であるが血の繋がりはないとのことだ。
この集落には二百人ほどが暮らしており、道中では農耕をしている姿も目についた。すれ違う人は人間の来訪が珍しい、というかほとんどないこともあり好奇の目で二人を見てきていた。
今でも族長の屋敷の窓からは、特に好奇心旺盛な子ども達が張り付くようにして中を窺っていた。
「少し落ち着きませんかな?」
「いえ、お気になさらず」
今の床にホイムとアカネは隣り合って座し、囲炉裏を挟んだ向かいにロム爺も座っていた。
「遅くなった!」
ルカは外の墓地で命を落とした父と他の者のために手を合わせてから来たので遅くなった。
屋敷に入る際にドッタンバッタン鳴ったので一瞬子ども達の顔が窓から消えたが、またスー……と中を覗きだしていた。
「こちらの事情はお分かりいただけたかね?」
「おおよそ把握しました」
ロム爺の隣に座ったルカは、いつの間にか話が進んでいたことに憤った。
「ルカ除け者! 駄目!」
「そんな大した話はしとらんわい。不貞るな馬鹿者」
「本当に大した話じゃないよ。ルカのお父さんに何が起こったのか、ちゃんと聞いていたんだ」
父のことを持ち出されたことで落ち着いた様子のルカであったが、一応話をまとめるつもりでホイムが事の概要を語り始めた。
「始まりは七日ほど前、森の上空で雷雲が立ち込めた日だよね」
ホイムの言葉にルカは頷く。
「この集落から東へ行ったところへドラゴンが来て、その様子を確認に行ったルカのお父さんや戦士たちは帰らぬ人になった」
今度は力強く頷いた。悔しさが滲んでいるようであった。
「亡骸を回収した者たちに見せてもらったが、酷い有様じゃった……。皆全身が炭と化し、辛うじて残った装飾品から身元が分かる程度じゃった」
聞くだけで壮絶な最期であったことが伝わってきた。
「竜の中には火炎を吐くものもおります。おそらくは……」
「僕も聞いたことはあるよ。ちなみにですが、族長さん達が亡くなるところを目撃した人は……?」
ホイムの言葉に、ロム爺は下を向いて首を振った。
「そんな酷いことできるのドラゴンしかいない! だからルカはドラゴン倒す!」
ルカは立ち上がって拳を握りしめた。彼女の決意は固く、揺らぎそうもない。
「族長の葬儀が終わってからずっとこの調子でな……とうとう飛び出していったのが先日のことじゃ」
「そこで我らと遭遇したのですね」
アカネの言葉を聞いたルカは更に元気に捲し立てる。
「二人とも強い! ルカ分かる! 力合わせれば百人力! きっと倒せる! だから……ヘブッ」
二人に飛びつこうとしたルカの足元にロム爺の杖が伸び、呆気なく転倒し顔を床に強打した。
「落ち着かんかい。まだお二人の気持ちも定まっておらんじゃろう」
「で、でもホイムはルカの夫……」
「どうせそれもお主が一方的に強要しとるんじゃろう。見てみいホイム殿の困った顔を」
ちゃんと分かってくれてるんじゃないですか……。
ホイムは人知れず嬉し涙を流すのだった。
「うぅ……」
縋る先を失くしたと感じたルカは言葉も出ずに唇を噛んでいた。
「あの」
そこでホイムは手を挙げて発言をした。
「仇討ちの対象がドラゴンだとしたら、正直なところ僕らの助力だけで彼女の助けになれる可能性は低いと思います」
当然だと思うロム爺、更に凹むルカ、ホイムの言葉を黙って待つアカネ。
「けれどこのまま見過ごせないとも思っています。まずはそのドラゴンの様子を確認に行ってもいいですか? どうするかはそれから決める……ということで」
「おお……なんと寛大な御人じゃ」
「ホイム……ありがとう。ルカはとっても嬉しい」
問題を先送りしただけとも取れるので感謝されるのも筋違いだとホイムは思うのだが、そんな彼の手にアカネの手がそっと重なった。
「ホイム様ならきっとお助けになると思っておりました」
瞳をキラキラさせながらそう言われて照れるホイムであった。
「見たかルカよ。あれが夫婦というものじゃ。身も心も夫に寄り添い支え合うのが夫と妻というものじゃ」
「ルカ勉強になる! ホイムとアカネぴったり!」
ああそんなに褒めるとまた……。
「嫌ですおしどり夫婦だなんて」
またアカネが顔に手を当てくねくねしだす。
「もういいから! 分かったから! ……ほらもう行こう」
脱線する話に見切りをつけてホイムが立ち上がった。
「せめて一晩ゆっくりしていってくだされ」
ロム爺の言葉にホイムは丁寧に頭を下げる。
「お心遣い感謝します。ですが、人を焼き殺すドラゴンがいるのに呑気に休んでいる暇はないと思います。寧ろ話を聞いていて、今までここが襲われなかったのが不思議なくらいです」
「ここから結構な距離がありますからのう」
「それでも、です。森を火炎で焼き払うとか、色々としでかしていてもおかしくはなかったのではないでしょうか?」
言われてみて少なからず違和感があるようにロム爺も思い始めていた。
「確かに何らかの被害が森に出ていてもおかしくはなかったかもしれませぬ……分かりました、迅速な行動に感謝いたします」
ホイム、アカネ、ルカの三人は屋敷を後にした。
彼らがいるのは一番大きな家屋の居間であった。
族長の一家が暮らす建物であったが、今の正式な住人は娘のルカだけである。
先程出会った四人の子ども達は親が早くに亡くなりここで一緒に住んでいる仲であるが血の繋がりはないとのことだ。
この集落には二百人ほどが暮らしており、道中では農耕をしている姿も目についた。すれ違う人は人間の来訪が珍しい、というかほとんどないこともあり好奇の目で二人を見てきていた。
今でも族長の屋敷の窓からは、特に好奇心旺盛な子ども達が張り付くようにして中を窺っていた。
「少し落ち着きませんかな?」
「いえ、お気になさらず」
今の床にホイムとアカネは隣り合って座し、囲炉裏を挟んだ向かいにロム爺も座っていた。
「遅くなった!」
ルカは外の墓地で命を落とした父と他の者のために手を合わせてから来たので遅くなった。
屋敷に入る際にドッタンバッタン鳴ったので一瞬子ども達の顔が窓から消えたが、またスー……と中を覗きだしていた。
「こちらの事情はお分かりいただけたかね?」
「おおよそ把握しました」
ロム爺の隣に座ったルカは、いつの間にか話が進んでいたことに憤った。
「ルカ除け者! 駄目!」
「そんな大した話はしとらんわい。不貞るな馬鹿者」
「本当に大した話じゃないよ。ルカのお父さんに何が起こったのか、ちゃんと聞いていたんだ」
父のことを持ち出されたことで落ち着いた様子のルカであったが、一応話をまとめるつもりでホイムが事の概要を語り始めた。
「始まりは七日ほど前、森の上空で雷雲が立ち込めた日だよね」
ホイムの言葉にルカは頷く。
「この集落から東へ行ったところへドラゴンが来て、その様子を確認に行ったルカのお父さんや戦士たちは帰らぬ人になった」
今度は力強く頷いた。悔しさが滲んでいるようであった。
「亡骸を回収した者たちに見せてもらったが、酷い有様じゃった……。皆全身が炭と化し、辛うじて残った装飾品から身元が分かる程度じゃった」
聞くだけで壮絶な最期であったことが伝わってきた。
「竜の中には火炎を吐くものもおります。おそらくは……」
「僕も聞いたことはあるよ。ちなみにですが、族長さん達が亡くなるところを目撃した人は……?」
ホイムの言葉に、ロム爺は下を向いて首を振った。
「そんな酷いことできるのドラゴンしかいない! だからルカはドラゴン倒す!」
ルカは立ち上がって拳を握りしめた。彼女の決意は固く、揺らぎそうもない。
「族長の葬儀が終わってからずっとこの調子でな……とうとう飛び出していったのが先日のことじゃ」
「そこで我らと遭遇したのですね」
アカネの言葉を聞いたルカは更に元気に捲し立てる。
「二人とも強い! ルカ分かる! 力合わせれば百人力! きっと倒せる! だから……ヘブッ」
二人に飛びつこうとしたルカの足元にロム爺の杖が伸び、呆気なく転倒し顔を床に強打した。
「落ち着かんかい。まだお二人の気持ちも定まっておらんじゃろう」
「で、でもホイムはルカの夫……」
「どうせそれもお主が一方的に強要しとるんじゃろう。見てみいホイム殿の困った顔を」
ちゃんと分かってくれてるんじゃないですか……。
ホイムは人知れず嬉し涙を流すのだった。
「うぅ……」
縋る先を失くしたと感じたルカは言葉も出ずに唇を噛んでいた。
「あの」
そこでホイムは手を挙げて発言をした。
「仇討ちの対象がドラゴンだとしたら、正直なところ僕らの助力だけで彼女の助けになれる可能性は低いと思います」
当然だと思うロム爺、更に凹むルカ、ホイムの言葉を黙って待つアカネ。
「けれどこのまま見過ごせないとも思っています。まずはそのドラゴンの様子を確認に行ってもいいですか? どうするかはそれから決める……ということで」
「おお……なんと寛大な御人じゃ」
「ホイム……ありがとう。ルカはとっても嬉しい」
問題を先送りしただけとも取れるので感謝されるのも筋違いだとホイムは思うのだが、そんな彼の手にアカネの手がそっと重なった。
「ホイム様ならきっとお助けになると思っておりました」
瞳をキラキラさせながらそう言われて照れるホイムであった。
「見たかルカよ。あれが夫婦というものじゃ。身も心も夫に寄り添い支え合うのが夫と妻というものじゃ」
「ルカ勉強になる! ホイムとアカネぴったり!」
ああそんなに褒めるとまた……。
「嫌ですおしどり夫婦だなんて」
またアカネが顔に手を当てくねくねしだす。
「もういいから! 分かったから! ……ほらもう行こう」
脱線する話に見切りをつけてホイムが立ち上がった。
「せめて一晩ゆっくりしていってくだされ」
ロム爺の言葉にホイムは丁寧に頭を下げる。
「お心遣い感謝します。ですが、人を焼き殺すドラゴンがいるのに呑気に休んでいる暇はないと思います。寧ろ話を聞いていて、今までここが襲われなかったのが不思議なくらいです」
「ここから結構な距離がありますからのう」
「それでも、です。森を火炎で焼き払うとか、色々としでかしていてもおかしくはなかったのではないでしょうか?」
言われてみて少なからず違和感があるようにロム爺も思い始めていた。
「確かに何らかの被害が森に出ていてもおかしくはなかったかもしれませぬ……分かりました、迅速な行動に感謝いたします」
ホイム、アカネ、ルカの三人は屋敷を後にした。
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