異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし

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獣狼族の森

本当に襲われました

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 ものすごい衝撃に襲われたせいで気を失っていたホイムは、体に響く断続的な鈍い衝撃のせいで意識を取り戻した。

「うぅん……」

 一体何が起きたのだろうという疑問。
 背中に伝わるひんやりとした感触は先程までいた水辺とは違うしっかりとした固さがあった。緑色のカーテンに囲まれているように見えたが、よく見ればそれは木々の葉っぱであった。葉っぱで部屋のように作られた空間にいるのだった。
 体を起こそうとしたが起きられないのは、両手を頭上でしっかりと縛られているのと、下半身に乗っかって腰をぶつけてくる褐色の女性のせいであった。

「……うわあ!?」

 自分が襲われていることに気付いたホイムは大声を上げたが、できるのはそれだけだった。逃げることなど不可能な状態である。

「……」

 ホイムが起きたことに気付いたのか、女は動きを止めてズイと顔を近付けてくる。
 鼻息がかかるのがはっきり分かる距離で、女はホイムに声をかける。

「起きた?」

 それは問いかけだった。

「起きたか?」

 同じ問いを繰り返され、ホイムはつい首を縦に振っていた。

「怪我ないか?」

 一度頷いた勢いに任せ、次の問いにも頷いていた。実際には体のあちこちが痛かったのだが、勢いに負けた形であるし、話すのに支障のない程度であった。

「良かった。ルカは安心した」

 少し変わった喋り方をする彼女の無邪気な笑顔は本心のように思えたが、ホイムは逆に恐怖を覚えていた。
 何故なら彼が気を失う寸前に見た襲撃者が彼女であったことを鮮明に思い出したからだ。

(襲っておいて無事なことに安心するって……なんだ?)

 わけが分からず事態を把握できないホイムは、彼女のことを鑑定した。


【ルカ】
性別:女
年齢:20歳(人間換算で10歳程度)
種族:獣狼族
職業:戦士
レベル:60
MP:0
攻撃力:A+
防御力:A+
体 力:A+
魔 力:E-
知 力:E+
技 量:C-
俊敏性:S+

スキル:野生(☆9)、素早さ上昇(☆9)、身体能力強化(☆9)、状態異常耐性(☆3)、遊び上手(☆3)


 超攻撃型の高速アタッカー。
 そして獣人の中で獣狼族と呼ばれる種族の者であることも判明した。
 短い銀髪の上には獣耳がぴょこんと二つ立っている。今は人の姿をしているが、さっき襲ってきた時は獣の手足をしていたのを覚えていた。
 ホイムは勇者の一行としていろいろな街を訪れた時に獣人を見たこともあった。その時は今のルカと同じで、耳や尻尾といった少しだけ獣っぽさを残す者ばかりであった。
 戦闘態勢になると姿を変えるという噂を聞いたことがあり、初めて目にしたがさっきの姿がそうだったのだろう。
 鑑定することで冷静になりかけたホイムだったが、

「大丈夫ならまた動く」

 ルカがそう言って体を動かし始めると一気に頭が沸騰して鑑定結果も吹き飛んでいった。

「ちょ! 何それ! 待ッ……」

 苦悶に顔を歪めるホイムだったが、それ以上にルカの顔も辛そうなものだったことに気が付いた。
 だがそれはそれとして、あまりにも暴力的で一方的な行為によって、ホイムはあっさり搾り取られてしまった。

「うぐぅ……」

 目を覚まして早々にこの仕打ち。悪くはない、悪くはないが状況が良くない。
 とにかく状況の確認をと考えるホイムだったが、そんなことにはお構いなくルカは動きを止めることなく必死に動き続けていた。

「え、いや待って! 駄目! それ以上は死んじゃ……死んじゃうからぁ!」

 キュアさえ使えればこの状況は容易く打破できていただろうが、体を拘束までされた上に文字通り瀕死の状態に追い込まれては、いくらチート級の呪文を持っていてもどうしようもなかった。
 そこでようやくホイムが逝きかけていることに気付いたルカは動きを止めて、深呼吸で乱れた息を整えてからホイムに告げた。

「これでルカたち夫婦。夫は妻の言うこと聞く」
「……へ?」

 泡を吹くほど追い詰められたホイムの頭では言葉の意味の理解にしばらく時間はかかるのだが、ルカの真剣でな眼差しは深く印象に残った。

「お願い……ルカたち助けて」

 縋るように肌を重ねてくる様子に、ホイムは何か深い事情があるのではないかとようやく思えるようになっていた。

「と、とにかく話を……」

 ようやく激しい仕打ちから解放されたところでホイムは声を絞り出した。
 その時二人の愛の巣の中に、はらりと一枚の葉っぱが舞い降りた。鋭利な刃物で切断されたような不自然な形の葉っぱ。

「ナニヲ」

 緑の壁の向こうから、部屋を震わせるような低く鈍い声が響いてきた。

「シテイル……?」

 ぴたりと肌を重ねる二人の視線が頭上に向いた。
 そこには切断された葉っぱの壁の外側から、殺気と怒気と嫉妬を孕む激情を滲ませながら冷酷に睨みつけるアカネの瞳があった。
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