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最初の町
討ち入りました
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治安の悪いダウンタウンの一画に根城を構えるギルドチームのリーダー格の男は、行き倒れているところを捕まえていいように利用してきた裏稼業の女に魔道具を用いて施した呪術が解けていることに気が付いていた。
彼の右手の中にはついさっきまで従属のクリスタルを支配するために所持者が持つ宝珠が握られていたが、前触れもなく突然砕けて塵となった。
呪いを解く方法は従属する者の死亡、従属される者の死亡、そして呪いそのものの解呪である。
「死んだか……」
だがあの呪いを解けるものなど聖職者の中でも高位の呪文を扱えるクラスの者。
彼女を差し向けたブロンズクラスの子どもが歳に似合わぬ手練だとしても、まさかそれほどの呪文を使えるわけがないと高をくくっていた。
「お頭、どうします?」
盗賊めいた十数名の下っ端のうちの一人が冷静沈着なリーダー格に意見をもとめた。
彼らは皆悪そうな面構えをしているが、これでも冒険者ギルドに登録しているれっきとした冒険者である。
しかしお頭と呼ばれる男……ブロンズまであと少しというところまで上り詰めているブラック級の男が、周りになじめずはぐれ者と化していた冒険者の一部を集めてチームを結成し、この町で暗躍していたのだった。
「……今回の稼ぎを掠め取られたのは腹立たしいが、まさかあいつを倒せる程の者ならば、放っておくのが吉か」
彼には野望があった。
この町でそれなりに稼いだ後にもっと大きな街に出向き、培った薬や毒の調合技術を用いて更にのし上がっていくという野望が。
そのためには下手をうって首を絞めたくはない。相手をせずにやりすごすのが大人というものだと怒りを呑み込んでいた。
「ですが俺らのメンツが……」
口答えする部下の横を鋭いものが掠め、男の頬に薄い裂傷を創った。背後の壁には部屋を飛んでいた蛾を射止めたナイフが刺さっていた。
「分かってんだよんなことは。だがそいつの滞在は長くないとの話だ。無駄にチームの力を削ぐこともない……切るのはあの従順な雌豚だけで十分だろう」
「へ、へい……」
それ以上口答えする者は部下の中にはいなかった。
恐怖と静寂が支配するギルドチームは、まさにチームマスターである錬金術士の独裁状態であった。
彼が町に病を流行らせ、自ら調合した万能薬を用いてギルドのクエストで荒稼ぎしていた張本人である。
彼が病を流行らせたという事実は仲間の誰も知らないことであり、その事実は墓場まで持っていかれることとなる。
男は失ったものを思い浮かべては歯噛みした。
ギルドクエストによる報酬額、依頼主に売りつける治療薬の代金。
金はまだいい。しかし、部下には気取られないよう振る舞ったがやはりあの暗殺に秀でた女を失ったのは痛かった。
ギルドに潜入させ都合よくクエストを手配させ、外部には漏らせない内部機密を探らせたりした。
ゆくゆくはその暗殺術を利用して町の権力者や重鎮を脅し、始末することも視野に入れていたがそれは叶うことがなかった。
それにもう一つ、あの女の肌を切り裂くのも酔狂で愉しかったと思い返す。
ナイフを弄ぶ彼の手には、女を刺す時の感触が今でもはっきりと残っていた。
初めてその裸体を見た時は刻まれた傷の数々に戦慄を覚えたこともあったが、思い通りに操ることのできる人形とした後は彼が一番彼女の体を傷つけていた。
肌を裂いても、削いでも、恥部を刺しても悲鳴すら上げない彼女は、彼にとって最高に加虐心を刺激するモルモットであった。
いつの日かその肌だけではなく肉や指、髪の一本に至るまで遊び尽くしてやろうと心の奥で邪悪な気持ちを燻らせていたのだが、結局それはブロンズ級に取られてしまったと思い込んだ。
今回は見逃すが、いつかそいつと遭遇することがあれば、今日味わった屈辱や鬱憤を晴らしてやろうかとすら考えているのだった。
その時、彼らが根城としている建物の扉をノックする音が聞こえた。刻まれる独特な拍子は、チーム内で共有している暗号のようなものである。
「あの女、生きてやがったんですね」
部下の一人がそう言って部屋を出て扉のある玄関へ向かっていった。
今いるメンバーの中でこの場にいないのはアカネだけであるので、あのノックをしてこの場に来るのは必然彼女だけである。
「クリスタルの反応はないのに……どういうことだ?」
まさか呪いを解いて来たとでもいうのか。
チームマスターは悪い予感がし、部下たちに警戒を怠らないよう指示をしようとした。
「っぎゃああ」
その直前に響いた悲鳴に、部下たちは騒然としだした。苦痛に満ちた絶叫が不自然に途絶えたところに、ギシギシと床を踏む音が近付いてくる。
「……襲撃だ。応戦しろ」
マスターの声に反応した部下たちは怒号を上げながら続々と部屋を飛び出していった。
彼の右手の中にはついさっきまで従属のクリスタルを支配するために所持者が持つ宝珠が握られていたが、前触れもなく突然砕けて塵となった。
呪いを解く方法は従属する者の死亡、従属される者の死亡、そして呪いそのものの解呪である。
「死んだか……」
だがあの呪いを解けるものなど聖職者の中でも高位の呪文を扱えるクラスの者。
彼女を差し向けたブロンズクラスの子どもが歳に似合わぬ手練だとしても、まさかそれほどの呪文を使えるわけがないと高をくくっていた。
「お頭、どうします?」
盗賊めいた十数名の下っ端のうちの一人が冷静沈着なリーダー格に意見をもとめた。
彼らは皆悪そうな面構えをしているが、これでも冒険者ギルドに登録しているれっきとした冒険者である。
しかしお頭と呼ばれる男……ブロンズまであと少しというところまで上り詰めているブラック級の男が、周りになじめずはぐれ者と化していた冒険者の一部を集めてチームを結成し、この町で暗躍していたのだった。
「……今回の稼ぎを掠め取られたのは腹立たしいが、まさかあいつを倒せる程の者ならば、放っておくのが吉か」
彼には野望があった。
この町でそれなりに稼いだ後にもっと大きな街に出向き、培った薬や毒の調合技術を用いて更にのし上がっていくという野望が。
そのためには下手をうって首を絞めたくはない。相手をせずにやりすごすのが大人というものだと怒りを呑み込んでいた。
「ですが俺らのメンツが……」
口答えする部下の横を鋭いものが掠め、男の頬に薄い裂傷を創った。背後の壁には部屋を飛んでいた蛾を射止めたナイフが刺さっていた。
「分かってんだよんなことは。だがそいつの滞在は長くないとの話だ。無駄にチームの力を削ぐこともない……切るのはあの従順な雌豚だけで十分だろう」
「へ、へい……」
それ以上口答えする者は部下の中にはいなかった。
恐怖と静寂が支配するギルドチームは、まさにチームマスターである錬金術士の独裁状態であった。
彼が町に病を流行らせ、自ら調合した万能薬を用いてギルドのクエストで荒稼ぎしていた張本人である。
彼が病を流行らせたという事実は仲間の誰も知らないことであり、その事実は墓場まで持っていかれることとなる。
男は失ったものを思い浮かべては歯噛みした。
ギルドクエストによる報酬額、依頼主に売りつける治療薬の代金。
金はまだいい。しかし、部下には気取られないよう振る舞ったがやはりあの暗殺に秀でた女を失ったのは痛かった。
ギルドに潜入させ都合よくクエストを手配させ、外部には漏らせない内部機密を探らせたりした。
ゆくゆくはその暗殺術を利用して町の権力者や重鎮を脅し、始末することも視野に入れていたがそれは叶うことがなかった。
それにもう一つ、あの女の肌を切り裂くのも酔狂で愉しかったと思い返す。
ナイフを弄ぶ彼の手には、女を刺す時の感触が今でもはっきりと残っていた。
初めてその裸体を見た時は刻まれた傷の数々に戦慄を覚えたこともあったが、思い通りに操ることのできる人形とした後は彼が一番彼女の体を傷つけていた。
肌を裂いても、削いでも、恥部を刺しても悲鳴すら上げない彼女は、彼にとって最高に加虐心を刺激するモルモットであった。
いつの日かその肌だけではなく肉や指、髪の一本に至るまで遊び尽くしてやろうと心の奥で邪悪な気持ちを燻らせていたのだが、結局それはブロンズ級に取られてしまったと思い込んだ。
今回は見逃すが、いつかそいつと遭遇することがあれば、今日味わった屈辱や鬱憤を晴らしてやろうかとすら考えているのだった。
その時、彼らが根城としている建物の扉をノックする音が聞こえた。刻まれる独特な拍子は、チーム内で共有している暗号のようなものである。
「あの女、生きてやがったんですね」
部下の一人がそう言って部屋を出て扉のある玄関へ向かっていった。
今いるメンバーの中でこの場にいないのはアカネだけであるので、あのノックをしてこの場に来るのは必然彼女だけである。
「クリスタルの反応はないのに……どういうことだ?」
まさか呪いを解いて来たとでもいうのか。
チームマスターは悪い予感がし、部下たちに警戒を怠らないよう指示をしようとした。
「っぎゃああ」
その直前に響いた悲鳴に、部下たちは騒然としだした。苦痛に満ちた絶叫が不自然に途絶えたところに、ギシギシと床を踏む音が近付いてくる。
「……襲撃だ。応戦しろ」
マスターの声に反応した部下たちは怒号を上げながら続々と部屋を飛び出していった。
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