異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし

文字の大きさ
上 下
12 / 131
最初の町

討ち入りました

しおりを挟む
 治安の悪いダウンタウンの一画に根城を構えるギルドチームのリーダー格の男は、行き倒れているところを捕まえていいように利用してきた裏稼業の女に魔道具を用いて施した呪術が解けていることに気が付いていた。
 彼の右手の中にはついさっきまで従属のクリスタルを支配するために所持者が持つ宝珠が握られていたが、前触れもなく突然砕けて塵となった。
 呪いを解く方法は従属する者の死亡、従属される者の死亡、そして呪いそのものの解呪である。

「死んだか……」

 だがあの呪いを解けるものなど聖職者の中でも高位の呪文を扱えるクラスの者。
 彼女を差し向けたブロンズクラスの子どもが歳に似合わぬ手練だとしても、まさかそれほどの呪文を使えるわけがないと高をくくっていた。

「お頭、どうします?」

 盗賊めいた十数名の下っ端のうちの一人が冷静沈着なリーダー格に意見をもとめた。
 彼らは皆悪そうな面構えをしているが、これでも冒険者ギルドに登録しているれっきとした冒険者である。
 しかしお頭と呼ばれる男……ブロンズまであと少しというところまで上り詰めているブラック級の男が、周りになじめずはぐれ者と化していた冒険者の一部を集めてチームを結成し、この町で暗躍していたのだった。

「……今回の稼ぎを掠め取られたのは腹立たしいが、まさかあいつを倒せる程の者ならば、放っておくのが吉か」

 彼には野望があった。
 この町でそれなりに稼いだ後にもっと大きな街に出向き、培った薬や毒の調合技術を用いて更にのし上がっていくという野望が。
 そのためには下手をうって首を絞めたくはない。相手をせずにやりすごすのが大人というものだと怒りを呑み込んでいた。

「ですが俺らのメンツが……」

 口答えする部下の横を鋭いものが掠め、男の頬に薄い裂傷を創った。背後の壁には部屋を飛んでいた蛾を射止めたナイフが刺さっていた。

「分かってんだよんなことは。だがそいつの滞在は長くないとの話だ。無駄にチームの力を削ぐこともない……切るのはあの従順な雌豚だけで十分だろう」
「へ、へい……」

 それ以上口答えする者は部下の中にはいなかった。
 恐怖と静寂が支配するギルドチームは、まさにチームマスターである錬金術士の独裁状態であった。
 彼が町に病を流行らせ、自ら調合した万能薬を用いてギルドのクエストで荒稼ぎしていた張本人である。
 彼が病を流行らせたという事実は仲間の誰も知らないことであり、その事実は墓場まで持っていかれることとなる。
 男は失ったものを思い浮かべては歯噛みした。
 ギルドクエストによる報酬額、依頼主に売りつける治療薬の代金。
 金はまだいい。しかし、部下には気取られないよう振る舞ったがやはりあの暗殺に秀でた女を失ったのは痛かった。
 ギルドに潜入させ都合よくクエストを手配させ、外部には漏らせない内部機密を探らせたりした。
 ゆくゆくはその暗殺術を利用して町の権力者や重鎮を脅し、始末することも視野に入れていたがそれは叶うことがなかった。
 それにもう一つ、あの女の肌を切り裂くのも酔狂で愉しかったと思い返す。
 ナイフを弄ぶ彼の手には、女を刺す時の感触が今でもはっきりと残っていた。
 初めてその裸体を見た時は刻まれた傷の数々に戦慄を覚えたこともあったが、思い通りに操ることのできる人形とした後は彼が一番彼女の体を傷つけていた。
 肌を裂いても、削いでも、恥部を刺しても悲鳴すら上げない彼女は、彼にとって最高に加虐心を刺激するモルモットであった。
 いつの日かその肌だけではなく肉や指、髪の一本に至るまで遊び尽くしてやろうと心の奥で邪悪な気持ちを燻らせていたのだが、結局それはブロンズ級に取られてしまったと思い込んだ。
 今回は見逃すが、いつかそいつと遭遇することがあれば、今日味わった屈辱や鬱憤を晴らしてやろうかとすら考えているのだった。
 その時、彼らが根城としている建物の扉をノックする音が聞こえた。刻まれる独特な拍子は、チーム内で共有している暗号のようなものである。

「あの女、生きてやがったんですね」

 部下の一人がそう言って部屋を出て扉のある玄関へ向かっていった。
 今いるメンバーの中でこの場にいないのはアカネだけであるので、あのノックをしてこの場に来るのは必然彼女だけである。

「クリスタルの反応はないのに……どういうことだ?」

 まさか呪いを解いて来たとでもいうのか。
 チームマスターは悪い予感がし、部下たちに警戒を怠らないよう指示をしようとした。

「っぎゃああ」

 その直前に響いた悲鳴に、部下たちは騒然としだした。苦痛に満ちた絶叫が不自然に途絶えたところに、ギシギシと床を踏む音が近付いてくる。

「……襲撃だ。応戦しろ」

 マスターの声に反応した部下たちは怒号を上げながら続々と部屋を飛び出していった。


しおりを挟む
感想 180

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

やさしい魔法と君のための物語。

雨色銀水
ファンタジー
これは森の魔法使いと子供の出会いから始まる、出会いと別れと再会の長い物語――。 ※第一部「君と過ごしたなもなき季節に」編あらすじ※ かつて罪を犯し、森に幽閉されていた魔法使いはある日、ひとりの子供を拾う。 ぼろぼろで小さな子供は、名前さえも持たず、ずっと長い間孤独に生きてきた。 孤独な魔法使いと幼い子供。二人は不器用ながらも少しずつ心の距離を縮めながら、絆を深めていく。 失ったものを埋めあうように、二人はいつしか家族のようなものになっていき――。 「ただ、抱きしめる。それだけのことができなかったんだ」 雪が溶けて、春が来たら。 また、出会えると信じている。 ※第二部「あなたに贈るシフソフィラ」編あらすじ※ 王国に仕える『魔法使い』は、ある日、宰相から一つの依頼を受ける。 魔法石の盗難事件――その事件の解決に向け、調査を始める魔法使いと騎士と弟子たち。 調査を続けていた魔法使いは、一つの結末にたどり着くのだが――。 「あなたが大好きですよ、誰よりもね」 結末の先に訪れる破滅と失われた絆。魔法使いはすべてを失い、物語はゼロに戻る。 ※第三部「魔法使いの掟とソフィラの願い」編あらすじ※ 魔法使いであった少年は罪を犯し、大切な人たちから離れて一つの村へとたどり着いていた。 そこで根を下ろし、時を過ごした少年は青年となり、ひとりの子供と出会う。 獣の耳としっぽを持つ、人ならざる姿の少女――幼い彼女を救うため、青年はかつての師と罪に向き合い、立ち向かっていく。 青年は自分の罪を乗り越え、先の未来をつかみ取れるのか――? 「生きる限り、忘れることなんかできない」 最後に訪れた再会は、奇跡のように涙を降らせる。 第四部「さよならを告げる風の彼方に」編 ヴィルヘルムと魔法使い、そしてかつての英雄『ギルベルト』に捧ぐ物語。 ※他サイトにも同時投稿しています。

処理中です...