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最初の町
ギルドにきました
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帰り道。無言のまま木漏れ日亭についたところで、
「申し訳ありません調子に乗りました」
とリナが重い口を開いたので、
「こちらこそすみませんでした」
とホイムも謝罪しその件は微妙なしこりを残して終了した。
部屋に戻ったホイムは、子どもになる時に見栄を張ってあそこは大人のままにしておいたことを後悔していた。
リナには本当に申し訳ないことをしたと反省しきりである。
「……でも気持ちよかった」
と、枕に顔を埋めながら大人の時は味わえなかった本当の気持ちよさを何度も何度も頭の中でリピートしながら眠りにつくのだった。
翌朝、一階に下りたホイムにカウンターから店主が声をかけてきた。
「よく眠れたかい? 朝食の準備はできてるぜ」
「おかげさまで……」
娘さんのおかげでとは言えなかった。それから店内をひとしきり見回してリナの姿がないのを確認し、ホッと息をついた。
顔を合わせるのはまだ気まずい。
「……今日は少し町を見て回ろうと思うので朝食は結構です。お昼には戻ると思います」
「そうかい。気をつけてな」
店主に見送られながら、ホイムは一人で町を散策する。
この町にいる人や商店、気配や雰囲気といった何もかもがホイムには平均的なものに思えた。一人で旅を始める町とするには、かなりいい方だろう。
しかしながら、彼は一人旅をするつもりはない。それが昨夜から今朝にかけて、彼が導き出した答えであった。
目的は失ったと思っていた。しかしながら一人になる以前はしっかりとした目的が掲げられていた。
それは自分の目的というわけではなくパーティ全体の目的だったのだが、その目的というのは勇者らしく魔王討伐であった。
これまで旅してきた場所に戻ったとしても、あのパーティで過ごした日々が思い出されて辛い。だからこの町を出たら先へ進もうと考えた。
勇者一行を追いかけるわけではなく、違うルートで自分のことを誰も知らない場所へ、自分が全く知らない場所へ行ってみようと考えたのだった。
しかしながらホイムの旅には一つ大きな懸念があった。
それは単独での実戦経験がないということだった。
無論その辺の冒険者よりもレベルは高く、この町を出てしばらく進む間くらいのモンスターには滅多なことでやられる心配はないだろう。
それでも万一に備え、自分とパーティを組んでくれる者……それも極めて従順な前衛職が欲しかった。
(対等な立場……冒険者や傭兵じゃダメだ。何をしてくるか分かったもんじゃない)
今のホイムならパーティを組んだ相手に何らかの理由で手を出されても返り討ちにするのは容易いはずである。
しかし当の本人がその事実を認めきれずにいるのは、これまで虐げられすぎたせいで同程度の立場の者と組むことにトラウマを覚えているせいで強い拒否感を示しているのだった。
が、ホイム自身は現在のところそこまで深い部分に思い至らず、単純に同じくらいの立場の人と組むのが苦手だ、嫌だと思ってるだけ程度に考えていた。そう考えておかないとトラウマを掘り返して傷つくことになるという無意識の防衛本能が働いていた。
とりあえずあちこち町を回りながら、冒険者ギルドが運営する町の案内所の前に来た。
表の掲示板の張り紙の中に、パーティ雇用募集もあったが、契約料に数万Gなどと吹っかけている条件ばかりだったのであえなく退散した。
「そうか……路銀もないな。人を雇うか買うにしろ、今の所持金じゃ無理そうだ」
そこで思いついたことがあったので来た道を戻ると再び冒険者ギルドの施設に辿り着き、今度は中に入っていった。
ギルド施設内には待合室のように長椅子やテーブルが並んでいた。馴染みのない建物に最初は少し緊張したホイムだったが、いくつもある受付カウンターの一つに歩いていった。
受付嬢のお姉さんはホイムがカウンター前まで来ても気付く様子はなかった。彼の姿が目に入ってないようだ。
「あの」
声をかけて爪先立ちでカウンターに腕を乗せてアピールしてようやく気付いてもらうことができた。
「はい……?」
首を傾げる受付のお姉さん。その目は迷子の子どもが何をしてるのかなと言っているようだった。
そこでホイムは首から下げたギルドカードを取り出して見せた。
「稼げるクエストを探してるんですけど」
そのカードを見たお姉さんは驚きの表情を浮かべてからすぐに顔を寄せてきた。
「ぼ……あなただったんですか、昨日町に来たって噂のブロンズは!」
小声で話しかけてくるのは周りにいる人の迷惑にならないよう気を遣ってのことだ。
それにしてもそんな噂が流れていたとは……。
ホイムは苦笑いを浮かべた。
「はは……噂ですか」
「ええ。この町に上位カラーの冒険者が来るのって珍しいんですよ。ほとんどの人は西にあるセミアの方が栄えているからそっちに行っちゃうんです。おかげでザーインは……あらやだ、今の愚痴、内緒ですよ」
人差し指をピッと立てる仕草にホイムは少しドキッとした。こういう胸のときめきを抱くことは長い間なかったのだった。
「それで……クエストですか。討伐、採集、調査依頼……未受注のものは……」
いくつかピックアップしようとする受付嬢に、ホイムはある条件の依頼はないかと質問した。
「それなら……あります、十件ほど」
「じゃあそれにします」
ホイムは依頼書を見せてもらうと、一つ一つに目を通した。それを見たホイムはうんと頷いた。
「何件受注されます?」
もちろん決まってる。
「全部です」
「申し訳ありません調子に乗りました」
とリナが重い口を開いたので、
「こちらこそすみませんでした」
とホイムも謝罪しその件は微妙なしこりを残して終了した。
部屋に戻ったホイムは、子どもになる時に見栄を張ってあそこは大人のままにしておいたことを後悔していた。
リナには本当に申し訳ないことをしたと反省しきりである。
「……でも気持ちよかった」
と、枕に顔を埋めながら大人の時は味わえなかった本当の気持ちよさを何度も何度も頭の中でリピートしながら眠りにつくのだった。
翌朝、一階に下りたホイムにカウンターから店主が声をかけてきた。
「よく眠れたかい? 朝食の準備はできてるぜ」
「おかげさまで……」
娘さんのおかげでとは言えなかった。それから店内をひとしきり見回してリナの姿がないのを確認し、ホッと息をついた。
顔を合わせるのはまだ気まずい。
「……今日は少し町を見て回ろうと思うので朝食は結構です。お昼には戻ると思います」
「そうかい。気をつけてな」
店主に見送られながら、ホイムは一人で町を散策する。
この町にいる人や商店、気配や雰囲気といった何もかもがホイムには平均的なものに思えた。一人で旅を始める町とするには、かなりいい方だろう。
しかしながら、彼は一人旅をするつもりはない。それが昨夜から今朝にかけて、彼が導き出した答えであった。
目的は失ったと思っていた。しかしながら一人になる以前はしっかりとした目的が掲げられていた。
それは自分の目的というわけではなくパーティ全体の目的だったのだが、その目的というのは勇者らしく魔王討伐であった。
これまで旅してきた場所に戻ったとしても、あのパーティで過ごした日々が思い出されて辛い。だからこの町を出たら先へ進もうと考えた。
勇者一行を追いかけるわけではなく、違うルートで自分のことを誰も知らない場所へ、自分が全く知らない場所へ行ってみようと考えたのだった。
しかしながらホイムの旅には一つ大きな懸念があった。
それは単独での実戦経験がないということだった。
無論その辺の冒険者よりもレベルは高く、この町を出てしばらく進む間くらいのモンスターには滅多なことでやられる心配はないだろう。
それでも万一に備え、自分とパーティを組んでくれる者……それも極めて従順な前衛職が欲しかった。
(対等な立場……冒険者や傭兵じゃダメだ。何をしてくるか分かったもんじゃない)
今のホイムならパーティを組んだ相手に何らかの理由で手を出されても返り討ちにするのは容易いはずである。
しかし当の本人がその事実を認めきれずにいるのは、これまで虐げられすぎたせいで同程度の立場の者と組むことにトラウマを覚えているせいで強い拒否感を示しているのだった。
が、ホイム自身は現在のところそこまで深い部分に思い至らず、単純に同じくらいの立場の人と組むのが苦手だ、嫌だと思ってるだけ程度に考えていた。そう考えておかないとトラウマを掘り返して傷つくことになるという無意識の防衛本能が働いていた。
とりあえずあちこち町を回りながら、冒険者ギルドが運営する町の案内所の前に来た。
表の掲示板の張り紙の中に、パーティ雇用募集もあったが、契約料に数万Gなどと吹っかけている条件ばかりだったのであえなく退散した。
「そうか……路銀もないな。人を雇うか買うにしろ、今の所持金じゃ無理そうだ」
そこで思いついたことがあったので来た道を戻ると再び冒険者ギルドの施設に辿り着き、今度は中に入っていった。
ギルド施設内には待合室のように長椅子やテーブルが並んでいた。馴染みのない建物に最初は少し緊張したホイムだったが、いくつもある受付カウンターの一つに歩いていった。
受付嬢のお姉さんはホイムがカウンター前まで来ても気付く様子はなかった。彼の姿が目に入ってないようだ。
「あの」
声をかけて爪先立ちでカウンターに腕を乗せてアピールしてようやく気付いてもらうことができた。
「はい……?」
首を傾げる受付のお姉さん。その目は迷子の子どもが何をしてるのかなと言っているようだった。
そこでホイムは首から下げたギルドカードを取り出して見せた。
「稼げるクエストを探してるんですけど」
そのカードを見たお姉さんは驚きの表情を浮かべてからすぐに顔を寄せてきた。
「ぼ……あなただったんですか、昨日町に来たって噂のブロンズは!」
小声で話しかけてくるのは周りにいる人の迷惑にならないよう気を遣ってのことだ。
それにしてもそんな噂が流れていたとは……。
ホイムは苦笑いを浮かべた。
「はは……噂ですか」
「ええ。この町に上位カラーの冒険者が来るのって珍しいんですよ。ほとんどの人は西にあるセミアの方が栄えているからそっちに行っちゃうんです。おかげでザーインは……あらやだ、今の愚痴、内緒ですよ」
人差し指をピッと立てる仕草にホイムは少しドキッとした。こういう胸のときめきを抱くことは長い間なかったのだった。
「それで……クエストですか。討伐、採集、調査依頼……未受注のものは……」
いくつかピックアップしようとする受付嬢に、ホイムはある条件の依頼はないかと質問した。
「それなら……あります、十件ほど」
「じゃあそれにします」
ホイムは依頼書を見せてもらうと、一つ一つに目を通した。それを見たホイムはうんと頷いた。
「何件受注されます?」
もちろん決まってる。
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