異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし

文字の大きさ
上 下
7 / 131
最初の町

ギルドにきました

しおりを挟む
 帰り道。無言のまま木漏れ日亭についたところで、

「申し訳ありません調子に乗りました」

 とリナが重い口を開いたので、

「こちらこそすみませんでした」

 とホイムも謝罪しその件は微妙なしこりを残して終了した。
 部屋に戻ったホイムは、子どもになる時に見栄を張ってあそこは大人のままにしておいたことを後悔していた。
 リナには本当に申し訳ないことをしたと反省しきりである。

「……でも気持ちよかった」

 と、枕に顔を埋めながら大人の時は味わえなかった本当の気持ちよさを何度も何度も頭の中でリピートしながら眠りにつくのだった。
 翌朝、一階に下りたホイムにカウンターから店主が声をかけてきた。

「よく眠れたかい? 朝食の準備はできてるぜ」
「おかげさまで……」

 娘さんのおかげでとは言えなかった。それから店内をひとしきり見回してリナの姿がないのを確認し、ホッと息をついた。
 顔を合わせるのはまだ気まずい。

「……今日は少し町を見て回ろうと思うので朝食は結構です。お昼には戻ると思います」
「そうかい。気をつけてな」

 店主に見送られながら、ホイムは一人で町を散策する。
 この町にいる人や商店、気配や雰囲気といった何もかもがホイムには平均的なものに思えた。一人で旅を始める町とするには、かなりいい方だろう。
 しかしながら、彼は一人旅をするつもりはない。それが昨夜から今朝にかけて、彼が導き出した答えであった。
 目的は失ったと思っていた。しかしながら一人になる以前はしっかりとした目的が掲げられていた。
 それは自分の目的というわけではなくパーティ全体の目的だったのだが、その目的というのは勇者らしく魔王討伐であった。
 これまで旅してきた場所に戻ったとしても、あのパーティで過ごした日々が思い出されて辛い。だからこの町を出たら先へ進もうと考えた。
 勇者一行を追いかけるわけではなく、違うルートで自分のことを誰も知らない場所へ、自分が全く知らない場所へ行ってみようと考えたのだった。
 しかしながらホイムの旅には一つ大きな懸念があった。
 それは単独での実戦経験がないということだった。
 無論その辺の冒険者よりもレベルは高く、この町を出てしばらく進む間くらいのモンスターには滅多なことでやられる心配はないだろう。
 それでも万一に備え、自分とパーティを組んでくれる者……それも極めて従順な前衛職が欲しかった。

(対等な立場……冒険者や傭兵じゃダメだ。何をしてくるか分かったもんじゃない)

 今のホイムならパーティを組んだ相手に何らかの理由で手を出されても返り討ちにするのは容易いはずである。
 しかし当の本人がその事実を認めきれずにいるのは、これまで虐げられすぎたせいで同程度の立場の者と組むことにトラウマを覚えているせいで強い拒否感を示しているのだった。
 が、ホイム自身は現在のところそこまで深い部分に思い至らず、単純に同じくらいの立場の人と組むのが苦手だ、嫌だと思ってるだけ程度に考えていた。そう考えておかないとトラウマを掘り返して傷つくことになるという無意識の防衛本能が働いていた。
 とりあえずあちこち町を回りながら、冒険者ギルドが運営する町の案内所の前に来た。
 表の掲示板の張り紙の中に、パーティ雇用募集もあったが、契約料に数万Gなどと吹っかけている条件ばかりだったのであえなく退散した。

「そうか……路銀もないな。人を雇うか買うにしろ、今の所持金じゃ無理そうだ」

 そこで思いついたことがあったので来た道を戻ると再び冒険者ギルドの施設に辿り着き、今度は中に入っていった。
 ギルド施設内には待合室のように長椅子やテーブルが並んでいた。馴染みのない建物に最初は少し緊張したホイムだったが、いくつもある受付カウンターの一つに歩いていった。
 受付嬢のお姉さんはホイムがカウンター前まで来ても気付く様子はなかった。彼の姿が目に入ってないようだ。

「あの」

 声をかけて爪先立ちでカウンターに腕を乗せてアピールしてようやく気付いてもらうことができた。

「はい……?」

 首を傾げる受付のお姉さん。その目は迷子の子どもが何をしてるのかなと言っているようだった。
 そこでホイムは首から下げたギルドカードを取り出して見せた。

「稼げるクエストを探してるんですけど」

 そのカードを見たお姉さんは驚きの表情を浮かべてからすぐに顔を寄せてきた。

「ぼ……あなただったんですか、昨日町に来たって噂のブロンズは!」

 小声で話しかけてくるのは周りにいる人の迷惑にならないよう気を遣ってのことだ。
 それにしてもそんな噂が流れていたとは……。
 ホイムは苦笑いを浮かべた。

「はは……噂ですか」
「ええ。この町に上位カラーの冒険者が来るのって珍しいんですよ。ほとんどの人は西にあるセミアの方が栄えているからそっちに行っちゃうんです。おかげでザーインは……あらやだ、今の愚痴、内緒ですよ」

人差し指をピッと立てる仕草にホイムは少しドキッとした。こういう胸のときめきを抱くことは長い間なかったのだった。

「それで……クエストですか。討伐、採集、調査依頼……未受注のものは……」

 いくつかピックアップしようとする受付嬢に、ホイムはある条件の依頼はないかと質問した。

「それなら……あります、十件ほど」
「じゃあそれにします」

 ホイムは依頼書を見せてもらうと、一つ一つに目を通した。それを見たホイムはうんと頷いた。

「何件受注されます?」

 もちろん決まってる。

「全部です」
しおりを挟む
感想 180

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...