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第9章 飛香編

第318話「記憶の確認」

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朝から、来週に迫った期末テストに向けて、それぞれで勉強会を開こうと、守里と飛香、日向子が話していると、教室の扉が開いた。



ガラガラ



春時: ほら、祐希。暖かい教室だぞ~


祐希: ふわぁぁ……余計に眠たくなる暖かさだね…


春時: いや、もうここまで来たんだから、せめて自分の席に座って寝てくれ。


祐希: は~い……あ、みんな、おはよ~


春時: おはよう。


守里: おはよ。


日向子: おはよう!!!


飛香: おはよう。2人、一緒だったんだ。


春時: あぁ。たまたま靴箱のとこで会ってな。


祐希: ふぅ~~我が机よ~


守里: まずはコートを脱ぎな笑


祐希: うん……ウトウト…


守里: はぁ……ほら、祐希。手を広げて。


祐希: うん…



席に座り、ウトウトし始めた祐希を見て、守里は仕方なく、コートを脱がせてあげ、荷物を机の横に掛けた。



祐希: ありがと~


守里: あ、祐希。寝る前に言っときたいんだけど。


祐希: なに~?


守里: 日曜日にさ、勉強会しよ。


祐希: え、勉強会かぁ…


守里: テストも来週にあるし、飛香と日向子も土日で勉強会をするらしいから、負けないように僕達もやろう。


祐希: そうなの?


日向子: うん!!明日はあっしゅんの家で、明後日は私の家で勉強会!!で良いよね?!


飛香: はいはい。


祐希: そっか~……じゃあ、やる。


守里: なら、どこでやろうか。


春時: いや、決めてなかったんかい。ってか、その勉強会、俺も参加していい?


守里: ん?春時も?別に僕は構わないけど…


祐希: 祐希も~


春時: ありがと。ほら、守里と同じで、じいちゃんがいないから、俺も暇なわけよ。だから、勉強したいって思って。


飛香: 笑、それでも、私達の勉強会の方じゃないんだ。


日向子: え~~春時、来てよ~!


春時: ……だって、飛香、怖いじゃん。


飛香: なっ…


日向子: 確かに……


春時: だろ?笑。ということで、俺は守里達の勉強会の方に参加します。


日向子: わっ!春時だけズルい!!私も守里達の勉強会の方に!!


飛香: は?日向子から勉強会を誘っておいて、それはないでしょ。絶対に逃がさないからね。


日向子: ひゃ~


飛香: これまで以上に厳しくやるから。あと、春時も、次のテストは私達の勉強会の方に強制参加ね。


春時: ……い…


飛香: ギロッ!!


春時: かしこまりました。


守里: 笑、で、どこで勉強会をしようか。


祐希: 守里の家は?


守里: それが、蓮花が友達を呼ぶみたいでさ。


日向子: 彩芽ちゃんと玲衣ちゃん?!


守里: あれ、会ったこと………あ、そういえば、この前、蓮花が休みの日に外で遊んでたら、日向子と会ったって言ってたな…


日向子: そうなの!そこで友達になったんだ~


守里: 良かったじゃん笑


春時: それで、その蓮花ちゃんの友達が守里の家に来るから、守里の家では勉強会ができないってことだな。


守里: そういうこと。


祐希: じゃあ、祐希の家で良いでしょ。


守里: 良いの?


祐希: うん。祐希の家で勉強会をしよう!


守里: ………勉強会が始まるギリギリまで寝るつもりでしょ。


祐希: ギクッ……そ、そんなことないよ~


春時: なるほど笑。道理で、すぐに自分の家を提案したわけだ。


祐希: グヌヌ……バレては仕方がない。でも、別に良いよね!


守里: まぁ、勉強の途中で寝ないなら…


祐希: 絶対に寝ません!


守里: 笑、言ったね。約束だよ。


祐希: うん。


春時: じゃ、日曜までに部屋を片付けときな笑


祐希: ぐっ…別にいつも片付いてるし。


春時: へぇ~昔はあんなに散らかってたのに。成長したんだな~


祐希: う、うん!


飛香: 笑、ほんとにそうなら、日向子は負けちゃったね。


日向子: え?


飛香: だって、日向子の部屋は変わらず散らかってるじゃん。


日向子: っ!そ、そうかな~昔に比べれば、私も片付けられるように……


守里 飛香: なってないね。


春時: 笑、2人が揃って言うなら、そうなんだろうな。


日向子: く、くぅ~


守里: これから頑張ろう、日向子。祐希みたいに、部屋を片付けられるようになろう。祐希、みたいに。


飛香: そうそう。ちゃんと部屋を片付けられるようになった、祐希、を見習って日向子もできるようになろう。


日向子: 分かった!!祐希ちゃんみたいに、私も頑張る!!!


祐希: が、頑張ってぇ……


春時: 笑、こっちの心にも刺さったな。



と、教室の中で、守里達の話が盛り上がっている一方で、教室の外に出た陽芽叶と美月は……



陽芽叶: この辺なら良いかな。


美月: …



全く人気のない廊下の突き当たりで立ち止まり、陽芽叶は後ろについてきていた美月の方を向く。



陽芽叶: 人は来てないね。


美月: ねぇ、陽芽叶。守里の記憶について聞きたい、って、どういうこと?



先程、陽芽叶が見せてきた紙切れに書かれてあったことについて尋ねる美月。



陽芽叶: どういうことって……美月なら分かってるんでしょ?


美月: ……守里のお姉さんに関する記憶ってこと?


陽芽叶: そう。森崎優茉さんについての記憶を、守里がどれだけ取り戻しているか、ということを聞きたいの。


美月: …なんで、知ってるの?


陽芽叶: そりゃもちろん、知ってるに決まってるじゃん。私も、まいまいさんとは遊んだことあるし。


美月: いや、そういうことじゃなくて。陽芽叶が守里と一緒に遊んでたのは、5歳ぐらいの時まででしょ?そして、まいまいさんが入院したのは、守里が13歳ぐらいの時だから……

陽芽叶: あぁ。なんで私が、まいまいさんが入院して、守里がまいまいさんの記憶を失い、月に一度だけ記憶を思い出して、病院にお見舞いに行っていることを知っているのか、ってことか。


美月: …うん。


陽芽叶: それは……守里のお父さんに聞いたからだよ。


美月: え、景信さ…お義父さんに?


陽芽叶: うん。私のお父さんと、守里のお父さんは仲良しだからね。その、まいまいさんが入院した時に、お父さん伝で、私も聞いてたんだ。


美月: そうだったんだ……


陽芽叶: でも、私も飛香達と同じように、病室までは守里についていけないからね。一緒に病室まで行って、まいまいさんの様子を見つつ、守里の記憶がどこまで戻っているかを確認してる美月に、話を聞きたいの。


美月: なるほど、了解。ちょっと待ってね。



そう言って、美月は携帯を取り出し、守里の記憶について書いていたメモを確認する。



美月: えっと、時系列順で説明した方が良い?


陽芽叶: そうだね。できるなら、お願い。


美月: じゃあ、まず今年の6月は、まいまいさんの名前と年齢だけ。7月にはそれに加えて、好きな食べ物と、小さい頃にギフトモールに行ったこと、日向子達と遊んだことがあることを思い出してた。


陽芽叶: それでそれで?


美月: 8月は特に変わりなしで、9月はお父さんとまいまいさんと一緒にBBQをしたこと、10月はまいまいさんが文化祭期間だった時のことを結構思い出してて、11月は残念ながら、一緒に病院に行けなかったから、分からない。


陽芽叶: そっか…


美月: で、12月はまだのはず。来週辺りに行くことになるんじゃないかな。


陽芽叶: 分かった、ありがとう。


美月: 何か、聞きたいことはある?



携帯から視線を離して、陽芽叶の方を見る。



陽芽叶: …守里がまいまいさんの記憶を思い出した時は、感情が抑制されたロボットみたいな状態になると思うんだけど、それは何か変わった?


美月: あ、うん。どんどん感情が出るようになってきたよ。


陽芽叶: …感情が出るようになったのは、6月なんだよね?


美月: いや、私は6月より前は一緒に行ってないから分からないけど、飛香達が言うには、そうみたいだね。


陽芽叶: お母さんの記憶は?


美月: 全く思い出してない。


陽芽叶: そう……


美月: なんで、お母さんのことだけは、思い出せないんだろう…


陽芽叶: ……ま、いずれ、まいまいさんの記憶と同じように思い出すでしょ。


美月: …いずれ、か………よし、これからも守里に家族の暖かさを伝えていかなきゃ!


陽芽叶: ん?どういうこと?


美月: その、飛香と春時も含めて、みんなで考えた結果、私達が守里と家族になったことが、最初のあの変化をもたらしたに違いないから、一緒に家族として過ごして、守里に家族の存在…暖かさを伝えることが、守里の記憶を取り戻すことに繋がるはず、ってことになったの。


陽芽叶: ふ~ん。良いね。美月、頼んだよ。


美月: うん!任せといて!


陽芽叶: 笑…


美月: ……あ、あのさ、陽芽叶はさ…


陽芽叶: なに?


美月: まいまいさんを思い出してる状態の守里に、まいまいさんのことを教えて、無理やり記憶を思い出させようとすることには、反対…かな?



少し不安そうに、美月は陽芽叶に聞く。



陽芽叶: …良いんじゃない?記憶を早く取り戻すことに越したことはないし、もし、何か守里に起こったとしても、病院の中でだからね。どうにかなるさ。


美月: …やっぱ、何か起こるかな?


陽芽叶: 笑、ただでさえ、まいまいさんとお母さんの記憶だけ失うとか、月に一度だけ思い出すとか、守里の脳は普通の状態じゃないんだから、その心配は今更だよ。


美月: ……


陽芽叶: 大丈夫。守里を信じて、美月のやりたいようにやりな。


美月: ……うん。守里と…陽芽叶を信じる!


陽芽叶: 笑、そうして。



自分の考えを大丈夫だと言ってくれる人の言葉を受けて、美月は決意を固め、陽芽叶はその様子を笑顔で見守った。



美月: ってか、陽芽叶は、まいまいさんのことで、何か知ってることはない?


陽芽叶: 知ってることか。もう会ったのは、それこそ5歳ぐらいの時で、12年前だからね。古い記憶にはなるけど、やっぱり、まいまいさんは、優しいお姉さんって印象が強いかな。


美月: 陽芽叶と遊んでる時も、優しく面倒を見てくれた感じ?


陽芽叶: うん。まぁ、私達が5歳の時には、既にまいまいさんは小学校に入ってたから、機会は少なかったんだけど、私と日向子と守里が一緒に遊んでると、混ざって一緒に遊んでくれたよ。


美月: へぇ~


陽芽叶: あと、まいまいさんについてのことで、美月がというか、みんなが意外と知らなさそうなことは……


美月: 何かある?


陽芽叶: あ、まいまいさんと守里が異父姉弟ってことは、知ってる?


美月: え?そうなの?


陽芽叶: やっぱり知らなかったか。まぁ、わざわざ言うことでもないし、2人も気にしてなかったからね。


美月: っと、それじゃあ……どうなるんだ?


陽芽叶: まいまいさんは、守里のお父さんとお母さんが結婚した時の、お母さんの連れ子ってこと。


美月: そうだったのか…


陽芽叶: けど、あんまりこの情報は、守里の記憶を取り戻させる助けにはならないかな。守里にとっては、まいまいさんは、生まれた時からお姉さんだから。


美月: そうだね。


陽芽叶: 今のところ、私が思いつくのはこれぐらいだよ。


美月: ありがとう。


陽芽叶: 笑、また何か思い出したら、教えるよ。


美月: お願い笑


陽芽叶: よし、聞きたいことは聞けたし、教室に戻ろう。


美月: うん!



元気に返事をして、美月は来た道を戻り出し、今度は陽芽叶が、その後ろについて行くこととなり…



陽芽叶: …(さて…美月からの話も聞けたことだし……明後日、お父さん達としっかり話し合おう。これからのために。)



前を歩く美月の後ろで、陽芽叶も決意を固めるのであった。




to be continued
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