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第8章 生徒会選挙編

第300話「生徒会選挙 前編」

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灰崎: これより、第45回伊衛能高校生徒会選挙を開始します。



5限目の始まりを知らせるチャイムが鳴り終わったタイミングで、灰崎のこの言葉がマイク越しに体育館中に響き、生徒達の背筋を伸ばした。



灰崎: まずは、現生徒会長、櫻宮麗華の挨拶です。



立候補者達の席と、守里達が立っている場所の真反対で進行をする灰崎。

その後ろに座っていた櫻宮が席を立ち、隣の七星からマイクを受け取った後、堂々とした足取りでステージに上がった。



櫻宮: 皆さん、こんにちは。現生徒会長の櫻宮麗華です。



櫻宮麗華には、人を引きつける魅力がある。

それは、櫻宮の美しい外見や、溢れるオーラ、強い意思のある行動等から来ているのはもちろんだが、1番は別にある。



櫻宮: 生徒会長としての挨拶は、別にこれが最後ではないので、いつも通り手短に済ませますが…



たったこれだけの、特に意味もないような言葉でも、生徒達は、先生達は、櫻宮から意識を逸らすことなく、その言葉を聞く。


なぜなら、櫻宮の言葉には、感情と意思が乗るからだ。

その言葉を聞くだけで、櫻宮の持つ熱意や期待、感動が伝わってくる。


これが、櫻宮麗華を人の前に立ち導く存在たらしめる所以なのだ。



櫻宮: 今日の投票の結果で、1人1人の選択次第で、これから1年の伊衛能高校の行事が、動きが、あり方が変わります。だから、全員が、自分の持つ一票に責任を持ってください。そして…



ステージ上から、生徒全員の顔を眺めつつ一拍置き…



櫻宮: 期待を持ってください。



微笑みながらそう言った。



櫻宮: …これで挨拶を終わります。



生徒の反応を見た後、マイクを下ろした櫻宮は、ステージ上で一礼して元の席に戻る。



守里: やっぱ、さすがです、櫻宮さんは。


中谷: うん。ま、今日は特に気合いが入ってたみたいだけど。


守里: ですね。次代の会長候補達の視線を強く感じていたからでしょうか。


中谷: かな笑



その後、生徒会選挙は立候補者達とその代表推薦者達の演説へと入った。

まずは監査から、代表推薦者、立候補者の順番で演説は進んで行く。


椅子に座る生徒達は、演説を聞きながら、その話者とステージの両脇にあるスライド、そして事前に配られた資料を、それぞれに見る。

耳に入ってくる話と、首を動かして得る3方向の情報を頭で整理しながら、誰に投票するかの最終決定を行わなければいけないため、生徒達はかなり大変なのだが、誰もそれを放棄したりはしない。


まぁそれは、能高生徒が優秀ということもあるのだが、何より、生徒会の監査と会長に立候補しているだけあって、立候補者本人も、その人が選んだ代表推薦者もかなり優秀であるからだ。

手元にある資料も、スライドに映る資料も分かりやすく、話も上手い。


よって、生徒達は、飽きることなどなく、一生懸命に演説を聞き、情報を整理することで、長いと思っていた選挙の時間もあっという間に過ぎていき…



灰崎: 最後に、生徒会長立候補者、川嶋志帆さんの演説に移ります。



この灰崎の言葉で、強く手を握った川嶋と、自然な状態の美月が席を立ち、ステージに上がる。

そして、川嶋はステージ脇で止まり、美月は中央に立って、一礼した。



美月: こんにちは。生徒会長立候補者、川嶋志帆の代表推薦者の白城美月です。ほんの数分ですが、よろしくお願いします。さて、公約や決意みたいなことは、この後本人から直接聞くことになると思いますので、私からは、川嶋志帆の魅力を皆さんにお伝えできればなと思います!



初めの真面目な顔と凛々しい立ち姿から一変、いつもの笑顔と明るい雰囲気になった美月に、生徒達は少し驚きつつも、さらに引き込まれる。



中谷: 笑、このタイプで来たか。守里君の入れ知恵?


守里: いえ、僕じゃないですよ。


中谷: そう笑。誰が考えたかは分からないけど、上手く作戦がハマったじゃん。同じようなことを誰もやってなかったし。


守里: ですね。


中谷: うわぁ、悪い顔してる笑。さっきまでの演説を聞いてて、内心では喜んでたんでしょ。


守里: そんな、滅相もない笑


中谷: どうだか笑



そんな2人の隣では…



鹿川: 美月ちゃん、すごい。全く緊張してない。


倉田: …まゆちゃんも同じでしょ。


鹿川: いや、私だって、あんな感じでみんなの前で話すのは、少し緊張するよ。でも、美月ちゃんはいつも通り過ぎる。


倉田: あれは……緊張してないというより、自然体を演技している……ように見えなくもないです。


鹿川: あぁ~……確かに!


倉田: まゆちゃん。


鹿川: あ、ごめんなさい。


倉田: はぁ……せっかく静かにできてたのに。



と、倉田がため息をつく中でも、美月の演説は止まらない。



美月: まずは見てください!この、美し過ぎる姿を!白過ぎて、もはやあそこに雪が積もってるんじゃないかって思うぐらいじゃないですか?!まぁ、それと共に透明感も異常なぐらいにありますから、人によっては見えないかもですね笑。いや、場合によっては、白い光を発しているようで、眩しくて見えないってことにもなりそうじゃないですか?どうです?皆さん!


手始めに外見から。

川嶋の魅力を、イジりを含みつつ熱意を持って伝える。


ここから、その熱意を保ったままに、川嶋の性格と、会長になった時のメリットへと話を繋げていく。



美月: さぁ、冗談はさておき、こんな超絶美人が会長になったら、皆さんも嬉しいですよね?それに地域の人々も盛り上がって、行事やイベントがさらに活性化しそうだと思いません?と、ここで待て待てと。外見が良いのは見れば分かるけど、内面がアレだったら会長なんて務まらん!そういう心の声が、この私には聞こえてきます。しかし大丈夫です!この川嶋志帆は内面まで生徒会長にふさわしい最強ですから!



初めこそ、美月による体育館全体の雰囲気の変化に、戸惑っていた生徒達だったが、段々とその雰囲気にも慣れ、口角が上がり、意気揚々と話す美月と、その隣に立つ川嶋だけに、視線を向けるようになる。



日向子: 美月ちゃんノリノリだね笑


飛香: うん。今のところ作戦通り……いや、ちょっとテンション上がり過ぎかな。


日向子: でも、良いじゃん。楽しそうだし!


飛香: 笑、だね。(正直、本番で美月が緊張して、作戦が上手くいかないかもって心配してたけど、杞憂だったみたいね。練習の時に比べて、若干、手振りが多くなって、視線をステージ下に向ける時間も長くなってるから、緊張はしてるっぽい。でも、それを全く表に出さずいつもの自分を演じてる。さすが美月だな。)


日向子: あ、今、美月ちゃんを褒めたでしょ笑


飛香: え?…別にそんなことないけど。


日向子: うっそだ~笑


飛香: …演説聞くよ。(まさか日向子に見抜かれるとは……顔に出てたかな……表情作りを練習しなければ。)


日向子: は~い!



体育館にいる全員の視線を受けながら、美月は元気よく笑顔で話す。



美月: 川嶋志帆は、真面目で努力家で、自分の納得が行くまで、ひたすらに突き進む人です。たどり着きたい未来に向かって、計画を立てて努力を積み重ねながら歩く。もちろん、途中で周りからアドバイスをもらえば、それも柔軟に取り入れますし、途中で状況が変われば、それに合わせて計画を変更し、再び歩き出します。そんな人なんです。皆さん。この人こそ、伊衛能高校の生徒会長にふさわしい人だと思いませんか?より良い能高…もっと細かくいけば、より良い体育祭、より良い文化祭に向かって、ひたすらに突き進むことができるんです、川嶋志帆は!!



左手を川嶋の方に向け、右手に持つマイクに向かって大きく口を開きながら、生徒達に熱く訴えかける。

そして、ステージ下の生徒達に視線を広げつつ、一呼吸つき、笑顔はそのままに声のトーンを激しいものから穏やかなものへと変え…



美月: 皆さん、想像をしてみてください。この川嶋志帆と、川嶋志帆が作り上げた最強の生徒会が、皆さんの前に立ち、共に進んでいく未来を。最高じゃないですか?笑。では、そろそろ、この最強雪だるまさんの引き立て役である私の話を終えて、本人の口から色々と語ってもらいたいと思います。ご清聴、ありがとうございました。



この言葉のあと、一礼をして代表推薦者としての演説を締めくくった。



鹿川: いや~面白かった~


中谷: それはそうだけど……美月、川嶋ちゃんのことイジり過ぎじゃない?笑


守里: まぁ、確かに昨日の夜に練習してたものよりも、言葉が増えてるような気がしなくもないですが、作戦通り、ここ全体の雰囲気を熱いものへと変えることができましたし……それに…



視線をステージ脇の方に向ける。



守里: 志帆の集中は乱れてないみたいですから。



生徒達の拍手が響く中、笑顔の美月がマイクを手渡し、ステージ脇に下がる。

入れ替わるように、凛とした表情の川嶋が、ステージの中央に進む。


拍手がまばらになってきた瞬間を狙い、川嶋は足元を見ていた視線を、ステージ下の生徒達へと向けた。

すると、完全に拍手が止み、全員の注目が川嶋に移る。


それを感じ取った川嶋は、一礼をして顔を上げた後、マイクに向かって口を開いた。



川嶋: こんにちは。今回、生徒会長に立候補した、川嶋志帆です。



こうして、川嶋の演説が始まったのだった。




to be continued
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