ただ守りたい…〜大事な人を守るには、金と権力と腕っ節…あと諦めない心が必要です〜

ドラると

文字の大きさ
上 下
226 / 340
第7章 文化祭編

第226話「文化祭まであと少し」

しおりを挟む
「きゃーっ! ユリアン王子様ぁーっ!」

 今日もだと思った。オレは、自身に向けられる黄色い歓声に、ため息をつく。

 決して、わずらわしいという意味ではない。
 賞賛してくれるのはありがたいし、気分も悪くなかった。
 だが、自身の魅力など、王国の第一王子という肩書きだけだ。

 自分なんかより素晴らしい人々は、もっと他にいるだろうに。
 たとえば、目の前にいる二人組とか。

「ユリアン・バルシュミーデ王子、ゴキゲン麗しゅう」

「こんな朝早くに王子と出会えるなんて、なんと運のいいことなのでしょう!」

 二人組の女子生徒が、手を繋ぎながらあいさつをしてきた。

「ええ、ごきげんよう。けれど」

 オレは、二人に視線を移す。

「お二人の方が、余には尊き百合の花に見えますぞ」

 最大級の賛辞を、二輪の花に送る。

「まあ、もったいなきお言葉!」

「王子のお妃となられるお方を差し置いて、そんなお言葉を書けてくださるなんて、恐れ多いですわ」

 二人は、こちらの褒め言葉を素直に聞き入れない。
 世辞だと思っている。

「お二人は、親しい間柄なのかね?」

 聞くと、二人はうなずいた。

「はい、幼なじみです!」

「子どもの頃から、ずっと一緒ですわ!」

 互いを向き合う二人は、手を強く握り合う。
 その目には、もうオレは映っていない。

 それでいいのだ! ああもうすごくいいよ! たまんない!

「ケンカもするけど、すぐ仲直り!」

「そうですわよね? 髪留めもお揃いなのですわ!」

 言って、二人とも左右それぞれに同じ髪留めをしている。
 一つは赤く、一つは青かった。二つ合わせて尊い色だ。

 あら~っ、助かるぅ! 朝からいいモノ見たわ~。

「王子、どうなさいまして」

 声をかけられてようやく、自分が虚空を見上げてヨダレを垂らしていると気づく。

 いかんいかん。オレは一国の王子、醜態を晒すわけには。

「コホン。そうだ。いい物を見せてくれたお礼に、コレを」

 妄想をごまかすため、懐をまさぐった。お、あったぞ。

「これは?」

 二枚の半券を渡すと、少女たちは問いかけてきた。

「学食の食券ですぞ。お二方、これでコーヒーでも飲んでください」

「え、そんな。タダで受け取れません」

 申し訳なく思ってか、少女は食券を返してくる。

 その手を、オレはそっと受け止めた。

「これは、余の気持ちなのです。二人の友情に、余は痛く感動しました。二人の明日に、幸多からんんことを」

 言い残し、オレはその場を立ち去る。

 ああ尊い。セットでアイテムを共有するとか、助かるわ~。

「お見事ですわね、ユリアン・バルシュミーデ王子」

 絵に描いたような金髪碧眼の清楚な女子生徒が、オレの前に立って微笑む。

「これはこれは、聖ソフィ殿」

 聖ソフィ・ル・ヴェリエ。ヴェリエ侯爵の第一王女である。

「まさか、私以外の方にも、ツバを付けていらっしゃるの?」

「オレがいつ、キミにツバを付けたって?」

 極めてどっちらけな口調で、オレは返す。

 普段は「余」なんて仰々しく話すが、親しい人とは砕けて会話するのだ。

「まあっ。未来の嫁候補に向かって、そんな口の利き方をなさいますの?」

 彼女は、というか彼女の両親と我が国王は、オレとソフィをくっつけたがっている。
 かたや王家。かたや農場や商業を統括する有力者。
 結束力を高めたいのだ。

「バカバカしい。オレはキミとの結婚なんて、まっぴらゴメンだ」

 それに、相手にとっても失礼だろう。

「オレなんかより、ずっと素晴らしい方と結ばれるべきだ。たとえば……」

「もう聞き飽きました。でもいつか、わたくしに振り向いていただきます」

 ソフィが、勝利宣言とも取れるセリフをのたまう。

「ご冗談を。王子の心を射止めるのは、このわたくしですわ!」

 ゆるふわな真っ黒い髪を高めのポニーテールにした少女が、取り巻きを連れて現れた。今にも高笑いしそうだ。

「おはようございます。ツンディーリア・デ・ミケーリ様」

「ソフィさまも、ごきげんうるわしゅう」

 二人はいかにもな、かしこまったあいさつを交わす。
 が、オレには二人の間に、バチバチという火花が見えた。

 聖ソフィに対抗心を燃やすのは、隣国から留学してきた王女ツンディーリアである。頭に小さく、黒い二本の角が見えた。彼女は、ドラゴンの血を引いているのだ。

「相変わらず、清楚なフリをしてプロポーズなさるのね。殿方は、少しは毒のある方がよろしくてよ」
 ツンディーリアが先制パンチを出す。

「あらぁ? 毒とトゲの違いもわからないのですわね?」

 始まったな。

「二人ともよさないか。ケンカをするのはキライだぞ」

 オレが間に割って入り、制止する。

「魔法使うのも禁止。ホラ、窓も割れかけているじゃないか」

 カタカタと鳴る窓に、オレは手を添えた。
 ガラスに入ったヒビを、魔法を唱えて直す。

「王子がおっしゃるなら」

「ですが、どちらが相応しいかは一目瞭然ですわ」

 ツンディーリアは、隣のクラスへ帰って行く。

 その背中を、ソフィは切なそうに見送っているように、オレには思えた。

 一連のやりとりも、オレには二人が単にじゃれているような気がしてならない。オレなど関係なく。

「この二人がくっつけばいいのに」

 オレは、ずっと思っている。

「なにかおっしゃいましたか、王子?」

「いや、別に。二人の仲がもっとよくなれば、と願っただけだ」

 心の声が、漏れ出てしまっていたか。うかつな。

「その可能性は、限りなくゼロです」

「ですわ。なんといっても我々は、王子の花嫁候補ですもの」

 ソフィもツンディーリアも、譲らない。
   
 でも、二人が惹かれ合っているのはわかるぞ。


 だって、オレは「百合おじ」だからだ。
 いわゆる百合大好き王子である。
 
 といっても、「百合の間に挟まりたい」などと言う歪んだ欲求はない。

 その様な輩を嫌う。たとえば、

「おーっす」

 仲が良さそうにしている女子二人の一人に、男子生徒が肩を組む。

 組まれた相手は女子と親しくしようとしているが、男子に遮られて会話ができない。

 む! 反百合センサー反応!

 さりげなく、男子生徒の手をどかす。

「キミ、もうすぐ授業が始まる。席に着きたまえ」

「なんです、王子? うらやましいのですか?」

 男子生徒は、ちっとも悪びれた様子がない。自分がこの女子達に好かれていると思っている様子だ。

 嘆かわしい、実に。

 一方、女子生徒は手を取り合って、男子の枠を塞ぐ。

 わかっておりますぞ、乙女殿。

「デリカシーがありませんね、キミは。おそらく彼女たちは、キミら男子には知られたくないお話をしていたのですよ。例えば恋バナとか。あるいは、とある男子生徒の悪口とか」

 あえて察してもらえるように、男子生徒に告げる。

 決まりが悪くなった男子生徒は、女生徒二人から席を離れた。

 オレも自分の席へ向かう。

 小さく「ありがとうございます」という声が、背後から聞こえた。

 が、オレはあえて無視する。

 ここで受け答えすれば、変な恩を抱かせてしまう。
 あくまでも偶然を装うのだ。遺恨も残したくないしな。

 百合の間に、男子必要なし!
 これこそ、百合王子のプライドだった。




 全ての授業が終わり、コーヒーでも飲もうとバラ園へ。

「あ~。今日もいい百合を見たなぁ。明日も楽しめるだろ……ん?」

 いつも誰もいないバラ園に、誰かがいる。

「声を出してはダメだろ?」

「人が来ますわ」

 ヒソヒソ話が、一番大きな花壇の向こうから聞こえてきた。

 ゆっくりと、声のする方へ向かう。
 オレの足を、好奇心が突き動かす。
 どうにも、聞き覚えのある声だったからだ。

 あれは、ツンディーリアではないか。
 ショートカットの美男子に、言い寄られていた。

 それにしても、あんな男子生徒いたっけ?
 いや、オレの百合センサーが暴れている。

 あれは変装、つまりフェイクだ!

 髪が妙に膨らんでいて、不自然だった。
 腰回りも、少年というより美少女に相応しい。言うなれば、男装の麗人だ。声も女っぽい。

 オレの目をごまかせると思うなよ!

「人が来たからなんだって。ボクは構うもんか。キミが挑発してくるからだろ?」

「だって、あなたは毎回王子と楽しく語らっていますもの! 邪魔したくもなりますわ!」

 ツンディーリアが言うと、麗人は指でツンディーリアにアゴクイした。

 アゴクイだ! 生アゴクイ初めて見た! アゴクイィィィィ!

「いいかい。ボクはキミだけを見ている。ツンディーリア」

「ああ、愛しています。ソフィ」

 ソフィだと!?

 動揺して、オレは茨を踏んでしまった。

「いってえええ!」

 オレが絶叫すると、二人の視線がこっちを見る。

 同時に、ソフィのカツラが落ちて、金髪が夕焼けに流れた。

「王子! どうしてここが!」

 相当焦っているのか、ソフィは少年ボイスが抜けていない。

「ユリアン様、このことは……」

 ソフィがツンディーリアをかばう。

 オレは咳払いをして、ベンチに腰掛ける。

「構わん、続けたまえ」

「余計やりづらいわ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...