上 下
192 / 318
第6章 修学旅行編

第192話「椎名の力」

しおりを挟む
旅館近くのうどん屋の個室で、守里と防衛団情報部特級団員の椎名が、楽しく話していると…


ピピピピ



椎名: おっと、もうそんな時間か。


守里: え?……22時30分…消灯時間まで残り30分…だと…


椎名: 話し過ぎたね笑


守里: う、うん。ごめんだけど、僕はもう旅館に戻らないとヤバい笑


椎名: 分かった。私も仕事あるから、解散しよっか。


守里: 今から仕事…


椎名: アンチの動向を探らないとだから笑


守里: っ!あのさ、現時点で分かってるだけで良いんだけど、アンチがどこら辺にいるかとか、注意しとくべき所とかある?


椎名: 私が聞いてばっかりだったから、守里の質問にも答えなきゃだね笑


守里: お願い。


椎名: 笑、お願いされなくても教えてあげるって。それで、京都にいるアンチについて、私も今日来たばっかりだから、大した情報はないけど、印象としては、大阪より人数が少ないわりには、動きが活発というか、変に目立つ奴が多いって感じかな。


守里: 変に目立つ?


椎名: うん。大阪にいるアンチの構成員は、できるだけ人目につかないようにしているのか、私達も見つけるのに苦労したんだけど、京都の構成員は結構すぐ発見できたんだよね。


守里: すぐ発見できた理由は?


椎名: 自分をヤバい組織の構成員だ!って自慢する奴がまぁまぁいて、情報を手に入れやすかったんだ。


守里: へぇ…


椎名: 面白いよね笑。ネットにある大阪と京都のイメージと、アンチの構成員のタイプが真反対。なんでなんだろう?……守里はどう思う?


守里: 聞いた話によると、大阪にはアンチの幹部がいる可能性が高いんでしょ?


椎名: うん。


守里: なら、大阪には幹部…偉い上司が常にいるから、下っ端達もずっと気を引き締めて行動しているけど、京都にはそういう偉い上司がいないから、下っ端の気が緩んでいる…いや、教育が行き届いていないとか、かな。


椎名: なるほど、なるほど。守里はそう考えるのか。


守里: 愛理ちゃんは?


椎名: 私も概ね一緒の考え。


守里: …この考えが正しいとすると、下っ端…中位と下位の統制が取れてない可能性もあるよね。



椎名: うんうん。おそらく、守里が京都に来る前ぐらいまでは、実際にそうだったんだと思う。昼間から南区の居酒屋で、お酒を飲んでる構成員もチラホラいたし。


守里: 僕が京都に来る前?


椎名: そう。守里が京都の旅館に到着した18時頃からね、アンチの構成員の行動に変化があったの。


守里: どんな?


椎名: 元々、構成員のほとんどが南区にいたんだけど、その時間を境に、どこかに向かって移動し始めたんだ。


守里: 追跡は?


椎名: もちろんやってたよ。でも、残念ながら向こうは、ここら辺で育ってる奴らだから、私達が把握できてない抜け道とかを知っているのか、途中で巻かれたんだよね。


守里: 行先は全く分からない感じ?


椎名: いや、1番長く追跡できた団員の報告によると、西京区のどこか。


守里: 西京区って確か、京都の中でもめちゃくちゃ治安が良い所じゃなかったっけ?


椎名: そのはずなんだけどね~裏の組織の拠点を、治安の良い場所に設置してみれば、バレにくいみたいな発想なのかな笑


守里: かもね……18時頃から、京都にいたアンチの構成員が、一気に西京区に向かって移動し始めた…ということは、その時間帯に、西京区の拠点に集まるよう命令が下ったのか…


椎名: 仮にそうだとしたら、京都にいる全構成員を問答無用で動かせるような命令を、誰が下せるんだろうね。さっきの話を踏まえると。


守里: さっきの話…京都には偉い上司的な存在がいない……はっ、もしかして、その18時頃に、偉い上司的な存在が、京都に来て命令を下した…


椎名: って考えれば、全構成員を集めた理由も自ずと分かってくる。私達と同じ、挨拶。つまり、顔合わせとこれからの行動についての打ち合わせ。


守里: なるほど…


椎名: 今、防衛団はその可能性が1番高いと考えて、調査をしてるのよ。


守里: その調査に、これから愛理ちゃんは向かうってこと?


椎名: うん。


守里: ほんと、気をつけて。


椎名: 笑、ありがと。心配してくれて。


守里: いや、友達なんだから。


椎名: そういうものってことか……ふんふん、友達について少し分かった気がするぞ笑


守里: 笑、情報を教えてくれて、ありがとう。


椎名: どういたしまして。


守里: よし、聞きたいことも聞けたし、僕は帰るよ。


椎名: そっか、なら私も出る。えっと~


守里: 10杯ぐらい食べてそうだけど、お金は大丈夫なの?


椎名: うん!多めに貰ってるから。



引き戸を引き、個室を出ながら、ポケットから財布を取り出す椎名。



守里: ふ~ん… 



防衛団の給料って、どんなもんなんだろう。

階級によって変わってくるとは、思うんだけど…


実際ところ、愛理ちゃんってどれぐらい貰ってるんだ…



椎名: 店主さん!お勘定!


店主: はいよ!



そうして、守里が椎名の給料事情について考えている間に、椎名は食べたうどんのお金を払い、2人はお店を出た。



椎名: じゃあ、また!


守里: うん。頑張って。


椎名: 頑張ります!守里も、何かあったらすぐ連絡してよね。


守里: 頼りにしてる。


椎名: 任せとけ!


守里: 笑、バイバイ。 


椎名: バイバイ!!



と、手を振って別れようとしたところで…



守里: あ。


椎名: ん?


守里: どうやって旅館の中に入ろう…



旅館から出る時のことは考えてたけど、逆に旅館に戻る時のことは考えてなかった…


どうしよう。

たまたま出る時は、エントランスに先生がいなかったけど、今は確実にいそうだもんな…



守里: う~ん…


椎名: なに、困り事?頼って頼って!笑


守里: ……分かった。



友達から頼られるということを経験したかった椎名のキラキラとした視線を受けて、守里は今の状況を話した。



椎名: なるほどね~よし、早速任せて!守里を無事、旅館の中、2階へと続く階段に送り届けてあげるから!


守里: う、うん。



安心…できるはずなんだけど…

防衛団の特級団員なんだし。


でもやっぱり、不安なんだよな、同い歳の子なわけで。


意気揚々と旅館に向かって歩き始めた椎名に、守里は少し不安を覚えつつも、ついて行った。




2分後…


とうとう、旅館の目の前に到着した2人。



守里: 僕はどうすれば良い?


椎名: 私が入った後、自動ドアが開いてる間に、旅館の中に入って、階段まで少しゆっくりなペースで、普通に歩いて行けば良いよ。


守里: ゆっくり歩くの?


椎名: うん。何も隠れようとか、早く行こうとかしなくて良いから。ただ少し遅めに歩けば良い。


守里: …OK。愛理ちゃんを信じる。


椎名: 笑、任せて。



そう言って、椎名は旅館の正面入口の自動ドアを開かせ、中に入って行った。


ウィーン



「っ!!!!」


守里: っ!!…あ、僕も行かないと…



なんだ、あの異常なまでのオーラ…

これまでに感じたことがない、人を寄せ付けるというか、自然と目がいってしまうようなオーラを愛理ちゃんから感じる。


守里が感じたオーラによるものなのか、椎名が旅館の中に入った瞬間に、エントランスにいた人全員が、自動ドアから入ってきた椎名に視線が釘付けとなってしまった。


そのおかげで、他の人と同じように椎名へと視線が一瞬固定され、動きが遅れた守里が、自動ドアから旅館の中に入ったことに、誰も気づかなかった。



椎名: (今のうちに、早く階段へ行くのよ守里。)


守里: …



椎名に言われた通り、守里はゆっくりとしたペースで歩き、階段へと無事、到着することができた。


その間も、エントランスにいたほとんどの人の視線は、フロントに向かって歩く椎名に、向けられていた。



椎名: あの、御手洗を貸してもらいたいのですが。


フロント: っ!あ、御手洗ですか。ど、どうぞ、こちらにございます。



素早く立ち上がって、エントランスにあるトイレまで、椎名を案内しようとする受付の女性だが…



椎名: あっちね。良いのよ、自分で行くから。ありがとう。


フロント: か、かしこまりました、ありがとうございます。



フロントとの会話を終わらせた椎名は、そのまま人々の視線を奪いつつ、トイレへと向かい…



椎名: 笑…チラッ



扉の中に入る瞬間に、トイレがある通路とは、反対側の階段にいる守里と目を合わせる。



椎名: (じゃあね。楽しんで。)


守里: 笑



ありがとう、愛理ちゃん!


そうして、守里は椎名へ感謝しつつ、階段を上り、自分の部屋に向かった。




5分後…


ウィーン



椎名: (さっ、西京区に行ってみますか。)



急遽入った友達からの頼まれごとを、しっかりと終わらせた椎名も、旅館を出て、次の仕事へと向かった。



フロント: (今の人…女優さんかな…)


従業員: (周りがキラキラしてるようだった…自然と目が行った…)



と、守里と椎名が去った旅館のエントランスにいた人々が、同じような感想を抱いている中で…



剣崎: 笑(全く、しょうがない子だよ。)



エントランスにある椅子に座る剣崎は、微笑みながら、旅館の外を眺めていた。


◇◇◇


守里達の部屋


ガチャ



守里: ただいま。


春時: あ、やっと戻ってきたか。ちょっとって言っときながら、結構遅かったな笑


守里: ごめんごめん。


3班男子1: 消灯時間まで残り15分って、守里も混ざってゲームできないじゃんかよ笑


3班男子2: 残念だな~笑 


守里: ほんとごめん。明日、たくさんやろう。 


3班男子1: 笑、明日な。


灰崎: もう森崎君の布団も敷いてるから、すぐ寝れるけど、どうする?


3班男子1: いやいや、さすがにすぐ寝るってことはないよな?消灯時間だから電気は消すが、少なくとも30分ぐらいは起きてるだろ、みんな。


3班男子2: それは人によらない?笑


春時: 守里は寝付き良かったよな?笑


守里: 良い方だとは思う笑


3班男子1: …それこそ、夕方に話してた、南雲と山室の扱い方を、教えてくれよ。寝っ転がりながら。


守里: そういうことなら、頑張って寝ずに話す笑


春時: 俺も付き合うぜ。


灰崎: 僕も興味あるし……ついでに、梅澤さんと川嶋さんについても、話してくれると助かるかな笑


守里: 分かった笑


3班男子1: よっしゃ、早く電気消して布団に入ろうぜ!


3班男子2: 切り替え早い笑



そして、守里達は部屋の電気を消して、布団に横になりながら、色々な話をし…


しばらくした後、全員が眠りについた。


こうして、修学旅行一日目が終わった。




to be continued
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

お尻たたき収容所レポート

鞭尻
大衆娯楽
最低でも月に一度はお尻を叩かれないといけない「お尻たたき収容所」。 「お尻たたきのある生活」を望んで収容生となった紗良は、収容生活をレポートする記者としてお尻たたき願望と不安に揺れ動く日々を送る。 ぎりぎりあるかもしれない(?)日常系スパンキング小説です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...