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第一部

第17話「新人魔現師の戦い 8」

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「刀花!茅野ちゃん、氷室ちゃん!準備は良い?!」


「いけるよ!」


「はい!」


「準備万端で~す!」


「じゃあ、最後の模擬戦、開始!!」



観客席にいる皆や、いつからかあった、他の周りの建物の中からの視線を受ける中で、最後の模擬戦が開始された。


するとすぐに、氷室と翠月は、刀花から離れ会話をする。



「どっちも近接っぽいけど、どうする?」


「私が援護するから、茅野ちゃんが基本は前で良い?」


「OK。属性は?」


「氷。」


「なら、私は火で戦うよ。温度差ダメージも入りそうだし。」


「分かった。遠距離攻撃はできるの?」


「できなくはない。」


「じゃあ、危なくなったり交代したくなったら、交代しよう。」


「うん。」


「他に話すことは?」


「ない。」


「よし、頑張るよ。剣神様にも他の方々にも良いとこ見せなきゃ。」


「だね笑。あ、それとさ、私のことは翠月って呼んで。私も麗生って呼ぶから。」


「笑、しょうがない。やるよ、翠月。」


「はいよ!麗生!」



そうして、手短に話を終わらせ、役割も決まり、気合いを入れた2人は、それぞれ武器を抜く。

翠月は1本の剣を、刀花に向かって構え、氷室は2本の剣を両手に持ち、集中する。


それに対して、刀花は腰に差していた1本の刀を抜き、中段に構える。


一瞬の静寂と緊張感が演習場を包み、氷室と翠月の集中が最も深くなったタイミングで、翠月が地面を蹴った。

走りながら、右手に持つ剣を見て、左手をガードからポイントまで沿わせたところに火を発生させる。



「ほぉ…剣に火を纏わせるのか。」


「はぁ!」



翠月は、火を纏わせた剣で、右薙ぎ、逆袈裟斬り、袈裟斬りと美しい連撃を見せるが、相手は剣神と呼ばれる人物である。



「うんうん。綺麗な剣術だよ。たくさん修練を積んできたんだね。」



刀花は、翠月のその攻撃を最小限の動きで避け、笑顔でそう言った。



「ありがとうございます!」



キンッ!!



お礼を言いながらの、翠月の力を込めた袈裟斬りを、刀花は刀で受け止める。



グググ



「剣神様の剣術を、見せてくださっても、良いんですよ!」


「笑、もうちょっと2人の攻撃を見せて欲しいかな。」



鍔迫り合いをしながら、一言交わした後、翠月は刀花の足元を見た。


すると…



ボッ!!



「えっ!」



そこから火が発生し、刀花は後退を余儀なくされ、2、3歩後ろに下がり、再び刀を構えようとしたところで…



「マジ?!」



カキンッ!カキンッ!カキンッ!



斜め上から、小さくも鋭い氷柱が降り、それの対処に追われた。



「さすがに、これぐらいじゃ当たってくださらないか……」


「うっそ…あの氷柱を全部斬るの?笑。やっぱ、剣神様って凄いや。」



そんな刀花の動きを見て、氷室と翠月がそれぞれに感想を呟いた後、再び攻撃に移る。



「麗生!連発いける?!」


「すぐにやるよ!」


「え、すぐにできるの?」



と、刀花が驚いている間に、上空から氷柱の雨が降り注いだ。

それを、刀花はその場から動くことなく、自分の体に当たるものだけを刀で斬り、雨を凌ぐ。



「ジー……」



翠月は、好都合なことにその場で攻撃を防いでくれている刀花の、右足を十数秒間じっと見つめる。


そして…



「っ!!!」


「よし!」



そう翠月が叫び、再び走り始めた瞬間に、氷室は氷柱の雨を止ませ、次の準備に入る。


翠月は火を纏った剣で石のタイルを擦り、散らばる氷柱の破片の温度を急激に上昇させることで、水蒸気を発生させながら走り回る。

突然、右足が痺れて動かせなくなったことに戸惑う刀花が、大量の水蒸気の中で、自分を見失った上で間合いに入った瞬間に、翠月は火を消した剣を振った。



キンッ!!!



防御されることなく攻撃が当たる条件を、これでもかという程に整えた上での一撃だったのだが、刀花は動けないと分かった瞬間に、外魔力を一定範囲内に留めておくことで、翠月の攻撃を察知し、刀で受け止めた。


 
キンッ!!キンッ!!キンッ!!



その後も、翠月は連撃を放つのだが、初撃で姿を視界に捉えられたことで、完全に動きを読まれ、完璧に防御されてしまう。



「くっ……」



少しの間の攻防の末、自分の発現が切れてしまうと分かった瞬間に、翠月は悔しそうな表情をしながら、思いっきり後ろに跳んだ。



「お、足の痺れが消えた。それに茅野ちゃんの攻撃も止まったし、まずは……ふっ!」



刀を横に伸ばしたまま素早く一回転し、風を起こすことで、辺りに留まっていた水蒸気を吹き飛ばす。



「これで視界がクリアに……って、うわぁ…」



水蒸気が霧散し、視界を回復できたと思ったのも束の間、自分をその中に入れる、大きな影が段々と大きくなっていることに気がつき、すぐに上を見る。

そこにはなんと、自分に向かって落ちてくる、巨大な氷の塊があった。



「これはちょっと……新人ちゃんの域を超えてるな~笑」



と、笑いながらも刀花は刀を鞘に戻し、構える。
そして…



タッ!



空中に跳び上がり、氷の塊にぶつかる瞬間…



スパッ



氷の塊は真っ二つになり、刀花の姿はその塊の上空にあった。



「ふぅ……さて、2人は…」



高いところにいる間に、舞台を見下ろして、氷の塊を作ったであろう氷室と、再び攻撃の隙を伺っているであろう翠月を視認しようとするが…



ビュンッ!!ビュンッ!!



火の玉が下から飛んで来たことで、2人の姿を確認する前に、それの対処をしなければならなくなる。



カキンッ!カキンッ!



「ん?ただの火の玉じゃなくて、中に石が入ってるのか…」



火を纏った石礫を切り飛ばした後、垂直に落下しながらも、火の玉が飛んで来た方向に翠月がいると思い、見る。

するとそこには、足元の石のタイルを叩き割り、投げるための石礫を急いで生産している翠月がいた。



「笑、なるほどね。2人の天能が何となく分かっちゃったかも……氷室ちゃん!」



キンッ!!



刀花は、真後ろを振り向き、突っ込んで来ていた氷室が振り下ろした右手の剣を、刀で思いっきり弾く。


それにより、氷室と無理やりに距離をとり、左手に持つもう1本の剣による攻撃を事前に止めつつ、苦手な空中戦から安全に逃れた。



スタッ



「今度は、氷室ちゃんが前衛か。"属性天能"持ちで森人族…しかも双剣使い……どんな動きをするのかな。それに、おそらく付与に関連した天能を持つ茅野ちゃんが、後衛だなんて……何を付与できるかにもよるけど、面白そう笑」



と、着地した刀花が、推測した2人が持つ天能の力から、これからの戦いに期待を寄せていると…


ほぼ同時に、少し離れた場所に降り立った氷室が、火の玉と並んで走ってくる。



ビュンッ!!ビュンッ!!



少し早く刀花の元に届いた火の玉を避け、2本の剣を両手に持つ氷室を迎え撃つ。



「はぁぁ!!」



右の剣の左薙ぎ、そのまま体ごと回転し、左の剣の袈裟斬り、という双剣ならではの動きで、剣を振るう氷室。

それを刀花は後退することで避け、最後の右の剣での袈裟斬りを刀で弾く。


距離が離れたことで、刀花は少し反撃してみるかと思ったが、すぐに真正面から1本の氷柱が飛んできたことで、その考えを中断した。


カキンッ!


氷柱を剣で弾くと、もうそこには次の連撃の初動に入っている氷室がおり、双剣による激しい攻撃を受ける。


ただでさえ、修練を積んでいる双剣使いは手数が多いのに、連撃の合間に氷柱による牽制を入れてくるため、その連撃のループを止めることは、かなり難しい。

さらに言えば、氷室の連撃の途中で、翠月による火の玉豪速球が飛んでくるため、回避や防御の行動をとる対象が1つではなく、並行的に処理しなければならない。


よって、今の状況は、普通の魔現師ならすぐに倒されてもおかしくないようなものなのだが、そうはならない。


なぜなら、宮磨刀花は剣神……バーニアタムに所属する魔現師達が、対人戦闘では最も強いと言うような存在だからだ。


既に、氷室の双剣術は見切っており、氷柱が飛んでくるタイミングも、連撃の合間のみ、しかも速度は変化しないため、刀花にとっては、氷室の攻撃は簡単に対処できるものとなってしまった。

ただ、翠月の遠距離攻撃に関しては、翠月が走り回りながら、投げる速度や氷室の連撃のどのタイミングで投げるのかを変えてくるため、少し厄介ではある。


しかしそれも、氷室の攻撃を受け続けているだけなら、の話だが。




「はぁぁああ!!」



キンッ!!



氷室との剣戟が始まっておよそ2分。

ここで初めて、刀花は氷室の剣を刀で受け止めた。


それに対して、氷室はもちろんのこと受け止められていない、もう一方の剣を振ろうとしたのだが…



「笑、支えなくて大丈夫かな?」



グググ



「くっ…」



刀花は、片手で持つ刀でさらに氷室の剣を押し込み、強制的に両手の剣を使わせるようにする。


するともちろん、翠月の火の玉豪速球が飛んでくるのだが…



ビュンッ!!ビュンッ!!


スパッスパッ



「え…」



少し離れたところから、自分が投げた火の玉を見ていた翠月は、今しがた起こったことに目を見開いた。



「このぐらいなら、手刀で斬れるんだよね。」



なんと、飛んできた火の玉を、空いている手で斬ったのだ。



「ちなみに、こういうのもできるよ。」



そう言って、刀を持っていない方の手を、翠月がいる方向へ振る。



「手刀飛斬って言うんだけどね。」


「ま、マジ?!」



ダッ!



自分に向かって飛んでくる斬撃を見て、翠月は全力で地面を蹴り、横に移動した。



ビュンッ!!



刀花が飛ばした斬撃は、翠月がいた場所を通り過ぎ、観客席に当たる寸前のところで消えた。



「さぁ、ここから茅野ちゃんを狙っていくよ~」


「うわぁ……あれ多分、連発できるよね。となると、剣で受け止めるのはマズイんだよな……あれを避けながら麗生を助ける……う~ん、何とか自力で脱出してくれないかな……」



と、翠月が呟く中、氷室は氷室で、必死に刀花の刀を受け止めつつも、現状の打開策を考え、今、実行に移す。



「はっ!!」



バキンッ!!



瞬時に刀花と氷室が立っている石のタイルを凍らせて、刀花の右足が乗っている部分を、隆起させた。



「おっ!」



それにより、少しだけ重心がブレて、2本の剣を通して感じる圧が若干弱まったのを確認した瞬間に…



「はぁぁああ!!」



交差させていた2本の剣を、思いっきり開き、刀花の刀を弾きつつ、全力で後方に跳んだ。



スタッ



「ナイス脱出。」


「ふぅ……どうする?ここから。私はもう魔力もギリギリだよ。」


「私も。ほんと、どうしようかね~~なんかまだ隠してる必殺技とかない?笑」


「ない。そっちは?」


「…必殺技ではないけども、逆転の一手にはなりそうってのはある。まぁ、1回やったらそれ以降は通じないだろうけど。」


「1回限りの挑戦ってわけね。それやろう。私はどうすれば良い?」


「私の攻撃に合わせて、最大火力の攻撃を剣神様にぶつけて。」


「了解。」



再びの短い会話を終えて、2人は武器を構える。

それに対して、会話が終わるのを待っていた刀花も、その2人の雰囲気から、最後の攻撃だと感じ取り、刀を構える。


一瞬の沈黙の後、翠月は刀花に向かって真っ直ぐに走り出し、氷室もそれに続いて地面を蹴る。



「ここに来て正面からか笑。何をしてくれるんだろう?」



笑顔の刀花は期待を膨らませながら、向かってくる翠月と、その少し後ろにいる氷室を視界に捉え続ける。


そして…



「刀花さん!!」



突然、翠月に名前を叫ばれ、刀花は翠月に意識を集中させ、更には、翠月と目を合わせてしまった。



「げっ!!」



その結果、刀花は体全体が麻痺状態で、うまく動かせなくなり、その隙を狙って、翠月と氷室は全力の攻撃を放つ。



「くらえぇ!!」


「はぁ!!」



残っている魔力の全てを、翠月は身体能力強化に使用し、氷室は双剣に氷を纏わせるのに使用し、それぞれの武器を振るった。



「笑、これは…油断したな………ふっ!」



翠月の剣と氷室の双剣が当たる直前、笑う刀花は、身体能力強化を、全力のおよそ80%まで引き上げた。



ダンッ!!



地面を蹴る音が鳴った瞬間に、刀花の姿がその場から消えた。



「なっ!」


「後ろっ!」



すぐに翠月と氷室は、背後を確認したが、時すでに遅し。



「降参で良い?」



翠月には首元に左の手刀を、氷室には右肩に刀を添えながら、刀花は笑顔でそう言い…



「「…降参です。」」



翠月と氷室は、武器を下ろしつつ、同時にそう言った。



「笑、お疲れ様。」



こうして、新人魔現師達の実力を見るための模擬戦が全て終了したのだった。





to be continued
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