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第一部

第4話「旅立ち 4」

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自分の体に、『解錠』を使った勇輝は叫び声を上げながら、苦しみ始める。



「ぐぁぁああ!!」


「な、なんじゃこれは…」


「"魔力暴走"?」


「まさか、封じられていた内魔素が解き放たれた結果、それにより生成された内魔力が制御できなくなったというんか!!…そんな、一体どれだけの…」


「とにかく、なんとか暴走を止めないと!多分、勇輝君の魔素は"無属性"だし、天能は『解錠』だからまだマシだろうけど、これだけの魔力の波動が飛んでいるとなると、今の勇輝君の身体能力はヤバいはず!」


「そうじゃな、急いで止めねば!だが、完全に力を引き出せていないヤツは呼ぶな!この波動には、勇輝の『解錠』の力が乗っておるから、これを受けると、解放されてしまうぞ!」


「分かってる!」


「う、うぅぅ…うわぁぁああ!!」


ドカンッ!!



苦しみにもがくように、勇輝が一歩、地面に足を下ろすと、その地面が陥没した。



「っ!やっば…」


「ありゃ、少なくとも未良以上の内魔素量なんじゃ…」


「勇輝!!動かないで!!」


「ぐぁぁああ!!!」



未良の呼び掛けに対し、勇輝は答えることはなく、叫びながら、足を踏み鳴らし、手を振るう。

それによって、地面は凹み削れ、周りに突風が吹き荒れる。



「ダメじゃな、完全に飲まれておる。どうするつもりじゃ?」


「何とかして、動きを止めないと、この辺りがめちゃくちゃになる。」


「まぁ、あの感じじゃと、魔力を使い切るまで、何もせずに待つというのは、得策ではないじゃろうからな。周りへの被害も想像がつかんし。」


「よし、オルジイも手伝って!」


「おう!」



暴れ回る勇輝を前に、オルジイは空に飛び上がり、未良は真横に手を広げる。



「来て!"スラちゃん"、"ネーク"!!」



その言葉で、未良の両隣から黒い煙が溢れ出し、その中から、青色の丸いスライムと、黒い体色に金色の筋が真っ直ぐに入っている蛇が出てきた。



「みんなで、あの子の動きを止めるよ!オルジイは突風を相殺して、スラちゃんは触手であの子の腕を止めて、ネークは体に巻きついて!」


「分かった!」


プルプル



青色のスライムは、未良に言われた通りに、数十本の触手を、高速で伸ばした。


そして、勇輝の腕に巻き付け、その動きを止めようとするが…



「が、がァァァァ!!!」


ブンッ!!



無理やり腕を振って、スライムの触手を全て引きちぎり、辺りに突風を巻き起こした。



「その方向はマズい…の!!」



勇輝の家を含む、近くの建物に向かって飛んだ風を、オルジイは羽を思いっきり羽ばたかせて生み出した風で、打ち消す。



「ナイス!オルジイ!」


「これの被害は気にするな!未良は勇輝の動きを止めることに集中せい!」


「うん!ネーク!」


「シャアアア!」



勇輝が腕を振って、少しだけ動きが止まった瞬間に、ネークは地面を高速で這って、勇輝の足から体に巻きついていく。

さらに、それに合わせて、スラちゃんも再び触手を伸ばして、勇輝に巻き付ける。



「うぉぉおおお!!」



しかし、体に巻きついたネークの体も、スラちゃんの触手も、全て引きちぎって、勇輝は体を動かす。



「クッ……ネーク、スラちゃん!そのまま続けて!」



その様子を見た未良は、体の『液体化』により勇輝の攻撃を無効化しているネークと、『無限増殖』により触手を永遠に伸ばし続けられるスラちゃんに、引き続き勇輝の動きを止めるように言う。



「やはり、ネークとスラちゃんじゃ、あのパワーには太刀打ちできんじゃろ!」


ビュンッ!!


「他のヤツらは!」


「無理!今、100%で呼び出せて、かつ勇輝を殺さないように動きを止められる可能性があるのは、この子達しかいない!」


「む……確かにそうか…"リル"も"ドラ"も手加減が苦手じゃからの。まぁ、それは未良にも言えることじゃが。」


「どうするべきか……やっぱり、傷つけてはしまうけど、無理やりにでも気絶させるべきか……」



と、未良自身が勇輝を止めに入るか、悩んでいると、辺りに響く轟音を聞いた村人達が集まってきた。



「なんだなんだ?!」


「あれは…勇輝か?!」


「皆さん、近づかないでください!!」


「い、伊従さん!一体何が起こってるんだ?!!」


「ゆ、勇輝!!」


そこに、欣治と育恵もやってくる。



「っ!…今、勇輝君は魔力の暴走状態にあります!私がどうにかして止めますので、皆さんは離れててください!」


「魔力の暴走状態だと?」


「なんでそんなことに…」



目の前で繰り広げられている戦いと、苦しむ勇輝の様子に、村人達は戸惑いと不安を感じる。



「未良!もうやるしかない!」


「…」



勇輝を傷つけてしまうことへの抵抗から、未良は自分が動くかどうかを迷い、拳を握る。



「ぐぁぁああ!!!」


「勇輝…………伊従さん!」


「っ!!」


「勇輝を止めておくれ!!」


「…………分かりました。」



育恵の言葉に、未良は腹を括り、内魔力を生成する。


そして、一瞬で勇輝の背後に回り込んで、攻撃を加えて気絶させるために、地面を蹴ろうとしたところで……



「クルッポーー!!!!」



仕事を終えたピージョが、未良の元に戻ってきた。



「ピージョ?!!…ってことは!」


「未良!」



その後すぐに、未良の隣に、腰に一本の刀を差した女性が降り立った。



「刀花!」


「これ、どういう状況なの?」


「ほんと、ナイスタイミング!刀花、あの子の魔力暴走を止めて!」


「まだ状況が掴めてないけど、OK。任せて。」



そう言って、"宮磨刀花みやま とうか"は腰に差した刀に手を伸ばす。



「ふぅ………"魔力斬り"!!」



刀花が刀を瞬時に引き抜き、それと同時に、斬撃波が勇輝に向かって飛び…



「ガッ!!」



勇輝の魔力を斬った。


そして、辺りに響いていた轟音も叫び声もなくなり、静かになった中、勇輝はゆっくりと地面に倒れた。



「お、一撃で斬り切れたみたい。良かった。」


「ふぅ……ありがと、刀花。」


「いいえ~~で、説明してもらえるんだよね?」


「うん。でも、他の人にちゃんと説明し終わってからになるかな。」


「もちろん。」


「シャアア~」


ポヨン


「あ、スラちゃん、ネーク、ありがとう。勇輝君を運んできてくれて。また、よろしくね。」



その未良の言葉で、2匹は黒い煙の中に消えて行った。



「オルジイ、今の勇輝はどんな感じ?」


「ふむ……こりゃすごい。まだ封印が残っておるぞ。」


「え?」


「封印?」


「あれだけの魔素を解放したのに、まだ封じられておる魔素があるとは……末恐ろしい子じゃ。こりゃ、魔力の扱い方を教えてやらんと、マズいと思うぞ。」


「…だよね…」


「ちょっと、全然話についていけないんだけど。」


「クルッポ~」



意識を失っている勇輝を囲んで、未良とその両肩に留まるオルジイとピージョ、それと刀花が話していると、そこに村長と欣治、育恵の3人が、恐る恐るといった感じで近づいてきた。



「もう、大丈夫なんだよな?」


「しっかりと説明をしてもらえるかの?」


「あ、村長さん、それと………はい。お話します。」


「…」


「儂とピージョは帰るぞい。」


「うん。ありがとう。」


「またな。」


「クルッポ!」


「……勇輝の家で、話を聞こうか。」


「そうだな。」


「うむ……みなは家に戻っておれ!」



こうして、オルジイとピージョも黒い煙の中に消え、他の村人達も家に帰り、眠っている勇輝と、未良、刀花、育恵、欣治、村長の6人で、勇輝の家へ向かった。



「さて、話を聞かせてもらおうか。」



狭い部屋に、隣の育恵おばさんの家から持ってきた椅子も並べて、全員が席に着いたところで、村長が話を切り出す。



「はい。まず、私がここに案内されて、勇輝君に魔現師についての話をしている中で、勇輝君の年齢を聞き、かなりの衝撃を受けました。」


「ま、そうだろうな。俺らも勇輝の成長の遅さには驚いていたし。」


「何歳なんですか?見た感じは、8か9歳ぐらいかな、って感じですけど…」


「…15歳だよ。」


「え、ほんと?」


「うん。それでですね、最近の魔素研究で、内魔素の量が、少しながら生物の成長に関係しているということが分かりまして、私は勇輝君が持つ内魔素の量を調べたくなったんです。」


「内魔素の量が、成長に……本当か?」


「確かにそういう研究結果がありますね。なるほど、それでオルジイに鑑定させたってわけ?」


「えっと、私が先程呼んでいた、喋る鳥、あの子が生物の状態を見れる『鑑定』という天能を持っていて、それで勇輝君の状態を確認したんです。そしたら、内魔素が封印されている、ということが分かりました。」


「封印とな……それは、よくあることなのか?」


「いえ。初めて聞きました。」


「私もです。」


「そうなのか……歳の割にはかなり小さいとは思っていたが……でも、なんで勇輝の魔素が封印なんかされているんだ?」


「鑑定では、それは分かりませんでした。」


「ふむ……それで、なぜあんなことに?」


「私達が、その勇輝君のことを話していると、勇輝君が自分に向かって、天能を使ったんです。そしたら、封印されていた魔素の一部が解放されて、急に大量の内魔力が生成された結果、勇輝君は魔力の暴走状態になってしまったんです。」


「なるほどね~勇輝君の天能は、封印を解除するようなことを含んでいたんだ。まぁ。そうでもないと、あの魔道具の封印は解除できないか。」


「……勇輝君の天能はかなり強力なものです。私は、これまでにも勇輝君と似たような天能を持った人を見てきましたが、勇輝君の天能の力は群を抜いています。」


「へぇ、帝都の魔現師に、そこまで言わせる程なのか、勇輝の天能は。」



少し嬉しそうな表情でそう言う欣治に対し、隣に座る育恵は俯いて黙っているままだった。



「……それで、大丈夫なのか?勇輝は。また暴走したりしないかの?」


「それは……可能性は高いです。今の勇輝君は、以前よりも内魔素の量が増えてしまって、これまでと同じように魔力を扱おうとすると、必要以上の内魔力を生成してしまい、同じように暴走してしまう可能性があります。」


「なら、どうすれば良いんじゃ?勇輝はまさか、これからもずっとあのようになる危険性を抱えたままに、生きなければならないのか?」


「…内魔素が増える、ということは人では起こりえないことですので、明確な解決方法というのは分かりませんが、おそらく少しづつ魔力を扱う練習をしていけば、暴走しなくなるとは思います。」


「だね。まずは、感覚的に魔力を扱うんじゃなくて、意識的に内魔素から必要な分の内魔力を生成して、それを操作する、ということを練習する必要があると思います。」


「そうか……じゃが…」


「それを、どうやって練習すればいい。俺達は魔現師さんほど、魔力を扱えないし、知識もない。それにもしも、さっきみたいな暴走?を勇輝
が起こせば、どうしようもない。まぁ、魔現師さんが、勇輝が心配なくなるまで、ここにいてくれるんなら、何の問題もないんだが……」



欣治は、未良と刀花を見ながらそう言うが、未良は俯き、刀花はそんな未良を見る。



「………」


「未良?」


「………勇輝君を私達に預けてくださいませんか?」



決意を固めて、未良はそう言った。



「え、本気なの?」


「うん。こうなってしまったのは、私の責任だから。」



その決意に満ちた目と言葉に、刀花は…



「……ま、未良に任せるよ。私も、勇輝君のことは気になるし。」



と言って、優しく微笑み、未良も頷いて答えた後、前に座る3人を見る。



「……はぁ……俺個人としては、勇輝には元気で笑顔でいてもらいたから、伊従さんの提案に賛成だ。だが…育恵のばあさんが拒否するのなら、僕もそっちに乗る。」


「…」


「儂も同じくじゃ。ただ、一つ聞いても良いか?」


「なんでしょう。」


「勇輝を連れて行くということは、2人が入っているクランに、勇輝も入れるということか?」


「勇輝君が望めばですけど、そのつもりです。」


「…分かった。あとは、育恵だけじゃ。育恵はこの提案に乗るのか?乗らないのか?」



部屋の中にいる全員の視線が、俯いたままの育恵に向けられる。



「……伊従さん以外、みんな席を外してくれないかい?」


「…みな、外に出るぞい。」


「あぁ。」


「分かりました。」



そうして、3人が家を出て、部屋の中には向かい合って座る、未良と育恵だけが残るのだった。




to be continued



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