おいしい狩猟生活

エレメンタルマスター鈴木

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「別の方角にも見張りはついているな?」

「勿論です、兄貴。四つの見張り台にそれぞれ二人と、中間地点にも二人ずつの計十四人が見張りについてます」

「ゲン爺とフミ婆、それにお子様達は既に、砦内の一番安全なシェルターにいるッスよ」

「残りの百八十六名~、全員揃ってるよ~」


  よしよし。訓練通りに上手くいってるな。非常時にしっかりやれるのは、きちんと身に付いている証拠だ。


「発見したのは偵察に出ていたタクだな?詳しい報告を頼む」

「はい、師匠。魔物の群はゴブリンとコボルトの混合で、争い合うことなく一心にこちらに向かって来ています。数は……ちょっと分かりません。
  どうやら追われているのか、ここまで迫ってくる勢いがありました。第三勢力の姿は確認できていませんが、追撃しにここまでくる可能性が十分にあります」

「そうか……まぁどれだけ数がいても、訓練通りやればいい。弓を射ち確実に数を減らし、魔法は足止めや嫌がらせ主体に、敵の前方に広範囲でな。ただ今回は皆にも説明したが、簡単だが広範囲に仕込んだ仕掛けを使う。狙うのはそれで殺せなかった個体だけだ。」


  見渡すが皆落ち着いているし、表情が凛々しい。異世界にきて何もない状態から、日々を必死に生き抜き、この砦と防壁を造り、ついには街をつくりだそうとしている。
  もう肉体・精神共に非力な現代人ではない。一から自分達の居場所をこの異世界につくろうとしているのだ。
  いや、もう異世界という言い方は止めよう……俺達はもうこの世界の住人なんだから。


「師匠、森の切れ目から魔物達が現れました!」

「よし、弓隊は火矢、魔法隊は風魔法の準備をしろ。奴等が仕込みの範囲に収まったら合図を出す。それまで待機だ」


  木々を切り倒し、綺麗に更地になった土地の更にその先、約一キロの距離にある森の切れ目から、ここから見るとまだまだ豆の様に小さく見える、ゴブリンとコボルトの軍勢が姿を現した。
  やはり遁走して来たのか、無秩序に種族入り乱れて向かって来ている。続々と数が増していくが、それが途切れる様子はまだない。それと増えていく軍勢の中に、今まで見たことの無い、大きめの個体が散見されるようになった。ちょっと鑑定で見てみよう。



【ゴブリンジェネラル:魔物】

【ゴブリンカーネル:魔物】

【ゴブリンキャプテン:魔物】

【ゴブリンチーフ:魔物】



  こんな感じの、軍隊の階級の名称がついた個体が、ゴブリン・コボルト共に複数体存在している。

  所謂上位種というやつだろう。階級が高い個体程、体も大きくなっていくようで、通常のゴブリンやコボルトが、小学校高学年の子ども位の身長なのに対し、キャプテンで大人の平均程の身長だ。ジェネラルに至っては、二メートルを超えているか?俺が一メートル九十センチと少しくらいだから、俺よりは少し身長が高そうなので、その位と判断した。目算だが。

  それと、コボルト種の方は爪が伸びて、そのまま武器になるので無手だが、ゴブリンのジェネラルやカーネルは、木の棍棒の様な物を持っているようだ。
  一瞬、遺骸を調べた時に見つけた、武器による打撃痕はコイツらによるものかと考えたが、同じゴブリンにもついていたし、なにより今コイツらも共に逃げている。やはり第三勢力の存在があるのだろう。

  そしてやっと森から奴等が出てき終わったようだ……正直、思っていた以上に数が多い。恐らく最低でも千は超えている。ギリギリ仕込みの範囲に収まるか?
  奴等もこちらの砦と防壁に気付き始めた様で、徐々に走る速度を上げ始めた。ここを襲う気なのは明らかだ。

  『ゴゴゴゴゴッ』と、数に比例された大地を踏み鳴らす音が、地響きの様に聞こえる。軍勢の前線が近付いて来たことで、奴等の興奮した鳴き声も聞こえてきた。しかも奴等は手負いだ……生憎とゴブリンやコボルトの表情に詳しくはないが、それでも必死さは伝わってくる。

  こちらの周りを見渡すが、皆の額には汗が滲み、生唾を飲み込む音まで聞こえてくる。四メートルの高さの防壁の上から見ている分、奴等の数による迫力を、余すところなく見て、感じているのだ。
  だが、それでも皆の目には不退転の決意の炎が灯っている。


「必死なのはこっちの方だっての」


  ここは、俺達の新しい故郷と呼べる場所になるんだ。ここが、俺達の家なんだ。家族もいる。奴等に踏み荒らされてたまるか。

  ここを守る為なら向かってくる奴全て殺してやる。


「火矢、構え!作戦通り、なるべく広く、違う場所を狙うように!」


  奴等が黒く染まった地面の範囲に収まったのを確認した。


「射てッ!!」


  一斉に放たれた火矢が、弧を描き飛んでいく。狙いは魔物ではなく地面。スライムコアの粉末と木炭の粉末を、二対八で混ぜた物を広範囲に敷き詰め、黒く染まった地面。これに火矢が当たればどうなるのかは明らかだ。これの為に、ここを切り開いた時に出た木々は、全て木炭に変え、俺がスライム素材の大量確保に動いていたのだ。
  スライムは角兎より沸きが早く、数が多いので素材を集めるのに余り苦労しなかったが……それはともかく。

  俺達の決意の炎を味わえ。

  何本かの火矢は奴等に刺さったようだが、殆どの火矢は上手く地面に突き刺さった。
  瞬間、黒い炎が奴等を埋め尽くした。



  上手くいったな?地球ではこんな仕掛けはありふれたモノだが、魔物には流石に気付かれることはなかったな。
  おっと、炎が消えない内に、ダメ押ししておかないと。


「魔法隊、新鮮な空気を送ってやれ!」


  指示を出すと、待機させていた風魔法が炎に送られ始め、火力が勢いを増した。そしてゴブリンもコボルトも、次々と灰へと変わっていく。
  そんな中、ゴブリンとコボルトの中でもジェネラルに至った個体達は、それでも倒れる事なく咆哮を上げ、こちらへと向かってくる。体力が高いのか属性耐性が高いのか、流石は上位種と呼ぶべきか……だが、それでどうこうなる訳ではない。


「弓隊、火矢から黒曜石の矢へ変更。構え……射てッ!」


  体が大きい分、的なんだよなぁ。鋭く貫通力の高い矢に射貫かれ、着実にその数を減らされていったジェネラル達は、ついにその全てが絶命した。もう動く個体はいないようで、高火力の黒炎で全てが灰に変わっていく。

  しかし、あれだなぁ……。


「黒い炎で大量虐殺とかぁ、あの子達が見たらどう思うかしらねぇ?あ・な・た」

「う゛ッ!?」


  麗華が俺の思っていた事を言い当ててきた。クスクスと笑っているし、からかってるな?
  まぁ手段がどうのこうのとか、今更だ。それは皆も同じだろう。家族の為ならどんな悪辣な手も使おう。守るための戦いで手段を選び、そのせいで守りたいモノが守れなかったなど、あってたまるか。
  俺達はせめて、残った素材を大事に使う事で、供養に代えるだけだ。自己満足だけどな。


「炎が消えたら灰を回収するぞ」


  追っていた奴等が来るかもしれないし、手早くな?



  あらかた灰を回収したころ、気配感知に反応があった。どうやら今度は更に上位の奴がいるようだ。気配の強さは……巨大狼と同じ位か?


「回収は中断!砦に撤退だ!」


  どんな相手だろうが、ここに攻めてくる以上は死んでもらうがな。
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感想 149

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みんなの感想(149件)

ベッコベコ飴

更新待ってます
体気をつけて下さい。

解除
リリスモン
2020.08.13 リリスモン

大丈夫ですか。お元気でしょうか。
わたしがアルファポリスの中で初めの時の
思い出深い作品です。
リア充でネットの世界におられ無いなら良いなと思います。

ちょっとだけ書き直して一巻分にして賞とか出して見ませんか。

何にせよ。このご時世の中無病息災であられますように。

解除
UK
2019.04.22 UK

これから面白くなる所じゃないですか~更新お待ちしてます。

解除

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