おいしい狩猟生活

エレメンタルマスター鈴木

文字の大きさ
上 下
30 / 39

30

しおりを挟む
  どうやらオタトリオ達は無魔法……つまり無属性魔法を利用する気だ。

  何故無魔法なのか?それは相談した時にこんな事があったからだ。



  俺は今まで無魔法を余り使って来なかった。というよりも、使い道が分からなかった。

  魔法系スキルを入手した時に、その魔法スキルの熟練度に応じて使える魔法が、呪文と共に頭に浮かんでくるのだが、無魔法については呪文も無く使えるような、簡単な魔法がただ一つあるのみだった。

  見えない力で物を動かす、念動力とか呼ばれるものだ。

  わざわざ話す事もない。そう思って無魔法についてオタトリオ達に相談する事が今までなかったが、今回の酒作りの為に、使える魔法を全て話す内に無魔法の説明に入った時、念動力の話を聞いたオタトリオ達が目を剥いた。

  オタトリオ達が興奮しながら話すのを聞くと、どうやら無魔法は単に物を動かすだけではなく、力・エネルギーそのものを操作できるのではないか?
  そういった考察を聞かされた。

  それの何が凄いんだと聞いたら呆れた目を向けられた。
  コイツら次の訓練で厳しくしてやろうか?

  だが、話を聞くとなるほど。オタトリオが興奮するのも理解できた。

  ……まぁ訓練は厳しくするけどな。



  火が着く。風が吹く。水が流れる。石や岩ができる。
  世界に起きる現象の全てには何らかのエネルギーが必要になる。

  つまり、エネルギーそのものを操作する無魔法というのは、全ての属性魔法の基礎にして奥義。
  極めればそれ一つで何でも万能にこなせる可能性の塊だとか。

  考察が正しいのか、幾つか無魔法で実験してみた。

  無魔法で空気中の水分を集め水を作り出し、熱エネルギーと酸素を操り火を起こす事に成功した。
  しかも驚くことに、同じ規模の現象を属性魔法で起こすより、無魔法を使った方が遥かに魔力消費が少ない。

  恐らく存在すると思われる風魔法も、まだ未取得であるが無魔法で代用し、気圧を発生させ気流を生み出し、風を吹かせる事に成功した。

  水を氷に変えることなども無魔法によってできる事が分かった。
  ちなみに水魔法には氷系の魔法はない。液体と固体の違いだろうか?別の魔法として存在している可能性がある。

  以上の事から無魔法を基礎として、属性魔法はそれぞれの現象に対しての知識が無い者でも発動出来るように、簡略化されたものではないか?といった結論に結びついた。

  ……今まで無魔法の事忘れてて、正直すまんかった。



  ただ二点程問題はある。
  そもそも現象への知識がなければ無魔法を有効活用できない事と、発動するのに思考を巡らせるために少し疲れる事だ。

  しかしこれについても直ぐに案は出た。

  一つ目については、オタトリオ達が希望者に、知識を教える教室を余暇で開く。

  二つ目については、属性魔法を使用する時に部分的に無魔法を併用する事で、消費魔力を抑え、威力をブーストする補助的な使い方をする方法だ。
  これなら属性魔法の簡略化があるので楽になる。

  そして真に驚くべきはこの後。


「兄貴~、無魔法スキル取得できた~」

「は?」


  なんとオタトリオの一人のユウが、小石を無魔法を使って浮かせてみせたのだ。
  一人黙っていると思ったら、どうやら独自に魔力をエネルギーに変える方法を編み出したらしい。

  オタクとは一体……。

  俺が驚愕していると、ユウからコツを聞いたソウとダイが、速攻で無魔法を取得していた。
  どうも今までも寝る前などに、火魔法や水魔法を使えないか訓練していたらしい。
  それらは成功しなかったのだが、今日の話しで基礎の無魔法ならできるのでは?と思い、やってみたらできたと。

  ……三人の嬉しそうな顔を見ていると、突っ込む気が失せてきた。

  だがこれからが大変だぞ?
  魔法スキルが自力で取得出来た以上、間違いなくお前達の教室は大人気になるからな。

  俺も時間のあるときに教わってみよう。
  オタトリオ達から知識を学び、それを無魔法で代用していれば、風魔法や氷魔法に他の属性魔法も自力で取得できそうだからな。



  そして話しは戻るが酒造りだ。
  何故酒造りで無魔法なのか?

  酒造りには醸造、つまり発酵を利用する必要があるが、発酵には微生物による何らかの作用が必要になる。
  そこで、本来微生物が作用することで発生する発酵エネルギーを、無魔法で代用できないか?という試みだ。

  早速試してみよう。
  蜂蜜は女性陣に食べ尽くされてもう無いが、林檎、バナナ、桃、ヤシの実、甘い樹液で作る。

  結果、酒と呼べる物はできたが、何か違う。
  不味い訳では無いが、漠然とした違和感があるような、そんな感じだ。
  だがそれも仕方ないのかもしれない。俺は微生物が発酵にどの様に作用しているのか、詳しいところを知らないからだ。
  寧ろ酒の出来るイメージだけでこれだけの物が作れたのが凄いんだよなぁ。

  無魔法万歳!



  大人組で酒が好きな者に試飲してもらったが、大変喜ばれた。
  だが俺と同じように少し違和感があったようで、暫くは俺や無魔法を取得した者が作るが、普通の作り方でも酒を仕込む事となりそうだ。

  ……今日は特別のつもりだったんだが、何故か酒造りが拠点を挙げての仕事の一つになりそうな件。
しおりを挟む
感想 149

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

そんなの知らない。自分で考えれば?

ファンタジー
逆ハーレムエンドの先は? ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...