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  起きました。
  自分で思っていた以上に疲れていたのかもしれない。かなり熟睡できたな。

  男性用の小屋の一つから出る。
  外はもう夜に差しかかっていた。

  先ずは拠点中を見て回るか。



  拠点の一番外側は街方面の一ヶ所を除いて、ぐるっと堀が出来ていた。
  深さはそれほど無いが距離はある。一日でよく頑張ったよなぁ。
  後は毎日これを深く、広くと掘っていくのだ。
  ちなみに、緊急で堀を渡る用の運べる橋も用意している。

  堀の内側には柵がズラッとならんでいる。
  土木経験者数人を主軸に、木槌を使いスコンスコンと打ち込んでいたのを見た。
  大変だったろうに、安全の為に最優先で、弱音も吐かずに頑張ってくれた。
  ありがとう。

  堀の更に外側には、間引いて広くなった木々を繋ぐように、前拠点から持ってきた鳴子を更に長くして付けてある。
  拠点内に侵入されてからでは犠牲者がでるかもしれない。早め早めに気付くようにしないと。



  中心地には、今日作った焼き物用の耐火煉瓦製の窯と、料理その他に使う普通の石組みの竈がいくつも並ぶ。
  人数多いから、竈一つじゃおっつかないからな。

  その近場には浴場がある。隣には卓球小屋だ。

  男女別に別れた浴場の壁の中は、まず靴を脱ぐ場所がある。
  中には湯を沸かす竈と衣服を置く長机、そして中心にドンッと浴槽があり、それ以外にはすのこが敷かれている。

  樹脂でコーティングされたヒノキの浴槽には、水漏れしない工夫の施された開閉式の排水口が付いており、そこから出た汚水は小さな排水溝を通り、壁下を通って外に出るようになっている。

  今できる精一杯の贅沢だ。

  ちなみに外に出た汚水は排水溝を辿り、水捌けのいい場所にある広く浅い窪地に続いていて、少しずつ水が抜ける様にしてあった。



  凄すぎない?
  ……いや、少し違和感がある。

  素直に皆の頑張りを凄いとは思っているが、これをこちらに着いてから夜になるまでの時間でだろ?
  二回の休憩と、昼食の時間を合わせて二時間を抜いて、八時間程かな。
  ちびっ子を抜いて二百二人いるが、分担したとして可能か?

  ちょっと我らが知恵袋のオタトリオ達に聞いてみよう。


「恐らく魔物料理によるバフ効果ですね」


  どうやらオタトリオも違和感を感じていて、既に三人で結論を出していたみたいだ。



  バフ効果。所謂恒久的なステータスの上昇では無く、効果時間のある一時的な強化。

  俺は全く気付かなかったが、兎、鮭、鰐、蛇のどの魔物肉も、食べて暫くは体の調子が良いらしい。
  特に今日食べた蛇肉は他の肉よりランクが高かった為か、凡そ疲れと呼べる物が無くなり、力が普段より出たらしい。

  それで昼からの効率がグンと上がっていたのか。
  てっきり風呂の為に発奮しているからいつもより動けているだけだと……。

  他の皆にも聞いて見たが、何となく違和感を感じてはいたが、作業に忙しく気にしていられなかったようだ。

  しっかし、俺も蛇は食べたがいつも通りだぞ?
  そう言ったら周りからまたため息の合唱が聞こえる。

  だからソレ、なんやねん一体?


「師匠はその、元々と言いますか……あのぅ」

「ダッハハハッ!タク!はっきり言ったれ。ゲンは元から強化の必要のない人外だから。ってよォ?」


  亮の奴め、慣れてきてからこの調子だ。
  まぁこれが素なんだろう。こっちの方がやり易いから別にいいが。

  しかし人外って……明らかに強くなった自覚はあるが、面と向かって言うことないだろ。



  それはともかく。
  赤土製の土鍋ができているらしい。
  どれも灰を混ぜたため、強度が上がっているという。

  見せてもらったが見事なもんだ。これ作ったの素人の女の子達だろ?

  土鍋に始まり、大小様々な甕、急須、箸置きなど。
  見た目のセンスも良い。
  魔物の灰のお陰で割りと無茶が効くのか、それで何故割れなかったと言いたくなる物もあるが。
  甕には今の内に水を貯めておこう。



  さて、既に麗華さんを中心に、早速土鍋を使って料理をしてくれているが、俺も何か一品作ろう。
  一番量の多い狼肉を使って。

  折角鍋があるんだ、煮込みにしよう。
  それと鍋が出来たことでココナッツミルクが出来ている。これも使おう。

  先ずは森で取れたスパイスを軽く炒る。
  カルダモン、胡椒、クミン、コリアンダー、唐辛子を軽く炒って香りを強める。

  この森まだまだ何かありそうなんだよなぁ。
  今度は少し東に偵察に行ってみるか。

  少し火を入れたら一旦上げ、今度はココナッツオイルを引いてからニンニクを炒める。
  そして先程のスパイスを投入。
  オイルにスパイスが馴染むくらいで狼肉を投入。
  そこにレモングラスとサラムリーフを入れ、赤さがなくなるまで炒める。

  そしてココナッツミルクを投入だ。
  火力を落とし、じっくり火が通るまで煮込む。

  い~い匂いがしてきたな!
  匂いに釣られてやって来たちびっ子の頭を撫でながら、煮えるのを待つ。



  できた。
  食卓にお届けだ!
  竈の前には簡単な木のテーブルが幾つか設置してあり、椅子は二の次になっているため、座るのは丸太や石だ。

  机の上には既に料理が並んでいる。
  茹でたタロ芋、一口サイズに切った果物、サケの塩焼、キノコのスープ。
  現代人からしたら物足りなく感じるだろうが、見渡すも笑顔しか見えない。

  危うそうに見えた機長も笑顔だ。
どうやら心配してくれていたCAの一人といい雰囲気だ。
  今も仲良く隣に座っている。きっと持ち直すだろう。

  ケッ!爆発しろや!



  やっぱり飯が美味いと心が豊かになるな。
  これも喜んでくれるだろうか?

  狼肉のココナッツミルク煮込みを置く。
  まず俺から食べよう。皆初めての素材に警戒気味だからな。

  ココナッツミルクと共に肉を口に入れる。
  まず強いスパイスの香りが鼻を抜ける。
  唐辛子のお陰で少しピリッとするが、ココナッツミルクの優しい甘さが舌を癒してくれる。

  そして肉を噛む。


「ぉうっ!?」


  思わず声がでた。

  一噛みすると、軽く焼く事で中に抑え込まれていた旨みが溢れた。
  それに筋肉質なために噛みごたえが心地良い。

  何の肉の味に似ていると聞かれたら、牛だろうな。
  ただ、そんなお上品な感じはしない。
  旨みの中に、スパイスやミルクでも隠し切れなかったくさみ、野生を感じる。
  くさみとは言うが、嫌な感じはしない。
  上手い具合に昇華されている。
  猪の鍋みたいなものだ。

  周りも食べ始めたようだな。
  どうだ?……箸が早まった。よかった。

  鍋は数個用意したがすぐに無くなりそうだな。



  そしてお風呂タイムだ。
  男女別に大体十人ずつで十回の交代だが、お湯の交換は二交代につき一回にしてもらった。
  魔力が増え、魔力強化スキルがあっても今はこれがギリギリだ。
  ステータスが上がれば毎回交換できるだろう。

  風呂から出てくる人は皆笑顔だ。
  特に女性陣は、約二日入れなかっただけだが、それでもかなり気にしていたのだろう。
  とても嬉しそうだ。
  作ってよかったな。



  麗華さんも出てきた。
  めっちゃ色っぽい!

  ……作ってよかったな!!
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