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64 天罰
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マハの王宮は魔物ジェーンによる破壊が進み、ルビー大陸を守ってきたの王たちの棺も壁から落ち、床に散乱している。
ワープホールにガネシュや翡翠が消えた後、呆然となった王太子が気配を感じ後ろを振り向くと、そこにはなんと床に倒れた翡翠がいた。
「翡翠! 翡翠!!」
翡翠は抜け殻のように生気を失い全く返事をしない。先ほどガネシュにさらわれた翡翠は一体何だったんだ? まさかこの体から出た──
翡翠のそばに跪き、最悪の想像をしていた王太子の背後に剣を振りかざしたルシウスがいた。
「翡翠も守れぬ男など、死ねえ!!!」
気を取られてルシウスのことを忘れていた王太子は、隙をつかれ全くの無防備だった。
斬られる──! そう覚悟した時──
目の前にいきなり青く輝く水の塊が出現し、ルシウスを弾き飛ばした。
王太子が驚いている前で、水龍が開けた口の中から立派な体躯の男が現れた。
「久しいな、黒曜」
伏せていた目をぎらりとルシウスに向けると、透き通った緑眼が光をまとった。ルシウスの体は恐怖で硬直した。
「天、藍、殿下」
王太子は聞き覚えのあるその名前の男を思わず見上げる。
「翡翠の兄上……マハの王太子殿下!?」
「ルヒカンドの王太子か、色々あったようだな」
天藍は暴れる魔物ジェーンと破壊されつつある王宮を見渡し言った。
「もう一匹、いるぞ」
天藍の視線の先には倒れた黒いガネシュの体があった。魂が抜けマハに取り残された肉体は、めりめりと嫌な音を立てて別の何かに変化しつつあった。瞬く間に赤い鱗の火トカゲへと変身する。
「魔物の前に、あやつに天罰を与える」
天藍は魔物に慌てもせず、ルシウスを睨んだ。
「我が愛しい弟たちを殺した罪、地獄で償え」
「お、お許しを──全ては翡翠のためだったのです!」
見苦しく震えながら言い訳をするルシウスに天藍が言う。
「ならばなぜ翡翠が泣いていたのだ?」
全てお見通しなのか──ルシウスは悲観した。一番厄介な男を殺し損ねていたとは。天藍はマハの大地に愛される王家の王太子だ。ルシウスに切られ深傷を負い川底に沈んだ天藍に水龍が救いの手を差し伸べたのだ。
「許しなら、地獄で乞うがいい」
天藍がかざした片手から水がほとばしり、ルシウスを縛り上げた。そしてそのままルシウスを魔物ジェーン目掛けて投げ飛ばした。
「ぎゃあああ!!」
魔物ジェーンが口を開けて待っている。ルシウスはおぞましい魔物の口の中に消えていった。あっけない最期だった。
「ふむ。水龍の加護が加わり、霊力が増したようだな」
手首を確認しながら天藍が呟いた。
「感謝します、天藍殿下」
命の恩人に王太子は頭を垂れた。
「よい。これから翡翠を助けに行く。王太子、力を貸してくれ」
自分の予想が正しければ、さらわれたのは翡翠の魂のほうだ。ならば、天藍殿下は翡翠の魂の救出に向かう気なのだ。王太子は即座に天藍の意図を解し「何なりとお申し付けください」と答えた。
理解の早い王太子を天藍は気に入った。
「私が翡翠の魂の痕跡を辿り、霊道を開く。王太子は霊道の先にいるはずの翡翠の魂を連れ戻すのだ。2匹の魔物が暴れ時間がない。チャンスは一度だ」
王太子は深く頷いた。
ワープホールにガネシュや翡翠が消えた後、呆然となった王太子が気配を感じ後ろを振り向くと、そこにはなんと床に倒れた翡翠がいた。
「翡翠! 翡翠!!」
翡翠は抜け殻のように生気を失い全く返事をしない。先ほどガネシュにさらわれた翡翠は一体何だったんだ? まさかこの体から出た──
翡翠のそばに跪き、最悪の想像をしていた王太子の背後に剣を振りかざしたルシウスがいた。
「翡翠も守れぬ男など、死ねえ!!!」
気を取られてルシウスのことを忘れていた王太子は、隙をつかれ全くの無防備だった。
斬られる──! そう覚悟した時──
目の前にいきなり青く輝く水の塊が出現し、ルシウスを弾き飛ばした。
王太子が驚いている前で、水龍が開けた口の中から立派な体躯の男が現れた。
「久しいな、黒曜」
伏せていた目をぎらりとルシウスに向けると、透き通った緑眼が光をまとった。ルシウスの体は恐怖で硬直した。
「天、藍、殿下」
王太子は聞き覚えのあるその名前の男を思わず見上げる。
「翡翠の兄上……マハの王太子殿下!?」
「ルヒカンドの王太子か、色々あったようだな」
天藍は暴れる魔物ジェーンと破壊されつつある王宮を見渡し言った。
「もう一匹、いるぞ」
天藍の視線の先には倒れた黒いガネシュの体があった。魂が抜けマハに取り残された肉体は、めりめりと嫌な音を立てて別の何かに変化しつつあった。瞬く間に赤い鱗の火トカゲへと変身する。
「魔物の前に、あやつに天罰を与える」
天藍は魔物に慌てもせず、ルシウスを睨んだ。
「我が愛しい弟たちを殺した罪、地獄で償え」
「お、お許しを──全ては翡翠のためだったのです!」
見苦しく震えながら言い訳をするルシウスに天藍が言う。
「ならばなぜ翡翠が泣いていたのだ?」
全てお見通しなのか──ルシウスは悲観した。一番厄介な男を殺し損ねていたとは。天藍はマハの大地に愛される王家の王太子だ。ルシウスに切られ深傷を負い川底に沈んだ天藍に水龍が救いの手を差し伸べたのだ。
「許しなら、地獄で乞うがいい」
天藍がかざした片手から水がほとばしり、ルシウスを縛り上げた。そしてそのままルシウスを魔物ジェーン目掛けて投げ飛ばした。
「ぎゃあああ!!」
魔物ジェーンが口を開けて待っている。ルシウスはおぞましい魔物の口の中に消えていった。あっけない最期だった。
「ふむ。水龍の加護が加わり、霊力が増したようだな」
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「感謝します、天藍殿下」
命の恩人に王太子は頭を垂れた。
「よい。これから翡翠を助けに行く。王太子、力を貸してくれ」
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理解の早い王太子を天藍は気に入った。
「私が翡翠の魂の痕跡を辿り、霊道を開く。王太子は霊道の先にいるはずの翡翠の魂を連れ戻すのだ。2匹の魔物が暴れ時間がない。チャンスは一度だ」
王太子は深く頷いた。
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