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9 謝罪
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私の部屋は先ほどから大変な騒ぎだ。
不審者が私に危害を加えに来たと報告が入るや否や、王太子自ら指揮をとり、警護兵の補充と不審者の探索が大掛かりに行われた。
この騒ぎにより、私はより厳重に警備ができる”星の館”へと移されることになった。
∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵
王女が警護兵と侍女を伴い王宮の廊下を移動している間、貴族たちが遠巻きに王女を見ていた。
「なんとおぞましい! 蛮族をよりにもよって”星の館”に!?」
「王太子殿下はどうかされてしまったのではないか? あそこは将来の王妃・側妃候補が入る部屋だぞ!」
誰かが王女に向かってネズミの死体を投げつけた。即座にそれを剣で弾き飛ばしたのは、王太子直属の親衛部隊長、ルシウスだった。
端正だが静かな迫力を秘めたルシウスがちらと睨んだだけで、群衆はしんと静まり返った。
そんな中、群衆の中で最も屈辱を感じていたのはブランカだった。ガネシュの攻撃が王女に有利に働いてしまっただけでなく、自分がまず最初に入るべき星の館に王女が先に入室することになったからだ。
しかも王太子殿下が最も信頼しているルシウスに、あの者を護衛させるとは──! 王妃気取りか?
ぎりぎりと歯噛みしながら、ブランカは悠然と目の前を歩いていく王女を睨みつける。
「ケダモノめ」
聞こえよがしに王女に言葉をぶつける。だが王女は全く表情も変えず、恐れもせず、ブランカの前を通り過ぎた。
平静を装っているのね。本当は恐怖で震えているはずよ。あの仮面をいつか剥ぎ取ってくれる。
ブランカは王女への恨みを募らせていった。
∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵
私が星の館に到着すると、先に入室していた王太子が駆け寄ってきた。警備が何とか、王女に何とかと、私がまだよく理解できない言語で語っている。
私はふいに、先日の非礼を詫びようと思いついた。
マハ王国での【謝る、すまない】といった意味の言葉を私は目の前の王太子に投げかけた。
「ソバニ」
王太子は私を凝視し固まったまま返答しない。まあ、わからないのだろうな、マハ語は。
私は、一向に反応がない王太子に、知っている王族の呼び方で声をかけてみた。
「殿下?」
突然、王太子が私を抱きしめた。
「!!??」
身動きができないほど強く。
周りにいた兵や侍女たちが、私たちから身を隠すようにさっと隣の部屋に下がった。
私は王太子を振り解こうとしたが諦めた。何だかわからないが、謝罪を受け入れてくれたのだろう。これはきっと、王太子の国では和解のジェスチャーなのだ。
しかし、長すぎる……。
いつまで経っても王太子は私から離れない。さすがにもういいだろうと私はそっと王太子を引き離そうとした。
王太子は腕を解いた。そして、おもむろに私の顎をくいと上げ、唇を近づけてきた。
私の頭は真っ白になった。
気づくと私は、王太子を遠くへ跳ね飛ばしていた。
不審者が私に危害を加えに来たと報告が入るや否や、王太子自ら指揮をとり、警護兵の補充と不審者の探索が大掛かりに行われた。
この騒ぎにより、私はより厳重に警備ができる”星の館”へと移されることになった。
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王女が警護兵と侍女を伴い王宮の廊下を移動している間、貴族たちが遠巻きに王女を見ていた。
「なんとおぞましい! 蛮族をよりにもよって”星の館”に!?」
「王太子殿下はどうかされてしまったのではないか? あそこは将来の王妃・側妃候補が入る部屋だぞ!」
誰かが王女に向かってネズミの死体を投げつけた。即座にそれを剣で弾き飛ばしたのは、王太子直属の親衛部隊長、ルシウスだった。
端正だが静かな迫力を秘めたルシウスがちらと睨んだだけで、群衆はしんと静まり返った。
そんな中、群衆の中で最も屈辱を感じていたのはブランカだった。ガネシュの攻撃が王女に有利に働いてしまっただけでなく、自分がまず最初に入るべき星の館に王女が先に入室することになったからだ。
しかも王太子殿下が最も信頼しているルシウスに、あの者を護衛させるとは──! 王妃気取りか?
ぎりぎりと歯噛みしながら、ブランカは悠然と目の前を歩いていく王女を睨みつける。
「ケダモノめ」
聞こえよがしに王女に言葉をぶつける。だが王女は全く表情も変えず、恐れもせず、ブランカの前を通り過ぎた。
平静を装っているのね。本当は恐怖で震えているはずよ。あの仮面をいつか剥ぎ取ってくれる。
ブランカは王女への恨みを募らせていった。
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私が星の館に到着すると、先に入室していた王太子が駆け寄ってきた。警備が何とか、王女に何とかと、私がまだよく理解できない言語で語っている。
私はふいに、先日の非礼を詫びようと思いついた。
マハ王国での【謝る、すまない】といった意味の言葉を私は目の前の王太子に投げかけた。
「ソバニ」
王太子は私を凝視し固まったまま返答しない。まあ、わからないのだろうな、マハ語は。
私は、一向に反応がない王太子に、知っている王族の呼び方で声をかけてみた。
「殿下?」
突然、王太子が私を抱きしめた。
「!!??」
身動きができないほど強く。
周りにいた兵や侍女たちが、私たちから身を隠すようにさっと隣の部屋に下がった。
私は王太子を振り解こうとしたが諦めた。何だかわからないが、謝罪を受け入れてくれたのだろう。これはきっと、王太子の国では和解のジェスチャーなのだ。
しかし、長すぎる……。
いつまで経っても王太子は私から離れない。さすがにもういいだろうと私はそっと王太子を引き離そうとした。
王太子は腕を解いた。そして、おもむろに私の顎をくいと上げ、唇を近づけてきた。
私の頭は真っ白になった。
気づくと私は、王太子を遠くへ跳ね飛ばしていた。
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