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2 王太子の謎の行動
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【 父上、母上、お元気ですか?
そんなに悲しまないでください。戦に敗れたとはいえ、王と王妃を祖国から出すわけにはまいりません。私が身代わりとして、ルヒカンド王国へまいります。
いつでも自決の覚悟はありますのでご心配なく。
穢らわしい血の一族に好きにされるくらいならば、潔くこの命、断ちますゆえ。
翡翠 】
私は呪言で牢内に羽虫を呼び寄せ、言葉を託した。
「よい子だ。頼んだぞ」
飛び立った羽虫を見送っていると、鉄柵の向こう側に王太子が現れた。
「眠れたか」
牢の囚人に対して、眠れたか、とは妙な質問だ。
私は実は、まだこの国の言葉をそこまで理解できていない。
祖国に戦をしかけてきたことを知ってから、片手間に学んだだけなのだ。
「程々に」
敬語は面倒だ。どうせいずれ処刑されるのだろうから、ぞんざいに応えておいた。
他に何か用があるのだろうか、王太子はじっと私を見ている。
「要件を言え」
無言の時間に耐えられず私が聞くと、王太子は兵士に命じ、鉄柵の扉を開けさせ、突然こちらに歩いてきた。
「!?」
王太子は無言で私を見つめた後、手を伸ばし私の頬にかかっていた髪に触れた。手を弾きたかったが、しばらく耐えた。
王太子が何か呟いているが言葉がわからない。
私の顎に王太子の手が触れそうな瞬間、私はぷいと顔を背けた。王太子は目を少し見開いたが、そのまま手を引き、また何か呟いて、部屋を出ていった。
──剣で切られてもおかしくはなかったが。怒っている感じでもなく、何か物言いたげだったな。囚人に何の用だったのだろう?
王太子の考えていることが、私にはさっぱりわからなかった。
王太子の訪問の後、なぜか豪奢な寝具や化粧台、ドレスの着替えなどが牢内に届けられた。
そんなに悲しまないでください。戦に敗れたとはいえ、王と王妃を祖国から出すわけにはまいりません。私が身代わりとして、ルヒカンド王国へまいります。
いつでも自決の覚悟はありますのでご心配なく。
穢らわしい血の一族に好きにされるくらいならば、潔くこの命、断ちますゆえ。
翡翠 】
私は呪言で牢内に羽虫を呼び寄せ、言葉を託した。
「よい子だ。頼んだぞ」
飛び立った羽虫を見送っていると、鉄柵の向こう側に王太子が現れた。
「眠れたか」
牢の囚人に対して、眠れたか、とは妙な質問だ。
私は実は、まだこの国の言葉をそこまで理解できていない。
祖国に戦をしかけてきたことを知ってから、片手間に学んだだけなのだ。
「程々に」
敬語は面倒だ。どうせいずれ処刑されるのだろうから、ぞんざいに応えておいた。
他に何か用があるのだろうか、王太子はじっと私を見ている。
「要件を言え」
無言の時間に耐えられず私が聞くと、王太子は兵士に命じ、鉄柵の扉を開けさせ、突然こちらに歩いてきた。
「!?」
王太子は無言で私を見つめた後、手を伸ばし私の頬にかかっていた髪に触れた。手を弾きたかったが、しばらく耐えた。
王太子が何か呟いているが言葉がわからない。
私の顎に王太子の手が触れそうな瞬間、私はぷいと顔を背けた。王太子は目を少し見開いたが、そのまま手を引き、また何か呟いて、部屋を出ていった。
──剣で切られてもおかしくはなかったが。怒っている感じでもなく、何か物言いたげだったな。囚人に何の用だったのだろう?
王太子の考えていることが、私にはさっぱりわからなかった。
王太子の訪問の後、なぜか豪奢な寝具や化粧台、ドレスの着替えなどが牢内に届けられた。
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