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19 写真の真実

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「あの写真に写ってるのは、私の妻だった人だ。名をクリスティーナといってね。だまっていてすまない…」

「そ…だったんですね」


とうとう旦那様が本当のことを教えてくれた。


奥様がいたんだ…


なんとなく覚悟をしていたつもりなのに、改めて聞くと、ずしっと心にショックがのしかかった。


私、旦那様のこと、好きになってた──


今更ながら思い知らされる。


「今…その人は?」

「去年、事故で亡くなってしまったんだ。お腹の子も一緒に…」


旦那様が寂しげに目を伏せた。


「それはお気の毒に。さぞやお辛かったでしょう」


生きているとばかり思っていた私は想定外の答えに驚き、同情を覚えた。
お腹の子まで亡くされていたなんて。


「ごめんなさい…女の人のところに帰ってなんて、私なんて酷いことを…」


私は知らずに旦那様を傷つけてしまっていたことを悔やんだ。
それなのに旦那様は怒りもせず、私たちを助けてくれた。


「君は何も知らなかったんだ。隠し事をしていた私が悪かったんだ。言うと、君に嫌われるんじゃないかと、怖くて…」


旦那様ほどの人が「怖い」と思うことがあるのかと意外だった。
私の肩に触れ、改めて向き合わせた旦那様が打ち明けはじめた。


「リアナ、正直に言う。確かに最初はクリスティーナの面影を君に重ねていた。生まれ変わりじゃないかとさえ思っていた。けれど」


旦那様の声が熱を帯びる。


「立ち直れないほど絶望していた私を君は癒してくれた。私はどんどん君を好きになっていって…いつの間にか君のことが大切で愛おしくてたまらなくなったんだ!」


たかぶる予感がして私の心臓が早鐘のように打ち始めた。
私たちはまっすぐに見つめ合った。


「お願いだ。リアナ、私と結婚してくれないか?」


涙が出るほど嬉しい申し出だった。
けれど…


けれど私は平民なのに──


身分の差がありすぎて、旦那様に逆に迷惑がかかるのではないかと思うと気持ちが急にしぼんだ。


「嬉しいです、とても…でも、旦那様のような高貴な方と平民の私では到底釣り合いません」

「そのことなら、実はサプライズがあるんだ」


うつむいていた私はえっ、と顔を上げた。


サプライズ?
一体何の──


「君の亡くなったお父上はこの国の王から爵位を授かる予定だったんだ」


「本当ですか!?」


信じられなかった。
貿易商でしかない父がどうして?


「盗賊に盗まれ長年行方不明だった王家の宝剣を探し出した功績でね。お父上は亡くなっているが、王の特例で君を男爵令嬢にしてくれるそうだ」


「ああ、お父様…っ!!」


私は感激のあまり、顔を覆った。
仕事一筋で生きてきた父親の最後の置き土産だった。


「屋敷も財産も名誉も全て取り戻せる。名門オーケン家は娘のセレナに継がせればいい」


「お父様…お父様に会いたい…っ!どうして私を置いて死んでしまったの!?」


もう会うことはできない父を想い嗚咽する私を旦那様はそっと包み込んだ。
そして、いつまでも優しく髪をなでてくれた。
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