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1 信号機が証言台に立つそうです

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私は長年、鳥鳴き村の道に立ち続けた信号機です。
この度なぜか私は人間の裁判で証言台に立つことになりました。

未解決の殺人事件の被疑者が鳥鳴き村に立ち寄ったとの情報が入り、私が設置されている道を通ったのではないか、と推測されているらしいのです。
霧島博士という方が、物体のもつ思念を実体化する装置を開発し、実証実験として私が選ばれたのだそうです。

霧島博士は私を光る小さな板で撮影しました。そうすると、撮影された画像が板の中の”アプリ”というものの働きにより、実体化した思考に変換されるそうです。

私はみなさんの目にどのように視えているのでしょうか?
「信号機がしゃべった!」と、どなたかが言っていましたので、きっと信号機そのままの姿なのでしょう。

ええ、私はいわゆるフォトメモリーの持ち主です。見たものを写真のように記憶できています。

×月×日と言われてもわかりかねますので、今からいくつ昔の季節で、咲いていた草花と気温と天気を教えてくださいますか?
ええ、はい。15昔の春、咲いていたのは蓮華草、オオイヌノフグリ、私の周囲の最高気温23.89度、天気は曇りのち晴れ、ですね。
あります、その日の記憶。
ふふ。いつも私のそばを通る小学生たちが見えます。一人、いつも私を見上げて手を振ってくれる男の子がいました。
鳥がよく私の上にとまっていたので、鳥に挨拶をしていたのでしょうか?

ああ、話が脱線してしまいました。
見かけない車が通ったのは、2回。
乗っていました。行きは中年の男と女性。
帰りは中年の────

あら? 目の前が暗くなりましたね。私は故障したのでしょうか?
しかし、意思に故障などあるのでしょうか?

うう、う。苦しい。圧迫される、なんでしょう。頭の中身がどこかに追いやられるような。

はら? 誰ですあなた。私の前に立たないで。私はまだしゃべっている途中なんですよ?
どこの信号機ですか? 証言が求められているのは、私なんですよ?
これは一体どういう事態でしょうか。
私と違うものが証言を始めてしまいました。
どうして裁判官や検事たちは気づかないのですか?

<行きも帰りも、中年の男性と女性が車に乗っていました>

違う!! 嘘だ!!
帰りは女性はいなかった!!


「ちょっとすみません」


裁判員裁判席に座っていたひとりの男性が手を挙げて何か話し始めました。


「その信号機、違います」

「何だって??」

法廷内にざわつきが広がる。

「何が違うんですか?」

「その信号機は、鳥鳴き村の県道33号の信号機ではありません」

「どうしてわかるんですか?」

「よく似てますけど、錆の模様と信号機のレンズの素材が違います」

「お詳しいようですが、あなたは」

「鳥鳴き村の出身の者です。小学校の登校ルートだったので、毎日この信号機を見ていました」


あ! 君はいつも手を振ってくれたあの男の子だったのですか!


検事や裁判の関係者が慌ただしく出入りをしている。


「ハッキングです!」

「ハッキング!?」

「霧島博士に確認が取れました。証言していた信号機に、リアルタイムでハッキングが行われ、途中全く違う信号機が証言をしていたようです」

「証言の妨害ですか!?」

「今、追跡システムでハッキングの犯人を追っています──ハッカー特定、排除完了したそうです」


そのあと、私の頭の圧迫が嘘のように消えました。
目の前にいた見知らぬ信号機もいつの間にか姿を消していました。
私はきっぱりと証言しました。


「帰りの車に、女性はいませんでした」


私のフォトメモリーを元にした中年男性の肖像が作成され、被疑者として訴えられていた元大臣の大物議員が犯人として特定されました。
私をハッキングした犯人は、その元大臣が依頼したハッカーだったそうです。
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