29 / 31
第29話 出発
しおりを挟む
待ちに待った夏休みがやってきた。
『忘れ物はない?』
「ああ、ぜんぶ持ってきたぜ。戸締りの確認もバッチリだ」
『ん、それじゃあ出発進行!』
「ナスのお進行~」
レナがウキウキな様子で家を出る。
俺は大きな旅行カバンを背負って手提げバッグを持ち、レナの後を陽気な足取りで追いかけた。
向かう先はばあちゃん家。
夏休みが始まってすぐに泊まりに行くことになったのだ。
『向こうについたら何する?』
レナが無邪気に聞いてくる。
ばあちゃん家の近くにはきれいな川が流れている。
確かヤマメとかがいたはずだし、渓流釣りとかどうだろう?
そう思って聞いてみれば、レナは餌を見つけたヤマメのようにすぐに食いついてきた。
『いいわね渓流釣り! 楽しそうじゃない!』
「じゃあ、一緒にやるか。釣ったばかりのヤマメを塩焼きにしたらさぞかしうまいだろうな」
『わぁ、おいしそう……!』
「時間はたっぷり一週間あるんだ。いろいろと楽しもうぜ」
『ん、そうね』
そんな話をしているうちに最寄り駅に着き、やってきた電車に乗り込む。
降りる駅に着くまで二時間くらい時間があったけど、他愛のない話をしたり向こうでやりたいことを考えたりしているとあっという間に着いた。
『ここからはどうするの?』
電車を降りるなり、レナが聞いてくる。
「ローカル線に乗り換えてさらに二時間くらい移動する」
『思ったよりも遠いのね』
「言ったろ? ばあちゃんちはド田舎だって」
会話をしているうちに、目的の電車が止まるホームにたどり着く。
一両編成、単線、一時間に一本しかやってこないという、これぞローカル線といった電車に乗り込んだ。
誰も乗っていない車内でしばらく待っていると、ようやく電車が動き出す。
『この静かな雰囲気いいわね』
「だな。心が落ち着くというか、こののんびりとした時間が結構楽しい」
『ごはんを食べながら景色を眺めるのは、さぞかし楽しいでしょうね。というわけで、早くお弁当出しなさい』
「はいよ」
お腹が空いたと急かしてくるレナに俺も同意して、手提げバッグの中からいそいそと弁当箱を二つ取り出す。
『いっただっきまーす!』
レナが上機嫌で弁当箱のふたを開ければ、中から肉のいい匂いがあふれ出てきた。
『おいしそう……!』
「ジャガイモを肉で包んで串焼きにしてみた」
そのほかにも、卵焼きやら唐揚げやらレナの好物が並んでいる。
『ありがと! ホントに海斗大好き!』
「だから気持ちのこもってない大好き発言やめろって」
『一センチくらいは込めたもん』
「一センチもこもっていることに喜べばいいのか、まだ一センチなことに嘆けばいいのか……」
出会ったころよりは気持ちの量が増えたな、などと心の中で少しだけ喜んでいると、車窓からの景色が変わった。
『わ! キレイ!』
「お~、絶景だな」
先ほどまでは山々が見えていたのだが、山が開けた瞬間、一面にきらきらと太陽の光を反射する青い海が広がったのだ。
左手には緑が生い茂る山が。
右手には青い海がどこまでも広がっている。
「絶景の中で食べる弁当はうめえな」
『……絶景のおかげで海斗のごはんがおいしくなるんじゃなくて、海斗のご飯がおいしいから絶景がより映えるのよ』
「ふぇ……?」
控えめに告げてきたレナに、俺は目を点にした。
レナが俺の料理を絶賛してくれるのはいつものことなのに。
それなのに今回は無性に嬉しかった。
「ん、さんきゅ」
『……感謝してるなら、その串焼きを差し出しなさいよね!』
「喜んで」
照れ隠しに串焼きをよこせと詰め寄ってきたレナに、俺はついつい二本もあげてしまうのだった。
◇◇◇◇
『着いたの?』
「いや、ここからバスで三十分くらい」
ローカル線を降りた後。
今度はバスに乗り換える。
『マジでド田舎ね』
窓から見えるのは田んぼや畑、山ばかり。
民家はところどころにポツポツ建っているくらい。
目的地についてバスから降りれば、自然の匂いが鼻腔をくすぐった。
「空気がうまい!」
『ほんとそれ。都会とは大違いね』
耳をすませば、鳥などの動物や虫の鳴き声が聞こえてくる。
優しく肌を撫でてくる風に心地よさを感じながら二十分ほど歩くと、かなり大きな和風建築の家屋が姿を現した。
『海斗。もしかしてアレ?』
「ああ。到着だ」
ここが俺のばあちゃん家だ。
『忘れ物はない?』
「ああ、ぜんぶ持ってきたぜ。戸締りの確認もバッチリだ」
『ん、それじゃあ出発進行!』
「ナスのお進行~」
レナがウキウキな様子で家を出る。
俺は大きな旅行カバンを背負って手提げバッグを持ち、レナの後を陽気な足取りで追いかけた。
向かう先はばあちゃん家。
夏休みが始まってすぐに泊まりに行くことになったのだ。
『向こうについたら何する?』
レナが無邪気に聞いてくる。
ばあちゃん家の近くにはきれいな川が流れている。
確かヤマメとかがいたはずだし、渓流釣りとかどうだろう?
そう思って聞いてみれば、レナは餌を見つけたヤマメのようにすぐに食いついてきた。
『いいわね渓流釣り! 楽しそうじゃない!』
「じゃあ、一緒にやるか。釣ったばかりのヤマメを塩焼きにしたらさぞかしうまいだろうな」
『わぁ、おいしそう……!』
「時間はたっぷり一週間あるんだ。いろいろと楽しもうぜ」
『ん、そうね』
そんな話をしているうちに最寄り駅に着き、やってきた電車に乗り込む。
降りる駅に着くまで二時間くらい時間があったけど、他愛のない話をしたり向こうでやりたいことを考えたりしているとあっという間に着いた。
『ここからはどうするの?』
電車を降りるなり、レナが聞いてくる。
「ローカル線に乗り換えてさらに二時間くらい移動する」
『思ったよりも遠いのね』
「言ったろ? ばあちゃんちはド田舎だって」
会話をしているうちに、目的の電車が止まるホームにたどり着く。
一両編成、単線、一時間に一本しかやってこないという、これぞローカル線といった電車に乗り込んだ。
誰も乗っていない車内でしばらく待っていると、ようやく電車が動き出す。
『この静かな雰囲気いいわね』
「だな。心が落ち着くというか、こののんびりとした時間が結構楽しい」
『ごはんを食べながら景色を眺めるのは、さぞかし楽しいでしょうね。というわけで、早くお弁当出しなさい』
「はいよ」
お腹が空いたと急かしてくるレナに俺も同意して、手提げバッグの中からいそいそと弁当箱を二つ取り出す。
『いっただっきまーす!』
レナが上機嫌で弁当箱のふたを開ければ、中から肉のいい匂いがあふれ出てきた。
『おいしそう……!』
「ジャガイモを肉で包んで串焼きにしてみた」
そのほかにも、卵焼きやら唐揚げやらレナの好物が並んでいる。
『ありがと! ホントに海斗大好き!』
「だから気持ちのこもってない大好き発言やめろって」
『一センチくらいは込めたもん』
「一センチもこもっていることに喜べばいいのか、まだ一センチなことに嘆けばいいのか……」
出会ったころよりは気持ちの量が増えたな、などと心の中で少しだけ喜んでいると、車窓からの景色が変わった。
『わ! キレイ!』
「お~、絶景だな」
先ほどまでは山々が見えていたのだが、山が開けた瞬間、一面にきらきらと太陽の光を反射する青い海が広がったのだ。
左手には緑が生い茂る山が。
右手には青い海がどこまでも広がっている。
「絶景の中で食べる弁当はうめえな」
『……絶景のおかげで海斗のごはんがおいしくなるんじゃなくて、海斗のご飯がおいしいから絶景がより映えるのよ』
「ふぇ……?」
控えめに告げてきたレナに、俺は目を点にした。
レナが俺の料理を絶賛してくれるのはいつものことなのに。
それなのに今回は無性に嬉しかった。
「ん、さんきゅ」
『……感謝してるなら、その串焼きを差し出しなさいよね!』
「喜んで」
照れ隠しに串焼きをよこせと詰め寄ってきたレナに、俺はついつい二本もあげてしまうのだった。
◇◇◇◇
『着いたの?』
「いや、ここからバスで三十分くらい」
ローカル線を降りた後。
今度はバスに乗り換える。
『マジでド田舎ね』
窓から見えるのは田んぼや畑、山ばかり。
民家はところどころにポツポツ建っているくらい。
目的地についてバスから降りれば、自然の匂いが鼻腔をくすぐった。
「空気がうまい!」
『ほんとそれ。都会とは大違いね』
耳をすませば、鳥などの動物や虫の鳴き声が聞こえてくる。
優しく肌を撫でてくる風に心地よさを感じながら二十分ほど歩くと、かなり大きな和風建築の家屋が姿を現した。
『海斗。もしかしてアレ?』
「ああ。到着だ」
ここが俺のばあちゃん家だ。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる