事故物件に引っ越したら、なぜか清楚可憐な美少女幽霊と同棲することになった件について

狐火いりす@商業作家

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第28話 ゲーセン

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 膝枕をしてもらった後。
 試験結果が良かったお祝いとして作ったハンバーグを堪能していると。
 レナが『行きたいところがあるんだけど』と話を切り出してきた。

『久しぶりにゲーセンで遊びたいの』
「ゲーセンか。楽しそうだな」
『じゃー、一緒に行こ!』
「おっ、デートのお誘いか?」
『ち、違うし! からかわないでよね!』
「ははは、ごめんごめん」

 副菜から食べる派の俺が小さく笑いながらハンバーグを切り分けて渡すと、主菜から食べる派のレナは目を輝かせて機嫌を直した。





◇◇◇◇


 数日後。
 約束通り俺たちはゲーセンにやってきた。

「相変わらず騒がしいな」
『この感じが懐かしいわね。ほら、さっさと行くわよ!』
「おう」

 そう返事をして、レナの後をついていこうとして。


 ――レナに手を握られた。


 ぷにぷにとした柔らかい感触が伝わってくる。
 その動作があまりにナチュラルだったため、俺の思考がショートする。
 結局、されるがままにレナに連れていかれた。

『最初はこれで遊びましょ!』

 レナが目を付けたのはレースゲーム。
 画面を見ながら、リアルなハンドルやアクセルなどを使って操作するタイプのものだ。
 家庭用ゲーム機とは違って、実際に運転しているかのような臨場感を得られるのがウリなので、さぞかし盛り上がることだろう。

「いいんだけど……それよりも、レナ。もう手を放してもいいんじゃないか……?」
『あ』

 そこまで言われたところで、レナはようやく気づいたようだ。
 まだ俺の手を握っていることに。

『手くらいつないだっていいでしょ』
「へ……?」

 いつもツンデレで素直じゃないレナが開き直ってくるのは予想外だった。

『……海斗が遅いから無理やり連れてくるためにつないだのよ! 他意はないわ!』

 訂正。やはりレナは素直じゃなかった。
 自分で言っておいて恥ずかしくなったのか、慌ててそれっぽい理由をつけ足した。

 これ以上はレナが拗ねてしまいそうだから、俺は話を戻す。

「……んじゃ、ゲームするか」
『……そうね』

 数分後。
 結果として、レースゲームはすごく盛り上がった。
 いつも家でやっているレースゲームは経験年数などで俺が有利だったけど、こちらは操作感がリアルで制御が難しく、それに加えて予想以上にレナが強かった。
 その結果、互角の戦いを繰り広げて白熱した試合になったのである。

「強かったな、レナ。無免許運転でもしたことあるのか?」
『ランボルギーニ乗り回してた』
「おまわりさんこいつです」
『それより、次はクレーンゲームしましょ』
「おっ、りょーかい」

 楽しげに言葉を交わしながら、クレーンゲームのコーナーに移動する俺たち。
 いろいろな景品の中からよさげなものがないか見て回っていると、レナがぴたりと足を止めた。

「欲しいもんでも見つかったか?」
『ん、あれが欲しい!』

 レナが指さす先にあったのは、某有名なクリーム色の可愛らしいマスコットキャラクターの特大ぬいぐるみだった。
 手触りのよさそうな素材で作られていて、抱きしめたりしたらさぞかし気持ちよさそうだ。

『海斗、お金』
「わかってるって。ほれ」
『おっしゃ! 私の雄姿を見ときなさい!』

 五百円玉を投入すれば、レナがニヤリと笑いながらアームを操作する。

 このクレーンゲームは制限時間内ならいくらでもアームを動かせるタイプなので、難易度は比較的低いほうだろう。
 とはいえ、それはあくまで狙いが小さなぬいぐるみやフィギュアだったりした場合の話。
 今回レナが狙っているのは特大サイズのぬいぐるみなので、難易度ヘルモードなのは間違いない。

 案の定、五プレイしてもぬいぐるみを手に入れることはできなかった。

『全然取れない……。めっちゃほしいのに……』
「俺がとってやろうか?」
『ホント!?』

 明らかに肩を落としてしょんぼりしてしまったレナにそう提案すれば、レナは顔をガバッと上げて期待のこもった眼差しで見つめてきた。

「あー、自分で言うのもあれだけどさ。クレーンゲームに関しては一時期ガチってたから、それなりにうまいほうだと思うぞ」
『よっしゃ! 今こそ実力を発揮する時よ! やっちゃいなさい!』
「任せとけ。三プレイでとってやるぜ」

 最初の二回でぬいぐるみを取りやすい位置に動かし、三回目で重心なども計算して掴む。
 俺は宣言通り、ぴったり三プレイで見事ぬいぐるみをとることに成功した。

 景品取り出し口から特大サイズのぬいぐるみを取り出してレナに渡す。

「これで満足か?」
『ん、ホントに三プレイでとっちゃうとは思わなかったわ。とれなかったらス〇バで奢ってもらおうと思ってたのに』
「別にそれぐらいなら、いつでも買ってやるけどな」
『海斗って結構甘いよね。……とにかく、ぬいぐるみは大切にするわ。ホントにありがとね』

 レナがはにかみながら伝えてくる。
 ゲーセンに来てよかった。
 その表情だけでそう思えた。





◇◇◇◇


『ん、もふもふで気持ちいいわ』

 家へ帰るなり、レナはすぐに戦利品のぬいぐるみを抱きしめた。
 顔を半分ほどぬいぐるみに埋めて、気持ちよさそうに目を細めている。

 その様子があまりにもいじらしくて可愛くて思わず見とれていると、レナが半眼でジトっと見てきた。

『……何ジロジロ見てんのよ?』
「いやー、ぬいぐるみを抱きしめてるレナは様になってるなって思っただけだよ」
『ま、まあ、今日は特別にもっと見ててもいいわよ。ぬいぐるみをとってくれたお礼ってことで』
「そうか。じゃあ、じっくり鑑賞させてもらうわ」

 俺は宣言通りレナを眺め続ける。
 最初はぬいぐるみを優しく撫でていたレナが羞恥心に耐えられなくなって、顔を赤くしながらぬいぐるみの後ろに隠れてしまったところで、俺は笑いながら口を開いた。

「最近はどうだ? 楽しめてるか?」
『……ん。おかげさまで、それなりに満足していないこともないわよ』
「そうかそうか。それならよかった」

 相変わらずぬいぐるみの後ろに隠れているレナをぼーっと眺めながら、俺は自分自身に苦笑した。


 ――レナが現在の生活に満足していることに喜んでいる自分がいたから。


 出会った時は鬱陶うっとうしかったから成仏させたかったのに、今では成仏してもらうためにレナには楽しい生活を送ってほしいって思ってるんだもんな。

 自分の心の変化を自覚するのと同時に、俺もまた今の生活を楽しんでいるのだと認識させられた。
 俺は小さく笑った。
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