事故物件に引っ越したら、なぜか清楚可憐な美少女幽霊と同棲することになった件について

狐火いりす@商業作家

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第14話 霊能力者

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「行ってきまーす」
『ちょっと待って、海斗!』

 いつものように学校に向かおうとしたところで、なぜかレナに待ったをかけられた。
 なんだろうと振り向くと、レナが慌ただしい様子でやって来る。

『学生証忘れてるわよ!』
「マジで? ありがとな、レナ」

 どうやら仕舞い忘れていたようだ。

『……さっさと行ってきなさい。遅刻するわよ』
「……? 今度こそ行ってくる!」

 『遅刻するわよ』と急かしてきたレナは、どこか心ここにあらずといった様子だった。
 少し気になったけど、あいにく俺は寝坊した身だ。
 全力疾走で学校に向かわないと確実に遅刻するので、聞くことはなかった。





◇◇◇◇


「まずは前回の授業の復習からだ。基礎で躓くと先に進めなくなるから、先生の話をよく聞いておくように」

 五限の授業が始まる。

 ああ。暇だな……。

 そんなことを思いながらも、決して顔には出さずまじめな雰囲気を醸し出しながら授業を受ける。
 俺はもともと勉強ができるほうだし、予習復習もそれなりにやっている。
 ぶっちゃけ退屈だった。

「今日の授業はここまでだ。課題を忘れず提出するように」

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると、先生はそう言い残して去っていく。

「は~、暇すぎて逆に疲れた」

 体をほぐすように伸びをしていると、聞きなれた声が耳に届いた。

『やっほー、海斗。暇だったから遊びに来てあげたわよ』
「……レナか」

 開け放たれた窓から顔をのぞかせたレナが、俺のそばに移動してくるなり遠慮なく聞いてくる。

『海斗ってボッチなの?』
「もうちょいオブラートに包んで? ……まあ、ボッチなのは事実だけどさ」
『海斗って陰キャ寄りだけど、コミュ力はあるからボッチなのは意外だわ』
「だからオブラートに包めと。……親の転勤に合わせてこの高校に進学したんだけど、よそ者の俺は馴染めなかったんだよ。他のやつらはみんな地元出身だからさ」

 そんなわけで、俺は青春とは程遠い高校生活を送っていた。
 青い春? いつも灰色の冬ですけど何か?

『……もったいないわね』

 レナが残念そうに呟く。

「何が?」
『海斗と友達になったら楽しいと思うのに』

 その言葉が本心であることは分かった。
 レナはこういう時は素直だから。

「なんかありがとう」

 少し気恥しくて頬をかきながらお礼を伝える。

『私はただ海斗のフォローしてあげただけで、深い意味はないからね!』

 相変わらずの素直じゃない返事が返ってきた。

 と、そうこうしているうちに次の授業が始まったので、俺はまじめな顔で聞き流す。
 レナも最初のほうは授業を聞いていたものの、さっぱりわからなかったのか今はうつらうつらしていた。

「この問題は分かるかな? うーん……。では、西崎君に答えてもらいましょう!」
「はい」

 この先生がランダムで指名するのはよくあることなので、すでに一通り問題を解き終わっている俺は慌てることなく立ち上がる。
 俺の返事を聞いてか、レナが目を覚ました。

『……そうだ』

 レナは小さく呟くと共に、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
 嫌な予感がしたけど、ひとまず問題に答える。

「答えは2√11でごわす」

 …………ごわす……?

 盛大な前ふりをしたギャグがスベったかのように、クラスが静まり返る。
 どこからか馬鹿にするかのような失笑が聞こえてきた。

 ちょっと待って!
 ただでさえクラスに馴染めてないのに、キャラでもない謎の語尾が出てきたんだけど!

 そりゃ、場がしらけるのも当然だ。
 よく知りもしないやつがいきなり奇行に走ったのだから。

『ぷっ、ごわすとか似合わなさすぎ』

 隣から笑い声が聞こえてきた。
 そちらを見れば、レナが口元を抑えて必死に笑いをこらえようとしていた。

 お前か、犯人は!

 前にレナは言っていた。
 『私は呪いを使うことができるのよ』と。
 その一つに、強制的に語尾を変える呪いがあると。

 つまり、語尾を変える呪いを俺にかけて遊んだということだ。
 マジで何してくれてんねや!
 そう心の中で叫ぶ。

 レナに向かっていつものように叫んでも、周りから見れば虚無に話しかけてるヤベーやつだ。
 そんなことしたら傷口に塩どころか、傷口にカプサイシンである。
 俺は大人しく机に突っ伏して、心の中でレナに怨念を送ることしかできなかった。

「は~い。今日の授業はここまでです!」

 気づいたら六限の授業が終わった。
 幸いにも俺は帰宅部なので、すぐに学校から逃げようとしたけど――。


「西崎君、屋上に来てくれる?」


 クラスメイトに話しかけられた。

 彼の名は確か……霧雨透きりさめとおるだ。
 空気のようなふわふわとした雰囲気を放っている捉えどころのない少年で、彼もまたクラスの中で孤立していた。
 もちろん俺と霧雨に接点はない。

『なんなのかしら?』
「さあ……?」

 去っていった霧雨の背中を見て、俺たちは首をかしげる。
 とはいえ、わざわざ話しかけてきたくらいだ。
 無下にするのも良くないだろう。

 そう思って屋上にやって来た俺たちに、霧雨は予想外の言葉を放った。


「西崎君。きみ、悪霊に憑りつかれてるよ。祓ってあげる」

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