事故物件に引っ越したら、なぜか清楚可憐な美少女幽霊と同棲することになった件について

狐火いりす@商業作家

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第9話 初めてのお出かけ

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 憑依状態を解除したレナは、晴れて自由な霊となった。
 そして、流れで一緒にお出かけすることになったわけだが、そもそもどこに行くのかすら決まっていない。

「レナはどこか行きたいところあるのか?」
『んーとね、まずはスイーツを食べるのは確定でしょ。で、服屋にも行きたいし、本屋にも行きたいかな』

 レナがそこまで言ったところで、ふと疑問に思う。

「レナって服着れるのか?」

 同棲生活が始まって一か月以上が過ぎたけど、レナはいつも同じ服を着ていたはずだ。
 だから、服を着れるのか聞いてみたら。

『一応着れるけど、着るつもりはないわ。不干渉モードになった時に脱げちゃうし』

 そう返ってきた。

 ちなみにレナ曰く、幽霊には干渉モードと不干渉モードというのがあるそう。
 干渉モードがごはんを食べたりなど物理干渉できる状態のことで、不干渉モードは壁や床をすり抜けたりなど霊体以外の物質に干渉しないモードとのこと。

 レナがいつも着ている服は霊体だから不干渉モードでも脱げない。
 しかし、普通の服は霊体じゃないから干渉モードの時には着れても、不干渉モードの時にレナの体をすり抜けて脱げてしまうということだ。

「それだと、服屋に行く意味なくね?」
『私が海斗の服を選んであげるわ。私のおかげで海斗も今時ボーイになれるんだから感謝しなさい』
「遠回しに俺のファッションセンスを馬鹿にしてるだろ」

 とは言いつつも、レナに見繕ってもらえるのは願ったりかなったりだ。
 レナがファッションセンスに優れているのは、彼女の服装を見れば一目瞭然なのだから。

 ……にしても、わざわざ俺のために選んでくれるのか。

「レナが俺のために何かしてくれるのって初めてだよな?」
『……いつも料理作ってもらってるし、そのお礼よ。それ以上の理由はないんだからね!』

 なるほど、そういうことか。
 少しだけ素直になってくれたレナに、なんだか心が温まる。
 俺は、嬉しいのだろう。

『ともかく、服選びは私に任せなさい!』

 レナはそう言って、自分の胸を力強くドンと叩いた。
 おー、頼りになるぜ。

『ごほっ……。叩く力強すぎた……。苦しい……』
「締まらねーな。せっかくちょっと頼りがいがある感じだったのに。今ので全部なくなっちゃったよ」

 ここぞというときに発揮するレナのポンコツっぷりに苦笑しながらも、俺はスマホを取り出して操作する。
 とある場所を画面に表示させてから、レナに見せた。

『ここは?』
「でっかいショッピングモールだ」
『そこには私の求めるものが全てあるの?』
「ああ。お前が行きたがってる店や、昼ごはんにぴったりなうまい店もあるぞ」
『富と名声と力は?』
「今すぐ海へ行って海賊になってこい」

 出かける場所が決まったところで、レナが『さっさと準備するわよ!』と一声。
 朝食を食べて身支度を済ませた俺たちは、さっそく玄関に向かう。
 靴を履く俺の隣で、レナはどこからともなく現れたパンプスを履いた。

「アイテムボックスみたいな能力まで使えるのか」
『霊力ってホントに万能なのよ』
「霊力スゲー」

 ガチャリとドアノブを回してドアを開ければ、雲一つない晴れ晴れとした空から太陽の日差しが降り注いでくる。
 俺にとっては日常的なことだけど、地縛霊だったレナには二年ぶりで。

『……暖かい』

 眩しそうに目を細めながらも空に向かって手を伸ばすレナは、幸せそうな表情をしていた。
 きっと二年分のセロトニンがドバドバ出ているのだろう。

「よかったな。外に出られるようになって」
『ん、ありがと。海斗のおかげね』

 レナは恥ずかしそうに、控えめにお礼を言ってきた。

 ……素直になれば可愛いじゃん。

 そんなことを面と向かって言えるはずもなく、心の底に仕舞って「ほら、行こーぜ」とレナを促すのだった。





◇◇◇◇


『あの猫ちゃん可愛いわね』
「虎柄か。なんか珍しいな」
『あ、逃げた……』
「ハハハ、残念だったな」
『他にも猫ちゃんいないかな?』

 視界に映るものすべてに目を輝かせているレナに付き合って、他愛ないやりとりをしながら意味もなくブラブラしていたら、駅に着くのに結構な時間がかかった。
 別に急いでいるわけでもないし、レナが満足そうだから問題ない。

 目に映るものや、いろいろな香りがすごく新鮮だったのだろう。
 レナは終始楽しそうにしていた。

 俺たちは改札を通ってホームに入る。
 切符を買っていないレナは無賃乗車になるけど、幽霊だから問題ないだろう。

 のんびりと電車を待っていると、電光掲示板に「まもなく電車がまいります」という文字が表示され、メロディーが流れだす。

『この電車が来る時のメロディーっていいわよね』
「超わかる」

 平日の朝ならサラリーマンや学生でごった返しているけど、今日は休日ということでいつもより人は少ない。

『あそこの席に座りましょ』
「はいよ」

 レナが電車に乗るなり、車両端の相席を指さす。
 俺が腰かけると、レナは反対側の窓側に座った。

 電車が動き出すなり、子供のように外の景色に釘付けになって窓に張り付いている。
 その様子を微笑ましげに見ながら、話を振って来るレナに相槌を返していれば、あっという間に目的地の駅に着いた。

『よーし、ショッピング楽しむわよ!』

 改札を抜けてショッピングモールに着くなり、レナが元気良く叫ぶ。

 スイーツにうまいごはんに本屋に服屋。
 せっかく来たからには遊びつくしてやる。

「うし、行くか!」

 レナに釣られたのか、俺の声もテンションが高かった。
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