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第8話 初憑依
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ゴールデンウィーク最終日の朝。
突如、レナの叫び声が聞こえてきた。
『あああああ! 忘れてたあああああああ!!!』
ゴールデンウィークの忙しい中バイトに励み、今日は休日ということでぐっすり眠っていた俺は、レナの声で目を覚ます。
「朝っぱらからなんだよ……」と眠い目をこすりながら寝室から出るなり、レナがずいっと詰め寄ってきた。
ふわりと甘い匂いが鼻孔をくすぐる。
……朝からこれは心臓に悪い。
『お願い! 私が地縛霊じゃなくなるために手伝って!』
「さっき忘れてたあああとか叫んでたけど、地縛霊じゃなくなる方法があるのに今の今までそれを忘れてたってこと?」
『そ、そんなことないし……』
「ホントに?」
『……』
「……」
『忘れてたのよ! 悪い!?』
露骨に目線を逸らしたレナに聞き返せば、開き直りよった。
レナらしいポンコツっぷりに呆れつつも、その方法について聞いてみる。
『私が海斗に“憑依”するのよ。そしたら私は、地縛霊から解き放たれるわ』
憑依って、精神を乗っ取られたりするのだろうか?
そんなことを考えていると、俺の不安を見透かしたようにレナが憑依について教えてくれた。
『憑依ってのは、海斗の予想してる通り霊が人間に憑りついて操ることね。精神を乗っ取ったり狂わせたりもできるけど、そんなことはしないから安心しなさい。それ以外には、特にデメリットはないわ』
「ふ~ん……?」
『何よ、その疑いの眼差しは? 私がそんなことすると思ってんの?』
「いや、お前がそんなことしないのは分かってるけどさ。お前ってポンコツだから、間違って精神を乗っ取っちゃったりしかねんなって思って」
俺がそう言うと、レナの視線が激しく泳ぎだした。
餌に群がる鯉みたいだ。
『だ、大丈夫よ。憑依するのは初めてだけど、きっとうまくいくから……』
「一気に不安になってきたんだけど」
そうは言いつつも、俺はOKを出した。
自分でも呆れるくらいのお人好しってのもあるけど、それよりも──。
レナが地縛霊じゃなくなれば、ここにとどまる理由はなくなる。
成仏させるよりも手っ取り早く平穏な暮らしが手に入るし、レナも自由になれる。
それが一番の理由だった。
『それじゃあ、いくわよ!』
「間違っても俺の精神を乗っ取らないように、細心の注意を払ってやるようにな」
『りょーかい!』
レナは元気よく返事するとともに、俺に向かって飛び込んでくる。
成功した……のか?
驚くほどあっさりと、何の違和感も感じることなく、レナは吸い込まれるように消えていった。
成功した実感がわかない、そう思った時。
「ふふん! 成功よ!」
俺の口からそんな言葉が漏れた。
勝手に口が動いて、勝手に言葉が出てきたのだ。
声は完全に俺のものだが、口調は完全にレナのものだった。
(今のってお前が喋ったのか?)
心の声で問いかけると。
「そうよ」
レナが答えた。
レナはそのまま、動作確認をするように俺の体を動かす。
自分の意思とは関係なしに体が勝手に動くのは、なんだか新鮮な体験だった。
すげえ、自分を遠隔操作してるみたいだ。
俺が憑依されている感覚を楽しんでいると、レナが意を決したように口を開いた。
「地縛霊じゃなくなったことだし、二年ぶりに外に遊びに行きたいんだけど……海斗も一緒に行かない? べ、別に海斗と一緒に遊びたいってわけじゃないからね! 私が方向音痴だから道案内してほしいだけだし!」
(もし俺が家でゴロゴロして過ごしたいって言ったら?)
「このまま全裸になって街を駆け回るけど?」
(俺を社会的に殺そうとすんな! ……しゃーねーな、一緒に行ってやるよ)
というわけで、俺たちは一緒にお出かけすることになった。
突如、レナの叫び声が聞こえてきた。
『あああああ! 忘れてたあああああああ!!!』
ゴールデンウィークの忙しい中バイトに励み、今日は休日ということでぐっすり眠っていた俺は、レナの声で目を覚ます。
「朝っぱらからなんだよ……」と眠い目をこすりながら寝室から出るなり、レナがずいっと詰め寄ってきた。
ふわりと甘い匂いが鼻孔をくすぐる。
……朝からこれは心臓に悪い。
『お願い! 私が地縛霊じゃなくなるために手伝って!』
「さっき忘れてたあああとか叫んでたけど、地縛霊じゃなくなる方法があるのに今の今までそれを忘れてたってこと?」
『そ、そんなことないし……』
「ホントに?」
『……』
「……」
『忘れてたのよ! 悪い!?』
露骨に目線を逸らしたレナに聞き返せば、開き直りよった。
レナらしいポンコツっぷりに呆れつつも、その方法について聞いてみる。
『私が海斗に“憑依”するのよ。そしたら私は、地縛霊から解き放たれるわ』
憑依って、精神を乗っ取られたりするのだろうか?
そんなことを考えていると、俺の不安を見透かしたようにレナが憑依について教えてくれた。
『憑依ってのは、海斗の予想してる通り霊が人間に憑りついて操ることね。精神を乗っ取ったり狂わせたりもできるけど、そんなことはしないから安心しなさい。それ以外には、特にデメリットはないわ』
「ふ~ん……?」
『何よ、その疑いの眼差しは? 私がそんなことすると思ってんの?』
「いや、お前がそんなことしないのは分かってるけどさ。お前ってポンコツだから、間違って精神を乗っ取っちゃったりしかねんなって思って」
俺がそう言うと、レナの視線が激しく泳ぎだした。
餌に群がる鯉みたいだ。
『だ、大丈夫よ。憑依するのは初めてだけど、きっとうまくいくから……』
「一気に不安になってきたんだけど」
そうは言いつつも、俺はOKを出した。
自分でも呆れるくらいのお人好しってのもあるけど、それよりも──。
レナが地縛霊じゃなくなれば、ここにとどまる理由はなくなる。
成仏させるよりも手っ取り早く平穏な暮らしが手に入るし、レナも自由になれる。
それが一番の理由だった。
『それじゃあ、いくわよ!』
「間違っても俺の精神を乗っ取らないように、細心の注意を払ってやるようにな」
『りょーかい!』
レナは元気よく返事するとともに、俺に向かって飛び込んでくる。
成功した……のか?
驚くほどあっさりと、何の違和感も感じることなく、レナは吸い込まれるように消えていった。
成功した実感がわかない、そう思った時。
「ふふん! 成功よ!」
俺の口からそんな言葉が漏れた。
勝手に口が動いて、勝手に言葉が出てきたのだ。
声は完全に俺のものだが、口調は完全にレナのものだった。
(今のってお前が喋ったのか?)
心の声で問いかけると。
「そうよ」
レナが答えた。
レナはそのまま、動作確認をするように俺の体を動かす。
自分の意思とは関係なしに体が勝手に動くのは、なんだか新鮮な体験だった。
すげえ、自分を遠隔操作してるみたいだ。
俺が憑依されている感覚を楽しんでいると、レナが意を決したように口を開いた。
「地縛霊じゃなくなったことだし、二年ぶりに外に遊びに行きたいんだけど……海斗も一緒に行かない? べ、別に海斗と一緒に遊びたいってわけじゃないからね! 私が方向音痴だから道案内してほしいだけだし!」
(もし俺が家でゴロゴロして過ごしたいって言ったら?)
「このまま全裸になって街を駆け回るけど?」
(俺を社会的に殺そうとすんな! ……しゃーねーな、一緒に行ってやるよ)
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