事故物件に引っ越したら、なぜか清楚可憐な美少女幽霊と同棲することになった件について

第1話 事故物件と幽霊

　この世に幽霊はいるのか？
　俺──西崎海斗にしざきかいとは幽霊の存在など信じていなかった。
　新居のアパートに引っ越した当日、その少女が現れるまでは。

　毛先まで丁寧に手入れされていることが一目でわかるほどきれいな、肩まで伸ばされた栗色の髪。
　意志の強そうな双眸そうぼうからは、長いまつ毛がすらりと伸びている。
　ミモレ丈ワンピースをオシャレに着こなしたその美少女がこの世の者じゃないことは、ふわふわと宙に浮かぶ彼女の体が証明していた。

『ごはんを……よこしなさい……』

　幽霊少女が弱弱しい声で命令してくる。

　どうしてこうなったのか？
　それを説明するには、数日前にさかのぼる必要がある。





　──数日前──


　俺の両親はいわゆる転勤族で、また転勤することになった。
　それなりに有名な進学校に通っている俺としては、二年生に進級したこのタイミングで転校したくはない。
　そんな理由で、これを機に一人暮らしをしようと思ったのだが。

　今、俺が両親と一緒に住んでいるアパートは、学校と少し離れているから電車通学する必要がある。
　たった二駅という短い距離だけど、それが一年以上となると通学費は結構な額になるわけで……。

　何かいい条件の引っ越し先がないか探した結果、俺は見つけてしまった。
　好条件すぎるアパートを。

　学校まで徒歩二十分。
　1LDKで、家賃は驚異の二万円！

　驚きの安さだ。そんな物件あるわけないだろ！　って思うだろ？
　だけど、もちろんそれには理由がある。


　──いわゆる、“事故物件”というやつだ。
　二年ほど前にこの部屋に住んでいた女子高生が死んでから、突然不可解なことが起こるようになったらしい。


　居住者が立て続けに逃げたせいで誰も住もうとしなくなり、仕方なく家賃を下げたそう。
　だが、オカルト否定派の俺はそんなことなど気にしない。
　むしろありがたいくらいだ。
　破格の値段で住めるのだからな。

　それでこの物件に飛びついた結果、俺は幽霊少女と出会ったのだ。


　この時の俺は思ってもいなかった。
　まさかこれが運命の出会いになるなんて。
　なんの接点もない幽霊少女と深い関係になっていくとは、考えてもいなかった。