社畜、ケモミミ幼女を拾う。~てぇてぇすぎる狐っ娘との癒され生活が始まりました~

狐火いりす@商業作家

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第13話 悪魔ちゃん登場!

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「呼ばれて飛び出てパンパカパーン! 私、参上ですっ!」

 私はゆっくりと瞼を持ち上げる。
 そこにいたのは、背中からコウモリの羽が生えている幼女だった。

 てぇてぇ!?
 私は、真っ先にそう思った。

「ご用件はやはり契約ですよね?」

「……は? え?」

 謎の幼女に話しかけられたことで、私は我に返る。
 ……いくらてぇてぇからって、見惚れてる場合じゃないでしょ!

「えーっと……まず君はなんなの?」

「見ての通り悪魔です!」

 謎の幼女改め悪魔ちゃんは、ウィンクしながらポーズを決め込む。
 てぇてぇっていうのは置いといて……そうかぁ。悪魔かぁ……。

 悪魔っていったら頭部がヤギみたいな恐ろしい外見してるイメージあったけど、目の前の悪魔ちゃんは私のイメージからかけ離れていた。

 黒のドレスに身を包んだ金髪幼女だからね。
 怖さなんて一ミリもないどころか、むしろキュートさしかないくらいだ。

「悪魔ちゃんが悪魔なのは分かったけど、契約ってのはなんなの?」

「人間がイメージする『悪魔の契約』そのものですよ。対価をくれたらお願いを叶えてあげるってやつです!」

「じゃあ、風邪を治してください」

「病院に行ってお医者さんに診てもらったほうがいいと思いますよ」

「ああ、うん……」

 正論すぎて何も言い返せない。
 ……そうだよね。願いを叶えるったって、なんでもできるわけじゃないよね。

「契約しないんですか? 帰っちゃいますよ?」

「ちょっとまって!」

 帰り支度を始めた悪魔ちゃんに待ったをかけたのは、葛葉ちゃんだった。
 葛葉ちゃんが契約したがるとは思ってもいなかったから、私は驚いてしまった。

「……なるせお姉ちゃんのおしごとのおてつだいたのんでもいい? びょーきでつらいのにおしごとがいっぱいなの葛葉かなしい……」

「では、対価としてあなたの命をいただきますね」

「ひぃ!?」

 葛葉ちゃんが悲鳴を上げる。
 私は重い体を引きずりながら、葛葉ちゃんをかばうために前に出た。

「契約、拒否します……!」

「嫌ですね~、悪魔ジョークですよ。命なんて取りませんって。ちょっと仕事のお手伝いする程度なら、ゴデ〇バのチョコ五千円分くらいで充分ですよ」

「値段が現実的」

「どうです? 契約しますか?」

 ……正直、今の私じゃ絶対に仕事を終わらせるのは不可能だ。
 だったら、悪魔ちゃんに頼ってもいいんじゃないかな。

 私はしばらく考えてから、口を開いた。

「……契約って、契約書を書いたりするよね?」

「そうですね。なので、先に契約書を作るとしましょう。日本の法律だと、口約束した時点で契約が成立しちゃいますからね」

 悪魔ちゃんはそう言い残すと、魔法陣の中に消えていった。
 ……確か、「契約書にサインしたら契約成立!」ってのはアメリカやイギリスの考え方なんだっけ?

 それから待つこと十分ほど。
 悪魔ちゃんは一枚の書類を持って戻ってきた。

「お待たせしました~。内容を確認のうえ、問題がなければ署名をお願いいたします」

「うわ、ガチなやつじゃん」

「なにが書いてあるのか葛葉にはさっぱりだよ……」

 悪魔ちゃんから手渡されたのは、実際に仕事の場で使われるような契約書だった。
 すっごく固い文章の中に突然現れる「ゴデ〇バのチョコ五千円分」というワードの存在感がすごい。

「……内容は問題ないわね」

 一通り目を通してそう判断した私は、署名する寸前で止まった。

「……ちょっと質問だけど、署名って血を垂らしたりする必要ある?」

 私の偏見かもだけど、映画なんかで悪魔契約っていったらやりがちじゃない?
 「契約するには貴様の血が必要だー!」的なやつ。

「あー、人間の世界だと血の契約なイメージあるみたいなんですよね。悪魔契約マニュアルのQ&Aにもよく聞かれる質問として載ってます」

「悪魔契約マニュアル……? 何それすごく気になるんだけど」

「守秘義務あるので見せられないですね」

「ああ、はい……」

 悪魔の契約、思ってた以上にしっかりしてるわ。

「話を戻しますが、契約は署名だけで大丈夫です。ここにお名前を記入した時点で特殊な術式が発動しますので、契約違反があった場合は違反したほうにペナルティが課せられるようになります」

「そのペナルティとは……?」

「契約内容によって度合いが変わりますね。大きな契約の場合ですと、ペナルティで死ぬこともあります」

「「え……?」」

 私と葛葉ちゃんの声がハモる。
 そんな私たちに向かって、悪魔ちゃんは安心させるように告げてきた。

「大丈夫ですよ、今回は小さな契約ですので。ペナルティはせいぜい、来月の給料が謎の力によって半額になる呪いを受けるぐらいです」

「世界一いらない半額セールだ」

 もともと対価はちゃんと払うつもりだったけど、改めて絶対に払おうと心に誓った。

「以上の点を踏まえたうえで、契約するのであれば署名をお願いいたします」

「はーい」

 かきかきかき。

「よし、できた」

 契約書に署名すると、悪魔ちゃんは笑顔を浮かべた。
 ザ☆営業スマイルって感じだけど、てぇてぇから問題ない。

「契約成立です! ではさっそくお仕事のお手伝いを…………といきたいところですが、その前に。今なら初回契約サービスで私がおかゆを作ってあげることもできますが、どうしますか? もちろん無料ですよ」

「食べますッ!」

 てぇてぇ幼女の作ってくれたおかゆを食べないという選択肢はあるのだろうか?
 否、あるわけがない。
 有料でも食べますよ!

 私が食い気味に答えると、なぜか葛葉ちゃんはむぅ~と頬をふくらませた。

「葛葉もおかゆつくる!」

「作り方わかります?」

「わかんない!」

「なんで立候補したんですか……」

 葛葉ちゃんがおかゆの作り方を知らないのに作ると言い出したのは、私の役に立ちたいからなのだろう。
 葛葉ちゃんが健気なのは私が一番知っているのだから、わかって当然だ。

「悪魔ちゃん、おかゆ作りを葛葉ちゃんと一緒にしてくれないかな?」

「おかゆのつくりかたをおしえてください!」

 必死に頼み込む葛葉ちゃんを見て、悪魔ちゃんはやれやれと首を振った。

「仕方ないですね、今回は特別ですよ」

「やった~、ありがと! なるせお姉ちゃん、おいしいおかゆをつくってあげるね!」

「うん、楽しみにしてるよ」

「では、キッチン借りますね」

「お米は炊けたのが炊飯器に入ってるから、自由に使ってね」

「了解です」

「れっつごぉー! おかゆをつくるぞー!」

 キッチンに向かって行く二人を見送った私は、「あ゛あ゛あ゛~」とゾンビのようなうめき声を上げながらソファーに倒れ込む。
 正直、脳みそが限界を超えていてつらい。
 契約書を読んで脳に負担をかけたからだろう。

 でも、もう大丈夫。
 ここからは癒しタイムなのだから。

「もっと強くかき混ぜてください!」

「うぐぐ……! 重いよぉ……!」

「おいしいおかゆを作りたいのでしょう?」

「つくりたいよぉ!」

「なら、もっと頑張ってください! ファイトですよ!」

「葛葉がんばる! えいやあああっ!」

「そうです! その調子ですよ! ラストスパート頑張ってください!」

「おりゃぁ~!」

 微笑ましい二人のやり取りを眺めること三十分ほど。
 最後に悪魔ちゃんがアレンジを加えたところで、おかゆが完成した。
 すぐに皿に盛りつけられて運ばれてくる。

「すっごくいい匂いだね。なんか食欲がわいてきたよ」

「溶き卵を回し入れた後にごま油を加えることによって、中華風にしてみました」

「なるほど~、参考になるなぁ」

 私が感心していると、葛葉ちゃんがおずおずと話しかけてきた。

「なるせお姉ちゃん、その、あのね……。葛葉があーんってして食べさせてあげるね」

「マジで!? ぜひともよろしくお願いします!」

「では、私は契約通りお仕事しておきますね」

「あ、お願いします。わからないことがあったらなんでも言ってね」

「はいです!」

「なるせお姉ちゃん、こっちむいて」

 葛葉ちゃんに呼ばれて振り返ると、葛葉ちゃんは少し恥ずかしそうにスプーンを差し出してきた。

「はい、あーん」

「あーん」

 ぱくりと食べる。
 その瞬間、香ばしい風味が口いっぱいに広がった。
 卵とごま油の味がおかゆと調和して、とてもおいしく仕上がっている。

「どうかな? おいしい?」

「うん、すごくおいしいよ」

 恐る恐る聞いてきた葛葉ちゃんにおいしいと伝えると、葛葉ちゃんは笑顔を浮かべて喜んでくれた。
 中華風にするという悪魔ちゃんのアレンジもすごいけど、そもそも葛葉ちゃんがおかゆを上手に作れていなかったらこの仕上がりにはなっていなかったからね。

「悪魔ちゃんもありがとね」

「いえいえ、どういたしまして。ごゆっくりお楽しみください」

「そうだよ。ほら、あーん」

 再び始まる至福のお食事タイム。
 てぇてぇすぎる時間を過ごした私は、だいぶ回復することができた。

「ごちそうさまでした。悪魔ちゃんのほうは…………って、はやっ!?」

 悪魔ちゃんのほうに目を向ければ、恐るべきスピードで仕事を進めていた。
 パソコン操作が完璧すぎて、私は開いた口がふさがらなくなる。
 私ですら知らない機能を使ったりしながら効率的に進めていくのには、ただただ唖然とするしかなかった。

 そして、三時間後。

「ふぅ~、全部終わりましたよ!」

 私が仮眠から目を覚ますと、ノルマはきれいさっぱり片付けられていた。

「すごい……! ありがとうございますっ!」

「報酬はきっちり払ってもらいますからね?」

「もちろんです!」

 というわけで、翌日。
 完全に元気になった私は、仕事から帰って来るなり悪魔ちゃんに報酬を手渡した。

「ちゃんと五千円分ありますね。では、これにて契約終了です!」

 悪魔ちゃんは報酬の入ったレジ袋を手に取る。
 別れの挨拶を告げてから、魔界(仮)に帰ってしまった。

「行っちゃったね……」

「なるせお姉ちゃん、さみしいの?」

「まあね」

「むー」

 ヤキモチを焼いたような葛葉ちゃんの反応に苦笑しながら、私はこの二日間の出来事を思い返す。

 ……いつもより賑やかで楽しかったな。
 もうちょっとゆっくりしていけばよかったのに……。

「なるせお姉ちゃん、葛葉おなかすいたー」

「それじゃあ、夜ご飯にしよっか」

 葛葉ちゃんに急かされてキッチンに向かおうとした、その時だった。

「呼ばれてないけどパンパカパーン! 私、参上ですっ!」

 背後から可愛らしい声が響く。
 振り返ると、そこには悪魔っ子な幼女がいた。

「……悪魔ちゃん、どうして……?」

「いやー、この二日間がとても楽しかったので、もうしばらくご一緒したいな~と思いまして」

「私としてもそれは嬉しいけど、また契約するの?」

「いえ、契約ではなく私個人の意思です。なので、菓子折りも持ってきました!」

 悪魔ちゃんは得意げに菓子折りを抱える。
 なんとまあ律儀なことで。

「お世話になっていいですか!?」

「歓迎しますっ!」

 もちろん私は即答する。
 こうして、同居幼女が一人増えることとなった。
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