社畜、ケモミミ幼女を拾う。~てぇてぇすぎる狐っ娘との癒され生活が始まりました~

狐火いりす@商業作家

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第12話 人手が欲しいです、切実に

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「あぁ~もう……こんな時でもノルマあるのおかしいでしょぉ……」

 私は泣き言を漏らしながらも、必死にパソコンのキーボードを叩く。

 あんのクソ上司めぇ……!
 39度の高熱で会社休んだのに、ノルマ(もちろん今日中に終わらせないといけないやつ)課すとか鬼畜すぎでしょ……。

 ああ、もう! さっきから頭痛がひどすぎてまともに脳みそ働いてる気がしないわ。
 解熱剤も効いてないでしょ、これ……。

「ああ、つら……」

「……なるせお姉ちゃん、だいじょうぶ? 葛葉がおてつだいできることある?」

 葛葉ちゃんが心配そうに聞いてくる。

 ホントに、私の味方は葛葉ちゃんだけだよ。
 健気ないい子すぎて泣いちゃいそう……。

「手伝えること……じゃあ、お茶を持ってきてもらえるかな?」

「りょーかい! すぐにもってくる!」

 急いでキッチンに向かった葛葉ちゃんを見送ってから、私は再びパソコン作業に戻る。

 うわぁ……。また意味わからないミスしてるよ。
 効率最悪すぎでしょ……。

「なるせお姉ちゃん、お茶もってきた!」

「ありがとね、さっそくいただくよ」

 葛葉ちゃんから受け取ったお茶をズズズとすする。
 ああ、あったかくておいしい……。

「なるせお姉ちゃん、だいじょうぶ? よくなった?」

「うん。葛葉ちゃんのおかげでちょっとだけ元気になったよ、ありがとう」

 そう言ったものの、葛葉ちゃんは未だ心配そうに私のほうを見てくる。

「ほかにも葛葉にできることある? 葛葉、なるせお姉ちゃんのちからになりたい」

「そう言ってもらえるだけで充分だけど…………それなら、前みたいに肩をもんでほしいな。頭痛のせいか、肩こりもヤバいんだよね」

「わかった! 葛葉がなるせお姉ちゃんのかたこりをなおしてあげる!」

 葛葉ちゃんは「ふんす!」と気合を入れると、私の背後に立つ。
 小さな手のひらで私の肩をがっちりつかむと、力いっぱいもみ始めた。

「えいや! えいや! かたこりはとんでけー! えいやー!」

 葛葉ちゃんは「痛いの痛いの飛んでけー」の亜種みたいな掛け声を上げながら、私の肩をもみ続ける。

 あ~、そこそこ。そこ最高っす。
 相変わらず葛葉ちゃんの肩もみは気持ちいいな~。
 肩がほぐれていくのが超わかるよ。

「なるせお姉ちゃん、いまどんなかんじ?」

「すっごい効いてる~。つらかったのがだいぶ楽になってきたよ」

「ほんとに!? じゃあ、もっともみもみするね!」

「うん、お願い」

 葛葉ちゃんの癒しパワーによって気力をチャージした私は、その後しばらく仕事に集中することができた。
 そして一時間後。
 葛葉ちゃんパワーで不調を誤魔化していたからか、今度は強烈な寒気に襲われた。

「はっくしゅん! ……あー、さっむい……。死にそう……」

「ふぇ!?」

 私の独り言を聞いた葛葉ちゃんは、びっくりしたようで固まった。
 それから、とたとたと走っていった。

 ……心配させちゃったかな。
 あんまり大げさに言うんじゃなかった……。

 そんなことを考えながら仕事を続けていると、葛葉ちゃんはすぐに戻ってきた。
 こちらに駆け寄って来るなり、手に抱えていたブランケットを私の体にかけてくる。
 私がお礼を言おうとしたら、それよりも先に葛葉ちゃんが私の体にしがみついてきた。

「っ!?」

「葛葉がぎゅっとしてあたためてあげるから! だから、しなないで! いなくならないでっ!!」

 泣きながら伝えてきた葛葉ちゃんを見て、私は驚きのあまり目を見開いた。
 ……そんなに、私のことを大事に思ってくれてたんだね。

 私はそっと葛葉ちゃんの頭に手を乗せる。
 それから、優しく撫でた。

「大丈夫だよ。私はいなくならないから。風邪でつらいのは確かだけど、ホントに死んじゃうってほどじゃ全然ないからさ」

「ほんと……?」

「ホントだよ。だから、泣かないで」

 なおも優しく撫で続けていると、葛葉ちゃんはようやく泣き止んでくれた。

「葛葉、もうちょっとだけなるせお姉ちゃんにくっついてていい?」

「もちろんだよ。むしろ、もっと温めてくださいお願いします」

「……じゃあ、ぎゅってするね」

 短く呟いた葛葉ちゃんは、私の体にぎゅう~っとくっついてきた。
 葛葉ちゃんの体温が私にまで伝わってくる。

 このシチュエーションてぇてぇ!?
 至福の時間ですか!?

 葛葉ちゃんの癒しパワーによって寒気がどこかへ吹き飛んでいったので、私は再び仕事に集中することができた。
 で、その一時間後。
 今度こそ私は、限界を迎えてしまった。

「ダメだ……。脳が働かない……体が動かない……」

 だというのに、ノルマはまだ三分の一もこなせてない。
 このままじゃ絶対間に合わないよぉ……。

「人手……人手が欲しいよぉ……」

「ひとで!? すぐもってくる!」

 私の魂の叫びを聞いた葛葉ちゃんが、私に任せてといった感じで寝室に走っていく。

 ……葛葉ちゃんが仕事を手伝ってくれたりするのかな?
 働かない頭でぼーっと考えていると、葛葉ちゃんが戻ってきた。

「もってきたよ!」

 葛葉ちゃんの手にあったのは、潮干狩りの時に買ったキーホルダーだった。

「それは人手じゃなくてヒトデだね。棘皮動物きょくひどうぶつだね」

「あれ!? ひとでってヒトデのことじゃなかったの!?」

「人手が欲しいっていうのは、誰かにお手伝いしてほしいって意味だよ」

 苦笑しながら返すと、葛葉ちゃんは顔を真っ赤にしながらあたふたする。
 てぇてぇなぁ……などと思いながら眺めていたら、葛葉ちゃんは何かひらめいたのか手をポンっと叩いた。

「そ-いえばだけど、葛葉ね、おともだちをしょーかんできるよ! じんじゃがなくなって葛葉、ちからつかえなかったけど……なるせお姉ちゃんといっしょにすごしてげんきになったから、いまならつかえるはず……!」

「おともだち……?」

 葛葉ちゃんってもとは神社でまつられてたんだっけ……。
 しょーかんって、召喚のことなのかな?
 そんなことを考えていると、葛葉ちゃんは勢いのままに召喚の儀式(仮)を始めた。

「おねがい! なるせお姉ちゃんのために、ちからをかして……っ!」

 葛葉ちゃんの目の前に、魔法陣のようなものが現れる。
 え、ちょっと待って! この魔法陣なんかめっちゃドス黒いんだけど!?
 これ大丈夫なの……?

「わっ!? わっ!? なにこれしょーかんがへんになってる! なんで!?」

 なんか発動した本人も慌ててた。
 すっごく不安ッ……!

 刹那、魔法陣から光があふれる。

「「わっ!?」」

 私はびっくりして反射的に目を瞑ってしまう。
 直後、声が聞こえてきた。

「呼ばれて飛び出てパンパカパーンっ! 私、参上です!」

 私はゆっくりと瞼を持ち上げる。
 そこにいたのは、背中からコウモリの羽が生えている幼女だった。

 てぇてぇ!?
 私は、真っ先にそう思った。
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