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第36話 フィナーレ ~日常~

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「……マ、マーァァァアアアッ!」

 マンドラゴラが蹴りで衝撃波を放つ。

 防御不可能、超火力。
 散々苦しまされたが、もう通用しねぇぜ。

 ブリキングスロボの力を見せてやるよ!

「フライパンシールド展開! フライパンの表面に施されたテフロン加工によって衝撃波を無効化するッ!」

『マジかよ!? テフロン加工すごすぎ!』

「マァ!?」

 マンドラゴラはびっくり仰天した様子で叫んだ。

 よくも今までやってくれたなァ!?
 こっからは俺らのターンだ!
 覚悟しとけ!

「おろし金ブレード展開!」

『喰らえ! 大根おろしスラァァァッシュ!!!』

「ッ! ァーマアアアア!」

 マンドラゴラは大量の葉っぱを生やして自身を覆う。

 渾身の大根おろしスラッシュは葉っぱアーマーの表面を削り取るだけに終わった。

「なんのこれしき! 層が何重にもあるなら全部すりおろすまでじゃァ!」

『うおりゃー! おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃッ!!!』

「マっ……マダ……! ……マァァァァアアアアアア!!!」

 怒涛の連続ラッシュで、マンドラゴラを守る葉っぱがどんどんすりおろされていく。

 新しい葉っぱを生やして必死に抵抗しているが、ブリキングスロボのすりおろし速度のほうがまさっている。
 マンドラゴラはじわじわと追い詰められていく現状に苦しそうな声を上げながらも、片足を強く地面に叩きつけた。

 足先が地中に深くめり込むほど強く、強く。

「きゅぅー!?」

 突如ブリキングスロボが激しく揺れた。
 謎の力で下に強く引っ張られたっぽい!

『機体損傷率17%! ブリキングスロボの右足が機能停止しました!』

 モニターに出力された映像を見ると、ブリキングスロボの右足に大量の根っこが絡みついていた。

 これもマンドラゴラの攻撃か!
 なんてちょこざいな!

 右足の故障と根っこ拘束によって、ブリキングスロボが著しい機動力低下状態に陥ってしまった。

「マハハハハハ!」

 マンドラゴラがもう片足を地面に突き刺す。

 新たに根っこの群れが現れ、ブリキングスロボの左足を滅多刺しにした。

『機体損傷率31%! 左足も機能停止しました! もうこの場から動けません!』

「すりおろし状況は?」

『現在83%! マンドラゴラ本体に到達するまでもう少しかかります!』

「マズいな……!」

 少しずつ着実に俺たちが追い詰められている。
 このままだとマンドラゴラをおろしきる前にブリキングスロボが破壊されちまう……!

 再びの大ピンチ!

 その時、視界が赤く染まるほどの強烈な光が俺たちを照らした。



「……発動に苦労したけど完成させてやりましたよ! 私の魔導士人生で過去最高の大技を! 超級聖炎魔法──ジャッジメント・ラーヴァインフェルノ!」



 シロナが頭上に特大の火球を展開していた。

「いくらSSSランクでも、植物なら炎は怖いですよね!? 炎滅の魔女と呼ばれた私の魔法を喰らいなさい!」

 火球が白く燃え上がる。

 さらにスタイリッシュ横島の魔法演出によって、シロナの周りを白い炎が激しく渦巻く。
 頭上の火球からは神々しい光が煌めき、「なんかとんでもなくヤバそう感」がすごいことになっていた。

「マ……ッ!」

 マンドラゴラは警戒心を強める。

 意識がシロナに向いたほんの一瞬。
 その隙を逃すはずがない。

「ウッキーウキッキ。──ウキキ」

 龍之介が居合を放った。

 日本刀が振り抜かれる。
 マンドラゴラの両足が宙を舞った。

「マア!?」

「これがジャパニーズカタナ。サムライだ」

「ウッキッキ」

 龍之介の愛刀「金平刀こんぺいとう」は、王都旅行の後に改良を施した。
 俺の全魔力を使って強化したから、いかに強化神獣クラスといえどもほっそい足を斬るくらい訳ねぇぜ!

 もちろん龍之介の剣術があってこそだけどな。

「ウキ」

「ウホ!」

 龍之介からバトンを受け取ったのはゴリマックス!

 両腕を大きく振り上げ、力いっぱい地面をブッ叩いた。

「ウーハー!」

 衝撃で地面が割れ、マンドラゴラが空高く跳ね上げられた。

「マー!? マママママッテ!」

 葉っぱアーマーはほとんどすりおろした!
 足がなくなって衝撃波も放てねぇ!
 おまけに身動きの取れねぇ空中だ。

 やっと追い詰めたぜマンドラゴラ!

「今が出番ですぞ! コンちゃん指揮官!」

「こん!」

 コンちゃんは元気よく鳴きながら指令台に飛び乗った。

 ようやく訪れた晴れ舞台だ。
 見せてやれ、なぎさプロダクションが世界に誇るエースアイドルの実力を!

「きゅいきゅいキュンっ♡」

 思わず虜になってしまう甘い声。
 見るものを釘付けにすること間違いなしのキュートなウィンク。
 計算され尽くした一番可愛く見える角度とポージング。

 日課のダンシング音ゲーで鍛えた成果を余すことなく出し尽くした、アカデミー主演女優賞獲得間違いなしの世界一可愛い応援だった!!!

「コンちゃん、お前がNo.1だッ!!!」

『愛してるぜー! コンちゃーん!!!』

 もともとつえぇやつを超超超強くすることにおいて、コンちゃんの右に出る者は存在しない。

 カーバンクルにしか使えない、それも一日にたった一度しか発動できない最上位のバフを受けて、究極形態ブリキングスロボインフィニティが真のインフィニティへ到達した。

 今の戦闘力はざっと神獣四体分だ。
 この意味がわかるか?


『魔力サーチ完了! マンドラゴラの核を捕捉しました!』

「最終奥義モードに移行完了! いつでも行けますコンちゃん指揮官!」


 ブリキングスロボの胸部に巨大な砲台が展開される。

 側面のエネルギー装填量を示すゲージが、最大を意味する虹色に輝き出した。
 砲台の周りを稲妻がほとばしりバチバチ音を鳴らすッ!

 マンドラゴラを空高く浮かした今なら周囲の被害を考える必要もない。
 思う存分ブッ放せる!


「これが俺たちの奥の手! 正真正銘の必殺技だ!」

『やるぞ、なぎさ!』

「おうよ、零華!」


 俺と零華はお互いを見て小さく笑う。

 コンちゃんが発射命令をくだした。

「こん」


「『魔力砲レールガン起動ッ!!』」


 砲台に魔力が収束して白銀色に煌めく!

 ブリキングスロボの残存魔力エネルギーを全投入した一撃が放たれた!




「『発射ァァァーーーッ! 最強最高つよつよビィィィィィィム!!!』」




 限界まで圧縮することで実現した極細の攻撃範囲。

 されど強化マンドラゴラすら障害にならない絶対的な火力。



 世界最強の光線が、マンドラゴラの可食部への被害を最小限に抑えながら核を貫いた。



「『これがたちのはちゃめちゃクオリティだ』」

「こん」



 トリオ兄弟が勝利BGMを演奏する。

 俺たちは達成感に包まれながら地上に降り立った。

「なんで勝てたか謎ですけどやりましたね!」

 シロナが嬉しそうに駆け寄ってきた。

「そりゃブリ大根だからな。シロナもサンキュー! 助かったぜ!」

「囮しかしてませんけどね」

『あそこでシロナが魔法を使ってなかったら我らが負けていた。ナイスファイトだぞ!』

「トリオ兄弟もありがとな! 横島の演出サポート、龍之介の見事な居合、ゴリマックスの空中打ち上げ。必殺技が決まったのはみんなのおかげだぜ!」

 今回は間違いなくみんなで掴んだ勝利だ!
 誰か一人でも欠けていたらマンドラゴラに勝つことはできなかった。

「晩メシ作るか」

『頑張ったからお腹ペコペコだぞ!』

「きゅい!」

「切り替え早っ! 勝利を祝う時間短すぎません?」

「うまいもんはうまいうちに食え。これが我が家の信条だからな!」

『ボケっとしてたらマンドラゴラの味が落ちちゃう!』

「相変わらず食いしん坊ですね、二人とも」

 マンドラゴラに家破壊されたから、今夜は野外BBQだ。

 零華がマンドラゴラをカットしている間に俺はブリを捌く。
 ちょちょいのちょいで切り身とアラに切り分けた。

『なぎさ先生、ブリ大根をおいしく作るコツはなんですか~?』

「知りたいか。じゃあ、まずは下処理についてだ」

 ブリの切り身に塩を振って二十分放置し、出てきた水分をキッチンペーパーでしっかりふき取る。
 これは魚料理共通の基本的な工程だから詳しい説明は省くとして、ブリ大根の下処理で重要なポイントは次の二点だ。
 
 ブリのアラは塩を振って十分ほど放置してから中火で両面に焼き色がつける。
 カットした大根は米のとぎ汁で下茹でする。

「アラを焼くのは臭みを抑えるためですよね?」

「シロナ正解! よくわかったな!」

「海の街出身ですから! この工程って何気に大事ですよね。省いたら魚臭くなっちゃいますもん」

『ほえ~。我、全然わからん! 大根を米のとぎ汁で煮るのはなんでなの?』

「大根のアクが抜けて柔らかくなることで、煮汁の味がしみ込みやすくなるんだ」

『へ~、そんな効果があるんだ。あっ、大根はちゃんと面取りまでしておいたからな! 煮崩れ防止!』

「偉い! 料理の才能◎!」

 竹串がスッと通るくらい大根が軟らかくなったら下茹でをやめて水にさらしておく。
 ブリの下処理も終えたところで、いよいよ煮込み操作だ。

 鍋を二つ用意し、それぞれに昆布だし、みりん、酒、しょうゆ、砂糖、しょうが一片を投入する。
 量は材料がひたひたに浸かるくらいだ。

「なんで鍋が二つなんですか?」

『我もそれ気になる~!』

「ブリの身と大根でそれぞれ煮込み時間が違うから分けて調理するんだ」

「『なるほど~』」

 煮汁が煮立ったら片方にはブリの身を、もう片方には大根とブリのアラを投入。
 落し蓋をして弱めの中火で煮込む。
 ブリの身が十五分、大根とアラが三十分だ。
 途中でアクが出てきたら取り除くのを忘れずに。

 煮込み終わったら零華の氷魔法でゆっくり冷やしてもらう。
 冷蔵庫あったらよかったんだがマンドラゴラに家ごと破壊されたからな。
 仕方なくアナログな方法でやってるぜ。

 ブリ大根に限らず煮物系は冷える時に味がしみ込んでいく。
 二日目のカレーがうまいのもそれが理由だ。

「さーて、今のうちに米を炊くとすっか!」

 もちろん業務用炊飯器も破壊されたので、土鍋でいい感じに炊いていく。
 炊き終わってブリ大根の再加熱や盛りつけを終えたころには、すっかり夜になっていた。

 星と月明かり、焚火の炎が俺たちを照らす。

『お腹空きすぎて茶碗一杯つまみ食いしちゃった』

「つまみ食いじゃないんですよ、その量は」

「みんな待ち詫びたよなァ!? 今夜は宴じゃー!」

「いよっ! 待ってました!」

『わーい! 食べ放題!』

「きゅ~い!」

「ウッキウキ!」「キチャァー!」「ウホホ~イ!」

 大喜びで駆けよってきたみんなに皿を配っていく。

 手を合わせましょう!
 いただきまーすっ!

 【鑑定】によるとマンドラゴラはこの世のものとは思えないほど絶品とのこと。
 期待に胸を躍らせながら口に放り込む。

「なッ……!? ……なんじゃこりゃァァァ!?」

 俺は衝撃のあまり箸を落としてしまった。

 うまい。
 ただひたすらにうまい……!
 うまい以外の感想が思いつかん!

「見てホラ! あまりにうますぎて多動の俺がじっとしちまったぞ!」

「この衝撃には多動明王でも勝てませんでしたか」

『ぬああああああ!!! 生きててよかった! 世界ありがとーう!!!』

「きゅいきゅ~い!」

「ウッキッキ!」「キィーッ!」「ウホー!」

 俺たちは感動で涙を流しながらブリ大根を頬張る。

 ブリの身はしっとりしており、臭みもパサつきもない。
 和食の定番だけあって安定のおいしさだ。

 そしてなんと言っても本命のマンドラゴラダイコン!
 口の中でほろほろ崩れていく絶妙な柔らかさ!
 あふれんばかりのうまみと、こってりしたタレとの相性が最高すぎる!

 ブリとマンドラゴラを一緒に食べたら、オーケストラも涙目のハーモニーを奏でていた。

「……ハッ!? 危なーい!」

『どうしたシロナ?』

「おいしすぎて気づいたら成仏しかけてました。川の向こうで両親が『まだ来ちゃダメー!』って必死に叫んでましたよ」

『それは危ないな。おかわりして正気を保つのだ!』

「ですね! おかわりお願いしまーす!」

 ぐあああああああああああッ!? 箸が止まらねぇ!
 おかわりも止まらねぇええええ!!!

 ブリ大根がこの世のものとは思えないほどうますぎる!
 目ん玉飛び出る超えて爆発しちまうぞこんなん!

「はい、コンちゃん。あーん」

「きゅーん。きゅへへ~」

「今日はカロリーとか気にせず食べまくりましょうね!」

 シロナそれ昨日も同じこと言ってなかった?
 いつカロリーを気にしてんだろうか。

『コンちゃんだけズルい! 我にもやってー!』

「おっ! じゃあ俺が。ほれ、あーん」

『あーん』

 零華が箸にかぶりつくよりも早く、シロナがぱくりとかっさらっていった。

『あー!?』

「早い者勝ちですよ~。ん~、おいし~」

『我のブリ大根……』

「ごめんごめん。仲直りしましょうよ。ほら、あーん」

『やったー! シロナ大好き! あーん!』

 横取りされて泣きそうになった零華だが、シロナにあーんしてもらってすぐに元気になった。
 満面の笑みではしゃぐ零華が面白すぎて俺は思わず吹き出す。

「ブフォっ! ギャハハハハハハハ!」

「その吹き出し方やめてくださいよ! こっちまで思わず笑っちゃうじゃないですか! ふふっ、あはははは」

「きゅはは」

 俺に釣られてみんなも笑いだす。
 すかさずトリオ兄弟が陽気なBGMをかける中、俺たちは腹を抱えて笑い合った。

「大好きだぜ、お前ら!」

「急にどうしたんですか」

「感謝はなんぼ伝えてもいいなって」

 本当に、こいつらと出会えてよかった。


「零華は誰よりも明るくて一緒にいるだけで楽しくなれるし、コンちゃんは可愛すぎて癒し力53万だし、シロナは面倒見がよくて頼りになるし、トリオ兄弟は手先の器用さを活かして俺たちを盛り上げる役に徹してくれたりと縁の下の力持ちすぎるし、邪竜ちゃんは実は足が臭い」


「オチがひどすぎる」

『でも事実なんよなぁ』


 満天の星空を眺めながらうまいメシを食べる。
 この世界に来た初日と同じ展開だが、あの日にはなかった充足感が今の俺にはあった。



 ……ようやくわかった。
 あの日の俺にはなくて、今の俺にあるもの。

 それは一緒にワイワイできる親友ダチだ。



「それでは!」

 俺たちはグラスを手に持つ。

「俺たちの勝利を祝して乾杯!!!」

『カンパーイ!!!』

「乾杯です!」

「きゅ~!」

「ウッキー!」「キキィー!」「ウッホー!」

 みんなとグラスを交わしてから一気に飲み干す。
 ぷはーっ! やっぱ食後の炭酸ジュースはたまんねぇな!

 メシの時間が終わっても楽しい時間は終わらねぇ。
 眠くなるその時までみんなと語り合う。

 やってみたいこと、行ってみたいところ、見てみたいもの。
 みんなでいっぱい話した。

 こうして俺はハチャメチャな一日を好き放題楽しみつくしたのだった。
 明日はどんな楽しいことが起こるかな~!




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