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第21話 海に来たら伝説を作ってしまったぜ!

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「海、到着!」

 魔境を出て北に進んできた俺たちの視界に、一面に広がる青い海が映し出された。
 太陽の光を反射してキラキラと輝いている。

「きゅう~……!」

 コンちゃんが目を輝かせた。
 海を見るのは初めてだもんな。
 こんなに綺麗だったら感動しちまっても無理ねぇか。

「きゅい! こぉーん!」

 コンちゃんはしっぽを振り回しながら「早く行こうよ!」と急かしてきた。

「あはは。くすぐったいですよ、コンちゃん」

 コンちゃんを抱っこしていたシロナが、しっぽぶんぶんに巻き込まれていた。
 あれ俺もされてみてぇな。

『なぎさ、シロナ! 早く準備するのだ!』

「おう!」

「分かってますって」

 俺とシロナはその場で服を脱ぐ。
 少しでも早く遊ぶために服の下は水着だ!
 準備万端病だぜ、俺たちはよ!

「シロナそのビキニ似合ってんな」

「まあ私スタイルいいですから!」

「色気があっていいなぁ、シロナは。俺なんてダイバーの潜水服だぞ」

「色気とかもはや関係ないチョイスじゃないですか」

 これが一番落ち着くんだよな。
 とにかく、海に来たからには遊びまくるぞー!

「ひゃっはー!」

『ヒーハー!』

 俺と零華は一目散に海にダイブする。
 海水の冷たさが全身に伝わってきた。

 うはー、気持ちいい~!
 青天の真夏日に海水浴とか最高すぎるだろ!

『うぇー、しょっぱい! 海水が口入った! ぺっぺっ!』

「私たちはのんびり遊びましょうか、コンちゃん」

「きゅう」

 コンちゃんは波打ち際を行ったり来たり、前足を水の中につけてみたり楽しそうに遊ぶ。
 それから海の中にダイブした。

「きゅい~ん!」

「楽しいですか、コンちゃん」

「きゅぅん!」

「ならよかったです」

 シロナとコンちゃんは楽しそうに水をかけあう。
 なんか微笑ましい光景だな。
 俺らも混ざるか。

「喰らえ! スーパーフェンリルぐるぐるしっぽ攻撃」

『ゼアアアアアアアアアアアアアア!!!』

「ぎゃー!?」

「きゅびゃー!?」

 シロナが洪水のような水鉄砲を真正面から喰らう。
 その余波でコンちゃんも海水を頭からかぶっていた。

「やったな! こんにゃろー!」

「きゅー!」

「水魔法──ウェーブストリーム!」

 コンちゃんのバフによって強化されまくったシロナの水鉄砲は、小さな津波レベルの威力を有していた。
 フッ、だが問題ない。

「パンチの風圧で相殺する!」

『その程度で我らがやられるとでも思ったか?』

「最強コンビすぎるだろ! 私たちに勝ち目がないじゃないですか!」

「ならメンバー交換するか。俺と零華が別々になったらいい感じになるだろ」

「じゃあ私は零華と組みますよ! 目指せ打倒なぎさ!」

 俺たちはワイワイ楽しく遊ぶ。

 海水浴にビーチバレーに生物採集。
 海でみんなとやりたかったことを一通り終えたところで、俺は遠泳することにした。
 ちょっくら遠くまで遊びに行ってきますか!

「お気をつけて。まあ、なぎさなら何も問題ないでしょうけど」

『我らは釣りしてるからな! なぎさが帰ってくるころには大漁だぞ!』

「きゅい~」

 ちなみにトリオ兄弟は、俺たちが遊んでいる間に巨大な砂の城を建築していたぞ。
 これのクオリティがすごいのなんのって!





◇◇◇◇(SIDE:冒険者チーム『トレジャーズ』)


かしらァ! お宝ありやしたぜ!」

「でかした! 回収しておけ」

「うっす!」

 俺たちは冒険者チーム『トレジャーズ』だ。

 この付近の海には、ダンジョンが存在する影響でいろいろなお宝や魔物素材が沈んでいる。
 俺たちはそれらを回収して換金することで生活している。
 今もチーム総出で回収作業にいそしんでいる最中だ。

 お宝はそう簡単に見つかるものではないとはいえ、一つ一つの価値は高く換金すればかなりの大金が手に入る。
 そのため多くの冒険者たちが一攫千金を狙ってトレジャーハントに挑戦しているが、死亡者が絶えないのが現状だ。

かしら! 高値で売れそうな魔物素材がたくさん沈んでいるスポットを発見しました!」

「その周辺でなんらかの魔物が暴れていた可能性があるな。周囲の警戒をしつつ迅速に回収するぞ!」

 海には危険がつきもの。
 ただ、俺たちは別だ。

 パーティーメンバーを全員魚人族の知り合いで固めることによって、危険な海であっても索敵・戦闘・回収のすべてを問題なくこなせている。
 人間ではハイリスクハイリターンなこの仕事も、俺たちにとっては超ローリスクハイリターンだ。
 おかげで堅実に金を稼ぐことができていた。

かしら! サメが出ました!」

「フォーメーションDだ」

 サメなんて所詮は軟骨魚類だ。
 一人が気を引いている隙に他のメンバーが魔法と物理で処理すればいい。

 俺の指示でメンバーが配置を変えようとした時だった。

 突如、サメの体がバラバラになった。
 大量の血が海中にあふれた。

「何が起きたんだ……!」

 俺は警戒心を高める。
 薄まった血の向こうから、体長五メートルを超えるカジキの化け物が姿を現した。

「ダンジョンから出てきた魔物……あれは変異種か!? よりにもよってカジキとはな……!」

 知ってるか? カジキってイカれた魚なんだぜ。
 時速百キロ以上で魚の群れやダイバーに見境なく突っ込んでくるんだ。
 ダイバーの死亡ランキング上位に入るほどで、魚人族でも油断すれば殺されてしまう。
 ぶっちゃけその辺の魔物より普通に強い。

 そんなカジキが魔物になってしまったら、俺たちに勝ち目がないことは明白だった。
 ……超ローリスクなのにこんな化け物と遭遇しちまうって、どんだけ運がないんだよ俺らは。
 負の宝くじに当たった気分だ。

 ギロリ。
 カジキが俺たちを捕捉する。
 普通のカジキとは比べ物にならない速度で突撃してきた。

 ……ああ、死んだな。

 世界の流れがスローになる。
 迫ってくるカジキを眺めていた時、カジキの向こう側からすごい勢いで何かが近づいてきた。

「ぼぼぼぼごぼぼごぼごぼぼごぼっぼ!!!」

 ダイバー服を着た人間の女だった。
 それが時速数百キロで泳いできた。

「は?」

 思わず変な声が出てしまった。
 魚人族ですらないのになんでそんなに速いんだよ!?

 ……いや、魚人族がどうとかいうレベルじゃないな。
 人類の範疇を逸脱した遊泳スピードだ。
 人類最強と謳われる勇者ですら、地上でもあんな速度は出せないだろう。

 謎の女はあっという間に化け物カジキに追いつくと、手刀でエラを斬って〆てしまった。
 嬉しそうにピースしながら、【アイテムボックス】と思わしき異空間にカジキの死体を仕舞う。
 それから凄まじい速度でどこかへ泳いでいった。

「なんだったんすかね? あの人……」

「さあな。だが、俺たちの命を救ってくれたことだけは確かだ」

 見返りを求めず、人知れず現れて他者を救い、名前も言わずに去っていく。
 これぞまさしくヒーローなのではないだろうか?

「きっと彼女は、これまでもこれからも人知れず他人を救っていくのだろう」

「え? それって悲しくないっすか? あんなにすごい人なのに誰にも知られないなんて」

「ああ、だからこそ俺たちが語り伝えるんだ。海女英雄伝説として彼女の素晴らしさを!」

「海女英雄伝説……!? そうっすよね! みんなが知らないなら俺らが知らせればいいんだ!」


 彼女の伝説はここから始まるのだ!

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