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第16話 俺は人知れず偉業を成し遂げていたらしい

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「は~、いい湯だった」

 朝っぱらから露天風呂を決め込んだ俺は、タオルをドラム式洗濯機に放り込む。

 家をリフォームした際に、クソデカ高性能洗濯機を導入してみた。
 コインランドリーにあるような布団を洗えるタイプのやつだ。
 これが本当に便利なんだよ。

「ポチッとな!」

 俺はいつものようにスタートボタンを押す。
 内部が回転し始めたと思ったら、洗濯機の中から悲鳴が聞こえてきた。

『んばあああああああああああ!? ぐるぐるぅぁぁぁああああああああ!!!?』

「何事や!?」

 俺は慌てて停止ボタンを押す。
 洗濯機の中から、泣きべそをかいた黒髪ツインテ幼女が飛び出してきた。



「…………というわけで、洗濯機に邪竜ちゃんが入ってた……」

「どういうわけで!? なぜ洗濯機の中に!?」

 シロナが困惑する。
 零華とコンちゃんはドン引きした様子で邪竜ちゃんから距離をとった。
 その反応が正常だと思うぞ。

「そもそもお前はどこから不法侵入してきたんだよ? よう誰にも気づかれずに入ってこれたな」

『不法侵入とは人聞きの悪いことを言うな!』

「人聞きの悪いこと言ってるのは貴方のほうですよ」

『人化する時の要領で体を最小サイズに縮めて、換気扇から入ってきたんじゃ! わらわの肉体操作術はすごかろう?』

「「『ゴキブリ……?』」」

『はぁぁぁあああ!? わらわのどこがゴキブリなんじゃー!』

「換気扇から侵入してくるのは羽虫かゴキブリくらいしかいないんですよ……」

 シロナのツッコミに俺たちはうんうんと頷く。
 ゴキブリみたいなことしてドヤれる邪竜ちゃんのメンタルどうなっとる?
 俺はお前が怖いよ。

『ええい、シロナ! つべこべ言ってる暇があるならわらわと遊べー!』

「えっ……!?」

 ゲートボールで同じチームになったからか、シロナが懐かれてしまったようだった。
 俺はそそくさと一人でフィールドワークの準備をする。
 零華はコンちゃんを背中に乗せてそ~っと消えていった。

「なんでみんな逃げるんですかー!」

「あれは儂らには救えぬ者じゃ」

「嫌だー! 助けてー! 救ってぇー!」

『観念してわらわと遊びやがれー!』

 シロナの悲鳴が木霊した。
 ……大変だろうけど頑張ってくれ。





「お、食えるタイプのきのこあんじゃ~ん! タマゴタケだ、ラッキー!」

 俺は生物採集や植物採集をしながら魔境の奥深くへとやって来た。

 遠くから滝の音が聞こえるなぁ。
 音量からしてかなり大規模な滝っぽい。
 見に行ってみるか。

『…………おめ…………ざ……す。……さま』

『よく…………我………って………た!』

 音にする方へ進んでいると、不意に声が聞こえてきた。

 人の言葉ではあるが、なんというか邪悪な感じがする。
 俺はこっそりと近づいた。


『ついに私の肉体が完全復活した! 長かった……! 待ち詫びていたぞ、この時を! 三百年分の積年の恨み、今こそ晴らしてやるわ人間共!』

『この時代の勇者はせいぜいSランク最上位より少し強い程度の実力です。SSランクの魔王様が負けることはありえないでしょう』

 なんか、微妙に人間じゃねぇフォルムのやつらが意気揚々と叫んでいた。
 黒づくめの男たちの怪しげなやり取りを目撃してしまったんだが。
 背後から忍び寄るもう一人の男に気をつけながらしばらく尾行してみよう。

『この私が気づいていないとでも思ったか?』

 紫色の光が俺の体を拘束する。
 俺は怪しい人外男の目の前に引き釣り出されてしまった。

 人外男は、頭からヤギの角が生えており右腕に大量の眼球がついていた。

「子供にされてたまるか! ……いや、それはそれでありだな。楽しそう」

 俺は光の拘束を筋力でブチ破る。
 人外男は「ほう」と感心した様子で呟いた。

『何を言っているのか意味が分からないが、強いな貴様。私の障害になると判断した。消えろ!』

 人外男が指を鳴らす。
 俺は周囲一帯ごと爆発に呑み込まれた。

「何すんだよ、タマゴタケが跡形もなくなっちまったじゃねぇか! 火加減を考えろよ!」

 俺はパンチを放つ。
 衝撃波が人外男の左腕を消し飛ばした。

 ついでに周囲の木々が倒壊し、地面が抉れ、景色が開ける。
 人外男の背後に、横幅一キロ超えの巨大な滝つぼが広がっていた。
 うわー、絶景じゃん。

『馬鹿な!? 私の攻撃で傷一つつかないだと!? ……仕方ない。本気を出してやろう。──コズミック・ハイボルテージモード!!!』

「ッ!? あれは!?」

 俺は思わず硬直してしまった。

『いくぞ!』

 人外男が超速のパンチを放つ。
 とんでもない衝撃に俺は吹き飛ばされてしまう。

『どうだ! 私のフルパワーは? 貴様はすぐにあの世行きだ!』

 超連続、怒涛の攻撃が俺に襲いかかった。

 俺はただただ攻撃を受け続けることしかできない。

『反撃すらできないか! 次で終わらせてやろう!』

 驚きのあまり、脳の理解が追いつかなかった。

 なぜなら、俺は見てしまったのだから。
 滝の向こう側の木に、ヘラクレスオオカブトにそっくりなカブトムシが止まっているのを!

 こんなの感動でフリーズしちまうに決まってるだろ!?
 だってヘラクレスオオカブトだぞ! ヘラクレスオオカブト!

『私の切り札を喰らうがいい! エターナルブレイブ!!!』

「こんなところでのんびり戦ってる場合じゃねぇーーー!!!」

『ぐおっほぁああああああああああああああああああああ!!!?』

『魔王様ァアアアアアアア~!!!?』

 俺は人外男を木っ端みじんにすると、急いで滝の向こう側へ走る!
 だが、俺が着いた時にはヘラクレスオオカブトは忽然と姿を消していた。

「ここは地獄だぁぁぁあああああああああああああ!!!」

 俺は泣き崩れた。





「……ただいま……」

「お帰りなさいです……」

 失意の中帰宅すると、シロナがやつれた様子で出迎えてくれた。
 なんだかんだでちゃんと邪竜ちゃんの面倒を見ていたっぽい。
 ……というよりは、逃げても無駄だから見るしかなかったって感じか。

「今日は何かやらかしたんですか?」

「魔王を自称する不審者に襲われたから返り討ちにしてきた。なんかヤギの角生えてて腕が目ん玉まみれのキメーやつだったぞ」

「マジで!? それ封印されていたはずの魔王ですよ! 本物! 人類の天敵! 勇者が倒すやつ!」

「へ~、そうなん」

「軽っ!? 人類を救ったとは思えない反応ですね!?」

 どうやら俺は、人知れず偉業を成し遂げていたらしい。
 だが、そんなもん知ったことか。

 俺は泣きながら叫んだ。


「ちくしょー! ヘラクレスオオカブトに逃げられたあああ!!!」

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