好き勝手スローライフしていただけなのに伝説の英雄になってしまった件~異世界転移させられた先は世界最凶の魔境だった~

狐火いりす@商業作家

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第5話 美人な悪霊を仲間にしてみた!

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「はーい、何用で~?」

 玄関から出てみたものの、誰かがいた形跡は見つけることができなかった。
 台風の時なんかは勝手にインターホンが鳴ることがあるみてぇだが、あいにく今日は無風だ。
 ピンポンダッシュされたか家が欠陥住宅かの二択が妥当なところか。

「きゅッ……!?」

 家ん中に戻ったら、なぜかコンちゃんが悲鳴を上げて固まった。

「窓のほうになんかあんの? ……って、うーわ」

 窓に人間のものと思わしき赤い手形がついていた。
 形的に、逆さまにビターンってやったっぽい。

「きゅ、きゅぅ……」

 コンちゃんが俺の服の中に潜り込んでくる。

 俺は鳥肌が立っていくのを感じた。

 ……な、何か重大なことに俺はまだ気づけていないんじゃないか……?



 バターンッ!

 不意に二階で扉の閉まる音がした。

「……今度はなんじゃーい!」

 階段を登る。
 俺の寝室のドアが閉じていた。

「……いっせーの、せいやー!」

 勢いよく扉を開けて部屋に飛び込む!

 クリアリングヨシ!

 敵影ナシ!

「きゅぅぅ……」

「痕跡か!?」

 コンちゃんが前足で指差した先には、文字があった。

 壁一面が鮮血のような真っ赤な字でびっしり埋めつくされていた。




 ──『助けて助けて助けてタスケテたすけてタスケテタスケテ助ケテたすケてたスけテタスケてたすけテ助ケてタすケてタスケテタすけテたスケテたすケケけけケけケケけけけけケケてテテテてテてテテテててテテて』と。


「おおう……」

 ぶるり、と。
 背筋に寒気が走る。

 俺が言葉にしようのない感覚に襲われていると、ジャーと水の流れる音が聞こえてきた。

「コンちゃん……俺……風呂場の様子見てくるよ……」

「きゅう!」

「……一人で残る方が怖いのか。なら服ん中隠れとけ。お前のことは何があっても俺が守ってやるからな……!」

「きゅん……!」

 俺たちは洗面所に突入する。

 ……クリアリングヨシ!

 異常ナシ!


 なおも浴室内からシャワーの流れる音が聞こえてくる。

 扉の向こうに黒い何かが映っていた。

 目を凝らすと人影のようにも見えるが、扉が曇っていてハッキリとは分からない。


 呼吸が荒くなる。
 手が震える。

「落ち着け……落ち着けよ、俺の体ァ……!」

 深呼吸しても震えが止まることはない。

「クソ……! 行くしかねぇか……!」

 俺は意を決して扉を開いた。

「……誰もいねぇな」

 シャワーは止まっていた。
 が、床には水たまりができている。

 露天風呂のほうも確認したが、誰もいなかった。

 浴室を出る。
 もう一度扉を見るが、人影のようなものは映っていなかった。

「寒気と震えが止まらねぇ……! 何かあったけぇ飲みもんでも飲むか」

「こん」

 俺たちはリビングに戻る。


あったけぇ飲みもん……ホットレモネードにしよう。コンちゃんもそれでいいか?」

「なんで助けてくれなかったの?」


 ……は?

 聞こえた。

 確かに声が聞こえた。
 耳元から女性の低い声が。

 だが、俺のそばには誰もいない。

「まさかとは思うがコンちゃん、突然人の言葉喋れるようになったりしてないよな……?」

「きゅうん」

「じゃ、じゃあ、今のはいったい……?」



 びしゃっ、びしゃっ。

 不気味な音が響く。
 それはまるで、ずぶ濡れの人が歩いているようだった。

 びしゃっ、びしゃっ、びしゃり。

 ゆっくりと。
 確実に。

 風呂場のほうから足音が近づいてきた。

「う……」

 足音が聞こえるたびに、頭が狂いそうになる。
 俺は頭を押さえる。

 足音が俺の目の前まで来たと思ったら、何も聞こえなくなった。


「……消えた、のか……?」



 びしゃん!

 真後ろで音がした。


 ぞわり、悪寒が走る。
 俺は恐る恐る振り返った。


 誰もいなかった。


 気を緩めたその時、天井から女が降ってきた。

「アアアアアアアアァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア」

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーー!?」

 俺は我を忘れて叫んだ。





「日課のランニングすんの忘れてたぁぁぁぁぁあああああ!!!」

「……は?」

「何か物足りねぇと思ったら日課してねぇじゃんか! ぐあああああぁぁぁああああああ!!!? 禁断症状がっ……! 禁断症状で震えが止まらねぇ!!! 頭が割れそうだ……ッッッ!!!」

「……ヤク中……?」

「こんままじゃ俺が俺じゃなくなっちまう……! ぐぬああああああああ!!!」

「……あの、ちょっ……」

「ランニングしてくるから待っててくれ!!! 話は後で聞くから!!!」

「ええ~……?」

 俺は禁断症状を鎮めるために家を飛び出した。

 無我夢中で走る。
 五分でフルマラソンしたらようやく落ち着いた。
 はぁ~、危なかった。
 明日から忘れないようにしないとな!

「で、誰お前?」

 帰宅した俺はオバケとテーブルで向かい合う。

「レイスのシロナです」


────────

名前:シロナ
種族:レイス
ランク:A
称号:幽霊魔導士

────────

 白髪ロングに赤い瞳。
 身長は俺より少し低いくらいか。

 足先が透けていることを除けば、シロナは普通の人間と変わらない外見をしていた。
 めっちゃ美人だな~。

「なんでホラー展開してきたんだ?」

「悪霊なのでオバケらしく生きてる人間を脅かそうとしました」

「え? それだけ?」

「それだけですけど」

 俺は拍子抜けしてしまう。
 悪霊ならもっとこう……人を憑り殺したり呪ったりしそうなんだが。

「それはポリシーに反しますので……。驚いた反応を見るだけで満足です」

「ふーん。ところで、俺ん家汚した分は掃除してくれるよなぁ!? 後お前、チャーシュー勝手に食ったよなぁ!? 食の恨みは死んでも忘れねぇぞ俺はよぉ!?」

「執念深さが悪霊レベル。チャーシューはおいしそうすぎたのでつい……。絶品でした」

「ヨシ許す! ちなみにチャーシューはまだまだあるぜ!」

「チョロすぎるだろコイツ。あ、部屋と窓のほうは貴方がランニングしてる間に掃除しておきましたよ」

「え、マジじゃん!」

 窓とかすっごいピカピカになってるんだが!?
 ついでに関係ないところまで掃除されてるんだが!?
 シロナ掃除上手かよ!

「ピコーン! 俺の仲間になれシロナ!」

「はい……!?」

「家事は一通りできるんだが、掃除が死ぬほど嫌いなんだよ俺。だから家の掃除任せられねぇかなって。昇天するほどうまいメシ食わしてやるからさ!」

「掃除をするだけでおいしいご飯が……! いいでしょう!」

「俺は星宮なぎさだ。よろしくな、シロナ!」

「よろしくお願いしますね、なぎさ」


 こうして悪霊のシロナが仲間になった!
 メシに釣られているあたりコイツも大概チョロいと思うんだよな。

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