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第2章 暗躍する組織

第2-5話 いざ、温泉旅行へ

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 翌日。
 温泉旅行に行こうと決めた俺たちは、善は急げということですぐに行動を開始。
 まずは冒険者ギルドにやってきた。

 アクアマイムまでの護衛依頼がないか確認するのが目的だ。
 街を移動するついでに依頼をこなせれば、一石二鳥だからな。

「さてさて、護衛依頼は…………お! あった」

 俺は一枚の依頼書を手に取る。

 内容はアクアマイムに向かう商会の馬車の護衛。
 報酬は相場通りの適正価格で、出発は一週間後。
 途中で別の街を経由するため、アクアマイムまでのルートは通常よりもかなり遠回りだ。

「この依頼を受けようと思うんだけど、二人はいいか?」

「もちろん! ちゃんと仕事もしないとだからね!」

「私もおっけー。ちょっと到着に時間がかかるくらい問題ないよ。温泉旅行には変わりないんだから、のんびり楽しんでこう!」

 というわけで、俺は依頼書を受付嬢さんに持っていく。
 受注手続きを済ませてから、俺たちは帰路についた。





◇◇◇◇


 一週間後。
 今日は待ちに待った温泉旅行に出発する日ということで、ルカとミラは朝からテンションが高かった。
 もちろん俺もワクワクしている。
 テンションを上げないほうが難しいくらいだ。

「二人とも準備できたか?」

「ん、完ぺき!」

「忘れ物チェック問題ありません、どうぞ!」

「よし、それじゃあ行くか!」

「「おー!!」」

 元気よく宿を出た俺たちは集合場所へ移動する。
 依頼主の商人や、護衛依頼を受けた他の冒険者の人たちと挨拶したらすぐに出発となった。

「短けぇ間だが、同じ依頼を受けた冒険者同士、仲良くしようぜ!」

「ウォーターマイムまでよろしくお願いしますね」

 この二人が護衛依頼を共にすることになった人たちだ。
 二人ともCランク冒険者で、茶髪の気さくな男性がケインさん。
 金髪のおしとやかな女性がクレナさんだ。

 二人は夫婦でパーティーを組んでいるとのこと。
 結婚一周年記念の旅行でアクアマイムに向かうそうだ。

「いいねぇ、ラブラブだねぇ。よかったら、馴れ初めとか聞かせてほしいなー」

 というミラの一言がきっかけでいろいろと会話が弾み、俺たちはすぐに仲良くなることができた。
 特にミラがコミュ力お化けだった。
 旅路のほうも特に問題なく、あっという間に時間が進んでいく。

 野営では、【アイテムボックス】持ちのクレナさんが新鮮な食材で料理を作ってくれた。
 その味といったらもう、絶品の一言に尽きる。
 ケインさんはこれを毎日食べているのか。
 ちょっと……というか、かなり羨ましい。

 俺たちは料理の腕前が皆無だからな。
 焼くか煮るかの二択しかないくらいだし。
 次の【キメラ作成】で料理上手なキメラができたりしないだろうか……?

「クレナさんの料理サイコー!!」

「なんの! 最高なんて生ぬるい! クレナの料理は世界一……いや、宇宙一うまいぜ!!!」

「ふふっ、ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ」

 クレナさんの手料理をミラが絶賛すると、対抗心を燃やしたケインさんがミラ以上に絶賛したりといった微笑ましい出来事があってから、一日目は終了。
 二日目も特に問題なく終わりを迎える。
 三日目に中継の街に到着。そこで一泊してから、再び出発。
 四日目以降も、特に問題なく進むことができた。

 そして、最終日。
 アクアマイムまで数時間ほどの距離にさしかかった時、ルカの索敵が反応した。

「風上から何か来てるよ!」

 ルカの一言で、俺たちは警戒態勢に入る。
 数秒後、森の草木をかきわけて数匹の魔物が現れた。

「シャー!」「シャッ!」「シュゥゥ……!」

 大人ほどの背丈で二足歩行しているその魔物たちは、全身が鱗で覆われていた。
 爪や牙は鋭く、なかなかに攻撃力が高そうだ。
 個体によっては武器を持っているものまでいる。

「リザードマンの群れか……!」

 ランクはC-で、ゴブリンのようにそこそこ知能を持った魔物だ。
 攻撃力・防御力・素早さに優れているが、個体によっては魔法を使ったりもするし、何より連携してくる。
 それが五匹。
 一筋縄ではいかない相手だ。

 ──以前の俺たちであったならば。

 ゴブリンキングを倒したことで、ルカとミラはA+ランクに進化した。
 それに伴って、俺も大幅に強くなっている。
 今の俺たちなら、リザードマン程度に後れを取ることはない。

「……にしても、変じゃねぇか?」

 ケインさんが疑問を口にした。

「こんなところでリザードマンと遭遇するなんて」

「どゆこと?」

 ……それは、俺も思っていたことだ。
 不思議そうに聞いてきたミラに向かって、クレナさんが説明してくれた。

「本来リザードマンが棲んでいるのは、アクアマイムの南に広がっているフォーゲルン大湿地なんです。リザードマンが生息地を出ることなんて滅多にないはずなのですが……」

「ふむふむ、なるほど。説明ありがとね」

 ふと、ここ最近、魔物関連で不審な出来事が相次いでいたのが脳裏に浮かぶ。
 このリザードマンたちも一連の出来事に何か関係があるのか……?

 俺は目の前のリザードマンたちを観察する。
 こいつらも異常発生した魔物なのかと思ったが……違うっぽい。
 リザードマンたちは切羽詰まった感じだった。

「……なんらかの理由でフォーゲルン大湿地を出ざるを得なかったとか?」

「うーむ……。よく分からんが、現時点だとクロムの推測が一番しっくりくるな」

 ケインさんの言葉にみんなも同意する。

「何はともあれ、まずはリザードマンを倒さないと」

 俺がそう言うのと同時に、リザードマンたちは一斉に動いた。
 近接戦闘をする役割なのであろう個体が俺たちめがけて迫ってくる。
 その数、三匹。

「一匹は俺たちに任せてくれ! すまんが、残りは頼む!」

「了解です!」

 一番左のリザードマンに向かって、ケインさんが突撃する。
 自身に迫る爪を剣で受け止めるのと同時に、【剣術】スキルを発動した。

「パリィ!」

 ガキンッ! と。
 ケインさんの剣がリザードマンの爪を弾き、金属音が響く。

 その瞬間、クレナさんの魔法が炸裂した。

「ファイアランス!」

 クレナさんが掲げた杖の先から、炎の槍が発生。
 リザードマンの頭部に突き刺さる。
 それと同時に、ケインさんが心臓を剣で貫いた。

「シャァッ……」

 心臓と頭を同時に貫かれたリザードマンが倒れた。
 あのファイアランス、かなり威力が高いな。
 リザードマンの頑丈な鱗を焼き貫くとは。

「俺たちのほうは無事に片付いた! クロムたちのほうは……終わってるな。え、早くね? もう倒しちゃったのか?」

 俺とルカの足元に転がるリザードマンを見て、ケインさんが目を丸くする。
 クレナさんはその後ろで静かに驚いていた。

 リザードマンは頑丈な魔物だけど、せいぜいCランク台の範疇で防御力が高いだけだ。
 今の俺たちなら、一撃で倒すのは簡単だった。

 これで残るは二匹。
 魔法職と指揮官らしきリザードマンは……すでに倒れている。

 死んではいない。
 眠っているだけみたいだ。
 ミラがやったのだろう。

「眠らせといたから、倒していいよ」

 ミラが退屈そうに言ってくる。
 C-ランクじゃ手ごたえがなかったのだろう。
 ミラの代わりに、俺がとどめを刺した。

「これで終わりだな」

「ん、討伐完了!」

「イェ~イ、完全勝利だね」

 俺たちがハイタッチしていると、ケインさんとクレナさんが話しかけてきた。

「三人ともBランク冒険者だから強いんだろうとは思ってたが、さすがに想像以上だぜ! サンキューな!」

「ありがとうございます。正直、私たちだけでは荷が重い相手だったので助かりましたよ」

 二人からだけじゃなく、依頼主からも感謝された。
 恥ずかしくなった俺は、そそくさとリザードマンの死体を片付けた。
 それからアクアマイムに向けて再び進みだす。

 リザードマンたちについては、ギルドに報告するということになった。
 ギルドならば、何か情報を持っているかもしれない。

 そして──。

「おー、見えてきたね」

「わ~、きれい……!」

 とうとう、水の都アクアマイムが見えてきた。
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