浮気してるくせに、旦那様は私を逃してはくれない。

霙アルカ。

文字の大きさ
上 下
25 / 36

懺悔。

しおりを挟む
アランがエレナの元に訪れたのは、夜も更け使用人達も寝静まった頃であった。

かけられた鍵を外側から解き、ノックする事も無くアランはエレナの部屋へと足を進める。

部屋に入ってもアランが部屋の電気をつける事はない。
スースーとエレナの規則正しい寝息が聞こえる事から、眠っている彼女を起こしてはいけないとの配慮のつもりである。

アランは慣れた足取りで部屋の中央にあるソファーにドッカリと腰掛けるのだが、ソワソワと落ち着かないのか、立ってはソファーの周りをぐるぐると回って見せ、またソファーに腰掛けるのだ。

そうして何度かその行為を繰り返したアランは、何やら覚悟を決めた様に一度息を吐き、ポウッと魔法で灯を灯し、静かに眠るエレナの元へと近づいた。

恐る恐るとアランは何やら怯えた表情でエレナを見るが、1日経ち魔法が解けたのであろう。
真っ赤に燃えるように赤かった髪はプラチナブロンドへと戻り、垂れた目元もぽってりとした唇も全て元通りのアランの愛するエレナに戻っているのだ。

そして、泣いたのであろう。
目は腫れ、頬には涙が通った筋が残っていた。

「あぁ、、エレナ。」
ぽつりとエレナの姿を見たアランが言葉を溢すアランの表情はどこかホッとしており、同時に悲しそうでもある。

そっとエレナの頬に手を当てれば、眠るエレナがピクリと身じろいだ。
いつもは綺麗なエレナだが、寝顔はまだ幼く感じられ、腫れた瞳は痛々しい。
自分のせいで目を腫らす程泣いたのだと思えば、何故か嬉しくも思い、そんな自分に対しアランは嫌気がさした。

自分の愛が人よりおかしいと言うのは当の昔に気づいている。
けれども、自分の感情を止める術がアランにはなく、欲望のままにエレナに触れエレナを傷つけるのだ。

「エレナ、愛してるんだ。」

そっとアランが目元にキスを落とせば、魔法をかけたのかスーッと腫れが消えて行く。がエレナが起きる気配はない。

「本当に、、本当に、、愛してるんだ。」
もう一度反対の目にもキスを落とすアランの言葉に嘘偽りなどないのだ。

アランがエレナを初めて見たのは、エレナが領民達と畑の土を弄っていた時である。
アランは事業の為に小さく潰しても国が困る事もないであろう領地を探していた。

そうして、いくつかの領地を回った後エレナの領地に来たのである。

「ここの領地を任されてる子爵が大層人が良いみたいでさ、そのせいで領民も子爵家もすっからかんなんなんだと。」

レオンの言葉を聞き領地に目を向け、これは確かに酷いなと、アランは思った。
エレナが住む領地は、可哀想な程に貧乏なせいで、どこの家もボロく修繕する費用すらないのだろう、屋根の木が腐っていても長い間修理してない事が一目見ればわかる。

稼ぐ方法を他に知らないのか、魔法を使う事もなく畑を皆で耕している。

ここなら、簡単に買い取れそうだ。
買い取った後は領民達に少しの間生活に困らない金と、他の領地での仕事をやれば良いだろう。

今の家は無くなってはしまうが、暑さも寒さも凌げない、いつ壊れるかも分からないような家に住み続けるより、よっぽど優しい提案だろうと思うのだ。

子爵家の者達にも金と住む場所を渡せば良い。多少金を弾めば、心優しい子爵の事だ、喜んでこの地から出て行くだろう。

その時のアランの考えは事業の事だけを考え、エレナの家族も領民達の事もどうでもよかったのだ。

だが、アランの視界に畑を弄るエレナが映った時、全ての考えを消した。

真っ黒な手で土を弄りながら太陽の様に明るい笑みを領民や家族に向ける姿を見た時から、何としてでも、あれを手に入れなければという欲求に狩られたのだ。
簡単に言えば、エレナにアランは一目惚れをしたのである。

「オーレン子爵には、若い娘がいたな。」

「あぁ、そういえばいたかも。」

「なら、娘と結婚して領地を貰おう。」

それが一番いい提案だろう?と言って見せるアランの考えがレオンにはわからず、その顔には意味がわからないとすら書いてある。

「はっ?誰が?俺が?俺、結婚願望とかまだないからやだけど。」

「いや、結婚するのは私だ。」

「はっ?余計にわけわからんけど。。」

「貰った後には、私が所有する中で一番大きな屋敷をオーレン子爵に渡せば良い。」

「結婚までしないでもここまで果てた地なら、直ぐに買い取れると思うけど。」

「いいや、極力言い合いになるのは避けたい。後から恨まれても嫌だからな。」

本当の理由はさっぱり違う。
ただ、エレナと結婚しその親にいい様に思われたいとしか、もうこの時のアランは考えていない。

その後エレナが仕事を探し出したという話を聞きつけ、アランは直ぐさま好条件で侍女の募集をかけた。
そして、エレナ以外で面接に来た者は跳ね除け、エレナを自分の元で働く様にしたのである。

エレナが一つ屋根の下で働いていると思えば、アランは気が狂いそうで触れてしまいそうで話しかけられてもぶっきらぼうに答えたが、壁に押し付けて口付けしたい、、と思った事なんて数えきれない程にあるのだ。

外堀を埋め、エレナが自身から逃げられない様にしてやっと、エレナに触れられる。

大丈夫、、彼女もきっとすぐにアランを好きになるだろう。
皆自身の目を見ればアランに愛を乞うてきた。

思った通り、エレナはアランを好いてくれている。

なのにどうしようもなく虚しい理由をアランは知らない。わからない。

どうしたら、エレナに好かれるかを考えても全てが空回る。
物を与えても、屋敷で一番日当たりが良く大きな部屋を与えても、彼女自身がアランを心から愛してくることがない。
どうしたら、、どうしたら。

「君は私を好きになる。。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

初恋の呪縛

緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」  王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。  ※ 全6話完結予定

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...