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懺悔。
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アランがエレナの元に訪れたのは、夜も更け使用人達も寝静まった頃であった。
かけられた鍵を外側から解き、ノックする事も無くアランはエレナの部屋へと足を進める。
部屋に入ってもアランが部屋の電気をつける事はない。
スースーとエレナの規則正しい寝息が聞こえる事から、眠っている彼女を起こしてはいけないとの配慮のつもりである。
アランは慣れた足取りで部屋の中央にあるソファーにドッカリと腰掛けるのだが、ソワソワと落ち着かないのか、立ってはソファーの周りをぐるぐると回って見せ、またソファーに腰掛けるのだ。
そうして何度かその行為を繰り返したアランは、何やら覚悟を決めた様に一度息を吐き、ポウッと魔法で灯を灯し、静かに眠るエレナの元へと近づいた。
恐る恐るとアランは何やら怯えた表情でエレナを見るが、1日経ち魔法が解けたのであろう。
真っ赤に燃えるように赤かった髪はプラチナブロンドへと戻り、垂れた目元もぽってりとした唇も全て元通りのアランの愛するエレナに戻っているのだ。
そして、泣いたのであろう。
目は腫れ、頬には涙が通った筋が残っていた。
「あぁ、、エレナ。」
ぽつりとエレナの姿を見たアランが言葉を溢すアランの表情はどこかホッとしており、同時に悲しそうでもある。
そっとエレナの頬に手を当てれば、眠るエレナがピクリと身じろいだ。
いつもは綺麗なエレナだが、寝顔はまだ幼く感じられ、腫れた瞳は痛々しい。
自分のせいで目を腫らす程泣いたのだと思えば、何故か嬉しくも思い、そんな自分に対しアランは嫌気がさした。
自分の愛が人よりおかしいと言うのは当の昔に気づいている。
けれども、自分の感情を止める術がアランにはなく、欲望のままにエレナに触れエレナを傷つけるのだ。
「エレナ、愛してるんだ。」
そっとアランが目元にキスを落とせば、魔法をかけたのかスーッと腫れが消えて行く。がエレナが起きる気配はない。
「本当に、、本当に、、愛してるんだ。」
もう一度反対の目にもキスを落とすアランの言葉に嘘偽りなどないのだ。
アランがエレナを初めて見たのは、エレナが領民達と畑の土を弄っていた時である。
アランは事業の為に小さく潰しても国が困る事もないであろう領地を探していた。
そうして、いくつかの領地を回った後エレナの領地に来たのである。
「ここの領地を任されてる子爵が大層人が良いみたいでさ、そのせいで領民も子爵家もすっからかんなんなんだと。」
レオンの言葉を聞き領地に目を向け、これは確かに酷いなと、アランは思った。
エレナが住む領地は、可哀想な程に貧乏なせいで、どこの家もボロく修繕する費用すらないのだろう、屋根の木が腐っていても長い間修理してない事が一目見ればわかる。
稼ぐ方法を他に知らないのか、魔法を使う事もなく畑を皆で耕している。
ここなら、簡単に買い取れそうだ。
買い取った後は領民達に少しの間生活に困らない金と、他の領地での仕事をやれば良いだろう。
今の家は無くなってはしまうが、暑さも寒さも凌げない、いつ壊れるかも分からないような家に住み続けるより、よっぽど優しい提案だろうと思うのだ。
子爵家の者達にも金と住む場所を渡せば良い。多少金を弾めば、心優しい子爵の事だ、喜んでこの地から出て行くだろう。
その時のアランの考えは事業の事だけを考え、エレナの家族も領民達の事もどうでもよかったのだ。
だが、アランの視界に畑を弄るエレナが映った時、全ての考えを消した。
真っ黒な手で土を弄りながら太陽の様に明るい笑みを領民や家族に向ける姿を見た時から、何としてでも、あれを手に入れなければという欲求に狩られたのだ。
簡単に言えば、エレナにアランは一目惚れをしたのである。
「オーレン子爵には、若い娘がいたな。」
「あぁ、そういえばいたかも。」
「なら、娘と結婚して領地を貰おう。」
それが一番いい提案だろう?と言って見せるアランの考えがレオンにはわからず、その顔には意味がわからないとすら書いてある。
「はっ?誰が?俺が?俺、結婚願望とかまだないからやだけど。」
「いや、結婚するのは私だ。」
「はっ?余計にわけわからんけど。。」
「貰った後には、私が所有する中で一番大きな屋敷をオーレン子爵に渡せば良い。」
「結婚までしないでもここまで果てた地なら、直ぐに買い取れると思うけど。」
「いいや、極力言い合いになるのは避けたい。後から恨まれても嫌だからな。」
本当の理由はさっぱり違う。
ただ、エレナと結婚しその親にいい様に思われたいとしか、もうこの時のアランは考えていない。
その後エレナが仕事を探し出したという話を聞きつけ、アランは直ぐさま好条件で侍女の募集をかけた。
そして、エレナ以外で面接に来た者は跳ね除け、エレナを自分の元で働く様にしたのである。
エレナが一つ屋根の下で働いていると思えば、アランは気が狂いそうで触れてしまいそうで話しかけられてもぶっきらぼうに答えたが、壁に押し付けて口付けしたい、、と思った事なんて数えきれない程にあるのだ。
外堀を埋め、エレナが自身から逃げられない様にしてやっと、エレナに触れられる。
大丈夫、、彼女もきっとすぐにアランを好きになるだろう。
皆自身の目を見ればアランに愛を乞うてきた。
思った通り、エレナはアランを好いてくれている。
なのにどうしようもなく虚しい理由をアランは知らない。わからない。
どうしたら、エレナに好かれるかを考えても全てが空回る。
物を与えても、屋敷で一番日当たりが良く大きな部屋を与えても、彼女自身がアランを心から愛してくることがない。
どうしたら、、どうしたら。
「君は私を好きになる。。」
かけられた鍵を外側から解き、ノックする事も無くアランはエレナの部屋へと足を進める。
部屋に入ってもアランが部屋の電気をつける事はない。
スースーとエレナの規則正しい寝息が聞こえる事から、眠っている彼女を起こしてはいけないとの配慮のつもりである。
アランは慣れた足取りで部屋の中央にあるソファーにドッカリと腰掛けるのだが、ソワソワと落ち着かないのか、立ってはソファーの周りをぐるぐると回って見せ、またソファーに腰掛けるのだ。
そうして何度かその行為を繰り返したアランは、何やら覚悟を決めた様に一度息を吐き、ポウッと魔法で灯を灯し、静かに眠るエレナの元へと近づいた。
恐る恐るとアランは何やら怯えた表情でエレナを見るが、1日経ち魔法が解けたのであろう。
真っ赤に燃えるように赤かった髪はプラチナブロンドへと戻り、垂れた目元もぽってりとした唇も全て元通りのアランの愛するエレナに戻っているのだ。
そして、泣いたのであろう。
目は腫れ、頬には涙が通った筋が残っていた。
「あぁ、、エレナ。」
ぽつりとエレナの姿を見たアランが言葉を溢すアランの表情はどこかホッとしており、同時に悲しそうでもある。
そっとエレナの頬に手を当てれば、眠るエレナがピクリと身じろいだ。
いつもは綺麗なエレナだが、寝顔はまだ幼く感じられ、腫れた瞳は痛々しい。
自分のせいで目を腫らす程泣いたのだと思えば、何故か嬉しくも思い、そんな自分に対しアランは嫌気がさした。
自分の愛が人よりおかしいと言うのは当の昔に気づいている。
けれども、自分の感情を止める術がアランにはなく、欲望のままにエレナに触れエレナを傷つけるのだ。
「エレナ、愛してるんだ。」
そっとアランが目元にキスを落とせば、魔法をかけたのかスーッと腫れが消えて行く。がエレナが起きる気配はない。
「本当に、、本当に、、愛してるんだ。」
もう一度反対の目にもキスを落とすアランの言葉に嘘偽りなどないのだ。
アランがエレナを初めて見たのは、エレナが領民達と畑の土を弄っていた時である。
アランは事業の為に小さく潰しても国が困る事もないであろう領地を探していた。
そうして、いくつかの領地を回った後エレナの領地に来たのである。
「ここの領地を任されてる子爵が大層人が良いみたいでさ、そのせいで領民も子爵家もすっからかんなんなんだと。」
レオンの言葉を聞き領地に目を向け、これは確かに酷いなと、アランは思った。
エレナが住む領地は、可哀想な程に貧乏なせいで、どこの家もボロく修繕する費用すらないのだろう、屋根の木が腐っていても長い間修理してない事が一目見ればわかる。
稼ぐ方法を他に知らないのか、魔法を使う事もなく畑を皆で耕している。
ここなら、簡単に買い取れそうだ。
買い取った後は領民達に少しの間生活に困らない金と、他の領地での仕事をやれば良いだろう。
今の家は無くなってはしまうが、暑さも寒さも凌げない、いつ壊れるかも分からないような家に住み続けるより、よっぽど優しい提案だろうと思うのだ。
子爵家の者達にも金と住む場所を渡せば良い。多少金を弾めば、心優しい子爵の事だ、喜んでこの地から出て行くだろう。
その時のアランの考えは事業の事だけを考え、エレナの家族も領民達の事もどうでもよかったのだ。
だが、アランの視界に畑を弄るエレナが映った時、全ての考えを消した。
真っ黒な手で土を弄りながら太陽の様に明るい笑みを領民や家族に向ける姿を見た時から、何としてでも、あれを手に入れなければという欲求に狩られたのだ。
簡単に言えば、エレナにアランは一目惚れをしたのである。
「オーレン子爵には、若い娘がいたな。」
「あぁ、そういえばいたかも。」
「なら、娘と結婚して領地を貰おう。」
それが一番いい提案だろう?と言って見せるアランの考えがレオンにはわからず、その顔には意味がわからないとすら書いてある。
「はっ?誰が?俺が?俺、結婚願望とかまだないからやだけど。」
「いや、結婚するのは私だ。」
「はっ?余計にわけわからんけど。。」
「貰った後には、私が所有する中で一番大きな屋敷をオーレン子爵に渡せば良い。」
「結婚までしないでもここまで果てた地なら、直ぐに買い取れると思うけど。」
「いいや、極力言い合いになるのは避けたい。後から恨まれても嫌だからな。」
本当の理由はさっぱり違う。
ただ、エレナと結婚しその親にいい様に思われたいとしか、もうこの時のアランは考えていない。
その後エレナが仕事を探し出したという話を聞きつけ、アランは直ぐさま好条件で侍女の募集をかけた。
そして、エレナ以外で面接に来た者は跳ね除け、エレナを自分の元で働く様にしたのである。
エレナが一つ屋根の下で働いていると思えば、アランは気が狂いそうで触れてしまいそうで話しかけられてもぶっきらぼうに答えたが、壁に押し付けて口付けしたい、、と思った事なんて数えきれない程にあるのだ。
外堀を埋め、エレナが自身から逃げられない様にしてやっと、エレナに触れられる。
大丈夫、、彼女もきっとすぐにアランを好きになるだろう。
皆自身の目を見ればアランに愛を乞うてきた。
思った通り、エレナはアランを好いてくれている。
なのにどうしようもなく虚しい理由をアランは知らない。わからない。
どうしたら、エレナに好かれるかを考えても全てが空回る。
物を与えても、屋敷で一番日当たりが良く大きな部屋を与えても、彼女自身がアランを心から愛してくることがない。
どうしたら、、どうしたら。
「君は私を好きになる。。」
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