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第三章

彼が狂った理由。2【マリンの思惑。】

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アスランは、アスランが7歳になり、母が心の病で倒れ離宮へと向かわされるその時までずっとその呪いのような言葉を聞かされてきた。

そして、母がいなくなると同時にやってきた父の愛人マリンは、我が物顔で王宮に住まいだし、豪華なドレスを買い漁り、流行っている物であれば、趣味でなくても直ぐに手に入れた。
贅沢と派手なものや綺麗なものが特に好きなマリンは、綺麗な顔のアスランに目をつけた。

デラクスには確かに地位と権力はあるが、美丈夫かと問われれば、誰もが直ぐには頷かないだろう。
デラクスは美丈夫ではないが、目がトロント垂れ下がりずっと笑っているように見えるその顔は、優しい顔をしており、一緒にいれば心が落ち着くのも確かではあるが、マリンの好みは断然アスランであった。

「アスラン、私の可愛いアスラン。」

自分の膝に小さなアスランを乗せてやり、その頬を優しく撫でる。が、アスランの口角は一ミリも上がることがなく、まるで人形のようである。

自分がせっかくこんなにも愛してやってるのに!!!何故!この男は!とマリンは怒りを隠す事もせず、「貴方は私に飼われてるのよ!私が怒ればデラクスはあんたを怒るんだから!」と王太子に向かい言ったかと思えば、どこから出してきたのか鞭を使い、誰にもバレぬ所を鞭で打った。

アスランは鞭で打たれた瞬間こそ顔を痛みに歪めるが、すぐにその顔は人形に戻る。

それに余計に腹が立ち、初めの頃は毎日鞭で打ってやった。が、次第にアスランが小さく笑う事がある事に気づいたマリンは歓喜した。

あの綺麗な顔が自分の話に笑っている。
自分と共にいて喜んでいるのだと思うと、嬉しくて嬉しくてたまらなくなる。

その事をデラクスに話すと「仲が良いのはいいことだと。」目を細め喜んでくれた。
初めこそお金と権力の為に近づいたのに、デラクスはいつでもマリンの幸せを願ってくれる。

アスランはやっと笑ってくれたが、マリンに愛はくれない。
小さな頃から家族という者に憧れていたマリンは、気づけばアスランではなく、デラクスを愛し始めていた。

マリンは籍こそいれてないが、最早自分は家族も同然だと思った。

だが、まだマリンとデラクスとアスランは他人である。

どうしたら2人と家族になれるのかと考えたマリンは、とてもいい事を考えたのだ。

マリンにはかつて、貴族の男と遊んだ事があった。
金をくれると言われ、数日間男との営みを楽しんだ事がある。

その男は大変羽振りがよく、マリンの欲しがるものを沢山与えてくれ、なんと言っても顔がよかった。

結婚したいと強請ったが、「それは違うだろ。」と言われた。だが、それでも諦めたくなかったマリンは、避妊など一切せずに、行為を繰り返したのだ。

そして、お腹に赤ちゃんができたと男に伝えると、男は直ぐに逃げていった。

マリンは逃げた男に腹が立ち、その人脈で男を探し出した。
男には奥さんがいた為、その奥さんに「彼との子供なんです。」とニッコリと微笑みながら言ってやったのを覚えている。

その後2人がどうなったかなど最早どうでもいいが、マリンはただでは引き下がらない強い根性の持ち主である事には間違いがなかった。

そして、それを思い出した時、デラクスとアスランと本当の家族になれる方法を見つけたのだ。

情事が終わりいつもと同じようにデラクスの腕枕で目を閉じ、「ねぇ、デラクス様??」と甘い声で耳元で囁くと、デラクスは「何だい?」と優しい声で返した。

そして、マリンが考えた家族になる案を話してみると、デラクスは二つ返事で「そうしよう!私に娘が!」と喜んでくれたのだ。

自分の娘ではないのに、喜んでくれるデラクスを見て、マリンは嬉しく微笑んだ。

だが、その案は直ぐには実行できないでいた。
何と言っても、その時お金がなかったマリンは直ぐに子供を施設にいれてしまっていた。

だから、実の子供が今頃どこの施設にいるかを探すのには、大変な苦労がいる。

他の施設に行っていれば、まだ見つけるのに時間はかからないのだが、既に養子としてもらわれたあとであれば、連れ去る事は容易い事ではない。

だからこそ、マリンはデラクスに最大限の権力を使わせるのであった。

マリンには夢が広がっている。
あの子が見つかり、4人が家族になる姿を想像すれば、幸せでしかないのだ。

「あぁ、楽しみね!デラクス。」

デラクスの口にチュッとキスをしてやると、デラクスは頬を赤らめ嬉しそうに微笑んだ。
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