上 下
8 / 40
第一章

悪夢です。(7歳。)

しおりを挟む
お父様、お母様、お兄様がいるであろう部屋まで私は早足で向かった。

部屋の前に着くと、ロマが何も言わなくても身なりを整えてくれる。

私を襲うのは不安と緊張と胸の高鳴り。

私はドキドキと煩い胸を抑え、重い扉を開いた。

「おぉ、きたのかルーナ。よく起きれたなぁ。」

「あら、ルーナ。まだ寝てなくて大丈夫??」

いつもより早く起きてきたルディリアナを見て驚いた表情を変えない二人。

「えぇ、もうすっかり目は覚めてます!だって、お兄様がいるんですもの!」

いそいそとお父様とお母様のソファーの前に座るお兄様に目をやり、その横にルディリアナは腰掛けた。

金髪に碧眼、更には190近くあるであろう高い身長。笑うとクシャッとなる所もちょっと低めの声も何もかもが好みなロベルト・ディアン伯爵。

お兄様と呼んでるが、実際本当の兄ではない。

10歳離れたお兄様は、ルディリアナが小さな小さな時から遊び相手になってくれていた。

ロベルトの父とマルフェスの仲が良く、よく城にロベルトを連れてきては、領地の話や税の話を二人でしていた。

そして、その間のルディリアナの遊び相手をしていてくれたのがロベルトであった。

身長も高く、顔も良い。だが、ルディリアナにはロベルトの一番好きなところがある。

「おはよう、ルーナ。」

ルディリアナを見てクシャッと顔に皺を寄せ微笑むロベルトを見て、ルディリアナは笑みを浮かべた。

「お兄様!!!!お会いしたかったですわ。」

そう言ってルディリアナはロベルトに駆け寄ると、その大きな体に抱きついた。

あぁ、堪らないわ。簡素なシャツ一枚だけをきたロベルトに抱きつくだけで、伝わってくる。

ロベルトの服の下には、きっと綺麗に割れた筋肉があるのだ。

その硬い筋肉を触ると、ルディリアナはどうしようもなく、幸せにな気持ちになる。

何を隠そう、ルディリアナは7歳にして、超がつくほどの筋肉好きであった。

自分の筋肉をルディリアナが好いているとは知らず、可愛い妹のような存在に抱きしめられて満更でもないロベルトは可愛い少女の頭をそっと撫でてやる。

プラチナブランドの色をした痛みの知らないその髪を掬えばサラサラと自分の指からこぼれ落ちていく。
自分を見て嬉しそうに弧を描く宝石のように青い瞳は溢れるほど大きく、パチパチと目を閉じるたびに動くまつ毛は真っ白な肌に影を落とすほど長い。

「また綺麗になったね、ルーナ。」

ロベルトにそう言われると、ルディリアナの頬は少し赤くなった。

だが、そんな幸せな時間を過ごせたのもその一瞬のひと時である。

家族団欒の中に突如コンコンっとドアをノックする音が部屋の中に響いた。

どうしたのかとドアの方を見ると、そのドアはゆっくりゆっくりと音も立てずに静かに開く。

なんだかとても嫌な予感はしていたのだ。

そして、「失礼します。ルーナの愛しいお兄様が来るとの事だったので、挨拶に伺いましたが、、その手は何でしょうか?」と言った怒気を孕んだ声が聞こえる。

私の頭を撫でるお兄様の手がぴたりと止まった。

先程までの団欒な空気はどこにいったのか、一瞬でその場は凍ったかのように静まった。

お父様とお母様を見るとやばいと言わんばかりに目をキョロキョロとあちこち泳がせて、大変焦っていることがわかる。

私を撫でていたお兄様を見れば、ダラダラと汗を流してこちらもまた焦っていることが伝わってきた。

どうしたもんかと思った。

家族団欒の中にまでこの人は何なのかと思った。

「せっかくお兄様に会えたのに!!何なのですか!いつもいつも私の邪魔ばかり!貴方なんて嫌いです!」

静かな部屋に私の声だけが響く。

父も母も、お兄様でさえも、その声を聞きやばいといった表情になっている。

楽しそうに意地の悪そうにニコニコと笑いながら微笑む男の子以外は、皆恐怖を顔に浮かべた。

「ルーナ、僕は君が大好きだよ。」

その声はいつもと変わらない口調。

なのにどこか怒気を孕んでるふうに感じたのは、私の気のせいだろうか?

「私は嫌いです!」

そう言い返せば、男の子の眉がピクリと動いた。

いつもの笑顔を貼り付けている男の子の笑みが、少し崩れた瞬間であった。

「お兄様!!助けて!怖い!」と抱きついて顔を見上げると、お兄様は困った顔をする。

そして、スッと私を自分から離すとトンッと私の背中を押し、私は別の誰かに抱きしめられた。

見なくてもわかる。最悪だ。最低だ。

お兄様に裏切られた。

私を抱きしめるのは間違いなく、あの男で私を見下ろし「悪い子にはお仕置きだね。ルディリアナ」と恐ろしいほど優しげな笑みを浮かべた。

それをみたルディリアナは、朝見た悪夢を思い出していた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】 王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。 しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。 「君は俺と結婚したんだ」 「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」 目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。 どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。

白霧雪。
恋愛
 王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

処理中です...